今回は主にセバスのお話です。
ナザリック地下大墳墓第一階層に到着したセバスは、出迎えてくれたメイドたちとナザリックのシモベたちに挨拶される。しかしセバスは完全に心ここに在らずの状態であった。
(ツアレ……ツアレは無事なのでしょうか……アインズ様が私たちの自室に来るようにと仰られたということはおそらくすでに、アインズ様はツアレと部屋にいらっしゃるはず……)
ナザリックには全域に転移阻害の魔法がかかっているため、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを所持しているか
(愚かなことをしました。ナザリック地下大墳墓は神々が創りし聖域…そこに人間であるツアレを住まわせることを許していただいた。それだけでなく一緒に暮らすことも許されたというのに…私はこの恩義に報いるどころか、勝手に子を作ってしまった…ただ創造されただけの存在である私ごときが子を成すなど不敬……執事失格ですね……)
今のセバスの心を主に占めている感情は己への失望と恐怖である。彼はこう考えているのだ、ナザリック地下大墳墓において生殺与奪の全権を与えられているのは至高の41人のみであり命を創造するという行為は至高の御方々のみが許される特権である、言い換えれば、たかが創造されただけの存在である自分が栄えあるナザリック地下大墳墓で命を育むことなど不敬以外なにものでもない、と。
既に一度失態をおかしている身であるにも関わらず続けて失態を演じってしまったことからくる己への失望、嫌悪感。
失態を続ける腑甲斐ない身に呆れ、他の御方々同様この地をアインズ様が去ってしまうのではないか…という思いからくる恐怖。
それと、もう1つ、今はこれがどんな感情で何からくるものなのか自分でもわからない感情もあった。
(アインズ様……罰なら喜んで私の命を差し出します。ですから、どうか……どうかツアレだけは……)
そんなことを考えていたらあっという間に部屋に到着していたセバスは、扉の近くにいたユリに自分が来たことを伝えさせる。
「アインズ様、セバス様がお越しになられました」
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入室したセバスは素早く部屋にいる全ての人物を確認し、ツアレがまだ無事であることへの安堵感で後ろに倒れそうになるが、アインズへの忠誠心と鋼の心がそれを許さない。すぐさまアインズの前に跪く。
「アインズ様、お待たせして申し訳ございません」
「うむ、構わん、ちょうどツアレと話をしていたところだ。ではセバスも来たことだし、ペストーニャよ話の続──」
「アインズ様!この度はご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした!」
「──きを……え?」
「ツアレは何もしておりません、全てはこの愚かなる身が起こした失態! 今すぐこの命をもって謝罪させていただきます! ですから、どうか……どうかツアレの命は──」
「不敬よ、セバス! それがナザリック地下大墳墓、ひいてはアインズ様に仕える者の態度ですか!」
アルベドの叱咤で幾分か冷静さを取り戻したセバスに再び押し潰されそうな自己嫌悪感が襲う。アインズが話している最中に発言をしてしまったからだ、これは執事としてあるまじき行為である。セバスは重ねて謝罪する。
「……申し訳ございません」
(どうもツアレのこととなると……これは一体……なんなのでしょう、この感情は)
「よいのだアルベド。それにセバス、お前はなにか勘違いしているな?」
「はっ……と、おっしゃいますと?」
「うむ。私はお前とツアレの間に子を成したことを怒ってなどいない。むしろ、誇りに思っている」
「ア、アインズ様……一体なぜ………ナザリックに仕えるためだけに創造された私が子を成すことは不敬にあたります……」
「ふむ、なるほどそう考えるか……セバス、それは違うぞ」
「……?」
理解できないとセバスが首を傾げるとアインズは口調を緩めて言った。
「これは先程アルベドには話したが、セバス、私は仲間たちが残したお前達を子どものように思っている。ということは今回、お前がツアレとの間に成したその子は私にとっては……孫だ……」
「ア、アインズ様……」
「それにセバス、お前を創造したたっちさんもお前と同様、危険な目に遭遇していたある女性を助け、その女性と愛し合い、その人との間に子を成した……私にはお前にあの頃のたっち・みーさんが重なって見えるよ」
「そ、そんな、私とたっち・みー様が、同じなど……畏れ多い……」
至高の41人の話が出たからか、ペストーニャから「おお…」と感嘆の声が聞こえる。後に控えているアルベドからは……特に何も聞こえない。
「要するに、だ。私はお前達2人を怒るつもりも何か罰を与えるつもりもない。誇らしく思っていると言ったのはな、お前達がそれだけお互いのことを思っていて、私に仲間たちの孫にあたる存在を与えてくれたからだ」
異世界に来てアインズは仲間たちの捜索を最優先事項としてかかげているが、内心諦めている節もあった。しかしこうやって仲間たちの影をNPCたちに見ることは、あの黄金期は今もなおここにあるとアインズに再認識させる。
(女の人を助けて奥さん拾っちゃうなんて、まるでたっちさんそのままじゃないか……)
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの在りし日の光景を幻視したアインズは急に嬉しくな────った感情は完全に抑え込まれる。それでも先ほどまでの愉快な気持ちは気のせいではない。
見るからに上機嫌なアインズは未だ跪いているセバスの手を握り立ち上がらせ、ツアレの横に並ばせる。そして2人の肩にポンっと手を乗せ朗らかに
「よくやった、2人とも。」
と言った。この時セバスの頬には涙がつたっていた。セバスは不敬とは分かってはいながらも、アインズを自分の父親のようだと、思わずにはいられなかった。
(ああ、なんと慈悲深い……私はアインズ様の寛大さを理解しきれていなかった……この御方の心はまさに海より深く広い……)
「感謝致します! アインズ様!」
この世における最高の主人に改めて絶対の忠誠を誓ったセバスが再び跪くとツアレも急いで跪こうとする。それをアインズは手で制しながら言った。
「あぁ、跪かなくてもよい、大切な母体にストレスがかかってしまう。初孫に何かあっては私がたっちさんに怒られてしまうではないか」
はははと笑うアインズは、後方から謎のギチィという音を聞いた気がした。が、多分気のせいだろう。
「とは言ってもだ……ここまで話しておいてなんだが、やはり異種間で子ができるというのはな、まるでおとぎ話だ…妊娠と診断したのはペストーニャらしいな?」
「はい、アインズ様。まずツアレニーニャは確実に妊娠していると考えて間違いないですわん」
「ほう、その根拠は?」
「はい、根拠は三つありますわん。……それをご説明させていただく前に、至高の御身が立ったままというのはいささか問題がありますわん。先ほどユリとエントマに、簡易ですが玉座を用意させました、御身はどうぞこちらにおかけくださいわん」
「うむ。それもそうか、ご苦労だったなユリ、エントマ」
アインズはそう言うと堂々たる支配者の風格をもって、少し高い位置に設置された簡易玉座に座る。
「それでは、ペストーニャよ。その三つの根拠とやらを説明してもらおうか」
ごめんなさい、本当は今回ペストーニャからの説明も入るはずだったのですが、まとまりが悪く感じられたので明日にまわしました。ご理解いただきたく思います。
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