〜前回までのあらすじ〜
アインズ(うわぁ、いまから玉座とか……マジもう無理……)
「ナザリック地下大墳墓最高支配者アインズ・ウール・ゴウン様、および守護者統括アルベド様のご入室です」
戦闘メイドであるユリの声が部屋に響く。
扉が開きコツリコツリと冷たい靴の音とともに杖が床を叩く音、その後をハイヒールのカツカツとした固い音が追いかける。
守護者たちは全員跪き、肉眼で見えそうなほどの敬意の念を示している。
守護者たちが並ぶ横をゆっくりと足音が通り過ぎ、階段上の玉座に座る音がすると、アルベドの声が室内に響き渡る。
「顔を上げ、アインズ・ウール・ゴウン様の御威光に触れなさい」
玉座に坐すこの世の頂点にしてナザリック地下大墳墓の絶対的支配者、自らの崇拝すべき主人の姿を目にするべく一斉に身動きする音がする。
そしてそこには、支配者の証であるスタッフを握り禍々しいオーラでその身を包む、主人の姿があった。
側に控えているアルベドが全員揃っていることを確認すると微笑みながらアインズに顔を向ける。
「第四、第八を除く全階層守護者及び
「うむ、ご苦労だった、アルベド……ではまず緊急の集合にも関わらず私の前に集まってくれた各階層守護者たちに感謝を告げよう。特に遠方で動いていたはずのデミウルゴス、そしてリザードマンの村落にいたコキュートス、忠勤感謝するぞ」
「何をおっしゃいますアインズ様! アインズ様のいらっしゃる場所こそ、私たちが向かう場所でございます。」
「全ク、デミウルゴスノ言ウ通リデス。呼バレレバ即座二参ルノガ、御方へノ忠誠ヲ考エレバ当然ノコトデゴザイマス」
二人とも──コキュートスはあまり表情からは読み取れないが──歓喜に打ち震えていることは間違いない。
「そうか、では今後とも忠勤に励むがよい。加えてマーレ、行ってもらったのにまたすぐにナザリックに呼び戻してすまなかったな」
「っ! い、いえ!アインズ様のためなら僕もどこでも行きます!」
「そうかそうか、感謝するぞ」
「えへへ……」
マーレが照れているのを隣の姉と
「では早速だが本題に入ろう。今日皆をここへ呼んだのは他でもない、セバスとツアレニーニャの件だ」
先程までの各々の歓喜と羨望の表情は一瞬にして消え、その目には皆理解の色があった。
「ふむ、その様子だと皆知っているようだな」
「……アインズ様」
「ん?どうしたシャルティア」
「……セバスとその人間の子を孫とお認めになったのは本当でありんすか?」
「うむ、さすがに耳が早いな。その通りだ、すでに私はその子を自分の孫と考えている」
守護者全員『やはり本当だったか』とセバスから聞いた時ほどの驚きはないが、やはり本人からそう言われると破壊力は抜群で皆驚きの表情を浮かべている。またアルベドとシャルティアに関しては、これほどまでの名誉に授かったセバスに対しての、色で例えるならもはや黒色の嫉妬の感情で塗りつぶされていた。
「私にとって仲間が残したお前達は皆私の子どものような存在、それにはもちろんセバスも該当する。ならその子どもは私にとって孫であると言っても過言ではない。今回はこのことを伝えるために皆を集めた」
セバスは約二名の殺気混じりの羨望の眼差しを努めて無視しアインズに感謝を述べる。特に今は守護者全員に玉座の間で認められたことで実感が湧き、セバスの心は喜びで満ち満ちていた。
「ありがとうございますアインズ様。このナザリック地下大墳墓で子どもを作ったことを許して貰えただけでなく、孫とまで仰ていただけるとは……このセバス、必ずやこの恩義に忠誠をもって応えさせていただきます!」
「うむ、期待しているぞセバス」
「はっ!」
セバスは悦びで昇天しそうであったが、対してデミウルゴスはあまり面白くなさそうな雰囲気であった。
「というわけで守護者各員よ、ツアレニーニャはもちろん、そのセバスの子どもはこのアインズ・ウール・ゴウンの名で保護されたことをナザリック全域に伝えよ」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
「よろしい」
アインズは満足気に頷く。
(これでとりあえず二人の身の安全は確保と……安心だ……)
実はアインズは自室からこの玉座の間までの移動中常人なら押しつぶされてしまいそうなほどのプレッシャーに晒されていた。というのも守護者たちに集合を伝えたあと、アルベドを振り切るためにかなりの時間使ってしまい、そのうえ二人に子どもができたことに動揺しきっていたアインズは玉座の間でどうやってこのことを話すかほとんど考えていなかったのだ。
いつも玉座の間で話す際は、メイドと
それでもぶっつけ本番であることには変わらないので、アンデッドの身でありえない事だが腹痛に襲われていた。
(ああ、とりあえずこれでやるべき事はやったけど……もうこれで解散でいいかな? ……早く部屋に帰ってベッドでゴロゴロしたい)
「ふむ、とりあえず私からの要件は以上だ。皆立つが良い……では他になにか言っておくべきことや聞きたいことはあるか?」
「……恐れながらアインズ様」
「っ!……ん? なんだデミウルゴス」
アインズは完全に安心しきっていたせいか、突然デミウルゴスから声がかかったことに驚き、急だったため瞬時に精神が沈静化される。自分が声をあげなかったことを自ら褒めながらデミウルゴスの言葉を待つ。
「なぜセバスとツアレニーニャの間に子ができたのか、わかっておりません。原因究明はするべきと愚考します」
「んー、確かにわかりんせんわ。どうやってセバスは人間の間に子どもを成すことができたんでありんしょうか……」
「そうね……私も最初に聞いたときは驚いて取り乱してしまったわ」
アインズは密かに身を震わせ慎重にアルベドの様子を伺う。特に今すぐ襲ってきそうではなかったため人知れずほうっとため息をつく。
(そういや最初にセバスのことを聞いた時のアルベドはやばかったな、そもそもなんでそこで即子作りなんだよ……前に守護者で風呂に行った時もなんだかおかしかったけど、やっぱり役職的にストレスたまるのかなぁ……)
そんなことを考えていたせいでアインズはアルベドを少し長い時間、じっと見ていてしまっていた。
「いかがなさいましたか? アインズ様」
「っ! いや、なんでもないなんでもない」
「左様でございますか? 」
「ああ……まぁ私も不思議に思っていたところだ、二人に子どもができたということをな」
「本当に不思議でありんす。チビなら何か知ってるのではありんせんか?」
「な、なんでそこであたしなのよ!」
「そうね、アウラなら色んな生き物を第六階層で飼っているから……なにか心当たりはないかしら」
「うーん……同じ種族間ならあるかもしれないけど異種族だと……ごめん、あたしもあんまりわからない」
「そうよねぇ……」
(そうなんだよ、異形種と人間種……全く違う種族がどうやって子どもを……)
ふいに昔の
『お、モモンガさん、異種姦ですか?』
と言ってくる姿を幻視する。
(ペロロンチーノさんなら喜ぶかな…………って待てよ、セバスとツアレに可能だったならアンデッドの俺も子供作れるんじゃね?)
チラッとアルベドとシャルティアの様子を確認するが特に変わった様子はない。
(いよいよ俺の貞操も危うくなってきたな……ないんだけどな……)
「で、でもですよ? アインズ様なら、もうわかってるんじゃないかな……」
(え! マーレそこで俺に振る!?)
「そうでありんすね! アインズ様、なにかわかってらっしゃるなら教えてくんなまし!」
「そうですアインズ様! あたしにも教えてください!」
「コノ愚カナル身ニモ教エテイタダキタイ」
「自らの子どもであることにも関わらず何も分からないこの身が無様で仕方ありません」
「アインズ様、この私にも教えてください! それに……きっと今回の情報は私たちの子作りにも役立つかと……」
「はん、盛ったおばさんホルスタインはこれだから面倒でありんす……」
「…………なんだと偽乳ウナギ」
「……やんのか大口ゴリラ」
(なんでみんな俺が全部知ってる感じで進行してんの! ……ああどうしよ、二人の喧嘩も始まっちゃったし!)
過度の緊張で精神の強制沈静化が起きたアインズは、二人の年中行事を横目にまだ発言していない人物──唯一の希望──に声をかける。というかもはや丸投げする。
「……ふむ、デミウルゴスは何か気づいているようだな」
「はい、いくつかの仮説はありますが……私如きがアインズ様の思考に追いついていることはないでしょう」
「ぇ、いやそんなこ──」
「ですので、よろしければアインズ様。答え合わせという意味で、アインズ様のお考えを教えてはいただけませんでしょうか?」
「そうですアインズ様! あたし達にも教えてください!」
「あ、あの、僕にもお願いします!」
「ゼヒ、アインズ様ノオ考エヲ」
「ぇ…………」
丸投げしたつもりがブーメランの如く綺麗に自分に返ってきてしまいどうすればいいのか分からず、アインズにありえない事だが立ちくらみが襲う。
(やばい、もう時間が無い! どうする! うわあああ!…………)
過度の興奮は、まるで上から巨大ななにかに押さえつけられたかのように抑え込まれるが、その凪のような冷静さは一瞬で消え、やはりまたすぐに凄まじい動揺を感じるがそれも一瞬で消える。
過緊張と沈静化を幾度となく繰り返したアインズは結局その心の嵐の果てに何も見出すことはできず、『テキトーな事言ってデミウルゴスとアルベドに深読みしてもらう作戦』に完全に切り替える。
「それは………………セバスが人の形をしているからかもしれないな……」
この発言の後の守護者たちと執事──もちろんデミウルゴスとアルベドも含め──の反応を言葉で表すのは簡単だ、まさに文字通り『目が点になる』である。
「……ア、アインズ様、それはどういうことありんすか?」
この発言のあとアインズはものすごい後悔の念に襲われていた。何でもっとまともな事を言えなかったのだろうという後悔だ。後に悔いるから後悔、言ってしまったことは元に戻せない。
(ああ、俺はやっぱり馬鹿だ……よく考えればわかる事じゃないか! ここにいる皆、コキュートスと俺を除いたら皆人間の形! アホだ、今までの支配者ロールプレイが……お腹痛い…………)
そう、なぜ守護者達の目が点になっているかというと、理由は二つある。
一つ目は、疑問の内容は竜人と人間の間に子どもがなぜ出来たのか、であったのにアインズは対象を“セバス”にのみ限定して話したことだ。神のような存在である絶対的支配者がそんな質問の意図をはき違えるはずがない、という思いから目が点になったのだ。
そして二つ目はアインズが『人の形』と言ったことだ。そもそもこの場にいるアインズとコキュートスを除いて皆、大体人の形をしている。つまりこの理論でいくと、どんな条件でも
数十秒、いや、数分の沈黙が玉座の間をのみ込む。
しかし、やはりこの
そんなこと知る由もないアインズはまずいと思い慌てて先程の自らの愚かな発言を訂正しようとする。
「ぁ……今のは冗──」
「さすがはアインズ様、僅かな情報でそこまで……感服いたしました」
「全くデミウルゴスの言う通りでございます。さすがはアインズ様、その叡智私たちの及ぶところではございません」
その訂正はされることなく、デミウルゴスとアルベドの発言によって上塗りされる。これは上手くいったか! とアインズは何がなんだか分からなかったがそう思い、その地獄に垂れ下がった蜘蛛の糸を思いっきり掴む。
「……さすがはデミウルゴス、そしてアルベド。私の言の真意が掴めたようだな」
「アインズ様の今のお考えに比べれば私が立てた仮説などゴミのように感じられてしまいます。まさに端倪すべからざるとはアインズ様のために作られた言葉」
「そこまでお気づきになるなんて……もしかしてアインズ様はセバスとツアレのことを聞いた時からそこまでお考えだったのですか?」
「う、うむ、まぁな……」
声が震えなかった自分を誰か褒めてくれ、とアインズは心の中で叫びながら、この流れだといつもの手が使えると見えないところでガッツポーズをする。
「アインズ様! どういうことでありんすか?」
「ツアレのことです、アインズ様。私めにもお教えいただけませんか」
シャルティアやセバスだけでなく、他の守護者たちも先程までの驚愕ではなくアルベドとデミウルゴスに対する、自らの主人の叡智の領域に少しでも踏み入れている二人への嫉妬に塗れた声で発言する。
「アインズ様! もっとわかりやすくお願いします!」
「ぼ、僕にもお願いします!」
「本来ナラコノ段階デ気付クベキデスガ、ドウカオ願イイタシマス」
ここまで来ればもう大丈夫あとは先生方に任せよう、と安心し誰にも気づかれないようため息をつくとアインズは少し考えるふりをし、手に持つスタッフをデミウルゴスに向け支配者然とした雰囲気で命ずる。
「わかったぞ守護者たちよ。デミウルゴス、おそらくお前と私の考えは同じだ。皆にもわかりやすく説明せよ、わかりやすく、だ」
「かしこまりました。ではご説明させていただきます──」
そして悪魔は今回の懐妊騒動の真相を語る。
長くなった上に色々納得いかず、再度一から書き直したせいで更新が遅くなり、それでも終わらなかったため前後編にしてしまうという……
後編は翌日には更新できると思います!多分!
ということで次回、デミウルゴス深読み絶好調の巻
コメントお待ちしております。