アインズ「人の形してるから」
一同「……」
アインズ「……(アア、終ワッタ!)」
「かしこまりました。ではご説明させていただきます」
デミウルゴスはそう言うと微笑んで守護者たちの方に身体を向ける。
「まずセバス、今君は何の形態かね?」
質問の意図がわからず、自分の身体をチラッと見てセバスは少し戸惑いを覚えつつ答える。
「……人間形態ですが、それが何か?」
「そう君は今人間形態、この私ももちろんアルベドも今は人間形態だ。つまりそれこそアインズ様の仰っていた“人の形”ということなのだよ」
「つまり……結局どういうことでありんすか? 形態は違っても結局種族は変わりんせん」
「そうそう、シャルティアの言う通りだよ。人間の形をしていても種族は変わらないよ、その証拠にアルベドは羽、デミウルゴスには尻尾が生えてるじゃん」
うーん、と五人の守護者ともう一人はまだ理解できておらず一同『どういうこと?』といった顔をした。それを見てとったのかアルベドがデミウルゴスに助言をする。
「デミウルゴス、その説明の前に“種族の分け方”について説明した方がわかりやすいんじゃないかしら?」
「ふむ……確かにそうですねアルベド。私としたことがアインズ様にご命令されて少し張り切ってしまいました」
デミウルゴスはくいっと眼鏡を上げ、緊張気味だった自分の心を落ち着かせる。彼にとっては今のこの時間は、例えるなら生徒が一生懸命作った答案を目の前で自分が心酔する教師に添削されているようなものだ。体に溜まった熱を自分の息として吐き出し、再び説明を開始する。
「アルベドの言う通り、最初に種族の分け方がどのように行われているかについて考えていこう。今から話すことはあくまでも仮説……いえ、失礼しましたアインズ様のお考えです、仮説ではなくおそらく事実でしょう」
「ぇ…………あ、ああ、い、いやデミウルゴス、私も正直確証はないのだ、あくまでも仮説として進めてくれ」
このナザリックではアインズが黒と言ったらどんなものも黒になってしまう。仮説としたものを事実にされてしまっては、これからアインズは曖昧な表現が全く出来なくなってしまい己の首を締めることになる。というよりそもそもその“仮説”とやらすら分かってないのだ、いきなり自分に振られてびっくりしたアインズだったが上手く対応し、再び全神経を耳に集中させる。
「左様でございますか? ……アインズ様に間違いなどあるはずもございませんが、御身がそう仰るなら、この話はあくまでも仮説ということで進行させていただきます」
「う、うむ……さぁ続けてくれ」
「はっ、ということで種族の分け方ですが……そもそもどの生命体が亜人種で、どのモンスターが異形種か、一体誰が決めたのでしょう──」
アインズの──いや正確にはデミウルゴスの──話はまとめるとこうだ。
ユグドラシル時代、つまり至高の四十一人がいた転移する前、どの生物やモンスターが人間種か亜人種か異形種かは運営が決めており、運営やゲームのことを一切知らない守護者を含めたナザリックに属する者たち、つまりNPCたちにはそれは一般常識として頭に入っている。
しかしそれを決めたのはあくまでもゲーム開発側であり、転移前のナザリックでの常識だったはずのルールも、もはやゲームでなくなった転移後の世界ではそれが通用するのかすら危うい。実際に口の動きや文字は違うのに言葉は通じるという都合が良いルールや、ザイトルクワエやハムスケのようにナザリックひいては一人の元ユグドラシルプレイヤーであるアインズですら知らないモンスターも存在したのだ。では転移後の世界においては人間と亜人と異形の境界線は誰によってどこで引かれているのか……
「た、確かに一体誰が決めたんですかね……」
「そうなのだよ、それこそ今回アインズ様がお立てになった仮説における重要なポイントだ」
デミウルゴスはそう言うとニコッ笑い、問題の正解にたどり着いた自分を褒めて欲しい小学生のような表情を作ってアインズに向き直る。
「さ、さすがだ、デミウルゴス。そこは確かに重要なポイントだな…………?」
(いや、なんとなくもわからないんだけど……結局どういうことなんだ? ……デミウルゴス! 見たこともないような笑顔をこっちに向けないで! 怖いから!)
アインズの心の中の叫びも知らずデミウルゴスはまさに会心の笑みを浮かべ喜びを噛み締める。
「お褒めにあずかり光栄でございます、では話を続けます……つまりこの転生した先のルールではかなりこの三種族間の線引きが曖昧です。しかし、わからないわけではない。実際私は今アインズ様のご命令で聖王国近く亜人をいくつか支配下に置いているのだが、その中に
「ん?魔法?……ああ! そうか!」
「どうしたのマーレ」
「わかったよお姉ちゃん! この世界で種族を決めているのは、魔法なんだよ!」
「あ! そっか! よく考えれば魔法で種族わかるもんね! なんだ、そんなことか……でもならやっぱりセバスは竜人じゃん」
これでは議論が堂々巡り、皆眉間に皺をよせ懸命に頭を働かせるがやはりわからない。しかしこの姿をデミウルゴスは予想していたようで話を続ける。
「そう、魔法でわかる。なら例えば今のセバスに対して人間種にだけ効く魔法をかけた場合それは効くと思うかい?」
「そ、それは……」
もはやシャルティアの脳スペックでは追いつけていないのか何も答えることができない。もちろん誰も知らないがもう約一名追いつけてない人物もいる。
しかし竜人である当の本人には理解できたのか納得し、普段は気に食わない人物だがこれに気づき、自らが敬愛する主人と同じ思考に至ったことに素直に感心する。
「なるほどデミウルゴス、そういうことでしたか……確かにこの形態の状態だと人間種に対する魔法は……効きます」
「そう、つまり今のセバスは──」
「人間形態デアルタメ──」
「竜人という異形種でありながら──」
「に、人間への魔法が効く──」
「人間種としてこの世界から認識されている、ということでありんすか!」
一同はこの結論に驚くが、逆にこれでもともと各NPCの設定を熟読していたアインズは完全に腑に落ち、自分の話が繋がったことへの安心とこれからの自分の支配者ロールプレイへの不安で卒倒しそうに──ならずに冷静になる。
(作ったNPCのラスボス感漂わせるために一時期いくつかの形態を持たせた異形種作るの流行ったもんなぁ……なるほどね。こういうの作ると人間形態の時とか半形態の時はペナルティを受けるけど、この『本気の私の姿を見るがいい』感が逆に良い! ってみんなで騒いでたなぁ……)
アルベドもデミウルゴスも複数の形態を持っているがこの通常の人間態の時も例外なくペナルティを受けている。それはセバスも例外ではなく、その設定で受けているペナルティの一つに『人間種に対する魔法が有効』があったのだ。もちろんセバスのレベルは百だからそんじょそこらの魔法は耐性によって打ち消されるが、高位の魔法となるとさすがに無効化できないということだった。
やっと話に追いつけたアインズはここしかないと発言する。
「その通りだ、守護者たちよ。あくまでも仮説だがな……しかしこれで納得がいくだろう」
「はいアインズ様、セバスに人間種への魔法が有効ならばそのように世界が認識している、ということも納得がいきます。もちろん龍の形態時にはその認識から除外されるとはおもいますが……」
「なるほど、今のセバスは異形種であり、あたしとマーレと同じ人間種でもあるってことね」
「フム、理解シタゾ……シカシナガラソレ二スグ二気付クアインズ様……」
「そうね、私たちがするべき反応は感嘆よ。このことにアインズ様はもうすでにお気づきだった」
「さすがでありんす!」
「すごいですアインズ様!」
「そ、そうです! 僕憧れちゃいます」
「戦闘ノコトダケデナク、コノヨウナ知識ニモ精通シテイルトハ……感服イタシマシタ」
「この身に起きていることをアインズ様はすでにお気付きだった……自分より自分のことをご存知であるとは、さすがとしか言いようがありません……」
守護者たちからのベタ褒めがとてもくすぐったく感じたアインズだが、そんなことおくびにも出さず鷹揚に頷く。
「うむ、まぁそんなところだ、あくまでも仮説だがな。しかしアルベドとデミウルゴスには看破されてしまったようだな」
「何をおっしゃいますかアインズ様! アインズ様があの発言をしなければおそらく気付くことすらできなかったでしょう……」
デミウルゴスは苦笑いで答える。自分の主人は己如きの思考の何歩先にいるのか、と。
「ところでデミウルゴス、あなたが最初に立てていた仮説はなんだったのかしら? 私はそちらも気になるわ」
「アルベドの言う通りだ、私もデミウルゴスの最初に立てた仮説を聞きたいな」
「っ! そんなアインズ様恐れ多い!」
「良いではないかデミウルゴス、私のも仮説なのだ。ぜひ聞かせてくれ」
(というか俺の思いつきよりデミウルゴスが立てた仮説の方が正しいに決まってるじゃん……ってかそもそも俺何も思いついてないし……)
自分の支配者としての化けの皮が剥がれることをなんとしても避けたいアインズが、自分の不甲斐なさに呆れ返っているのをこの場にいる誰も気づくことは出来ない。
「で、では恐れながら……ゴホン、私は最初に広範囲に発動する強力なアイテムの力かと考えました。しかしそれならばセバスとツアレの事例しか確認されていないということが説明できません……次に考えたのはアインズ様が以前お使いになったという〈
「なるほどな、デミウルゴス。確かにかの
「仰る通りでございます」
(もしかしたら言葉が通じなかったことを不便に思った、昔こちらに転生したプレイヤーが何かしらの
やばい、とアインズは瞬時に約二名の女性守護者を確認する。シャルティアは今も自分の叡智を賞賛する声をアウラと共にあげているが、アルベドは……髪の毛に隠れて顔がよく見えない。彼女の立場は守護者統括という上役だ、おそらく大丈夫だとは思うが、アインズは念の為に心のメモ帳に『アイツに宝物殿の警備の強化を命令』と書き込む。
「まぁ時間はたっぷりあるのだ、分からないことは段々調べていけば良いではないか、そうだな? アルベド」
「……」
「アルベド?」
「っ! 何でしょうアインズ様!」
「う、うむ……分からないことは少しずつ調べていけば良いと言ったのだ」
「その通りかと、これからセバスの子どもも生まれてくるのですし」
「そうだね、私も同僚の君の子どもには元気に生まれてきて欲しいよ」
「ありがとうございます」
「まぁ今日のところはこれで解散とする……いや、デミウルゴスとアルベドは残ってくれ、二人には少し話がある、他の守護者たちは各々の持ち場に戻るように。セバスは部屋に帰れ、後の任務はマーレに引き継がせる」
「しかし、アインズ様!」
「良い、セバス。今日は長い一日だった、帰って二人で話すこともあるだろう」
「……お心遣い、感謝致します」
「うむ、ツアレによろしく伝えといてくれ。では各員行動を開始せよ」
「「「「「はっ!」」」」」
そう言うとシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、セバスの順で玉座の間をあとにする。
扉の閉まる音が響く広い玉座の間にはアインズとアルベドとデミウルゴスの三人の影があった。五人が部屋を出たことを確認するとアルベドがアインズに微笑みながら自分たちを残した理由を問う。
「アインズ様、私たちに何かございましたか?」
「ああ、二人に確認しておきたいことがあってな」
「確認、でございますか?」
「そうだ…………近々起こる、帝国と王国の戦争について確認しておきたいことがある」
今回は独自解釈がてんこ盛りでした……
ここは賛否両論わかれそうです……
よろしければ読んでくださっている皆様の“仮説”もぜひお聞かせください!
というわけで次話はこの玉座の間の一件のあとが描かれるはずです!
コメントお待ちしております。