オレには三つの秘密がある。一つ目は、自分がヒロアカの世界に転生した転生者であるということ。二つ目は、透明人間であり誰にも見えないはずの幼馴染・葉隠透が、自分には普通に見えているということ。三つ目は、その透明な女の子の素顔が、美少女であるということ。

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短編です。


オレだけ見えてる

 原作一話しか読んだことのない、ヒロアカの世界に転生して早3年。オレは入園した保育園で、1人の女の子に出会った。

 彼女の名前は葉隠(はがくれ)(とおる)。超が付く程の美少女だ。すぐに一目惚れした。彼女は美しいというよりは可愛い、それも超絶可愛い顔立ちをしている。将来有望である。

 

 二度目の人生でこんなスーパー美少女に出会えるなんて、オレはとんだラッキーボーイだ。好きな子に気に入られたいと思うのは当然のこと。彼女に毎日話しかけ、彼女自身の友好的な性格もあってすぐに仲良くなった。

 お互いのことを「とおる」「けんちゃん」と呼び合うようになり、楽しく遊んだ。もはや親友と言っても過言ではない。

 

 一つ気になるのは、親や保育士さんの彼女に対する評価だ。大抵は「元気の良い子」「明るい子」と彼女を評する。

 その評価も間違ってはいないが、彼女はそこらの芸能人など比較にならないほど可愛い。普通はその見た目に目が行くのではないだろうか。そう疑問に思って母に確かめてみた。

 

 

「とおるってすっごいかわいいかおだよね?」

 

 

 そう言うと、何故か母はビックリしていた。

 

 

「ケン、何言ってるの?透ちゃんは透明じゃない。顔は見えないわよ」

 

 

 どうやら透はオレにしか見えないらしい。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 『透明』の個性を持った透が見えるのは、恐らくだが知らず知らずの内に発現していたであろう、オレの個性のおかげだろう。3歳なら個性が発現していてもおかしくはない。

 しかし透以外に何か変なものが見えたりはしない。透のような個性の人、もしくは透のみが可視化される個性らしい。

 

 一晩考えた結果、オレはこの個性のことを誰にも言わないことにした。こんな個性を持っていると知られたら、みんな透の素顔を知りたがるだろう。

 これから小中高と上がって行くにつれて、明るい性格の持ち主である彼女はきっと素敵な女性になるはず。

 そんな彼女が更にとんでもなく可愛いと知られたら、どうなるだろうか。たとえ顔が見えなくても、彼女の異性からの人気が高まるかもしれない。それは嫌だ。

 

 誰にも、透本人にも教えたくない。これはオレのエゴであり、独占欲だ。つまるところ、彼女の可愛さを独り占めしたくなってしまったのだ。

 

 オレ自身のエゴによって、オレは表向きは無個性としての人生を歩むことになった。まあ自業自得だし、2度目の人生が手に入って、しかも美少女と仲良くなれた時点で大満足だから構わないが。

 

 ちなみに意外かもしれないが、透と付き合いたいとかは思っていない。好きなのは確かだが、あのとてつもなく可愛い顔を見ていると、前世も今世も平凡な顔のオレが付き合うなんて、恐れ多いと感じてしまうのだ。ただ仲良くできればそれでいい。

 

 こうして葉隠透と、オレこと二生(にじょう) (けん)の物語は始まったのだ。

 

 

「けんちゃん、おままごとしよ!」

「おっけー、とおる」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 オレと透は小学校に上がっても仲良しだった。いつも一緒に登下校をして、休み時間も一緒に遊んだ。

 

 

「かっくれんぼするもん寄っといでー!」

 

 

 グラウンドで透と逆上がりの練習をしていると、同じクラスのやつが声を上げた。1人の掛け声にわらわらと集まるクラスメイトたち。

 

 

「かくれんぼだって!行こ、ケンちゃん」

 

 

 透がわくわくした笑顔を向ける。まあこの笑顔もオレにしか見えていない訳だが。可愛い。

 ダッシュでかくれんぼに向かう透についていく。

 

 

「はいはい、あたしたちもやる!」

 

 

 透が勢いよく手を上げる。これも他の人からは服の袖だけが上がっているように見えている。

 

 

「えー、二生くんはいいけどさ、葉隠さんはダメだよ。服しかないから見つけにくいんだもん。この前やった時も長引いて楽しくなかったし」

 

 

 他の参加者数人もうんうん、と同調する。

 

 

「そっかぁ…。じゃあいいや!あたし逆上がりしてるから、ケンちゃん頑張ってね!」

 

 

 周りの意見にすぐに引き下がる透。他のやつらには物分かりが良いと思われてるのかもしれないが、オレだけは彼女の顔が見える。

 今はとても寂しそうな表情だ。本当は参加したいに違いない。彼女はコミュニケーション力が高く和を重んじる性格のため、こうしてそっと我慢することがある。

 本来なら誰にも気付かれないであろう感情。しかし此処にはオレがいる。

 

 

「じゃあさ、オレが鬼やるよ。そのかわり透もやって良いだろ」

 

 

 進んで鬼をやりたがるやつなんて珍しい。みんなこれ幸いと、隠れるために散っていった。

 さあ目を瞑ろうという時に、まだ透が逃げていないことに気づいた。今にも泣きそうな顔をしてる。

 

 

「どうした、透?早く隠れろよ」

「……でもあたし、迷惑かけちゃう。あたしが見つかんないせいで長引くって。ケンちゃんに鬼までさせて……」

 

 

 透は本当に良い子だな。外見だけじゃなく中身まで素晴らしい。自分のためにオレが鬼をやることに引け目を感じているようだ。別にいいのに。

 それにオレには透の姿が普通に見えているため、他のやつと違って見つけにくくないんだ。けど透はそれを知らないしな。

 

 気に病むことはない。オレはお前が幸せならそれで満足だし、そもそもオレが鬼なら長引かないんだ。それが本心だが、透はそんなことを言われたところで納得しないだろう。

 だから精一杯の言葉を尽くして、大丈夫だよと伝えてやる。

 

 

「心配すんな。オレはお前が世界のどこに居たって、必ず見つけ出してやる」

 

 

 言っておいて気づいたが、この台詞かなりクサい。とてつもなく恥ずかしくなってきた。しかし透は数秒ほどキョトンとしていたあと、すぐに顔を綻ばせた。

 

 

「えへへ、分かった!」

 

 

 可愛い。まじ天使。さて、こんだけ啖呵切っておいて、結局見つけられませんでしたっていうのは情けない。転生者のプライドに賭けて全員見つけてやる。

 ……転生者のプライドってかくれんぼで賭けるもんなんだ。我ながら小さい。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 オレたちは中学生になった。体が成長し性差が出てくるため、男女の違いというものをより意識する年代だ。

 しかし透とオレは相変わらず仲良しだった。毎日一緒の登下校も続いており、休み時間にもよく話す。

 透はそういうことで人を敬遠するヤツではないし、オレは2度目の人生で精神が成熟している。

 

 しかし周りは思春期まっさかり。男女で仲良くしているとあの洗礼を受けることになる。

 そう、お前ら付き合ってんだろハラスメントである。距離の近い異性同士を「お前ら付き合ってんだろー」と言ってからかうあれだ。

 しかしそこは経験豊富な転生者、軽くあしらう。過敏に反応しなければどうということはない。しかししばらくはそんなからかいが続いた。

 

 

「あのさ、ケンちゃん。最近あたしらが付き合ってるんじゃないかって言われてるんだって」

 

 

 それは透の耳にも届いたらしく、一緒に下校している時にその話題を持ち出してきた。

 

 

「お似合いの、カ、カップルって言われてるらしいよ。照れちゃうね」

 

 

 透は恐らくカップルという単語に照れてしまったのだろうか、顔を真っ赤にしている。ウブなところも可愛い。まさかそんな顔を見られているとは思ってないんだろうな。

 

 

「ケンちゃんはどう思う?あたしたちってお似合いかな?」

 

 

 真っ赤な顔のまま、もじもじと尋ねてくる透。

 

 

「んー、どうだろ?透のことをそういう風に見たことなかったな。ほら、透とは親友だし」

 

「っ!!そ、そっか……」

 

 

 透が超絶美少女過ぎてカップルなんて恐れ多い、という本音は心の中に留める。照れくさいし、10年かけて作り上げた幼馴染としての関係性が崩れるのが怖い。

 だからそういうことは言わないようにしている。オレは今の関係に満足しているのだ。

 

 その後、透は時折すごく悲しそうな表情を見せることがあった。オレにしか見えていないが。そしてそれは決まってオレと話している時だ。

 彼女にはいつも笑っていて欲しい。どうにか原因を聞き出そうとしたが、ついぞ中学を卒業するまで分からなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 その後もオレたちは、中学生活を仲の良い幼馴染として過ごした。運動会に文化祭に、他にも色々。全て前世で体験したイベントだが、透が居たおかげで楽しい思い出がたくさんできた。前世よりもずっと楽しい中学生活だった。

 そして今日は卒業式。既に卒業証書を受け取り、クラスメイトと別れの挨拶も済ませた。透とオレの母親は二人で食事に行くらしい。

 

 オレたちが幼稚園からの付き合いだから、母親同士も仲が良いのだ。ちなみに透の母親も透明の個性を持っており、すごい美人である。オレにしか見えていないが。

 

 なのでオレは透と二人きりで下校中だ。道には桜が咲き誇っており、まさに卒業シーズンといった趣だ。

 

「オレたちももうすぐ高校生か、早いもんだな」

「そうだね」

「にしてもビックリしたよ、透が雄英のヒーロー科に受かるなんて」

「それはこっちの台詞だよー、ケンちゃんは雄英の経営科でしょ?経営に興味あったんだ?」

「まあな」

 

 

 その理由は透なんだけどな。まあ言わないが。

 

 

「でも同じ学校だけど科は違うから、あんま会えないよね。小さい頃から一緒だったのに変な気分」

「それはしょうがないだろ。登下校はこれまで通り一緒だし、オレらの関係は変わらないよ」

「そうだよね、これまで通り……」

 

 

 思い詰めた顔をしてるな。何か言いたいことがあるようだ。黙って彼女の言葉を待つ。

 

 

「あのさ、あたしがヒーローになろうと思ったのはさ」

「うん」

「ケンちゃんのおかげなんだ」

「……え?」

「ケンちゃんはいっつもあたしのこと守ってくれたよね」

「優しくて、頼りになって、いつもすごいなって思ってたんだよ」

「だからあたしもそうなりたいって思ったの」

「……そっか」

 

 

「一緒に居て落ち着くし、ずっと傍に居たい」

「一緒だろ、高校も同じだし…」

「ううん」

 

 

 彼女は真っ直ぐにオレを見据えて、話し続ける。

 

 

「今は一緒でも、ずっとは無理なんだって気づいたの。大人になったら、たまに会えたりはしても、それは今より短い時間でしょ?」

「幼馴染のままじゃいずれ離れていっちゃう。それに気づいたとき、すっごく悲しくなったの」

 

 

 

「それで分かったんだ、あたしはケンちゃんが好きだって」

 

 

 

  ………え?

 

 

「ケンちゃんがあたしのことをそういう対象に見てないってことは知ってるよ」

「でも言わずにはいられなかったの」

「だってずっと一緒に居たいから」

 

 

 理解が追いつかない。

 オレが返答にどもっていると、透は急に声色を明るく変えた。

 

 

「こんなこと言われても迷惑だよね、ごめんね」

「あたし先に帰るから。今のはもう忘れて」

 

 

 声だけ明るく装っているが、オレには見えている。今にも消えてしまいそうなほど悲しい表情だ。

 中学生活の中で何度も見た表情。まさかオレのせいだったなんて。

 そんなことを考えてる内に、透が走っていってしまう。

 

 

「待ってくれ!」

 

 

 咄嗟に叫ぶが、彼女は止まらない。慌てて追いかける。しかし、曲がり角で見失ってしまった。

 透の家は知ってる。けど、素直に家に帰るだろうか。オレが呼び止めても応じなかったのに。家でないとしたらどこに行く?

 直感で閃いた。あそこしかない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「透!」

「え、ケンちゃん!?」

 

 

 透がいたのは、オレたちが出会った保育園。数年前に閉園しており、今では建物や遊具のみが残っている。

 彼女はその遊具に座っていた。どうやら泣いていたらしく、目元が腫れている。

 

 

「なんで分かったの?ここに居るって」

「……言ったろ、『お前が世界のどこに居たって、必ず見つけ出してやる』って」

「ふふっ。懐かしいね、それ」

 

 

 黒歴史の台詞を持ち出してでも、伝えなきゃいけないことがある。

 

 

「聞いてくれ、透。ちゃんと返事するから」

「……うん」

「透の言ったとおり、お前のことをそんな風に見たことなかった。こんな関係がずっと続けばいいって思ってた」

「っ!うん」

 

 

 辛そうな表情になる透。申し訳なさで胸が一杯になる。けどちゃんと、言葉を尽くして今の気持ちを伝えなければいけない。そう決心したのだ。

 

 

「けどそれは、オレにとって透がそれだけ大切だったからだ」

「え?」

「透が可愛過ぎて、オレには釣り合わないと思ってたんだ」

「ふえ?」

「オレも好きだ」

 

 

 よし、言えた。もう今までの関係とか知るか。

 

 

「初めて会った時から好きだった。一目惚れだ」

 

 

 もはや透からは声も出てこない。ポロポロと涙を流している。

 

 

「オレと付き合ってください」

「はいっ…!はいっ…!」

 

 

 こうして12年間一緒にいた透明な幼馴染は、オレの彼女になった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「えーっ!?透ちゃん彼氏いるのー!?」

「もうっ!声大きいよ」

 

 

 ここは雄英高校ヒーロー科、1年A組。学級委員決めが終了し、これからランチタイムという時間帯だ。

 

 芦戸三奈が葉隠透を食堂に誘ったところ、先約があると断られてしまったのだ。しかし葉隠の雰囲気が妙に浮わついているので問い詰めたところ、彼氏と弁当を食べる約束をしていることを聞き出したのだった。

 

 

「どんな人!?どこの科!?同い年!?いつから付き合ってるの!?」

「え、えぇと…」

「ちょっと、葉隠さんが困っていますわよ」

 

 

 芦戸のハイテンションを見かねた八百万が、会話を仲裁した。

 

 

「ありがとね、ヤオモモ」

「いえ、そ、それより……」

「?」

 

 

 興味津々といった表情の八百万が言う。

 

 

「その、彼氏さんとの馴れ初めを教えて頂けませんか?」

「えぇ……」

「ヤオモモずるい!あたしも聞きたい!」「オレもオレも!」「リア充だと!?許さん!!」

 

 

 その後八百万、芦戸、上鳴、峰田に詰め寄られ、その日の昼食はその彼氏も一緒に食堂で、ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

「そこでケンちゃんが言ったの、『お前が世界のどこに居たって、必ず見つけ出してやる』って」

「やめろおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 ヒーロー科五人、経営科一人が参加した恋バナという名の一方的な暴露大会は、マスコミの侵入により警報が鳴るまで続いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「酷い目に遭った……」

「あはは、ごめんねー?」

 

 

 透と一緒に下校している。これは雄英に入ってからも続いていることだ。

 恋人にはなったが、なんてことはない。今まで通りの会話に、今まで通りの距離感。12年間で培ってきたものはそう簡単に変わらない。無理に変える必要もない。

 お互いに相手の気持ちを確認した。今はそれだけで良いのだ。

 

 

「そういえば、何でケンちゃんは経営科に入ったの?」

「秘密」

「何でよー、ケチー」

 

 

 透がヒーローになってからも、仕事仲間としてずっと一緒に居たかったからだよ。ヒーローには成れないけどせめて裏方として支えたい、ってな。

 今となっては意味が無くなってしまった。恋人だから一緒に居られるし。

 まあ、透に相応しい経営者になれたら言おうかな。

 

 

 その時はオレの個性のことも教えてやろうか。ビックリするだろうな、オレは小さい頃から無個性だって言ってたから。

 しかも透自身も見たことがない、透の素顔が見えるなんてな。

 

 

「行こ、ケンちゃん!」

 

 

 まあ、それもしばらく先の話だろう。それまでこの透き通るような笑顔は、オレの独り占めだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




好評でしたら、もう一話くらい書こうと思ってます。透ちゃんのお色気回とかどうでしょう。
追記:タイトル変更しました。旧『葉隠さんみえてますよ!』→『オレだけ見えてる葉隠さん』


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