「──よう、ルフィ」
「エース!?」
砂の国、アラバスタ。
麦わらの一味が仲間であるビビとカルーのためにクロコダイルをボコろうぜと計画を立てていた最中、ルフィと兄弟でもあるエースと再会していた。
久しぶりの再会に喜ぶルフィと、仲間たちに挨拶をするエース。そんなほのぼのとした幕間の話は次第に、共通の話へと変わっていく。
「ルビーはどうしてるんだ?元気か?」
「あ〜……………あぁ……」
視線をグルグル3周くらい回したエースは、弟の真っ直ぐな瞳を受け、スっと顔を横に逸らした。
「………………元気は元気」
「またケンカしたのか!?」
ルフィはその態度に心当たりがあった。
それはもう、ゴア王国からずっと間に挟まれていた苦労人のルフィは腰に手を当てて説教モードに入った。
「エースとルビーはなんでそんなに喧嘩が絶えないんだ!?ちょっとはオトナになったんだから、どっちかが素直にごめんなさいすればいい話なのに」
「あ、いや……滅相も……正論なんだけど」
「おいおい、あのルフィがしっかりしてそうな兄貴に説教してるだと?」
「うそようそ、信じられない」
「天変地異の前触れだ!!!」
怯える麦わらの一味一行。
身を寄せあって世界の終わりを目にしていた。
エース本人はと言うと、ちょっと懐かしい説教と、否定したくとも結局海に出ても喧嘩ばかりした記憶はちゃんとあるため、何も口出せずに小さくなりながら受け取っていた。
「で、今度は何したんだ。エースがルビーのとこを離れるなんて余っ程だぞ」
「……。そう、なのか?」
「うん」
エースが恋心を自覚したのは割と最近。つまりルフィと一緒に三人で過ごしていたあの山の中では『こいつ本当にうぜぇ!』という気持ちで生活していたし、喧嘩も多かった。
だというのに、ルフィは余っ程だと言う。
「ルビーは弱いから、エースいっぱい守ってたじゃん」
ルフィはルフィで何を言ってんだ?と言いたげに首を傾げた。
「俺、そんなにルビーの事守ろうとしてたか?」
「そうだよ。俺と一日百戦する時だって、エース絶対ルビーを記録係にしてたじゃん。目を離したらどっか行くか分からないから、してたんだろ?」
麦わらのルフィは本来、あっけらかんとした、言い方を悪く言えば考え足らずな性格をしていた。
しかし、ルフィ以上のトラブルメーカーにおバカなルビーがそばに居た。ルビーはエースやサボと同い年であるため、ルフィにとっては姉貴分ではあるのだが……。
ルフィ以上の世間知らずに貧弱な身体能力と能天気さを兼ね備えたルビーは、ルフィにとって割と庇護対象。妹といえば聞こえはいいが、明け透けに言うとめっちゃ下に見ていた。
その為だ、ルフィは上と下に挟まれる、苦労タイプの真ん中っ子へと変貌した。
これが幼少期にルビーが居なくなっていればまた話は変わっていたのだが……エースと同じ歴一緒にいたのだから、振り回されている。
仲介?任せて欲しい、10年以上やってきた、と言わんばかりの貫禄があった。
「……そっか」
エースは納得したような顔をした所で、ルフィは少しの違和感を抱いた。
「あの、ルフィさん」
ここで手を挙げたのはビビだった。
「話に割り込んでごめんなさい。もしかして、ルフィさんが言っている『ルビー』って人の名前かしら」
「おう、小さい頃から一緒に育った同居人だ」
「……サリー・ルビー王女の事、だなんて言わない、わよね…?」
いやいやまさかまさか、世界会議でも上がる行方不明になっている王族と有名な人なわけがない。
「お、よく知ってるな。ゴア王国の第一王女だっけか、ルビーのことだよ」
「………………終わった」
ビビが素直に頭を抱えた。
「ビビ、ルビーがどうしたんだ?なんかやったのか?」
「……何かやったも何も、彼女、行方不明になっている王族だから世界政府加盟国は皆知ってるわよ?ゴア王国は毎年ルビー王女の為に──」
ビビから語られた言葉はざっくりいえば『大事になっている』という内容だ。
ルフィやエースにとって捜索費用と言われても首を傾げるし、サイファーポールだとか言われても全く聞き覚えのない機関。
「なんかすげぇ大変そうだな……」
「大変なの!」
ゴア王国はあまりにも必死になりすぎている。
そりゃ血が繋がっているから……と言いたいところだが、それにしては。
「(気味が悪いような……)」
ビビはその言葉が浮かんでしまい、首を横に振った。他国の王族に対してあまりにも無礼な言い方だ。
必死に家族を探している、家族思いだ、それで終わらせた方がいい。
「それで、ルビーは?」
「あ、あぁ、親父の船に……白ひげの船に乗ってるんだ。俺は今黒ひげっていう罪人を追ってる、仲間殺しをした黒ひげを俺は許せない。だからルビーは置いてきた」
「なんで……」
「…………誘ったさ。俺だって。でも、でも」
危ない旅になるのは分かっている。ろくに戦えないルビーが着いてきても、安全とは言い難い。
「ルビーは、躊躇ったから」
尻すぼみになる言葉。
『うん』とたった一言、言ってくれさえすれば。
「──そりゃエースはサボじゃないから」
「うっ」
ルビーが好きだと自覚しても、いや、したからこそルビーの中で大きいサボの存在がライバルに違いなかった。
「そもそもルビーがエースに着いてったのはサボを探すためだっただろ?エースはそのクロヒゲってやつを探しに行くのに、目的が違うだろ」
「ルフィの正論が沁みる……」
「どーーせルビーの事だから、『勝手になさって、私はサボを探すので手一杯なの』って断ったんだろ?俺でも分かるって」
ルフィがやれやれと肩を竦める。
「……。いや」
しかし、その予想に否を唱えた。
違う、違っていた。
── 行かないで!!
あの時だけは、『サボ』なんて欠片もなくて。
必死にエースだけを見て引き止めていた。
「……、止めて、くれたよ」
心配してくれたのか、不安になったのか、神威は分からないがルビーの瞳はエースにだけを向いていた。
行かないでと。
泣きそうな顔で、明らかにエースのことを考えていた。
サボに一瞬だけでも勝てたエースは愛おしそうに微笑んだ。
「ルビーは止めたんだ……」
エースの言葉に今度はルフィが大きく目を見開いた。
「ルビーが!!!????サボって口にしなかったのか!!!???」
これには雷に打たれたような驚きだ。
弟の可愛い反応に、エースは少し面食らったものの、頭をぐしゃぐしゃと撫でながら笑った。
「俺、ルビーに告白したんだ。今連敗中でよぉ、黒ひげとっちめたらルビーと一緒に遊びに来るから……」
「ルビーに、こく、はく……?エースって、どえむ?なのか……?」
「おいルフィ!その反応は流石に怒るぞ!!」
砂漠の上のオアシスのように、エースは弟の再会の一瞬を心から喜んだ。
あぁ、無性にルビーに会いたい。あの暖かい手のひらで──。
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「ハァ……ハァ…………」
身体中の傷がズキズキと痛み、脈動の度に傷が疼く。血の匂いが濃く、呼吸のたびに鉄の味が広がった。
意識が朦朧とする。
獣のような荒い息が自分の耳にはいる。
痛みに悶えわずかに動くと、鎖が鳴った。音の発生源は己の体。
「ルビーを、置いてきて、本当に良かった……」
冷たく静かな空間がそこにはあった。
──大監獄インペルダウン レベル6