実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい(本編完結)   作:ピクト人

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Prologue
死亡、そして再誕のプロローグ


 

「というわけで、お前さんは死んでしまった。本当に申し訳ない」

 

「えぇ……」

 

 四方に広がるのは黄昏を映す輝く雲海。果てなき雲の海原の只中にポツンと鎮座する四畳半の座敷にて、私の眼前には深々と頭を下げるご老人が一人。

 卓袱台を挟んで正座する私は只々困惑するしかない。このよく分からない空間に漂う座敷とか、私が置かれている状況とか色々突っ込みたいところはあるけれど、一番不可解なのは目の前のこのご老人だ。本人曰く神なる存在だそうだが、はっきり申し上げて凄い胡散臭い。神だというのに何かそれらしい凄みやらオーラやらは全く感じられないのだが、それは私が鈍感なだけだろうか?

 

「雷を落とした先に人がいるか確認を怠った。本当に申し訳ない。落雷で死ぬ人間はそれなりにいるが、今回のケースは想定外じゃった」

 

 私の記憶が確かなら、私はトラックに吹っ飛ばされて死んだように思うのだが。確かに雨は降っていたが、雷に打たれた覚えはない。

 

 もしかしてこのご老人(自称神)、人違いをなさっている?

 

「ここは天国より更に上、神々の座す世界……そうじゃな、神界とでも言おうか。ここは本来人間が来ることはできんのじゃが、今回は特別にワシが呼んだんじゃよ。君は、えーと……ふ…ふじわら……」

 

「あ、(かおる)です。藤原薫」

 

「そうそう、藤原薫君」

 

 ご老人はそう言いながら傍らのヤカンから急須にお湯を注ぎ、湯呑にお茶を淹れて下さる。

 

「しかし、君は随分落ち着いとるのう。自分が死んだんじゃ、もっとこう慌てふためくようなもんだと思っていたが」

 

「いえ、落ち着いているというわけではないです。顔にはあまり出ていないかもしれませんが、これでもかなり困惑しておりますので……。

 ところで、これから私はどうなるのですか?死んだということは、やはり天国か地獄に?」

 

「いやいや、君はワシの落ち度で死んでしまったのじゃから、すぐに生き返らせることができる。ただのう……」

 

 何やら言い淀むご老人。何か問題があるのだろうか。

 

「うむ、実は君を元いた世界に生き返らせるわけにはいかんのじゃよ。すまんがそういうルールでな。こちらの都合で申し訳ないが。で、じゃ」

 

「はぁ」

 

「君には別の世界で蘇ってもらいたい。そこで第二の人生をスタート、というわけじゃ」

 

 ……あれ、何かここまでの会話の流れに既視感があるような。

 

 そうだ。『異世界はスマートフォンとともに。』というWeb小説と殆ど同じ展開ではないか。ということは、私もマップ兵器と化したスマートフォンを携えて異世界に行くことになるのだろうか?

 ズボンのポケットからスマホを取り出す。画面は蜘蛛の巣状に罅割れ、フレームは盛大に歪んでいた。直前まで遊んでいたゲームアプリの映像が途切れ途切れながらも辛うじて映っている。

 

 ……何故私の身体と衣服は何の損傷もないのに、スマホだけは事故直後そのままのような有り様なのか。

 

「無論、こちらの不手際である以上せめてもの罪滅ぼしはさせてもらう」

 

 そう言って、ご老人───いや、もう神様で確定か───はひょいひょいと何やら卓袱台の上に並べていく。

 私から見て右から順に、スマホ、拳銃、ダイス……だろうか。

 

「ここに三つのアイテムがあるじゃろ?この中から好きなものを一つ君にあげようではないか」

 

 いやいやいやいやいやいや。

 ちょっと待ってほしい、こんな展開は異世界スマホにはなかったはずだ。というか、この三つのアイテムがそもそもおかしい。

 

 まず一つ目、スマホ。

 これをスマートフォンと判断できたのは偏に見慣れた長方形の画面とホームボタンが配置されていたからで、その全体的なシルエットは普通のスマホとは似ても似つかない。とにかくゴツイ。分厚く重厚なダマスカス鋼のような金属のフレームに覆われており、そこからネジやら歯車やらよく分からないシリンダーのようなものやらが迫り出している。しかも時折りバチバチと紫色の電気が漏れ出ており物騒なことこの上ない。というかこんな幅を取るものを携帯したくない。絶対ポケットに入らないぞこれ。

 

 次に二つ目、拳銃。

 ドラマや映画などで見かけるリボルバー式の拳銃だ。これはスマホと異なりそれほど異質なシルエットをしているわけではないが、その材質がおかしい。何故生物のように表面が蠕動し、心臓のように鼓動を打っているのか。しかも金属特有の光沢ではなく、生肉とか臓物とかに見られる体液が濡れ光っているような光沢を放っている。ぶっちゃけキモイ。

 

 そして三つ目、ダイス。

 TRPGなどでお馴染みの十面ダイスだ。それが三つ。黒曜石のような質感で、刻まれた1~10の数字が血色の光を発して明滅している。大変禍々しく不気味なオーラを放出しているが、それ以上にダイスと接している面の卓袱台の木材が徐々に腐り落ちていっていることに物申したい。

 

 何、この……何?凄く触りたくない、というか目に入れたくもないような名状し難いアイテムたちは。もしや、本当にこの中から選べと?Pardon?

 嘘だと言ってよバーニィ、という感じの縋るような視線を向けてしまう。そんな私の切実な視線を受けた神様は、自信満々といった仕草で大きく頷いた。

 

「うむ、君の言いたいことは分かる。この素晴らしいアイテムの数々について説明が欲しいのじゃろう?」

 

 違う、そうじゃない。いや確かに説明は欲しいが、素晴らしいとは一言も言っていないしそもそもこんなゲテモノ欲しくもないのだが。

 

「順を追って説明しよう。まずはこの『スマ・ホークMk.Ⅶ』じゃな」

 

 スマホじゃないのかよ。しかも七号機なのかこれ。

 

「これは衛星兵器のリモコンのようなものでな。電源を入れて座標を打ち込み、そして画面下中央のボタンを押すことで天から神の火を降り注がせることができる。名付けて『ソドムとゴモラ大炎上アタック』じゃ!最大出力でなら大陸一つを焦土にしてしまえるぞ!」

 

 絶対要らねぇ。というか下手に撃ったら自分も巻き添えで死ぬのではなかろうか。

 

「そして次に、この『.44リボルバーマグナム・Behemoth(ベヒモス)』じゃな」

 

 一言、名前がダサいと思う。

 

「これは拳銃の形をしているが、一種の生物兵器のようなものでのう。実は生きておるのじゃ。全部で六発の銃弾()が装填されており、これは消耗しても一日に一発ずつ補充されて(生えて)いく特性がある。

 そして一番の特徴が、『デンダイン砲』という必殺技じゃ!こいつの弾頭には特殊な術式が刻まれてあってのう。着弾地点から数百キロ四方の大地を全て砂漠に変えてしまうのじゃ!無論、範囲内にいたモノも無機物有機物問わず全て砂に変えてしまうぞ!」

 

 確か拳銃の有効射程距離は長くても50メートル程度だったと記憶しているのだが、それで数百キロもの範囲を持つその「デンダイン砲」とやらを撃ったら自分も砂になってしまうと思うのだが。

 

「最後に、『能力ガチャ式ダイス~ダイスの女神への祈りを添えて~』じゃな」

 

 何だその高級料理店のコース名みたいなのは。

 

「これはダイスの出目によってランダムに選ばれた特殊能力が与えられるというものじゃ。ガチャの名の通り当たり外れもあるので、他二つのアイテムと違って有用な能力が得られる保証はない」

 

 まるで他二つのアイテムが有用であるかのような物言いはやめてもらおうか。

 

「何よりの特徴はダイスの女神の加護が付与されている点じゃ。ダイスの女神に気に入られるような数奇な運命の持ち主であればあるほど、当たりの能力が引きやすくなるという特性がある。……まあ特大の外れもまた引きやすくなるのじゃが

 

 おい、最後小声で何て言った。おい。

 

「以上の三つが、ワシから君に与えられる最大の贈り物じゃ。さあ遠慮はいらん!好きなものを選ぶのじゃ!」

 

 キラキラした眼差しで促してくる神様。凄い。何が凄いって、一切の悪意とか邪気とかが感じられないことだ。この人は純度100パーセントの善意でこれらのアイテムを私に贈ろうとしている。

 本音を言えば「ふざけんじゃねーぞバーロー!」と叫んで卓袱台をひっくり返したいところだが、ぐっと我慢する。私のこれからの運命はこの神様の胸先三寸で決まると言っても過言ではない。下手に機嫌を損ねて「やっぱり生き返らせなーい」とか言われてもそれはそれで困るのだ。かと言って、どれもこれも触ることすら憚られるゲテモノばかり。どうするべきか……。

 

「!」

 

 そうだ。一つだけ転生後に持っていく必要のないものがあるではないか。

 ずばり、「能力ガチャ式ダイス~ダイスの女神への祈りを添えて~」だ。重要なのはダイスそのものではなく、ダイスを振った上で貰える能力。つまり、この場で振って使い切ってしまえば以降は二度と触らなくて済むということだ。

 

「では、三つ目のダイスにさせていただきます」

 

「うむうむ、了解したぞ。本来は一回こっきりの使い捨てアイテムじゃが、君には特別に二回振れるようにしてあげよう」

 

 二回も触りたくないでござる。二つも特殊能力が貰えるのはありがたいが、二回も触りたくないでござる。

 

「……では、二回目は神様が振っていただけませんか?」

 

「ひょ?別に構わんが、本当に良いのかね?つまり君の運命を他人に任せるということじゃぞ」

 

「天にまします我らが神に運命を委ねる……これほど幸福なことはありますまい」

 

 嘘だ。が、嘘も方便。こうしておべんちゃらを言って二回目を防げるのならば安いものだ。それに一回は自分で振るのだから文句はあるまい。

 

「おお、末世の若者でありながら何と素晴らしい信仰心……あの世界で生きていれば大人物になれたろうに……。

 相分かった!君の運命(ダイス)はワシが責任を持って見届けさせて(振らせて)もらうぞ」

 

 計画通り。しかしニヤリと笑えるような気力はない。結局一回はこの手で触れなければならないのだから気が滅入る。

 未だに卓上を徐々に腐らせていっているダイスに手を伸ばす。これ私の手も腐ったりしないだろうな。

 

(ええい、ままよ!)

 

 一思いにガッと三つまとめて握り込む。ぬちゃり、と湿った感触が掌を襲った。

 

 ───気持ち悪い。濡れているわけでもないのに粘性のコールタールで覆われているかのような錯覚。掌を通して何か悍ましいものが流れ込んでくるような感触を覚え、全身の肌が粟立った。

 幸い手が腐っていくような感覚はないが、長々と触っていたいものでもない。女神への祈りを添えるような暇もなく投げ捨てるようにしてダイスを振った。

 

 コロコロ、と卓上を転がっていく三つのダイス。それらは適当に投げたにもかかわらず、綺麗に三列に並び卓袱台の中央で停止した。

 

 出目は───"1""6""3"。

 

「ふむふむ、なるほど。では、次は僭越ながらワシが振らせてもらおうか」

 

 私が渾身の勇気を振り絞って握った名状し難いダイスを神様は軽い所作で手に取り、何やらモゴモゴとありがたそうな言葉を唱えた後に放り投げた。

 コロコロ、と再び卓上を転がるダイス。またも図ったように卓袱台の中央に並んだ。

 

 出目は───"0""3""2"。

 

「───うむ!これにて君の来世での才は定まった。ついでじゃ、基礎能力、身体能力、その他諸々底上げしとこう。これで余程のことがなければすぐに死ぬようなことはあるまい」

 

 ……あれ、どんな能力になったのか教えてはいただけないの?

 

「一度送り出してしまうと、もうワシは干渉できん。しかし、今君が受け取った力があればどんな困難であろうと打ち破れるじゃろう。君の幸福を、遠く神界から祈っておるぞ!」

 

 ちょっと待って、と言う間もなく。朗らかに笑う神様のそんな言葉を最後に、私の意識は遠ざかっていった。

 

 

 

***

 

 

 

 ヨルビアン大陸の北方に位置する島国、ジャポン。その国のとある病院の一室にて、あまりに悲痛な女性の絶叫が響き渡った。

 

 「どうしたんだ!」と慌てふためいた男性の声が上がる。この男性と女性は夫婦であり、女性は今まさに夫である男性との間にできた新たな命を産み落とそうとしているところであった。

 直前までは順調に出産が進んでいたにもかかわらず、突然言葉もなく苦痛を訴え始めた女性に、その場に立ち会っていた助産師や医師は血相を変えて対処に当たった。そも出産とは相応の痛みを伴う行為だが、この女性の苦しみようは只事ではなかったのだ。

 

 女性は狂おしく身を捩り、限界まで目を見開いて絶えず絶叫を上げ続ける。口端からは泡を吹き出し、女の力とは思えぬほどの勢いで手足を振り回した。看護師の細腕では荷が勝ちすぎると悟った医師は女性の夫である男性の手も借りてどうにか押さえつけ、女性の腹に聴診器を押し付けた。

 数回に渡り音波などで胎内の赤子の様子は確認してきた。結果は問題なし。これといって障害のない、元気な女の子が五体満足で生まれてくるはずだったのだ。

 

 にもかかわらず───聴診器を通して聞こえてくる、この異音は何だ?

 

 うぞぞぞ、とまるで大量の蛇が這い回っているかのような擦過音。うじゅるうじゅる、と蛞蝓が這いずるような湿った水音が耳朶を打つ。

 あまりの気色悪さと悪寒に医師は顔を上げ……そして顔面を蒼白に染め上げた。

 

 女性の悲鳴に血が混じる。喉が潰れるほどの絶叫の果て、赤子を宿して大きく膨らんでいた腹がボコボコと異音を発して更に膨張していくではないか。

 そしてもはや人のものとは思えぬほどの悲痛極まる叫びが最高潮に達した次の瞬間、グチャリ、と女性の股座から何かが這い出てきた。

 

 ヒィッ、と看護師の誰かが恐怖に悲鳴を漏らす。ミチミチブチリと産道を引き裂いて現れたのは、粘液を滴らせる青黒い触手だった。

 ビチャリ、と全貌が露わになったそれがリノリウムの床に落下……否、産み落とされる。それはまるで海星(ヒトデ)、あるいは烏賊のような形状をしており、びっしりと棘とも(いぼ)ともつかぬ突起物を生やした青黒い触手をうねらせのたうち回っていた。

 

「Gyiiiii───……」

 

 ガラスを引っ掻くような耳障りな音が、それの中心にある牙を備えた口腔から発せられる。恐怖を駆り立て、正気を削る身の毛もよだつような怪物の鳴き声。それに呼応するように、もはや白目を剥いて意識を失った女性の股座から同じ怪物が這い出てくる。ぬちゃり、びちゃり、と新たに現れる……その数三体。

 計四体の名状し難き怪物たち。およそ人の世にあってはならぬ悍ましき怪異の出現に、医師は正気を保てず悲鳴を上げて逃げ出した。それを臆病と詰ることは誰にもできない。他の助産師や看護師たちはとっくに逃げ出していたのだから。

 

 唯一その場に残ったのは、その女性の夫である男性のみ。男性は顔を青褪めさせながらも、気丈に意識を保って妻の名を呼ぶ。ふらふらと覚束ない足取りながら、逃げ出さず歩み寄ろうと一歩を踏み出したのは、妻を想うこの男性の愛故であろう。

 

 しかし……ああ、しかし。これら悍ましき怪異の出現は、真の怪物の誕生の先触れに過ぎなかったのだ。

 

 怪異を吐き出し萎んでいた女性の腹が再び膨れ上がる。メリメリと何かが外に出ようと母胎を内側から圧迫し始めたのだ。

 夫である男性は目を剥く。その何かはどう見ても、産道を通らず腹を突き破って外界に出ようとしていた。これでは今し方の怪異の方がまだ行儀が良かったと言えるだろう。

 

「やめ───」

 

 やめろ、と言い切ることは叶わず。

 

 ジョギン、と。まるで肉断ち包丁が分厚い生肉を寸断したときのような音を奏で、銀色に輝く何かが腹を切り裂き現れ出でた。

 

 間欠泉の如く噴出する鮮血。内側から捲れ上がる人肉。それらを掻き分け這い出てきたのは、驚いたことに普通の赤子であった。

 おぎゃあ、おぎゃあ、と産声が上がる。可愛らしい赤子の泣き声。新たな生命の誕生。小さな手は胸の前で愛らしく丸められ───しかし、その足は別の生物のように蠢き赤子を外界に運び出していた。

 

 それは鋼。刃物の踵に棘の脚。触れるもの総てを切り裂く白銀の槍の穂先。生まれたばかりの赤子には不釣り合いなほど巨大な具足が小さな脚部を覆い、それが母胎を引き裂いたのは明白であった。

 

「Gyiiiii───」

 

  「Gyiiiii───」

 

 そして怪異もまた蠕動する。まるで赤子の誕生を寿ぐように不協和音の合唱を奏で、前に出た二体の怪異が優しく赤子を受け止めた。

 

    「Gyiiiii───」

 

  「Gyiiiii───」

 

 そして残る二体が完全に絶命した母体を引っ掴んだ。ズルズルと寝台から引きずり下ろし赤子の前まで引き立てる───まるで神に供物を捧げるかの如く恭しく。

 

 変わらず一心に産声を上げ続ける赤子。そして赤子の意思とは関係なく蠢く具足は、膝から鋭利に突き出す棘を母の亡骸に突き立てた。

 途端、母体はその輪郭を失ってぐずぐずと崩れ去る。その様はまるで粘体(スライム)の如く。毒々しいほどの青い液体と化したそれを、具足から生える棘は容赦なく吸い上げた。

 次の瞬間、ピタリと産声が止む。泣き止んだ赤子は開かぬはずの眼を薄らと見開き、茫洋とした視線を虚空に漂わせる。

 

 一連の悍ましき魔の饗宴をまざまざと見せつけられていた男性は、そこで更に驚愕と恐怖に身を震わせることになる。メリメリと赤子の総身が軋みを上げ、その体躯を徐々に大きくさせていったのだ。

 

 ───成長している。自らの母親を喰らい、コイツはまさにこの瞬間に成長しているのだ!

 

 そう理解した男性は遂に正気を手放した。愛する妻はどろどろの粘液へと変えられ、我が子(怪物)はそれをストローで吸うかのように足から啜り上げたのだ。そのあまりの悍ましさに発狂し、男性は意味不明の言葉の羅列を悲鳴と共に垂れ流し転がるように病室から逃げ出した。

 

 ───逃げ出していく父親の背中。瞬く間に十歳ほどまで肉体を成長させた赤子は、それを青色の瞳で茫洋と眺めていた。

 

「Gyiiiii───」

 

 「Gyiiiii───」

 

  「Gyiiiii───」

 

   「Gyiiiii───」

 

 青黒い触手を蠢かせる怪異たちは喜色に声を震わせ、成長した赤子を抱き上げる。自らを玉座、あるいは揺り籠のように見立てて丁寧に赤子を担ぎ上げた怪異たちは、病室の窓を破って外へと飛び出していった。

 

 

 

 

 ……その後この冒涜的で悍ましき事件は束の間世間を賑わせ、しかしハンター協会の手によって迅速に鎮静化させられ闇に葬られた。このときの室内の様子が記録された映像は厳重に秘され、電脳ネットにおけるハンター専用サイト「狩人の酒場」でのみ、それも限られたプロハンターのみが閲覧を許されるという。

 

 

 ───この事件から既に十二年、赤子は未だ見つかっていない。

 

 

 




 読者の方に感想欄で教えてもらった『異世界スマホ』という作品を(ちょっと)読み、そのプロローグに触発されて書いてみました。しかし行き先はHUNTER×HUNTERの世界という。

 ちなみに主人公が貰った能力は、Fate/Grand Order内における霊基番号からランダムで決めました。

 1.出目"1""6""3"……アルターエゴ、メルトリリス。

 2.出目"0""3""2"……キャスター、ジル・ド・レェ。

 リアルで作者自身がダイスを振り、それを元に決めました。メルトとジル元帥の悪魔合体!メルトは泣いていい。

 そしてきっと続かない。思いつきですもの。

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