実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい   作:ピクト人
<< 前の話 次の話 >>

13 / 30
Don’t you know? ”Never escape from the clown”. You will understand it from this story, episode 12.

「『磁力(マグネティックフォース)使用(オン)、ゴン!」

 

 呪文(スペル)カード、「磁力(マグネティックフォース)」。指定した(ゲーム内で会ったことのある)プレイヤーのいる場所へ飛ぶ効果を持つそれを使い、私はゴンたちがいる場所へと向かう。オーラによるものと思われる光の膜が全身を包み込み、凄まじいスピードで飛翔した。

 ゲンスルーを含めたハメ組をドレインした私は、ようやくゴンたちと合流するつもりでいた。私のグリードアイランド内における最大の目標は果たした。後はゆっくりとゲームクリアを目指すのみである。

 

 グリードアイランド編の時系列についてはそう事細かく覚えているわけではないが、原作通りに進んでいるのなら今ゴンたちは魔法都市マサドラの郊外に広がる岩石地帯で修行に励んでいる頃だろう。確か"流"の修行をしている真っ最中であったように記憶している。

 しかし───目まぐるしく後方へと流れていく視界の中、私はどこか見覚えのある岩石地帯を通り過ぎていく。おやと首を傾げるも、呪文で包まれたこの身はマサドラとは違う方向へと飛翔し、最終的に森の中へと運ばれていった。

 

 ザッと下草を踏み締めて着地する。その音に反応し、ゴンとキルア、そしてビスケット=クルーガーと思しき少女が振り向いた。

 やって来たのが私だと認識するや、ゴンはパッと表情を明るくする。

 

「カオル!来てくれたんだね!」

 

「ええ、待たせたわね……、ッ!?」

 

 嬉しそうに駆け寄るゴンに笑顔を返そうとし、しかしツンと鼻を刺す刺激臭に私は勢いよく飛び退った。唐突にバックステップして離れていった私の奇行に、ゴンはキョトンとして首を傾げている。

 人の顔を見て逃げるというイジメ染みた行動。失礼だとは思うが、しかし私はそれどころではなかった。

 

「く───くっさ!?クサイ!凄い汗臭いんですけど!?」

 

「あー……」

 

 そりゃそうだわな、という納得の表情で苦笑するキルアとビスケット。ビスケットはともかく、キルアからもゴンに負けず劣らずの刺激臭が発されている。

 汗と、汗を吸った服に繁殖した雑菌の臭い。そして岩石地帯で付いたと思しき砂埃の臭い。それらが合わさってえらいことになっている。まるで高校野球部の部室の臭いを数倍に濃縮したかのようだ。

 しかし、見る限りゴンたちは然程その臭いに苦慮しているようには感じない。おそらく慣れてしまえる程度の汗臭さなのだろう……普通の人間にとっては。

 だが、私は只人とは隔絶した肉体性能を持った英霊複合体。しかもここ最近の怒涛のドレインラッシュで急激に強化されている。その恩恵(弊害?)で警察犬並かそれ以上になった私の嗅覚は、男二人から発される汗の臭いで甚大なダメージを負ってしまったのだ。あ、ちょっと涙出てきた。

 

「ごめんごめん、修行に夢中で水浴びとか全然してなかったんだよね」

 

「今からこの先にある泉に水浴びに行くところだったんだよ」

 

「うぅ……なら私が前を歩くから、アナタたちは後ろからついて来て」

 

 鼻を押さえつつ二人を追い越し先導する。この辺の地理には疎いが、しかし水の気配なら何となく分かる。ここから少し先に大きな泉があるのは確かであるようだ。

 というか、私に負けず劣らず鋭い感覚を持っているはずのゴンは何故平気なのだろう。島育ちの野生児にとって、汗と土の匂いはお友達ということだろうか……いや、流石にそこまで野生を極めてはいなかったはず。人口は少ないが、くじら島は歴とした人里なのだから。

 

「えっと、こんにちは。お久しぶり……ですよね」

 

「ええ、選考会のとき以来ね。私はカオル=フジワラよ」

 

「ビスケット=クルーガーです。ビスケと呼んで下さい」

 

 スッと自然な動作で近づいてきたビスケットが嫋やかに微笑む。本来の姿と性格を知っている私としては笑いが込み上げてくる思いだが、何とか飲み下して不自然でないように返事をする。彼女は初対面の相手には猫を被って接するのだが、それを私が知っているのはおかしい。くれぐれも予備知識があることを悟られないように接さなければならない。

 

 ビスケットは嘘つきだ。従って、相手の嘘を見破ることに長けている。加えて経験豊富な一流の念能力者でもある……僅かなオーラの乱れから相手の虚飾を見破るぐらいはやってのけるかもしれない。隠し事の多い私としては慎重にならざるを得ない相手である。

 しかし敵対者には容赦がない一方で、身内には面倒見が良い一面を見せる姉御肌な人物でもある。ゴンとキルアの第二の師匠でもあることだし、私としては是非とも仲良くなっておきたい人物だ。

 

「ビスケ、カオルにも猫を被るの?これからは一緒に行動するのに」

 

「どうせ遅かれ早かれバレるんだから、恥かかない内に被った皮は剥いどけよ」

 

「ちょ、恥ってどういう意味だわさ!?こういうのには順序ってものがあって……!」

 

 あっさりと本性を暴かれたビスケットは顔を赤くしてガーッと吼える。とは言え彼らの言う通り、以降は行動を共にするのだから猫を被る意味はない。私が後で合流する手筈になっていたのは二人から予め聞いていただろうに、それでも猫を被って接してきたのは───偏に私という人間を警戒しているからだろう。

 まあ当然と言えば当然である。基本念能力者なんぞ腹に一物抱えた曲者揃いなのだから、まず警戒が先立つのは極めて正しい対応であろう。一流の念能力者であればなおのこと簡単に気を許してはならず、まずは疑うことから始めなければならない。ビスケットにとってゴンとキルアはすでに気を許している可愛い弟子なのだろうが、だからと言って二人の友人である私を無条件に信用するべきではないと考えるのは当たり前のことである。

 

「……まあ、その辺は追々ね。今はまずお互いを知るところから始めるべきでしょうし」

 

「うっ、そ、そうね……」

 

 思えば、選考会での一件が尾を引いているのかもしれない。調子に乗って半ば本気で"練"を行ったことで過剰に警戒させてしまったのだろう。

 

 念能力者同士の共通認識として、「"練"を見せろ」とは「実力を見せろ」ということを意味する隠語である。それは"発"でもいいし、単純な肉体能力でもいい。武器や武術の習熟度を見せてもいいだろう。しかしそれは少なからず手の内を見せるということであり、飯の種でもある能力は少しでも秘匿したい私は選考会で「"練"を見せろ」と言われた際に馬鹿正直に"練"を行って見せたのである。

 たかが"練"、されど幻影旅団の半数をドレインした私の保有オーラ量は人間としてはあり得ないレベルで増大しており、練り上げ体外に放射された余剰オーラだけでツェズゲラを数メートル程度とはいえ吹き飛ばしてしまったほどである。その気配は控室にも届いてしまったらしく、それがビスケットを警戒させているのだろう。私が彼女の立場だったらそんな危険人物とは全力で関わり合いにならないようにするはずなので、その気持ちはよーく分かる。

 

 しかし私にビスケットを害する気持ちは皆無なので安心して欲しい。なのでニッコリと微笑んで見せると、凄まじく胡散臭そうなものを見る目をされた。解せぬ。

 

 それはそれとして泉である。私の勘が正しければもうすぐで到着するはず。私の霊基を成す女神が水に関わりが深い故か、結構な距離があっても水の気配を感じ取れるのだ。山で遭難しても安心である。

 

 生い茂る草木を掻き分け、やがて陽光を反射してキラキラと煌めく水面が目に入る。泉の水は驚くほど澄んでいて、水底の辺りを泳ぐ魚が容易に目視できるほどである。更に鮮やかな青の羽を持った小鳥が二羽並んで仲睦まじく飛んでおり、泉はどこか穏やかで静謐な雰囲気に包まれている。

 

 

 

 

 ───そしてそんな雰囲気をぶち壊す、全裸の男が一人佇んでいた。

 

 

 

 

 その長身を覆う筋肉は一切の無駄なく引き締められており、ボディビルダーの持つ無駄に盛り上がった、所謂見せ筋とは一線を画していることが遠目からでも一目瞭然である。それは実戦の中で鍛え上げられた、猫科の猛獣……豹を思わせるようなしなやかで強靭な筋肉の鎧であった。まるで勲章のように無数の古傷が刻まれた肌の上を水滴が滴り落ちていく。艶やかに濡れ光る赤髪も相俟って、薫るような漢の色気を醸し出していた。

 まさに完成された戦士の肉体美。極限の闘争の中で練磨されたそれは、転生してこの方異性というものを意識したことのない私であっても思わず見惚れてしまうような、荒々しい美しさが内包されていた。

 

 ああ、この肉体の持ち主が───

 

 

 ───あの変態ピエロでなければ、もう少し心穏やかに観賞できたのだが。

 

 

「嗚呼、目が腐る」

 

「ヒソカ!?」

 

「何でここに!?」

 

 突然の因縁ある相手との邂逅に狼狽するゴンとキルア。然もありなん、誰がこんなところで奴と再会するなどと予想できようか。私としても完全な不意打ちである。原作と違って除念師を探す必要があるわけでもあるまいに、何故ヒソカがグリードアイランドにいるのか。

 

「おやおや……♦これは予期せぬお客さんだ♥」

 

 こちらを振り返ったヒソカがニタリと笑む。いつものふざけたペイントを落としているのに、これでは折角の整った顔立ちも台無しだ。不気味に細められた蛇のような目が私たちを射貫く。

 

「久し振り♠」

 

 ズズズ……と邪悪なオーラが漏れ出す。反射的に飛び退ったゴンとキルアは、すぐさま"練"を行い戦闘態勢に入る。

 迅速な意識の切り替え、そして練り上げられたオーラの密度。暫く見ない間に二人は随分と成長したようだ。「男子三日会わざれば刮目して見よ」とは言うが、まさにそれを体現したような急成長ぶりである。

 それをヒソカも鋭敏に察知したのか、その不気味な笑みを益々深めていく。

 

「くくくくく、やっぱりそうだ♣️臨戦態勢になるとよく分かる……♦随分成長したんじゃないかい?いい師に巡り会えたようだね♥」

 

 グ……

 

「ボクの見込んだ通り……♣️」

 

 グググ……

 

「キミたちはどんどん美味しく実る……♥」

 

 

 ───────………。本当に目が腐る。どこがとは言わないが、ヒソカの身体の一部分が固く太く屹立していく様を見て、私は自分の目が加速度的に濁っていくのを自覚した。

 

 そして実に腹立たしいことに、それはとても雄々しいゲイ・ボルグであった。Fu〇k!

 

いあ!いあ!いぐああ いいがい がい!んがい ん・やあ しょごぐ ふたぐん!いあ いあ い・はあ!い・にやあ いい・にやあ んがあ!んんがい わふるう ふたぐん!よぐ・そとおす!よぐ・そとおす!いあ!いあ!よぐ・そとおす!

 

「うわあああカオルが壊れた!」

 

「おい、しっかりしろ!傷は浅いぞ!」

 

「ホホホ目のホヨー♪」

 

「おやおや……♠」

 

 唐突に脳裏に閃いた言葉を垂れ流し始めた私を心配してか、ゴンとキルアが鬼気迫る表情で肩を揺さぶってくる。

 しかし安心してほしい。私の視界にはもはやヒソカの禍々しい汚物など映ってはいない。ただ眼前には薔薇の香りがする大海が広がり、その先に巨大な石組みのアーチが煙るように見えるばかりである。私は馥郁(ふくいく)たる薔薇の芳香に包まれながら、満天の星空を映す波立たぬ海原を越えるべく一歩を踏み出した。

 

 大丈夫、私は海の化身。水面を歩くぐらいは容易いことである。

 

「ああ、でもどうしましょう。私、銀の鍵を持ち合わせていないわ。ピッキングで何とかなるかしら?」

 

「落ち着け!銀の鍵だか何だか知らねえけど、とにかく落ち着け!」

 

 

 

 結局私が正気に戻ったのは、それから十分後のことだった。




 ヒソカのサービスシーン、グリードアイランド編で一番盛り上がった場面ですね。……え、違う?

 取り敢えず、短いですが今回はここまで。次回はそれほど時間を置かずに投稿できると思います。



※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。