実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい   作:ピクト人
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ゴン組withヒソカ(withカオル)の暗躍。立ちはだかるは十五人の海賊の第十五話

「よく集まってくれた。礼を言う」

 

 そう言ってファーのついたボーラーハットを被った割れ顎の男───カヅスールが集まった面々をぐるりと見渡す。カヅスール組を囲むように連なる岩々の上に座っているのは、彼の招集に応じやって来たG・Iプレイヤーたちだ。

 

 アスタ組。ヤビビ組。ハンゼ組。そして個人(ソロ)のゴレイヌと、ゴン組の五チーム───カヅスール組を含めれば計六チームがこの場に集っていた。

 

「『交信(コンタクト)』で話した通り、あと少しでコンプリートしそうなプレイヤーが二組いる。一方は言わずと知れたツェズゲラ組だ。ランキングで確認したところ、現在92種。

 ……そしてもう一方はカオルというプレイヤーだ。驚くべきことにソロプレイヤーで、現在96種。この二組が最もクリアに近い存在だと言えるだろう。早急に対策を立てる必要がある」

 

 そう語るカヅスールの言葉に、集まった面々は神妙に頷く。特につい最近になって頭角を現してきたダークホース、カオルの名は深刻に受け止められていた。

 何故なら、ツェズゲラ組に匹敵する数のカードを保有していたニッケス組ことハメ組を全滅させた張本人がカオルというプレイヤーだからだ。個人の実力はともかく、頭数の多いハメ組を単身殲滅せしめたその実力もさることながら、暴力によるプレイヤー狩り(PK)を厭わない精神性が何より危険視されていた。

 

「ここに集まった君たちは、50種以上のカードを保有する優秀なプレイヤー及び念能力者だ。故に皆まで言わずとも奴の危険性は承知の上だろう。特にハンゼ組の面々は───」

 

「……ああそうさ。ソロのくせに『堅牢(プリズン)』も持ってねぇからと嘗めてかかったらこのザマだよ」

 

 吐き捨てるようにそう言ったハンゼ組の面々は、程度の差はあれ全員が怪我を負っている。彼らは無謀にもカオルに挑み、そして目ぼしいカードがないからという理由で追い返された組の一つだった。カードを奪われなかっただけ他の返り討ちに遭ったプレイヤーよりはマシかもしれないが、それで腹の虫が治まるわけではない。ハンゼ組はカオルにリベンジするため、それが叶わずとも他のプレイヤーたちに警告する目的でカヅスール組の招集に応じたのだった。

 

「ハッキリ言って格が違った……悔しいが、認めるとこは認めなきゃならねぇ。あの女はマジでヤバイぜ。俺ら三人を含めた他チーム合同の計十人で挑んだんだが、終始遊ばれて返り討ちよ」

 

「十人!それだけの人数差があっても駄目だったのか……」

 

「ああ。それにアイツ、俺らを痛めつけている間ずっと笑っていやがった!とんだサド女だぜ!」

 

 糸目の男、ハンゼが憤慨したように捲し立てる。それを眺めるキルアは、ニヤニヤと笑いつつ小声でビスケットに───正確には、ビスケットの膝の上に鎮座する人形に話しかけた。

 

「(言われてるぜ、サド女さん?)」

 

「(シャラップ。迂闊に話しかけるんじゃないわよ。何のために人形のフリしてると思ってるのかしら)」

 

 ───否、それは人形ではなかった。id-es(イデス)『オールドレイン』のスキルに含まれる能力、コピーとスケールダウンによって生み出されたカオルの分身体である。

 

 この集まりは「一坪の海岸線」を獲得するためには避けて通れないイベントだ。是が非でも参加すべき案件だが、ゴンたちとの協力関係を隠しているカオルは参加できない。そのため、ミニサイズの分身体をビスケットに持たせてコッソリついて来ていたのだった。そして、どうやらその選択は正解だったらしい。こうしてカオルを襲撃してきたプレイヤーがこの集まりに参加していたのだから。

 よくよく原作を思い返せば、確かにハンゼ組がカヅスールの招集に応じている描写はあった。しかし口さがない言い方をすれば所詮彼らは脇役であり、カオルの記憶には殆ど残ってはいなかった。二次元と三次元の違いもあり、襲撃してきた時点では彼らがハンゼ組だとは気付かなかったのである。

 

(後でゴンたちから話を聞けばいいだけなのだから無理についていく必要性は薄かったわけだけど、私を知っている奴が参加しているというのなら話は別。バレる危険性を負ってでもついて来て正解だった)

 

 まあ、容易くバレるようなヘマはしないけど……と内心呟き、カオルは人形のフリを続行する。念のために髪型はツインテールに変えており、視線でバレないように目も閉じている。万が一にもオーラで怪しまれないよう、スケールダウンで極限まで霊格をも落とす念の入れようだ。今のカオルはただの無機物、ただの人形と遜色ない存在感の薄さだった。

 

("絶"では不自然なまでに存在感が薄くなり過ぎて、万が一"凝"で見破られた際に怪しまれてしまう。それを防ぐためのスケールダウン。怪しまれたくないのなら、そもそも"凝"をされなければ良い……ただの人形に"凝"をするような奴はここにはいないでしょう)

 

 「怪しければ"凝"、怪しくなくとも"凝"」というのが念戦闘における鉄則だが、「これは人形である」という先入観が彼らの警戒感を薄れさせる。(実際の中身はともかく)人形を抱いていても不思議ではない可愛らしい少女の外見であるビスケットが持つことで、更にその印象は確固としたものになるのだ。我ながら完璧な変装ではなかろうか、とカオルは自画自賛した。

 

「そして奴の最も厄介な点は、呪文(スペル)カードが通用しないことだ」

 

「通用しない……?そりゃあどういうことだ」

 

「どういうことも何も言葉通りの意味さ。奴に呪文(スペル)カードは一切通用しない。『聖騎士の首飾り』では防げない『徴収(レヴィ)』を『堅牢(プリズン)』もなしに防いで見せたのがその証拠だ。勿論『左遷(レルゲイト)』や『初心(デパーチャー)』も効果がなかった」

 

「ハァ!?何だそのチート!」

 

「GM仕事しろよ」

 

 一方、事情を知らない他のチームはカオルのオールドレインによるスペル吸収について盛り上がっていた。これに関してはカオルもルール違反に抵触するギリギリの行為ではないかと警戒していたのだが、一向にGMからの接触はない。見逃されたのかそもそも見ていないのか、事情は分からないがカオルにとっては有り難いことだった。

 

呪文(スペル)カード無効……確かに反則的な能力だ。恐らくそのカオルって奴の念能力が関係しているんだろうが、それ故に反則じゃないのかもしれねぇな」

 

「どういうことだよ?」

 

「大前提として、このG・Iでは個々人の念能力に制限は設けられていない。念能力者のためのゲームなんだから当然と言えば当然だが、個人の能力を用いて何を為そうがそれはルール違反ではないのだろう。……最近はとんと聞かなくなったが、例の爆弾魔(ボマー)なんかがいい例だろう。奴も念能力で悪事(PK)を働いていた質だからな」

 

「だが爆弾魔と違って、カオルの場合は呪文(スペル)カードルールそのものに喧嘩を売っているようなものだぞ?」

 

「確かにな。しかし見方を変えれば、奴は念能力で『堅牢(プリズン)』やその他防御系呪文(スペル)の代用をしているだけだとも捉えられる。かなりのグレーゾーンであることは確かだが、個人の念能力行使を制限することが不可能である以上、GM側はそう判断したんだろう……所詮は推測だがな」

 

 ほう、とその推測を聞いたカオルは薄く目蓋を上げる。その深い知見になるほどと感嘆する周囲の者たちの視線を辿れば、一際高い岩の上に座る一人の男に行き着いた。

 

 ゴレイヌ。この中で唯一ソロで活動しているプレイヤーだ。野性味を強く感じさせる顔立ちで、露出した腕は筋肉質で毛深い。全体的に厳つく野性的な印象を与える人物だが、決して野卑な人物でないことをカオルは知っていた。

 無論、知っていたのはゴレイヌが原作で活躍した登場人物の一人だからである。有名どころで言えば、やはり「えげつねェな……」の発言だろうか。彼が理知的な面も持ち合わせていることを読者に深く印象付けた一幕であった。

 

 この世界が確固とした現実である以上、全ての事象が原作通りであるとは限らない。しかし、ゴレイヌに関しては今し方の考察で前評判通りの人物であることが判明した。武と知に優れたオールラウンダー、実に優秀な念能力者である。カオルは湧き上がってきた欲(ドレイン衝動)を呑み込み、何としてでも彼をドッジボール戦のメンバーに引き込むことを決意した。

 

「なるほどな……ありがとう、ゴレイヌ。ならばやはり、カオルからカードを奪うというのは現実的ではないな。実力で倒すこともまた同じく。ハンゼ組には悪いが……」

 

「チッ……いや、いい。理性では分かってんだ、奴と戦うのはリスクがデカいってな。直接対決以外に方法があるってんならそれでいい。あるんだろ?何か良い案が」

 

「勿論だ。そのために君たちに声を掛けたのだから」

 

 ゴホン、と一つ咳払いをしたカヅスールが改めて全員を見渡す。皆が話を聞く姿勢になったところで、カヅスールは指を四本立て口を開いた。

 

「現時点でツェズゲラ組を抑えトップであるカオル。奴がまだ持っていないカードは、№000、№1、№2、№75の4種だ。しかし№000は99種を集めた後で入手イベントが発生するという説が有力だから、残るカードは3種となる。

 この3枚の中のどれかを奴より先に入手・独占し、コンプリートを阻止する!……それが俺たちの考えた作戦だ」

 

 カヅスールは自信を持った声でそう告げた。そして返答を待つまでもなく、殆ど全員がその提案に納得していることは表情を見れば一目瞭然だった。

 カオルは複数の念能力者を同時に相手取っても圧倒できるだけの実力があり、正面戦闘は現実的ではない。さりとて呪文(スペル)を駆使してカードを奪おうにも、カオルはあらゆる攻撃系呪文(スペル)を無効化してくるのだ。正攻法では分が悪いことは火を見るより明らかであった。

 

「一番現実的なのはカードの独占。奴から奪うのが不可能であるなら、そもそも奴の手に渡らないようにしてやればいいという寸法さ。異存はないと思うが、どうだ」

 

 既に結論は出たようなものだが、カヅスールは念を押すように再度問い掛ける。改めて反対意見が出ないことを確認すると、パンッと一つ手を叩いて本題に切り込んだ。

 

「なければ本題だ。ここにいる全員で共同戦線を張りたい!俺たちの目から見ても十分な実力を持っている君たちならば、独占したカードをカオルやツェズゲラ組からも死守できるはずだ。仮に奴らに襲われたとして、勝てないまでも逃げきれれば目的は達成できる。奴らを勝たせないという目的がな」

 

 確信を込めた力強い宣言。カヅスールのその言葉を聞いたヒソカはフッと口端を吊り上げて笑った。しかしその笑みは、他の者たちが浮かべている不敵な笑みとは趣が異なるものであった。

 それは嘲笑。カヅスールは己や他の者たちを見て「十分な実力」と評したが、ヒソカからすればお笑い種だった。何故なら彼らは二流。ヒソカの基準からすればお粗末としか言いようのない程度の実力しか持っていないからだ。対して一流の念能力者であるカオルやツェズゲラが本気になれば、カヅスール程度の企みなど力尽くで打ち破れる。叶うとすれば時間稼ぎが精々だ。

 今はまだ弱くとも、ゴンとキルアは多大な伸びしろを残している。一流に届き得る伸びしろが。対して彼らに一流足り得る才はなく、既にして頭打ちである者が殆ど。下手をすれば一週間と経たずにゴンたちにすら追い抜かされるだろう。強者にしか興味のないヒソカの目には、己の実力を過信して強者の足元を掬えるつもりでいる彼らは酷く滑稽に映った。

 

(今この場で合格なのは……)

 

 言わずと知れたカオル(の分身体)と、ヒソカが目を掛けているゴンとキルア。そして二人の師であるビスケットの四人のみ。

 

(他は見る価値もない乱造品ばかり───と言いたいところだけど♠)

 

 唯一彼らの中で突出した実力者がいる。野性味溢れる顔立ちの男───ゴレイヌだ。

 原作知識で予めその存在を知っていたカオルと異なり、ヒソカは磨き上げてきた己の目利きを以て一目でゴレイヌの実力の程を嗅ぎ取っていたのである。

 

(6、70点……いや、80点いくか?クロロやカオルほどじゃないけど、彼も中々に美味しそうじゃあないか……♥)

 

 うっそりと微笑み、ペロリと舌なめずりをするヒソカ。その邪な視線を鋭敏に察知したゴレイヌはビクッと肩を震わせ、キョロキョロと周囲を窺う。しかしその時には既にヒソカは視線を外していたため、ゴレイヌは悪寒に震えながら首を傾げるのだった。

 

「提案には賛成よ。でもメンバーには異論があるわね」

 

 カヅスールの提案を受けた上で、しかしタンクトップ姿の短髪の女性、アスタはそう言って異を唱えた。その視線には猜疑的な色が籠められ、明らかにゴン組へと向けられていた。

 

「ちょっと待てよアスタ、アンタが『交信(コンタクト)』の時に言ってた条件は守ったぜ?カードの所有種50種以上……ここにいる六組はちゃんとクリアしている。その少年たちも含めてな」

 

「どうだか。アタシが提示した条件はもう一つ、互いに有益な関係を作れる人たち、と言ったわ。このコたちがアタシたちに有益なものを提供してくれるとはとても思えないわね」

 

 傲慢さが透けて見える視線と声だが、しかし一概に彼女に非があるとは言い難いのも事実だ。何故なら、ゴンとキルア(と一応ビスケット)はあまりに若すぎるからである。何しろ十二歳だ、むしろ幼いと言ってもいいだろう。対するアスタは歴とした成人女性。大人が子供を侮るのは両者の間にある体格差や年齢差、人生経験の差など諸々の要素を鑑みればむしろ当然であると言える。

 ……一般的な観点で言えば、という但し書きが付くが。念能力者となれば事情が違う。念能力に老いも若いも関係ない。子供であろうと強い者は強いし、大人であろうと弱い者は弱い。通常であればあり得ざる力関係の逆転が十分に起こり得る世界なのだ。アスタはそれを失念していると言えるだろう。故に強いて彼女の非を挙げるとすれば、それは彼我の実力差を正確に見切った故ではなく、外見のみでゴンたちの実力を判断し侮ったことである。

 

 とは言えそれを懇切丁寧に説明したところで理解されるとは限らないし、逆上されて話が拗れても困る。正論を説くことが最適解だとは限らないのである。

 ヒソカが前に出るという手もあるが、それでは根本的な解決にはならないし、そもそもヒソカにやる気がない。故に、ゴンたちは打ち合わせ通りの行動に出た。

 

「有益なもの、ねぇ。オレたちはカオルが持っていないカードの内一枚を持ってるぜ?」

 

「なっ……それは本当か!?」

 

「それだけじゃねえ。お前らが警戒しているカオルの能力を知っている……って言ったら、どうする?」

 

 投下された爆弾発言に色めき立つ周囲を前に、キルアはニヤニヤと猫のように笑いながら言う。その視線は露骨にアスタへと向けられており、彼女は思わず鼻白んだ。

 

 打ち合わせとは他でもない、純粋に情報提供の内容のことである。ゴンたちの実力が疑われることを予め知っていたカオルが提案したのは、ずばり己の能力だ。消えたゲンスルー組に代わって自分が警戒されているだろうことが分かっていたカオルは、己の能力の情報が千金の価値があると理解していた。確実に全員が食いつくだろう、と。

 しかし、カオルとしては最初から己の能力を開示するつもりはなかった。当初は「呪文(スペル)が無効である」ということのみ伝える予定だったのだ。その予定が狂ったのは、よりにもよってその情報を既に知っている者がこの場にいたこと。故に"豪猪のジレンマ(ショーペンハウアー・ファーベル)"で伸ばした髪の毛を糸電話代わりにしてゴンたちに繋ぎ、予定の変更に伴い自身の能力を伝えたのだった。

 

 

「カオルの能力は"総てを簒う妖婦の顎(マリス・ヴァンプ・セイレーン)"。その能力は───自身を害するあらゆる非物理攻撃を無効化すること」

 

 

 ───尤も、本当のことを教えるつもりはサラサラないのだが。

 

「何て出鱈目な能力だ……」

 

「非物理攻撃……だから呪文(スペル)が通用しなかったのか。なら、まさか俺の念弾も効かないのか……!?」

 

「いや、どうだかな。恐らく『一定以下の威力のモノのみ』とかの制約で縛っているはずだ。それでも十分反則的な能力なわけだが」

 

 しかし、そんな裏事情を知る由もない彼らはキルアから齎された情報を真に受け、侃々諤々とカオルの能力について話し合っている。企みが上手くいったことを確信したキルアはニヤリとほくそ笑んだ。

 

「(流石は変化系、嘘が上手だね♦)」

 

「(うっせ。お前も変化系だろーが)」

 

 おちょくるヒソカを肘でどつくキルア。その様子を暫く眺めていたアスタは、チッと舌打ちを零すと不貞腐れた表情で両手を上げる。

 

「……フン、悪かったわよ。アンタたちを侮った発言は撤回するわ」

 

「そうかよ」

 

「でも一つ聞かせて。アンタたちはどうやってカオルの能力を知ったの?その情報の仕入れ先によってはデマを疑わないといけないし……」

 

 元より明確な根拠などなく、年齢のみを理由にゴンたちを見下していたアスタ。しかし彼らが自分たちの足を引っ張る恐れがないと分かれば、先の己の失言を撤回することに否はなかった。アスタは自信家で口も悪いが、しかしムキになってさえいなければ己の非を認める程度の度量はあるのだ。

 しかし、ゴンたちを対等と認めることと信用することは別問題である。彼らが齎した情報は確かに有益なものだが、それが真実であるという保証はないのだ。念能力者にとって己の能力の詳細が露呈するのは最も忌むべきこと故に、アスタはそれが自身の能力を隠蔽するためにカオル本人が流したデマではないかと疑ったのである。

 

「安心しな、デマじゃねえよ。何せカオル本人がそう言っているのを見たんでね」

 

「だから、それが虚偽の情報でないという保証は───」

 

「"死人に口なし"ってヤツさ。"絶"で隠れてたのがバレなくてよかったぜ」

 

「死人に口なし……ってことは、奴のプレイヤー狩りの現場に居合わせたのか……!」

 

「まさかニッケス組以外にもPKの被害に遭っていた組があったとは。遭遇したのは災難だったが、見つからなかったことと情報を持ち帰れたことは幸運だったな、キルア」

 

 奇しくも真実を言い当てたアスタだったが、スラスラと淀みないキルアの口八丁を前には無力だった。周囲の者たちが素直に信じたこともあり、結局彼女も己の思い過ごしだったと結論し追求を止めてしまうのだった。

 

「しかし、これでハッキリしたな。カオルというプレイヤーの危険性が」

 

「ああ。まさかニッケス組以外にもPKを行っているとは……ひょっとすると、あの爆弾魔以上の危険人物かもな」

 

「奴らをぶっ潰してくれたことには感謝しないでもないが、な」

 

「ハンゼよ、お前らはむしろ幸運な方だったみたいだな?」

 

「全くだ。腹立たしいのは変わらねぇが、それ以上にホッとしてるぜ……」

 

 しかし同時に、カオルの悪評が確かなものとなってしまうのだった。まさかこの場に本人がいるなどとは知る由もない彼らの好き勝手な発言に、カオルは反応してしまわないよう必死に無表情の維持に全力を傾ける。その様子をヒソカはニヤニヤと笑って眺めていた。

 

「オーケー、アスタが納得してくれたようで何よりだ。……ついでに聞くが、カオルが持っていないカードってのはどれだ?」

 

「№75の『奇運アレキサンドライト』だよ」

 

「けど、コイツはカード化限度枚数が20もあるんで独占するには向いていないタイプだな」

 

 表向きは所持カード55種であるゴンたちだが、実際はクリア目前のカオルと組んでいる。故に貪欲にカードを求める必要性が薄いため、話を拗らせるよりはと、特に見返りを求めずあっさりと情報を投げ渡した。

 

「となると、俺たちが求めるべきは№1と№2のカードというわけだな。誰か『名簿(リスト)』で調べてくれないか」

 

 「№75を獲ったのか!?」「凄いなお前ら」「どうやって獲るんだアレ」と騒めく周囲を制止し、カヅスールは話を戻す。カヅスールの言葉に頷いた二人が「名簿(リスト)」を取り出し、(バインダー)にセットした。

 

「『名簿(リスト)使用(オン)、№1!……駄目だ、二組所有してる奴がいる」

 

「『名簿(リスト)使用(オン)、№2!……ビンゴ、0だ!いけるぜ!」

 

 その結果を受けた一人が「道標(ガイドポスト)」を使用。その結果、№2「一坪の海岸線」はソウフラビという街に存在することが判明した。

 

「ソウフラビなら俺たちが行ったことある」

 

「なら『同行(アカンパニー)』が使えるな」

 

 カオルやツェズゲラ組に先んじてカードを獲得し独占するという作戦。そのために必要となるカードの目途が立ったことで沸き立つ面々を見渡し、カヅスールは先頭に立って宣言した。

 

「よし、それではこれよりソウフラビへと向かう!目標は───『一坪の海岸線』だ!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「アタシたちはもう抜けるから。本来の目的であるカオルのコンプリート阻止は達成できそうだしね」

 

「ソロである奴には"十五人の仲間を集める"って条件は不可能だろうしな」

 

「今一番有名なプレイヤー狩りであるカオルに協力する物好きはいねぇだろうよ」

 

「えーっ!?」

 

 出発前にはあった熱を完全に失い、三々五々に去っていく面々。ゴンは彼らを唖然とした表情で見送るしかなかった。

 

 

 最初は困難だと思われた「一坪の海岸線」の捜索。それは拍子抜けするほどあっさりとその情報が見つかったことで急転を迎える。

 NPCの口から語られた十五人の海賊───「レイザーと十四人の悪魔」のキーワードから、「一坪の海岸線」を得るための条件が"十五人以上で「同行(アカンパニー)」を使いソウフラビへ来る"こと、そして"海賊に勝利し彼らを追い出す"ことであると判明したのだ。

 

 しかし問題は、件の「十四人の悪魔」が彼らの予想以上に強かったことだった。

 

 幸いキルアの機転により怪我人は最低限で済んだものの、撤退せざるを得なかった同盟チームの士気は激減。そもそもの発端であるカオルが条件を満たせないという事実も後押しし、彼らから攻略の意欲は失われてしまったのである。

 

 

「アンタたちも暫くこのイベントは放っといたら?下手にカードの入手に成功したらそれを狙われて逆に危険……その方が奴には都合がいい」

 

 アスタはそう言い残し、「同行(アカンパニー)」を使ってマサドラへと去って行ってしまった。

 残されたゴンは所在なさげに佇むのみ。一方、去っていく彼らを冷めた目で眺めていたキルアは、唯一この場に残っている男───ゴレイヌへと顔を向けた。

 

「アンタはどうすんの?」

 

「お前らと同じさ、もっと強い仲間を探す。……このイベント、続ける気だろ?でなきゃあの作戦変更は意味ないからな」

 

 キルアたちがわざと海賊たちに負けたことを指して、ゴレイヌは不敵に告げた。

 

「あの連中はカン違いしている。オレたちにとってもこのカードはなるべく早く入手した方がいいんだ」

 

「少しでも仲間割れの危険を回避するため……か」

 

「その通り」

 

 カード入手イベントの発生に必要な人数が最低十五人。にも拘らず、「一坪の海岸線」のカード化限度枚数は「複製(クローン)」を使ったとしてもたったの三枚である。

 そして、今回集まったのは合計六チーム。仮に首尾よく「一坪の海岸線」を手に入れたとしても、最後にはその所有権を巡って仲間割れが生じていたことだろう。このイベントは、初めから仲間同士の争いの火種を抱えていたのである。

 

「イベント発生の条件が判明したときにアンタが言った『えげつねェな』の意味、最初は全然分かんなくて考えたからね」

 

「フッ、聞かれてたか。……そういうことだ。オレたちが全員勝つことを前提にしても、最低あと三人の手練れが要る。理想はそいつらが十人組のパーティだと最高ってことだ」

 

「なんで?」

 

「三組でたった三枚の『一坪の海岸線』を争うことなく分けれるからだぜ、ゴン。

 ……さて、ゴレイヌ。実のところ、オレたちにはその"強い仲間"に一人心当たりがある」

 

「ほう?」

 

 意味深に笑うキルアに、ゴレイヌは片眉を上げて訝しげな視線を送る。キルアの表情からは確かな自信と、何やら非常に……非常ー(ヒジョー)に嫌な予感を感じさせる悪戯染みた色が窺えたからだ。

 

「あー……一応聞くが、その心当たりとは誰だ?」

 

「既に私が『交信(コンタクト)』で連絡をつけました。もうすぐ到着すると思います」

 

「今から来る奴の正体を知った上で……ゴレイヌ。アンタはオレたちと協力してくれるか決めてくれ」

 

「一体何を───」

 

 パタン、と(バインダー)を閉じたビスケット。すると、ゴレイヌにとっても聞き慣れた「キイイイィィィン」という呪文(スペル)による移動音が聞こえてきた。

 

「ッ、これは『同行(アカンパニー)』……いや違う、『磁力(マグネティックフォース)』か!」

 

 光が夜空を切り裂き、ザッ!と下草を踏み締めて着地する。「磁力(マグネティックフォース)」によってやって来たその少女は、肩に掛かった黒髪を手で払い除けながら立ち上がった。

 

「アンタは……」

 

「一応お久しぶり……になるのかしら、ゴレイヌさん。私は───カオル=フジワラ。今一番有名なプレイヤー狩りであるらしい者ですわ」

 

 何やら妙に演出染みた登場を果たした少女───カオルは、ビスケットが抱えていた人形(分身体)を受け取り、自身の身体に吸収する。

 それによって分身体が経験した諸々が情報となって本体に統合され、カオルの記憶として定着した。

 

「なるほど……襲撃してきた奴らがいたというイレギュラーがあった以外は、概ね打ち合わせ通りに進んだみたいね」

 

「あれ、分身体と意識が繋がっていたわけじゃないんだ」

 

「ええ。分身を作れるのは便利だけど、意識の同調は残念ながらできないのよね……それが難点と言えば難点かしら。できるならリアルタイムで情報を送れる偵察役としても使えたのだけど」

 

 ゴンたちと和気藹々と会話するカオル。それを見て、我に返ったゴレイヌはじりっと後退った。

 

「アンタがカオル……まさかゴン組の一員だったとは。一緒に行動している様子がなかったから、てっきり方向性の違いで決裂していたものだと……」

 

「その様子を見ると、私とゴン組との関係は上手く隠し通せていたようね。あの選考会にはアナタもいたから、あるいはバレているかもしれないと思っていたのだけど」

 

「ああ、してやられたぜ。そしてそれを知ってしまったオレは……断れば口封じにってとこか?」

 

「まさか」

 

 カオルは敵意がないことを示すように両手を上げた。

 

「私がプレイヤー狩りであることは否定しないけど、ハメ組……ニッケス組だっけ?を襲ったのは、奴らの中に爆弾魔(ボマー)が混じっていたからよ」

 

「何?」

 

 目を見開くゴレイヌ。最近になって急に被害が途絶えてしまった爆弾魔の名がここで出てきたことに、彼は困惑したように首を傾げた。

 

「爆弾魔の名前はゲンスルー。覚えがないかしら?」

 

「ゲンスルー……!ニッケスの隣にいたあのグラサンか!アイツは他数名と並んであの組のまとめ役だった。ってーことは、爆弾魔と奴らはグルだったのか!?」

 

 そう言えばやたら爆弾魔について警告してきたのも奴だったな……と納得したように頷くゴレイヌ。別にカオルは爆弾魔とハメ組がグルだったと明言したわけではないが、特に否定はせずに意味深な微笑みで返しておいた。

 

「……まあ、アンタが理由もなくPKに及んだわけではないことは理解した。オレも奴らには一度痛い目にあわされてるんでな……正直スカッとしている」

 

「そう。なら……」

 

「実力的にはむしろ大歓迎だ。皮肉にもPKの件でアンタの実力は証明されているからな」

 

 それに……とゴレイヌはゴンを見た。この場にいる者たちの中で最も純粋そうな彼に、カオルを避けている節は見られない。ならば噂とは裏腹にそう悪い奴ではないのだろう、とゴレイヌは判断した。

 

(むしろ、一番警戒すべきはカオルではなくあのヒソカって男だな。何か目つきが怪しいんだよなアイツ……)

 

 チラ、と横目でヒソカを見る。今は不自然なほど爽やかな笑みを浮かべているが、ゴレイヌは時折り彼から向けられる熱い視線に気付いていた。無意識の内に括約筋に力が入る。

 

「どう?オレたちと協力してくれないかな、ゴレイヌさん。何か騙すようなカンジになっちゃったけど……」

 

「いや、むしろ同盟相手としては好ましい強かさだ。あの女の言葉を借りるわけじゃないが、足を引っ張られるような奴と組むより全然マシさ」

 

「! じゃあ……!」

 

「ああ、こちらから協力を申し出たいほどだ。よろしく頼むぜ、ゴン」

 

 ゴレイヌは太い笑みを浮かべ、右手を差し出す。パッと表情を明るくさせたゴンは、嬉しそうにその手を取った。

 

「うん!よろしく、ゴレイヌさん!」

 

 

 

 ───斯くしてここに六人の協力体制は成り、「一坪の海岸線」獲得への道に一歩近付いた。彼らの前に立ちはだかるは、「レイザーと十四人の悪魔」たち。

 

 残るは、あと九人。カオルは心当たりのある協力者候補へと思いを馳せ、来る決戦へと備えるのだった。

 




リアルでもゲーム(特にカードゲーム系)が苦手な作者、現在苦戦中。G・I難しい也……。



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