実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい   作:ピクト人
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……唐突ですが最近、「実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい」なんて変に気取ったタイトルではなく、「メルトリリス(モドキ)が行くHUNTER×HUNTER」とか「ダイスから始まる異世界転生」みたいな安直なタイトルの方がいいのではないかと思うようになりました。明らかに地雷臭増すけど、元々地雷要素満載の趣味小説ですし。

いやぁ、毎日毎日こうも暑いと余計なことにばかり頭が回る。こーんな下らないことを考えるくらいだったら、その分を執筆に回して投稿速度を上げた方がよっぽど建設的ですよねー。
実に下らない話だが、作者はタイトルで悩んでいるらしい……お後がよろしいようで(よろしくない)


レイザー戦、開幕。爆炎舞い散る第十六話

「ちゃーらーらーらーちゃーらーらーらーちゃーらーらーらーちゃんちゃららららちゃんちゃららららちゃーーーんちゃーーーん───……ゴレイヌが なかまに くわわった!」

 

「どうしたんだ、急に」

 

「いえ、何か言わないといけないような気がして」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 ゴレイヌが仲間入りして早数日、すっかり私の悪評が広がって誰も接触してこなくなって久しい。少し前まではひっきりなしに「交信(コンタクト)」の音が鳴り響き、「同行(アカンパニー)」や「磁力(マグネティックフォース)」で誰かしらが襲撃をかけてくる毎日だったというのに。

 

「ヒマ……いえ、平和だわ……」

 

「以前はそんなに襲撃が多かったのか……話だけならオレも風の噂で聞いていたが」

 

「それはもう」

 

 ボーっと虚空を眺めながらの私の呟きに、ゴレイヌは律義にも反応してくれる。

 以前のように襲撃をかけてくるプレイヤーがいなくなったことで、誰憚ることなくゴンたちと一緒に行動できるようになった私は、以前にヒソカと再会した森の中に場所を移していた。

 ゴレイヌは木の幹に背中を預けており、私は同じ木の枝の一つに腰掛けている。一方でゴンたちはというと、対海賊戦に向けてスポーツの訓練をしていた。

 

 ゴンとキルアはビーチバレーを。そしてビスケットは卓球の訓練をしている。

 ヒソカは……あの野郎サボってやがる。一応リフティングはしているが、"伸縮自在の愛(バンジーガム)"でくっつけたボールを機械的に蹴っているだけだ。

 

 もどかしい。原作知識を話せたならひたすらドッジボールの訓練をさせていたのに。

 

「サボりと言えばオレたちも同じだが」

 

「アナタは数合わせのメンバーの勧誘から帰ってきたばかりじゃない」

 

「アンタは?」

 

「休憩中」

 

 そう。結局残りのメンバーは、攻略を諦めて現実に帰りたがっているプレイヤーで間に合わせることにしたのだ。

 私は最初、原作と同じようにツェズゲラ組に声を掛けようとしていた。しかし、そこでキルアとゴレイヌの二人から待ったが掛かったのだ。

 

 曰く、所有種96種とクリア目前であるカオルに、ツェズゲラ組が素直に手を貸してくれるとは限らない。加えて、ツェズゲラ組の手に複製であっても「一坪の海岸線」が渡ってしまうことのリスクは無視できない……と。

 

 確かに言われてみれば、現在92種と言われていたツェズゲラ組の実際の所有種は95種だった。それも原作での話であり、私がヒソカに「複製(クローン)」で増やした「大天使の息吹」を使用したことで、彼らが所有していた「引き換え券」の一つが大天使に変わったはず。つまり、現在のツェズゲラ組は私と同数の96種を所有していることになる。

 何となく「ここからは原作通りに進めばいいか」と考えていた私としては目が覚めたような思いだ。危うく「一坪の海岸線」というアドバンテージをふいにしてしまうところだった。それなら「一坪の海岸線」の複製との交換で彼らが持つ「一坪の密林」の複製を貰う方がいい。そうすればゴンたちが持つ「奇運アレキサンドライト」を合わせて99種コンプリートになるのだから。

 

 以上の理由により、私たち六人+数合わせの他プレイヤーたちの計十五人のチームで挑む方針に決定した。そのため、ゴレイヌには数合わせのためのプレイヤーの勧誘に行ってもらっていたのである。

 

 しかし、このイベントは海賊の半数、つまり十五人中八人に勝利しなければならない。そのためには戦力があと二人足りないことになる。そこで、残りの二人分は私の分身が担う運びとなった。『オールドレイン』の能力の一つ、コピーを利用した分身能力。先日のカヅスール主催の会議において役立ってくれたこの能力を用いて私の分身体を二つ生み出し、これを戦力とするのである。

 私のこの分身は、例えばかつてカストロが披露した"分身(ダブル)"とは異なり、オーラのみで形作られたものではない。分身(コピー)と称してはいるが、その本質は分裂とも言うべきものだ。私の霊基の一部を切り離して生み出した、確固たる自意識を持ち自律したもう一つの私そのものなのである。

 その性質上、本体である私は生み出した分身の容量だけ霊基が縮小してしまう。あまり野放図に分身を増やしまくると、肝心要の本体である私が弱くなってしまうのだ。故に十分な戦力を保持した分身を生み出せる限度数は精々二~三人分といったところだろうが、今回に関してはそれだけあれば問題ない。

 

 ゴン、キルア、ビスケット、ヒソカ、ゴレイヌ、私、私(分身A)、私(分身B)。この計八人で海賊に、ひいてはレイザーのドッジボール戦に挑むことになる。ツェズゲラ組の協力は得られなかったが、決して見劣りするメンバーではあるまい。一ツ星(シングル)ハンターという点では私もツェズゲラと同じだし、むしろ個人戦力という点では私の方が遥かに勝っている。

 きっと勝てる……否、勝つ。勝負事に絶対はないが、しかし原作よりも充実した戦力で挑んで敗北するようなことはないだろう。所詮私にとってこのG・Iは本命前の余興(イベント)だが、それでもやるからには全力だ。

 

 それに秘策もある。レイザーには悪いが、余裕で勝たせてもらうとしよう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ゴン=フリークス……そうか、お前がゴンか」

 

 このG・Iが仮想現実のゲームではなく、現実に存在する舞台であることを吐露してしまった海賊の一人、ボポボを処刑したレイザー。彼はゴンの正体がこのG・Iを作ったハンター、ジン=フリークスの息子であることを知るや、凄絶な殺気と共にオーラを噴出させた。

 

「お前が来たら手加減するな……と言われてるぜ。お前の親父にな」

 

「……!」

 

 先ほどまで相手取っていた海賊たちとは明らかに格が違うオーラの量と密度。"十四人の悪魔"を背後に控えさせるレイザーの姿は、ゲームマスター(GM)としてこのデスゲームを支配するに足る圧倒的な力と威厳とを纏っていた。

 常に浮かべていた人の好さげな微笑が、一転して非常に恐ろしいものと感じてしまうほどのオーラと殺意を総身から迸らせるレイザー。その戦意の矛先を向けられているゴンは、しかし冷や汗を流しながらも不敵な笑みを返してみせた。

 

 ここに探し求めていたジンの手掛かりがあるかもしれない───ゴンにとっては、それだけで強敵に挑むに足る十分な理由となる。感じた悪寒と怯懦を飲み下し、ゴンは笑みを浮かべることで己を奮い立たせたのだ。

 

「やってられねーよ!俺は死にたくねェ!」

 

「こんなおっかねー所にいられるか!俺は街に帰らせてもらう!」

 

 数合わせのために連れて来たプレイヤーたちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出すが、それを顧みる者はいなかった。元より彼らの役割はソウフラビに来た時点で終わっていたし、その戦力にも端から期待していない。

 否、顧みる余裕がなかったと言うべきか。この場の誰一人として、レイザーから目が離せなかったのだ。偏に、彼から発されるその強大なオーラ故に。

 

(作中でレイザーが見せた圧倒的な実力の絡繰りは、発揮される場を運動場(ここ)に限定することで念を強化していたから───そう思っていたのだけど)

 

 それは間違いだった、とカオルは認識を改める。確かにGM権限で多少の強化(ブースト)は掛かっているのだろうが、間違いなくレイザー自身の実力も高い。こうして直接相対したことでハッキリと分かった。

 

 ───この男は強い。それがこの場の全員の共通認識となった。

 

「さて……先ほど言った通り、オレのテーマは八対八のドッジボールだ!それを踏まえた上で、これよりルールを説明する!」

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 ・ゲームは1アウト7イン(外野一名、内野七名)で行い、内野が0になったチームの敗北とする。

 

 ・コート内の選手は敵の投げたボールに当たればアウト判定となり外野に出る。但し、開始時外野にいた選手を含め一人のみ、一度だけ「バック」宣言と共に内野に復活することができる。

 

 ・外野が一人もいない状況でボールがコート外に出た場合、強制的に相手側の内野ボールとなる。

 

 ・当たり判定のルールとして、当ゲームは「クッション制」を採用するものとする。例として、一人の選手が投げたボールが敵のA選手に当たって跳ね返り、更に敵のB選手に当たって床に落ちた場合、これはA・B共にアウト判定となる。但しA選手に当たり跳ね返ったボールをB選手がダイレクトキャッチに成功した場合、これはA・B共にセーフ判定となる。

 

 ・上記に加え、一人の選手が投げたボールが敵のA選手に当たって跳ね返り、それが味方のC選手に当たり床に落ちた場合、これはC選手のアウト判定となる。但し、そのボールをC選手がキャッチに成功した場合はA選手のアウト判定となる。

 

 ・外野の選手が敵内野の選手にボールを当てアウト判定を取ることはできるが、それで外野の選手が内野に戻ることはできない。原則として、外野から内野に戻れるのは「バック」宣言をした一人のみである。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

「何か質問は?……無いようだな。それでは始めようか」

 

『審判を務めます№0です。よろしく』

 

 額に0の数字が刻印された悪魔が審判を名乗り出、全員に配置に付くよう促す。指示に従い、それぞれ指定されたコートへと足を踏み入れた。

 レイザーチームの外野は№1の悪魔を、そしてゴンチームの外野はカオルB(仮称ベータ(β)、ツインテールが特徴)を配置し、それ以外のメンバーは内野として位置に付く。

 

『スローインと同時に試合開始です!レディー…………ゴー!!』

 

 №0が合図と同時に投げ入れたボールに真っ先に駆け寄ったのは、素早さには一家言あるキルアだ。彼は猫のような機敏な動きで接近し、ボールを自陣営へと送るべく手を伸ばした。

 当然敵に先手を取られないよう、キルアは全力でボールを目指した。しかしそんな彼とは対照的に、レイザーチームの誰一人としてボールに手を伸ばそうとはしなかった。彼らはレイザーを中心に横一列に並び、完全に受けの姿勢となってボールを待ち構える。

 

「先手はくれてやるよ」

 

 レイザーは顎をしゃくって示し、ゴンたちに先手を促す。それが己の確かな実力に根差した自信から来る余裕であることは明らかであった。

 

「余裕こきやがって……」

 

 もはやレイザーの実力に関しては疑うべくもなくこの場の誰もが認めるところだ。しかしそれで舐められることを良しとするほど、彼らは己の腕を下に見てはいない。キルアが寄こしたボールを受け取ったゴレイヌは大きく腕を振り被り、挑戦的な視線をレイザーたちに向けた。

 

「挨拶代わりにかましてやるぜ!」

 

 放たれる一投。レーザーの如く真っ直ぐに進んだボールは、見事№4の悪魔に直撃する。キャッチするどころか踏ん張ることもできず、小柄な悪魔はコート端まで吹き飛んだ。

 

「おおっ、やった!」

 

「よーしまずは一匹!」

 

 幸先の良い滑り出しに、キルアとゴレイヌはガッツポーズを決める。流暢に喋る№0と異なり意思があるのかすら怪しい№4は無言で外野へと向かい、転がったボールを拾い上げた外野のベータはゴレイヌへと投げ返した。

 

「よっしゃ、もう一丁行くぜ……そらよっ!」

 

 再び投じられたボールは、今度は№5の悪魔に直撃する。ドゴン、と盛大な激突音と共に為すすべなく吹き飛ぶ悪魔。これも言い訳の余地なくアウトである。

 ギシシ、と不気味に笑う№5が外野に向かう。これで№1、4、5の悪魔が外野に出たことになる。三匹はゴンチームのコートを囲むように三方に立った。

 

 その様子を眺めていたレイザーは、浮かべる微笑を僅かに深めた。

 

「よーし、準備OK」

 

「あ?今何て言った?」

 

 レイザーの呟きを聞き咎めたゴレイヌは、再びベータから送られてきたボールを構えつつ胡乱な眼差しを向ける。レイザーは二ッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「お前たちを倒す準備が整ったって言ったのさ」

 

「……へえ、面白れェ」

 

 一気に内野選手を五人に減らされてなお余裕の態度を崩さないレイザーを内心不審に思いながらも、ゴレイヌは不敵に笑って返した。

 

「───ならやってみろよ!」

 

 たっぷりとオーラを纏わせたボールを、強化した腕力で思い切り投げ放つ。直前の二投とは比べ物にならない威力のボールが真っ直ぐにレイザー目掛け突き進んだ。

 

 だが───

 

「な、にィ……!?」

 

 バシィッ!と大きな音を立て、レイザーの鍛え上げられた腕がゴレイヌのボールを受け止めた。その左腕は小動もしていない。

 

(や、野郎……片手で止めやがった……!!)

 

「さぁ……てと……」

 

 渾身の一投を容易く受け止められて愕然とするゴレイヌを尻目に、レイザーは手にしたボールに念を籠める。そのオーラの密度たるや、離れた位置に立つゴンたちにすら確かな悪寒を感じさせるほどだ。

 

 レイザーはゆっくりとボールを構えた右腕を振り上げる。立ち位置は変わらず、両陣営を隔てるラインより幾分後方にある。背筋を貫く悪寒に総毛立つゴレイヌが見守る中、それは放たれた。

 

 ───それは大砲。先ほどのゴレイヌの一投を迫撃砲に例えるならば、レイザーが投げ放ったそれはまさしく戦艦の大砲であった。

 

 ゴッッ!!と大気を粉砕しながら迫る大砲(ボール)。レイザーの腕が振り下ろされたと思った次の瞬間には目の前に到達していた明確な「死」を前に、ゴレイヌは己の体感時間が引き延ばされる感覚を覚えた。

 

(強……!速…避……)

 

 引き延ばされる時間の中、ゴレイヌは迫り来る脅威を前に過去最高の速度で思考を回転させる。死を回避すべく、かつてない集中力で生存を模索する。

 

(───無理!!受け止める……無事で!?出来る!?)

 

 

 ───否

 

 ───死

 

 

 ……結論として、ゴレイヌ自身の実力ではどう足掻いてもこの「死」を避けられず、また受け止められないことが判明した。己ではこの「死」に対処できないと、理性ではなく本能で理解した。

 しかし、それはあくまで「自身の身体能力では対処不可能」というだけだ。これは念能力の使用が大前提のゲーム。であれば、この状況でも取り得る手段がゴレイヌにはあった。

 

 "白の賢人(ホワイト・ゴレイヌ)"。ゴレイヌのオーラが具現化した白き体毛の念獣(ゴリラ)を召喚し、己の位置と入れ替わる能力だ。これがあれば"白の賢人(ホワイト・ゴレイヌ)"を身代わりに、レイザーの魔球を回避することができるだろう。

 

 問題は、この作戦は前提として"白の賢人(ホワイト・ゴレイヌ)"が予め具現化していなければならないという点にある。既に念獣(ゴリラ)が具現化しているのであれば、後は己の意思一つで位置を入れ替えるだけで済む。しかし、今この場に"白の賢人(ホワイト・ゴレイヌ)"はいない。

 つまりゴレイヌは、ボールが激突する前に離れた位置に"白の賢人(ホワイト・ゴレイヌ)"を具現化させ、しかる後に能力を発動させなければならない。普段ならばどうということのない挙動、己の半身たる念獣(ゴリラ)を具現化させる手間が斯くももどかしいとは!

 

 しかしやらねばならない。やらねば死ぬ。停滞した体感の中、迫る「死」に抗うべくゴレイヌは裂帛の気迫を籠めて半身の名を叫ぶ。

 

(間に合え───!)

 

「"白の(ホワイト)───」

 

 叫びながら───しかし。ゴレイヌは、どうしようもなく手遅れであることを理解せざるを得なかった。

 分かってしまう。己の実力、己の限界をハッキリと理解しているが故に───もはや間に合わないのだと。

 

()───」

 

(クソが───……)

 

 無駄な抵抗と知りながら、それでもゴレイヌは具現化を止めない。少し離れた位置に実体化しつつある己の半身の姿を視界の端で捉えながらも、ゴレイヌは迫る「死」から目を逸らすまいとボールを凝視し───

 

 

 ───"幻想左腕(イマジナリ・レフトハンド)"

 

 

 刹那、半透明の巨腕がゴレイヌとボールとを遮った。突如として現れた巨大な掌が魔球を受け止め、逃れ得ぬ「死」からゴレイヌを救ったのだ。

 

「か、カオル!?」

 

 それはかつて、カオルが天空闘技場の新人狩りの一人、サダソから奪った能力。カオルの莫大な念が籠められたことで更に巨大化したオーラの左腕が、間一髪のところでボールをキャッチした。

 

「ぐ───」

 

 ボールを受け止め、その巨大な掌で包み込んだ。しかしそれだけではボールの慣性は殺し切れず、カオルの身体が勢いのまま後方へと流される。どれだけドレインを繰り返して肉体を強化しようと、カオルの体重は53キロ(鋼の具足込み)しかないのだから。

 

「───フンッ!」

 

 ならばと、ズガンッ!とカオルが左足をコートの床に突き込む。その左足を軸に、身体ごと回転させることで受けた慣性を殺しに掛かった。

 木製のタイルの下、コンクリートの床材を己の足でドリルの如くガリガリと抉りながら一回転。粉砕したコンクリートの破片と摩擦熱による煙を噴き上げながら、カオルは何とかレイザーのボールを受けきることに成功した。

 

「! まさか受け止められるとは……!」

 

 必殺を期して放った渾身のボールが止められた。その事実を、レイザーは驚愕を以て受け止めた。

 見る限り敵側に与えられた損害は、カオルが回転した際に振り回されたオーラの巨腕にぶつかったことでゴレイヌが負った軽い打撲のみ。

 カオルが独楽の如く回転するための軸とした左足は───

 

 ガラリ、と砕けたコンクリートの破片を押し退けて引き上げられるカオルの左足。現れた左足は無傷であり、靴すら傷ついていないことから"凝"ないし"硬"で表面を防御していたことは明白であった。

 

「……見事、としか言いようがないな。まさかダメージがゼロだとは」

 

 敵ながら天晴れ。そう笑う表情とは裏腹に、レイザーの内心は舌打ちを零さんばかりだった。

 必殺を期して放った魔球。そこに籠められた念は、文字通り"必"ず"殺"すという確たる意志だ。それが無傷で受けられたということは、レイザーの「必殺」がカオルに通用しないという証明。

 

 それではいけない。念能力者の戦いとは、それ即ち精神力の戦い。もし己の精神が相手への敗北を認めてしまえば、念はその精神に影響を受け弱まってしまうのだ。その敗北のイメージはそう易々と拭いきれるものではない。

 

(───ならば、その敗北のイメージが浸透する前に捻じ伏せよう。オレはまだ"底"を見せちゃいねぇ)

 

 業腹ではあるが、()()ジン=フリークスに薫陶を受けた時期がレイザーにはあった。「G・Iのゲームマスターたる者がそう簡単に地を舐めてはならぬ」と。その矜持が、レイザーに敗北を認めさせない。ましてやゴンにではなく、あの誰とも知れぬ小娘なんぞに敗北するなど許されることではない。

 丹田に力を籠め、怒りの入り混じったオーラで「己の力が通用しないのではないか」という不安を押し流す。そう、まだゲームは始まったばかり。まだゴンの実力を見極めてすらいない。

 

「……来るなら来い、名も知らぬ少女。ゴン共々叩き潰してやろう───」

 

 

 

 

 一方、九死に一生を得たゴレイヌの状態は深刻だった。所詮は「必殺が通用しなかった」だけのレイザーと異なり、彼に与えられたのは明確な「死」の感覚。決定的なダメージこそカオルのお陰で免れたが、それでも精神に染み込んだ敗北のイメージは確実にゴレイヌの念に影響を及ぼしていた。

 

「すまねぇ……助かったぜ、カオル……」

 

「ええ……立てる?」

 

「何とかな……」

 

 カオルはゴレイヌの手を引き立ち上がらせる。何とか気丈に振る舞おうとはしているが、その顔は明らかに青褪めていた。

 

「……どうすんのよオリジナル。このままじゃ原作と変わらないわよ」

 

 近付いてきたカオルA(仮称アルファ(α)、ポニーテールが特徴)がそっとカオル(本体)に耳打ちする。確かにアルファの言う通りであり、この事態はカオルの油断が招いた結果だ。レイザーの放つ球速が予想以上だったために反応が遅れ、その遅れがゴレイヌの精神的敗北を招いた。レイザーの実力の高さは分かっていたのだから、もっと早くに対応するべきであったのだ。

 

「……よく考えたら油断ばかりじゃない?私たち」

 

「……言わないで。そんなの私たち自身が一番よく分かってることでしょう」

 

 とは言え、過ぎてしまったことは仕方がない。カオルは頬を叩いて気を取り直すと、アルファに予定の変更を告げた。

 

「仕方がないから、予定を繰り上げるわよ。アレの試運転を行いましょう」

 

「え、もう使うの?まだ碌に使ったことないのに」

 

「どっちにしろこのゲーム中で使う予定だったのだから問題ないわ。試運転を兼ねてレイザーチームに大打撃を与え、更に敵の取り得る選択肢を狭める……打ってつけでしょう?」

 

 渋々と頷いたアルファは、「短い出番だったわ……」とぼやきながらカオルに吸収される。予定と異なる展開にゴンたちは首を傾げ、アルファのことをカオルの姉妹か何かだと勘違いしていたレイザーは瞠目する。

 

「消えた……まさかオーラが具現化した分身だったのか?」

 

 驚くレイザーを尻目に分身を吸収したカオルは、目に見えて増大したオーラを手にするボールに籠め始める。そのオーラ量たるやレイザーの比ではない。ビリビリと周囲の空間を震えさせながら、カオルはボールを振り被った。

 

「意趣返しのつもりか?ならば───」

 

 №3、6、7の悪魔が融合し、№14の悪魔を生み出した。レイザーの倍近い巨体を有するこの悪魔ならば、先のレイザーの魔球であってもギリギリ受けられる。

 

「なっ、あんなのアリかよ!?」

 

『規定人数を超過しない限りはアリです』

 

「というか、あの少女も同じことをしているだろう?」

 

「ぅぐ……」

 

 反射的に異を唱えたキルアだったが、№0とレイザーに正論で返され言葉に詰まる。

 

 そして、いよいよカオルのボールが放たれた。レイザーは№14を前に据え、ボールを受け止める構えに入る。

 

(守りは盤石。さあ、どうだ……!?)

 

 固唾を呑む周囲の視線が注がれる中───カオルの手を離れ、ボールは狙い違わず№14へと突き進んだ。

 

 

 ぽすん。

 

 

 ―――放物線を描きゆっくりとした速度で放られたボールは、優しく悪魔の手の中に納まった。

 

 

 しん、と静まり返る運動場。悪魔すら困惑したように小首を傾げている。

 

「な……何やってんだよカオル!?」

 

「あんなに凄いオーラだったのに!」

 

 ゴレイヌとゴンから非難の声が飛ぶ。非難するわけではないが、レイザーとしても困惑する思いだ。カオルの意図が読めない。

 

「まさか、オーラを筋力に回さないで全部ボールに籠めたのか!?一体何のために───」

 

 

 

 ───次の瞬間、耳を劈くような爆音が響き渡った。

 

 

『!?』

 

 その轟音の発生源は№14の悪魔だ。爆風と熱を撒き散らし、悪魔は木端微塵に吹き飛んだのだ。

 至近距離にいたレイザーは咄嗟にオーラで身を守りつつ、愕然とした眼差しで爆心地を見る。既にあの巨体は見る影もなく、塵すら残さずに文字通り消滅していた。無傷のボールだけがその場に転がっている。

 

「これ、は……」

 

「───試運転は成功したようね」

 

 不敵に笑うカオルの背後から滲み出るようにして、"隠"を解かれた()()は現れた。

 

 端的に言うならば、ソレは上半身のみの骸骨であった。剥き出しの背骨と肋骨が連なり、胸骨の前で交差させた手の骨には左右それぞれに、小さな羽の付いた小悪魔の顔、燭台にも見える三叉の槍の穂先が刻印されている。

 そして、猫と人を掛け合わせたような異形の頭蓋が頚椎の上に鎮座している。眼窩には縦に割れた虹彩の黄色い眼球が嵌り、それが唯一の生身であると言えた。

 

「これが私のスタンd……じゃなくて、新たな能力!その名は"爆殺女王(キラークイーン)"!!」

 

 獣頭の髑髏がレイザーを睨み据える。突如として現れた異形が醸し出す言い知れぬ迫力に、レイザーはボールを拾うことも忘れて後退った。

 

「"爆殺女王(キラークイーン)"の能力───それは……"爆殺女王(キラークイーン)"は『触れたもの』は『どんなもの』でも……『爆弾』に変えることができる……!」

 

 ドレインしたゲンスルーの能力を核に、サブとバラの能力を組み合わせて魔改造(アレンジ)した新たな"発"。その能力は主に二種類。

 一つは、文字通り触れたものを爆弾に変え爆破する能力。

 そしてもう一つは、"爆殺女王(キラークイーン)"が()()()()()()()()()()を爆破する能力だ。今し方№14の悪魔を吹き飛ばしたのは後者の能力だ。"爆殺女王(キラークイーン)"のオーラが込められたボールに触れたことで、悪魔は爆発したのである。

 

「な、何て強力な能力だ……!」

 

「それにあの威力……以前目にした爆弾魔(ボマー)の爆発より高威力だぜ……!」

 

 カオルは敢えて目に見えるほどのオーラを発し、レイザーを警戒させた。レイザー自身が出張るならそれも良し、分身を吸収したことである程度は取り戻した自慢の莫大なオーラを込めたボールをぶつけてやる心算だった。

 そして警戒し、今のように合体して強化された悪魔で受けようとするならば───実に好都合。作りたてである"爆殺女王(キラークイーン)"の試運転がてら爆破し、レイザーチームの戦力を減らしてやろうという作戦であった。

 

「もう一度触れなければ、そのボールは爆弾に変えられない。……果たして、アナタは私にボールが渡らないようにできるかしら?」

 

「むぅ……!」

 

 足元のボールを拾い上げながら、レイザーは苦悶を漏らす。

 №14の悪魔が消滅し、内野に残る悪魔はあと一匹のみ。これ以上戦力を減らすことは避けたいが、いつまでもカオルにボールが渡らないようにできるとは思えない。カオル自身がレイザーの魔球を止められることはつい先ほど証明されてしまったし、他の誰かが取ったボールをカオルが触っても同じことだ。

 

 カオルの爆破能力を避けるためには、敵チームに一度もボールが渡らないようにしながら、敵内野を全滅させなければならない。そんなことが可能なのか、とレイザーは自問する。

 

「───否!やらねばならない。やってみせようじゃあないか……!」

 

 総身からオーラを立ち昇らせ、レイザーは敵陣を睨む。もはや四の五の言ってはいられない。

 

 ───一切の油断は捨てよ。あれなるは、全力で臨むべき敵手である。

 

「さあ、勝機は見えたわ。レイザーは強敵だけど、決して勝てない相手じゃない」

 

 カオルの発破に、ゴンとキルアはオオ!と気合いの声を返した。ビスケットは変わらぬ様子で、ヒソカは嬉しそうにニンマリと笑う。

 そして、その発破で一番奮い立ったのはゴレイヌだ。彼は心の底ではレイザーに対する敗北を認めつつも、それでも一矢報いてやろうと気炎を吐いた。

 

(オレは負けた……だが、これはチーム戦だ。最終的にチームが勝てればそれでいい。コイツに勝って「一坪の海岸線」を手に入れればゲームクリアも目前!負けるわけにはいかねぇ!)

 

 アルファが消えたことで空いた枠を使い、ゴレイヌはもう一つの半身、"黒の賢人(ブラック・ゴレイヌ)"を具現化する。

 

「やってやるさ!足手纏いなんざ死んでも御免だぜ!」

 

 

 

 斯くして、共に決死の覚悟を抱いた両陣営は視線を交わす。迸るオーラが相克し、両者の間に火花を散らした。

 

 

 

「……何かしら、この疎外感」

 

 ───その様子を、外野のベータは一人寂しそうに眺めていた。

 




※本編を読む前の注意事項

注意!第十六話において、特に理由のないジョジョの奇妙な冒険要素が本編を襲います。技だけクロスなどの地雷要素が苦手な方はブラウザバック推奨です。該当する方はクールに去りましょう。

以上の注意事項を踏まえ、どうぞ本編をお楽しみ下さい。



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