実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい(本編完結)   作:ピクト人

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 チートとは念能力に依らない特殊能力を持っているからであり、主人公は決してHUNTER×HUNTER世界という魔境における最強の存在というわけではないのである。


ハンター試験編
時は流れ十二年後。ハンター試験開幕の第一話


 

 私は転生者である。名前はまだない。しょうがないので前世と同じ藤原薫という名前を名乗っている。この世界風に言うならカオル=フジワラだろうか。

 

 神様を名乗るアンチクショウによって転生させられた私は、気が付けば十歳ほどの幼女の姿になってゴミ山のど真ん中に座り込んでいた。そして周りにはキーキーと何やら喚きながら蠢く気色悪い化け物。しかも私の足にはゴッツイ鋼の具足が取り付いていた。悲鳴を上げなかったのは奇跡に等しい。

 

 しかし、これで早々にダイスガチャで当たった能力が判明した。まずこの青黒いヒトデだかイカだかよく分からない触手のお化けはFateシリーズに登場するキャラクターの一人、ジル・ド・レェが召喚する"海魔"なる存在だろう。案の定念じてみると手の中に『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』が現れた。

 人皮で装丁され、表紙には苦悶に歪んだデスマスク、背表紙には美少年の裸像を象った銀細工が施されている悪趣味極まりない魔導書だ。これは深淵の邪神に関して記述された「ルルイエ異本」の写本の写本である。謂わばコピーにコピーを重ねた劣化品だが、それでも無尽蔵の魔力炉心を有し、海魔を始めとする異界の魔物を召喚できるランクにしてA+の一級の宝具である。オリジナルともなれば如何ほどの際物か、怖くて考えたくもない。

 ぶっちゃけ嬉しくない。本は不気味だし海魔はキモくて臭いし、同じ召喚系のキャスターならニトクリスとかの方が良かったです。メジェド様とか意外と可愛いし。

 

 そして二つ目が、この刺々しい槍のような白銀の具足。これは同じくFateシリーズに登場するアルターエゴという特殊なクラスに位置するキャラクター、メルトリリスの肉体の一部にして最大の特徴である。

 彼女は「英雄複合体」と呼ばれる複数の神霊の要素を組み込まれた存在であり、元となった女神は三柱。

 一柱目はギリシアにおける純潔の処女神と知られ、月の運行と連動し、狙った者を必ず射貫くと共に疫病と死を撒き散らす女神アルテミス。

 二柱目は旧約聖書に登場するレヴィアタン、あるいはウガリット神話のリタンに由来する蛇十字の杖。

 三柱目は七福神の一柱である弁財天の源流であり、インド神話において「流れるもの」を司る女神サラスヴァティー。

 データとして見るだけでも錚々たる面子だ。実際作中においても彼女は最強クラスの英霊にも引けを取らない戦闘力を秘めていた。これに関しては当たりと言えるだろう。脱ごうと思ってもびくともせず足から外れない具足に目を瞑れば、だが。

 

 ……しかしまあ、衛星兵器(自分も巻き込む)や強制砂漠化銃(自分も巻き込む)よりはマシであると納得する他ないだろう。魔導書だって見た目と召喚される怪物に目を瞑れば暗示や遠見なんかの簡易的な魔術も扱える便利アイテムだし、この足だって「この世界」では心強い武器となる。

 

 既に転生してから十二年が経つ。これだけ歳月を経ればここがどんな世界かは私でも分かる。

 

 ───私が最初に目覚めたのは「流星街」と呼ばれる打ち捨てられたモノが流れ着く街で。

 

 ───この世界で使われているのは全国で通じる共通言語と200種以上の民族言語、そして「ハンター文字」と呼ばれる記号のような文字。

 

 ───そして「ハンター」と呼ばれる職に就く者らが脚光を浴びており、彼らハンターを統べる「ハンター協会」なるものが社会的に大きな権力を有している。

 

 そう、ここは『HUNTER×HUNTER』という漫画の世界に酷似した、あるいはそのものの世界であったのだ───

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ドーレ港というクカンユ王国の海の窓口の一つを最寄りに有する都市、ザバン市。国内のみならず国外からも様々な交易品や人が入ってくるこの街は、有数の貿易都市として栄えていた。

 

 そんなザバン市はツバシ町の一角に、「めしどころ"ごはん"」という定食屋がある。至って普通の定食屋だ。早朝でありながらそれなりに客が入っているからには繁盛しているのだろうが、しかし特筆すべき要素は外観からは窺えない。

 そんな普通の定食屋めしどころ"ごはん"であるが、今日は少々様子が違った。ここの常連であるケリーという青年は、食後のお茶(と言っても無料で貰える安物の緑茶だが)を楽しみつつも、朝から感じていた違和感に首を傾げていた。

 

 今日は朝からガッツリいきたい気分だったケリーはステーキ定食に舌鼓を打っていたのだが、彼が食事を楽しんでいる間、次から次へと屈強な身形の男たちが入店してはメニューも見ずに注文し、奥の座敷に案内されていくのだ。しかも何故か皆が皆注文するものは同じ、「ステーキ定食、弱火でじっくり」である。

 ケリーも最初は「てやんでぃ、ステーキを弱火でじっくり焼いたら肉が固くなっちまうぜ」とミディアムレアに焼かれたジューシーなステーキを頬張りつつグルメぶって内心彼らを馬鹿にしていたのだが、代わる代わる入店してくる彼ら全員が図ったように同じものを注文していくので流石に疑問を覚えたのだ。

 ついでに言えば、ケリーが知る限りこの定食屋に奥座敷なんて存在しないはずである。少なくともケリーはテーブル席にしか座ったことはない。まあこの定食屋は席が一つも空いていないような繁盛ぶりを見せたことがないので、単純に機会がなかっただけかもしれないが。

 

 そして、再びガラガラと店の引き戸が開かれる。今日に限ってこの音は屈強な男共が入店してくる合図なので、彼女のいないケリーはうんざりした表情で惰性的に入り口に顔を向けた。

 

(───えっ)

 

 しかし、そこにいたのはケリーが予想していたようなガチムチの男ではなかった。逆光で少し見づらいが、線の細いシルエットに長い頭髪は明らかに女性のものであったのだ。

 

「いらっしゃい」

 

 決して不愛想ではないが、無口であまり喋らない店主が料理の手を止めず声を上げる。戸が閉められたことで、ケリーの目にもその女性……いや、少女の姿が露わになった。

 

 まず目についたのは、腰まで長く伸ばされた黒髪。艶やかな濡れ羽色のそれは店内の照明を照り返して煌めいている。

 少女らしい幼さを残しながらも、嫣然とした女性らしい微笑みをその整った(かんばせ)に浮かべている。海原を思わせる深いブルーの双眸もまた宝石のように美しく、長い睫毛と形の良い眉が飾っていた。

 残念ながら胸の膨らみは慎ましく控え目だが、ミニスカートから除く足はカモシカのように引き締まっており健康的な美しさを露わにしている。スカートの裾と膝下までのソックスの間から覗く、透き通るような白さの腿が大変眩しい。

 

 端的に言って、ケリーの好みどストライクの美少女であった。

 

「注文は?」

 

「ステーキ定食で。弱火でじっくり、お願いね」

 

「あいよ、奥の部屋へどうぞ」

 

 ボーっと呆けるケリーの視線に気づくことなく、少女は颯爽と奥の部屋へと去っていく。風を切って歩くに従ってその美髪が翻り、漂う花のような香りがケリーの鼻腔を擽った。

 

「湯呑が空だな。兄ちゃん、お代わりはいるかい?」

 

「……いや、お勘定を頼むよ」

 

 ややあって店主に声を掛けられたことで我に返ったケリーは、財布を手に取り席を立った。

 

「……つかぬ事を聞くが、さっきの黒髪の女の子はここによく来るのかい?」

 

「ん?いや、今日初めて来る客だな。それがどうかしたか?」

 

「そうか……いや、何でもないんだ。ご馳走様、また来るよ」

 

 あるいはあの少女はここの常連で、また会えるかもしれないと期待したのだが、残念ながら一見さんであったようだ。ケリーは少しの落胆を覚えつつも、「しかしまたここで会える可能性はゼロじゃない」と己を奮い立たせた。わざわざこんな場末の有名でもない定食屋に来るくらいだし、きっとこの近くに住んでいるのだろう、と。

 

(……そういえば、あの子もステーキ定食を頼んでいたな)

 

 それも、例によって弱火でじっくり焼いたヴェリー・ウェルダンにして。どちらかと言えばレアに近い焼き加減を好むケリーだったが、「明日はあの子と同じように弱火でじっくり焼いてみよう」と心に決め、帰路につくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 めしどころ"ごはん"という定食屋の奥に設けられた一室。中央にはそれらしいテーブルと椅子が用意されているが、ここは地下のハンター試験会場へと繋がるエレベーターの中であった。

 

 ふぅ、とため息を吐いた黒髪の少女───藤原薫ことカオル=フジワラは用意されていた椅子に足を組んで(・・・・・)腰かけた。

 カオルが転生を果たしてから十二年が経過し、現在は西暦1999年1月7日。彼女の目的は言うまでもなく本日より開催される第287期ハンター試験である。そして同時に、『HUNTER×HUNTER』という物語の始まり……ひいては主人公であるゴン=フリークス、キルア=ゾルディック、クラピカ、レオリオ=パラディナイトの四人が舞台に上がる瞬間でもあるのだ。

 

「…………」

 

 転生者であり身寄りのないカオルには戸籍がない。戸籍管理が徹底されているこの世界において、それは致命的だ。バイトすら厳しく、カオルはこの十二年間阿漕な商売で日銭を稼ぐしかなかったのだ。

 しかし、それも今日で終わる。わざわざ第287期の試験まで待ったのは、原作知識によってその試験内容を把握していたがため。ここで確実にプロハンターとなり、何よりの身分証明書となるハンターライセンスを獲得するのだ。原作主人公たちとの交流など二の次三の次である。

 

 ……まあ、将来的に優れたハンター及び念能力者になることが確定している彼らと伝手を持っておくのは悪いことではない。隙を見て顔合わせぐらいはしておいてもいいだろう。

 

 そんな下心満載の思考を巡らせ、カオルは足を組み直す───鋼の具足など見当たらない、普通の少女の足を。

 

 念能力や魔獣などあらゆる不思議が横行するこの世界であっても、少女の矮躯に不釣り合いな武骨な鋼の脚は人間社会ではあまりに目立つ。故に、カオルは早急にこの足の見た目をどうにかしなければならなかった。

 しかし、魔導書と異なり肉体そのものと化している具足は容易に着脱できるものではない。そこで、カオルはこのH×H世界の根幹をなす要素、「念能力」に活路を求めた。

 

 念能力───肉体から溢れ出す生命エネルギー、「オーラ」を自在に操る能力のことだ。念能力には基本となる"纏"、"絶"、"練"、"発"からなる、四大行と呼ばれる技がある。

 この四つの技の一つである"発"……これはオーラを駆使して、"系統"の力を発揮する技。念能力の集大成にして個別の能力、所謂特殊能力・必殺技であるこの発を以て、この問題を解決しようとしたのだ。

 幸い、カオルはそれほど時間を掛けずに精孔を開くことには成功した。よって直ちに水を湛えたコップに葉を浮かべ、水見式と呼ばれる方式の系統判断を行った。

 

 結果───葉は徐々に輪郭を失っていき、最終的に水に溶けて消失した。

 

 他に類を見ない特殊な変化……これは特質系の特徴である。故に、ここにカオルの系統が判明した。しかし問題はここからだ。己の系統に極力沿う性質の"発"を開発しなければならない。

 

 そも、"系統"とは生まれ持った念の性質であり、"強化系"、"変化系"、"放出系"、"操作系"、"具現化系"、"特質系"の六つのタイプに大別される。これには自分の系統に近いものほど会得しやすくなる性質があり、その相関関係は以下の「六性図」によって表すことができる。

 

   強

  / \

 放   変

 | 発 |

 操   具

  \ /

   特

 

 例えば放出系能力者は放出系の覚えが最も早く、隣り合う強化系・操作系も相性が良いので覚えやすい。逆に対角線上にある具現化系が最も覚えにくくなるのだ。

 カオルの場合は特質系なので、隣り合う操作系・具現化系が次点で覚えやすく、強化系が非常に覚えにくい……となる。なので特質系、そうでなくとも操作系か具現化系の発を作らなければ無駄に"容量(メモリ)"を食うばかりか、習得率の関係で大した力を発揮することもできなくなってしまう。そして幸いなことに、肉体の改造に関しては操作系で何とか都合をつけることができた。

 

 

秘密の花園(シークレット・ガーデン)

 

 ・操作系能力

 自身の足を変形させ、生身の人間の足に見せかける。材質まで変化させることはできず、あくまで外観だけである。故に触ってしまえばその質感から普通の足ではないとバレてしまう。

 

 〈制約〉

 ・この能力発動中は常に"纏"の状態でなければならず、また徐々にオーラを消耗してしまう。

 ・この能力発動中、使用者は一切のオーラ使用が禁じられる。"絶"や"練"はおろか、"円"や"凝"など戦闘時以外でも有用な能力も全て使用不可となる。

 

 〈誓約〉

 ・特になし

 

 

 以上がカオルが作成した"発"である。見た目を誤魔化せる以外に何のメリットもない、どころか明確にデメリットばかりの発であった。しかし、それでも決行せねばならないほどこれは差し迫った問題であったので、今のところカオルに不満はない。流星街内ですら気味悪がられて村八分にされては、幼い彼女は生きていくことすらままならなかったからだ。

 

 とまれ、晴れて普通の足を手に入れたカオルは第287期ハンター試験に応募し、原作知識を利用して危なげなく試験会場まで辿り着いたのだった。

 

 チン、とエレベーターが最下層への到着を告げる。表示された階層はB100……地下百階だ。一体どれだけ深いところにあるのか。

 開いた扉から一歩を踏み出し外に出ると、既に会場内には百人近い受験者たちが屯していた。いずれも腕が立ちそうな屈強な見た目の者たちであり、彼らの鋭い視線がカオルに向けられる。

 流石にハンター志望の強者らなだけあり、カオルの華奢な見た目に惑わされて侮るような視線を寄こした者は少数であった。ライバルとなり得る人間を値踏みする鋭利な眼光に晒される中、カオルは覚えのある視線と気配を察し微かに顔を顰めた。

 

番号札(ナンバープレート)をどうぞ」

 

「……ありがとう」

 

 すると、音もなく近寄ってきた小男が抱えた籠から番号が刻まれたプレートを取り出し手渡してくる。まるでそら豆のような男の風貌に一瞬面食らうも、カオルは番号札を受け取り胸の辺りに取り付けた。

 

「……本当に豆っぽいのね、ビーンズ」

 

 のっぺりとした顔に毛髪一つ見当たらない禿頭。頭の形のみならず肌の色まで鮮やかな緑色で、どこからどう見てもそら豆にしか見えないプロハンターの背を見送りながら、カオルは独り言ちた。

 それはそれとして、先ほどから不躾な視線と殺気が送られ続けている。できればこのままずっと無視していたいところだが、同じ受験会場にいる以上それは不可能だと観念したカオルは渋々視線の主の元へと歩み寄った。

 

「やあ♥久しぶりだねぇ、カオル♠」

 

「……そうね。お久しぶり、ヒソカ」

 

 足取り重く近づいてきたカオルににこやかに話しかけたのは、赤い髪を逆立たせたピエロだった。ピエロというのは比喩ではない。右目の下に星、左目の下に雫形のペイントを施した道化師のような風体の男だ。

 名前はヒソカ=モロウ。彼は原作において特に異彩を放っていたのでカオルもよく覚えていた。凄腕の念能力者で、強者と戦うことを至上の喜びとする戦闘狂。将来性のある者を見つけては敢えて殺さぬよう戦い成長を促し、強くなったところでもう一度戦う、など。とかく強者を探し出すことに余念がなく、そしてその者と戦うためには何でもし、それを自らの手で破壊することに倒錯的な快楽を覚える変人にして狂人がこのヒソカであった。

 

「いやぁ、まさかキミもこのハンター試験に来ていただなんて♦️これはもう運命なんじゃないかな♣️」

 

「生憎だけど、運命とか偶然とかは信じない主義なの」

 

 こうして第287期のハンター試験に来た以上、ヒソカがいることなど予め分かっていたことではある。が、そうと分かっていても気が滅入る。カオルはこのヒソカという男にこの上ない苦手意識を持っていた。

 

 先の会話から分かる通り、カオルがヒソカと会うのはこれが初めてではない。事は四年前、ようやく流星街を出て金が必要になったカオルは、手っ取り早く金を稼ぐために「天空闘技場」に赴いたのだ。

 天空闘技場───パドキア共和国と同じ大陸の東にある、勝者のみが上階に行ける地上251階、高さ991メートルの闘技場である。一日平均4000人の腕自慢がより高みを目指してやってくる、曰く「格闘のメッカ」、「野蛮人の聖地」。観客動員数は年間10億を超えるとも言われており、必然ファイトマネーも相応の大金が約束されている。腕に自信があるならば、金稼ぎにはもってこいの場所と言えるだろう。

 

 当然、それを知っていたカオルは真っ直ぐに(不法入国・不法渡航を繰り返しながら)天空闘技場に向かった。そのとき既に念能力の修行は一定の成果を見せており、十分通用するだろうと見越してのことであった。

 実際カオルは強かった。念能力も、ましてや鋼の脚を使うまでもなく並み居る闘士たちを鎧袖一触に薙ぎ払っていった彼女は調子に乗っていた。既に十分な金額を稼いでいたにもかかわらず、欲を出して200階以上……念能力者たちが犇めく魔窟に踏み込んだのだ。

 

 そしてカオルは215階にて出会してしまったのだ───"奇術師"ヒソカ=モロウに。

 

 カオルは頑張った。いよいよ鋼の脚も開帳しつつ応戦したが、トリッキーな動きで翻弄してくるヒソカを終始捉えられず。まともに攻撃を当てられたのは不意打ちじみた最初の一発のみで、あとは投げられ殴られ蹴られ弾き飛ばされ、散々にやられて敗走したのであった。

 別段自分が最強だと思っていたわけではないし、結局のところ戦士ではないカオルに敗北したことによるショックは殆どなかった。にもかかわらずその試合の直後転がるように闘技場を逃げ出したのは、カオルがヒソカに目をつけられたからであった。

 

 ───いいねぇ♥このまま食べちゃいたいぐらいの逸材だよ、キミ♠

 

 ねっとりと熱を孕んだ声音に、毒蛇のような視線。ヒソカに目をつけられることの恐ろしさをよくよく理解していたカオルは、顔を青褪めさせて脱兎の如く闘技場を去ったのだった。

 故に、本音を言うなら二度と会いたくなかった。しかし原作知識が活かせる唯一のハンター試験を逃すのも惜しい。第287期の試験を受けるか否か、天秤に掛けた上で実にひと月も悩んでいたカオルだったが、こうしてこの場にいることから分かる通り受験することにした。……何故なら、このハンター試験には極上の"生贄(スケープゴート)"がいるからである。

 

 ガコン、と音を立てて再びエレベーターが開く。内より現れたのは三人の男たち。カオルやヒソカを含め、多くの受験者たちの視線が彼らに向かう。

 

 一人は、エキゾチックな民族衣装を纏う中性的な容姿の金髪の青年───クラピカ。

 

 一人は、カジュアルに気崩したスーツに身を包み黒髪を短く刈り上げた男性───レオリオ=パラディナイト。

 

 そしてもう一人は───

 

(いよいよ、か)

 

 ツンツンと逆立った黒髪。闊達な笑みを満面に浮かべた、釣竿を肩に担ぎ純真さを感じさせる佇まいの少年───ゴン=フリークス。

 

 斯くして役者は出揃い、物語の幕が上がる。この場のどこかにいるであろう銀髪の少年も交え、彼ら四人にとり最初の試練が始まるのであった。

 

(来た、メイン主人公来た!これで勝つる!)

 

 それはそれとして。ヒソカの興味を一身に引き受けてくれるであろう、とある少年の来訪を心から歓迎しているどうしようもない転生者の運命もまた、ここに動き始めたのであった。

 

 




 続かないと言ったな、あれは嘘だ。

 ……というわけで、前話あまりにもHUNTER×HUNTER要素が少なかったのでメイン放ってお送りした第一話でした。
 作中主人公の"発"が一つ出てきましたが、念能力含め作者もよく分かっていない、あるいは勘違いしている設定も幾つかあるかもしれませんので、矛盾点等ありましたら教えていただけたらと。

 なお、みんな大好きトンパさんはヒソカと親しげ(?)に話す主人公を「こいつヤベー奴だ」と認定して近寄ってきませんでした。

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