実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい   作:ピクト人
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「仮称・寄生生物α、推定危険度B……ですか」

『左様、ワシが面談したところただの娘っ子にしか見えんかったが。生まれたときのことも覚えておらんかったようじゃし。しかしあの映像を見てしまうとのう』

「十二年ほど前にジャポンで起きた事件。突如一般女性の腹を突き破って現れたという、海生生物のような何かと、足を金属で覆った赤子の話ですね。私も少しですが耳にしました」

『うむ。あれ以降同じような事件は聞かぬし、感染するようなものでもないのかもしれぬ。が、もし大陸から来た新たな災厄だとすると捨て置けん、という意見も当時はあってな。結局見つからなかったわけじゃが』

「それと関係がある、あるいはそれそのものと思しき少女が第287期のハンター試験に現れたというわけですか。名前はカオル=フジワラ、でしたか?」

『うむ。監視員によると、謎の海生生物と金属の足も確認できたと。まあ、ワシとしては生まれながらに"発"に目覚めていた只の鬼才の持ち主であろうとは思うのじゃがな。歴史を紐解けば、そういう例はないではない』

「杞憂であれば良いですが……ともあれ承りました。私はそのカオル嬢が本当に人間であるか否かを調べればよろしいのですね?」

『無理はせず、ちょっと探りを入れるだけで良いがの。頼めるか、ウイングよ』

「他ならぬ貴方の頼みです。喜んで承りますよ───アイザック=ネテロ会長」



「……さて、新たなルーキーの裏試験に正体不明の少女の調査ですか。愛弟子のこともありますし、少々忙しくなりそうです」




白鳥、必死の説得。師を求めて来たるは天空闘技場の第四話

 

 天空闘技場一階のロビーが一触即発の空気に包まれる。しかし警戒感に駆られ気を立てているのはゴンとキルア、そして私だけで───突如現れた道化師の如き男、ヒソカはニヤニヤといつもの笑みを浮かべるだけだった。

 

「そう警戒しなくてもいいじゃないか♥ただ挨拶に来ただけだろう♠」

 

「どの口が言うのかしらね……顔に書いてあるわよ。先回りしていました、ってね」

 

「あら♦バレちゃった♣️」

 

 おどけるように肩を竦めるヒソカ。その仕草にイラっとするも、何とか怒りを抑える。もし挑発に乗って"纏"が乱れ、"秘密の花園(シークレット・ガーデン)"が解けてしまったら目も当てられない。

 

「ここに来るなんて誰にも言わなかったはずなのに、何でヒソカが……」

 

「覚えておくといい、電脳ページをちょっと悪用すれば個人の飛行船利用履歴ぐらい簡単に調べられるのさ♥」

 

 慄いたように声を震わせるキルアに、ヒソカはニヤニヤと嘯く。

 

 世界中に張り巡らされたネットワーク、「電脳ページ」。私の前世でいうところのGoo〇leのようなものだが、それと比較するとあからさまなまでに個人情報管理がガバガバなのが特徴だ。一方でプロハンターのみが入れる「狩人の酒場」などのサイトは情報管理がしっかりしているのだが、それ以外だと少し心得があればこうして簡単に悪用できてしまうのが実情であった。

 

 しかし、私たちの渡航履歴を調べてからここに来たのであれば先回りされるはずがない。原作でもゴンたちが闘技場攻略を始めてから数週間後にようやく現れていたはずなので、まだいないだろうと高を括ってここに来たのだが……まさか、こんな相違点が発生するとは。

 

「怖い顔して、嫌われちゃったかな♠」

 

 むしろ何故嫌われていないと思っていたのか。

 

「でも安心するといい♦今回のボクのターゲットはカオル、キミじゃない♣️」

 

 おや、と肩透かしを食らう私を押しのけ、ゴンが前に出る。その横顔には決意が滲んでいた。

 

「四次試験での借りを返しに来たぞ、ヒソカ!」

 

 ゴンは常の穏やかそうな表情をかなぐり捨て、柳眉を吊り上げ気炎を上げる。その闘志は鮮烈でありながら純粋そのもので、金剛石の如く強靭な眼光がただ真っ直ぐにヒソカを射抜いていた。

 ……ヒソカが気に入るはずだ。こういう()()()()のある獲物は奴の大好物だろう。

 

「うーんイイね♥相変わらずの純粋なオーラ♠でも……」

 

 ぞわりと身の毛のよだつ邪悪なオーラを一瞬漏らすものの、すぐに常態に戻ったヒソカはクルリとこちらに背を向けた。

 

「まだボクと戦うにはあらゆるものが不足している♦200階まで到達出来たら挑戦を考えてあげよう♣️なに、カオルがいるならすぐに強くなれるさ♥」

 

 そう告げてヒソカは去っていった。よもや本当に挨拶に来ただけだったとは……。

 

 ふと、ゴンが力強い眼差しで私を見上げている。未だ垂れ流しの状態ながら、滲み出るオーラは彼の気炎に同調して充溢し、清澄な輝きを放っていた。

 

「オレ、頑張るよ!だからカオルにも協力してほしいんだ!」

 

 見ればキルアも覚悟を固めた様子でこちらを見ている。無論、私もそのつもりだ。教えを授けるのは私ではないが、しかしできることは多々あろう。事ここに至り協力を惜しむつもりはなかった。

 

「なら、まずは200階に到達できる実力を示すことね。これは最低基準、全てはそれからよ」

 

「うん!」

 

「おう」

 

 力強く頷く二人の少年。未だ未熟な二人なれど、しかし才能の片鱗は既にして手に取るように感じられる。彼らはすぐに強くなるだろう。その一助となれるのであれば幸いだ。

 

 

 ……ヒソカと鉢合わせないよう、当初はウイングに二人を預けたらさっさと帰ろうと思っていたことは秘密である。

 

 

 

***

 

 

 

 天空闘技場にて求められるのは、リング上で発揮される純粋な腕力と戦闘技術、ただそれのみ。あらゆる過酷な状況下に対応できるような応用力が求められるハンター試験とは異なり、ここに複雑なものは何一つとしてない。

 

 苦境を切り開く奇抜な発想力など不要。小難しい仕掛けからなる罠など皆無。野生を生き抜く生存力など求められぬ。ただ眼前の敵を打ち砕く殺人技巧、鍛えた我が身一つで以て階層を踏破するのだ。

 

「クリティカルヒット&ダウン!勝者、ゴン!」

 

「クリティカルヒット&ダウン!勝者、キルア!」

 

 幼きファイターの勝利を告げる審判の声に、会場は大歓声に包まれる。ある者は純粋に勝利を称え、またある者は賭けに敗れ悲鳴を上げる。いずれにせよその熱気は凄まじく、ほぼ満員となった観客席は興奮の坩堝と化していた。

 

『素晴らしい戦いでした!どちらも一発!ただの一発で相手をノックダウン!"押し出し"のゴン!"手刀"のキルア!これからもこのファイターの活躍を見逃せません!!』

 

 (きざはし)を駆け上がれ。頂に手を掛けよ。二人が挑戦を始めてから僅か一週間、既に彼らは150階へと到達していた。

 

「……いやはや、素晴らしい才能の子たちだ。念を知らずにこの実力とは」

 

 ロビーに設置されたスクリーンに映し出されるゴンとキルアの戦闘映像を眺め、一人の青年がそう呟いた。

 年齢は三十代手前、といったところか。短く切り揃えられた黒髪に、穏やかそうに細められた目を覆うのは縁の薄い眼鏡。中肉中背の体格で、しかしズボンからはみ出したシャツの裾が全体的にだらしない印象を見る者に与えていた。

 

 誰ぞ知ろう。この人物こそ若くして免許皆伝を得、「心源流拳法」の師範代の看板を戴く一流の拳法家にして念能力者───ウイングである。

 

 ウイングは裏試験と呼ばれる、ハンター試験合格者且つ非念能力者に課せられる最後の試験の監督を請け負う者の一人であり、まさに今スクリーンに映し出されていた二人の少年に念を教授する役目を負っているのである。

 

「しかし……」

 

 うーむ、と低く唸りウイングは思い悩んでいた。果たして、彼らに念について教えてもいいものか、と。

 

 心源流には、「念の教え手として、教授する者は選ばなくてはならない」という考え方がある。念とは使い手を選ばない。多少の才能の多寡はあれど、誰にでも努力次第で修められる技術なのだ。念の根幹をなす「オーラ」とは、生きとし生けるもの総てに宿る生命の息吹なれば。

 故にこそ念は秘匿されており、悪しき者の知るところとならないように細心の注意を払い口伝で受け継がれている。ハンター試験の評価項目に「その者の人間性」が含まれているのは、つまりは篩いに掛ける意味があったのだ。

 

 では、翻ってゴンとキルアという二人の少年はどうか。

 結論を言えば文句なし。実力も申し分なく、すぐに念を教えても問題ないだろうと協会は判断していた。

 

 しかし───

 

「彼らは若い。いえ、若すぎる」

 

 十一歳という若年。普通なら親の庇護下で暮らしているべき年齢だ。そんな者らがあの過酷極まるハンター試験を突破───厳密にはキルアは違うのだが───したなど、ウイングは驚きを隠せなかったものだ。

 しかし、若いからとて念を教えてはならない理由にはならない。彼の現在の愛弟子であるズシもまた同じような年齢なのだから。

 

 真の問題は、彼ら二人が才能に溢れすぎているということにあった。

 

 ただでさえ彼らは子供であり外部からの影響を受けやすい繊細な年齢だ。そんな彼らが類稀なる才能を開花させたらどうなるか。

 このまま正しき道を歩んでくれるなら良い。しかしもし罷り間違って悪の道に踏み入ってしまえば───きっと、比類なき怪物を生み出してしまうに違いなかった。

 

 ウイングの中で葛藤が渦巻く。間違いなくあの二人は1000万人に一人という素晴らしい才能を持っている。そんな彼らの師となり成長の一助となれるのは幸運なことだ。運命の巡り合わせに感謝したいほどである。しかし自身の教えが至らず彼らが道を踏み外してしまえば、果たして将来生まれるであろう巨悪に対して一体どう責任を取れば良いのか。

 

「───どうかしら。アナタの目から見て、ゴンとキルアの二人は」

 

 カツン、と革靴が床を叩く音を耳にしウイングは我に返る。呼びかけられて振り返れば、そこには一人の少女が自信に満ちた微笑みを浮かべ佇んでいた。

 

「貴女は……」

 

「カオルよ。彼ら二人の同期で、今は賞金首ハンターを名乗っているわ」

 

 無論、知っている。何故ならウイングは、この少女についても調査するよう依頼されているからだ。

 

 カオル=フジワラ。本人の申告によると十八歳。確かに二十にも届かぬ申告通りの年齢に見えるが、しかし協会の懸念が正しければ十二歳であるはずの少女だった。

 協会の懸念。それは、十二年前にジャポンで起こった悍ましき事件───とある妊婦であった一般女性の腹を突き破り現れた、とある怪物の正体こそがこのカオルなのではないか、というものだ。

 

 事の発端は第287期のハンター試験での出来事。ヒソカという男に襲われたカオルが、鋼の具足と触手の怪物を以てこれに対抗したという報告が監視員によりなされたのだ。まさにこの鋼の脚と触手の怪物こそが、女性の腹を突き破ったものと外見的特徴が一致しているのである。

 

 特に触手の怪物がもたらす精神的な影響は大きく、記録映像として当時の事件を見たハンターが精神の不調を訴えたほどであった。念の使い手として超人となったプロハンターが、液晶越しに見たというだけなのにもかかわらずだ。

 この悍ましき生物の正体については全く情報がなく議論を呼んだが、あるハンターが「これは人間を苗床とする寄生生物ではないか」との見解を示したことで危険度が跳ね上がった。彼らは皆一様に暗黒大陸という人智及ばぬ魔境について知識だけとはいえ知っており、故にもしこれが暗黒大陸由来の危険生物であった場合、新たな災厄の一つとなり得ると恐怖したのだ。もしこんな悍ましい生物がパンデミックの如く増殖すれば、人間社会は大変な被害を受けてしまうだろう、と。

 

 しかしそんな心配は杞憂であるとばかりにこの十二年間なんの音沙汰もなく、次第に彼らはこの事件について忘れていったのだ。そんな中現れたのがこのカオルという少女である。

 

 監視員のハンターが提出した写真に映っていたのは、吐き気催す触手の怪物と白銀に輝く具足を纏って念戦闘を行うカオルの姿。直ちにその場に居合わせたネテロ会長と試験官のハンターたちとで例の事件の映像と比較したところ、寸分違わず同じものであるという結論が出されたのだ。

 人に寄生する触手の怪物と、人を溶かして養分とし急成長する魔人。もしこれが災厄となり得るのであれば捨て置けぬ。そう判断した彼らは、元々予定していた個人面談にてカオルという存在を推し量ることにしたのである。

 

『ふーむ。心音、血流の音、呼吸音、何より気配。どれも普通の人間のものにしか感じられぬのう。おそらく"纏"で身に纏っているであろうオーラは年齢にそぐわぬ密度じゃが、しかしそれだけじゃ。ワシの質問に対して嘘をついている様子は全くないし、そもそもあれは自分の出自を分かっておらんじゃろうな』

 

 それが個人面談で実際に相対し、言葉を交わしたネテロ会長が出した結論である。

 遍くハンターたちを統べるハンター協会、その長たるネテロの言葉は重い。故にその場にいたハンターたちは「危険なし」として一応の納得を見せた。カオルという少女は生まれながらにして念を操った、恐るべき鬼才を持っただけの只の人間である、と。

 

 しかし、それで本心から納得した者は少数であることを、ネテロ会長は鋭く察した。

 

『まあ、無理もないじゃろう。あれは確かに異様じゃ。映像越しですら、念で心を強く保たねば恐怖を感じてしまう……恐らく念獣の類であろうとは思うが、さて。ワシも長く生きてきたがあんな奇妙なものは初めて見るのう』

 

 その触手に捕らわれなければ実害はなく、しかし見た者に根源的な恐怖をもたらす。十二年前に「あれは暗黒大陸から来たのではないか」という証拠も何もない短絡的な結論に至ったのは、その場にいたハンターたちが少なからず恐慌を起こしていたからであろうとネテロ会長は推測していた。

 後からこの映像を見たウイングも同じく恐怖した者の一人だ。だからこそ会長の言葉であれ納得しがたいと思ったハンターたちの気持ちはよく分かった。

 故に、偶然天空闘技場にいたウイングに白羽の矢が立ったのだ。裏試験官としてゴンとキルアを見る傍ら、同行してくるらしいカオルについても探りを入れるようにと申し渡されたのだ。ネテロ会長だけでなく、師範代クラスの念能力者であるウイングもカオルを「問題なし」と判断すれば彼らの不安もある程度は払拭されるであろう、と。

 

 そして実際に相対してみて分かった。このカオルという少女は、至って善良なただの人間である。

 

「……ええ、実に。実に将来が楽しみな子たちですよ。私の愛弟子であるズシも大概ですが、しかし彼らはそれ以上の才能の塊だ」

 

「でしょう?なら、師として彼らを教えてみる気にはなったかしら」

 

 ウイングがゴンとキルアの二人を評価し褒めると、カオルは我が事のように喜び微笑みを深めた。オーラにも不自然なところはない。

 こうして他者を思いやれる少女が人ならざる怪物であるはずがない。ウイングは内心そう結論を下した。

 

 カオルに関しては今のところ大きな問題はなし。では話を戻して、ゴンとキルアに念を教授するか否かに関する問題であるが───

 

「……迷っているのでしょう?あの子たちに念を教えるのは時期尚早ではないか、と」

 

 己の思考を言い当てられ、ハッとウイングは顔を上げる。こちらを真っ直ぐに見据える、青き海原を写し取ったかのようなブルーの瞳と目が合った。

 

「アナタの懸念は尤もだわ。あの子たちは幼く、未だ善悪の境すら曖昧。キルアは年齢不相応に成熟している面もあるけど、ゴンはまるっきりお子様ね。悪を知らないわけではないけれど、でも実感としては薄いのでしょう。ヒソカのような自分を殺しに来るような者にすら本気の怒りや憎悪を覚えることはない……」

 

 ───即ち、己の価値観すら一変させ得る"絶望"を知らない。

 

 その通りだ、とウイングは得心する。二人は幼い。故に親しい者を殺されてしまうような恐怖と絶望を知らず、従ってそれに対抗する心の強さを持ち得ない。ウイングのような世界の残酷さを知る大人であれば、実感はなくとも「そういうものである」と諦観にも似た納得で己を律することもできるが、精神的に未成熟な彼らにそれは望むべくもないだろう。

 

 大人ですら、ときに復讐心や一時の怒りで我を忘れる。そして道を踏み外す。それが彼らのような子供であれば何をか言わんや。

 

「───でもね、それは彼らに対する侮辱でもあるわ」

 

「!」

 

「確かに彼らは子供。でも、一方で過酷なハンター試験を乗り越えた"ハンター"でもあるの。アナタが思っている以上に、二人は強い子よ。迷いもするし、ときに恐怖し怒りに我を忘れることもあるでしょうけど……それでも、最後にはそれを乗り越える"心の強さ"があると、私はそう思っているわ」

 

 ……そうだ、自分は何を弱気になっていたのか。ウイングは知らず弱腰になっていた己を恥じる。

 

 道を踏み外す?結構。ならば力尽くでも正道に引き戻せばよい。

 絶望に心折れる?決して折れぬ心を持った人間など存在しない。ならば、そのときは全力で力になってやればよい。

 

 そう、「教え」「導く」とはそういうものだ。それこそが責任というものであり、師が弟子に対して為すべき使命である。そも、大人が子供を信じてやらずにいてどうするのか。

 

「……彼らが道を踏み外したとき、私はどう責任を取るのか、そも責任など取れるのかと悩んでいました。何と見当違いなことで悩んでいたのか。ありがとうございます、貴女のお陰で目が覚めました」

 

「ん……面と向かってお礼を言われるとこそばゆいわね……」

 

 薄らと頬を赤らめ身を捩るカオル。やはり見れば見るほど年齢相応の人間らしい少女だ。こんなにも他者を思いやれる子が、何故あんなにも恐ろしい念獣を生み出したのか謎である。

 コホン、と咳払いをするカオル。すると彼女は一転、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それに、こう見えて私は結構強いのよ?彼らを念の道に踏み込ませた者の責任として、もしものときは私も力を振るいましょう」

 

 ───"練"───

 

 気づけば、人で溢れていたはずのロビーには誰もおらず。

 無人となったロビーを、莫大量のオーラが颶風となって駆け抜けた。

 

「なっ……!?」

 

 ビリビリと肌を打つオーラ。その何と力強きことか。自身のそれとは比較にならぬ密度の"練"が、目の前の少女の力量を如実に表していた。

 カオルの足を覆うのは鋼の具足。魚鱗の意匠が随所に見られるそれは、硬質な輝きを放ってその存在感を示している。

 

 カツン、と鋭いヒールが敷き詰められたカーペットを貫いて床を叩く。

 

「どう?念の技量そのものはまだ要修行だけれど、潜在・顕在オーラ量には自信があるの」

 

「これは───確かに素晴らしいオーラの波動だ……!」

 

 あるいは、ゴンとキルアが念能力者として完成すればこうなるのかもしれない。まるで己の師匠を思わせるような力強いオーラだとウイングは感嘆した。

 しかしふと思う。これほどの才能があるのなら、わざわざ己を頼らずともカオル自身が教えれば良いのではないかと。

 ウイングがそう尋ねると、"練"を収めて具足の具現化を解いたカオルは難しい顔をして唸った。

 

「それができればこうしてアナタを説得したりはしないわ。私は師匠を持たずに独学で念を修めたから、人に物を教えるのには不安があるのよ」

 

「それは……」

 

 それを聞いて、ますますカオルの正体が十二年前の事件の当事者であるということと、彼女が紛れもなく人間であるということの確信が深まる。

 師匠がいないのは、先達を頼るまでもなく念に目覚めていたからで。そして独学でありながらここまでの熟練度を見せたのは、彼女が生まれながらにして念獣や具足を具現化してみせるだけの鬼才を有していたが故である。ネテロ会長の推測は正しかったということだ。

 

 何と幸先がいい。早くも問題の一つが解決してしまった。自然と上機嫌となったウイングは、少年二人の師となることを改めて快諾するのだった。

 

 

 

 

 

 ───計画通り、と。後に自室でほくそ笑む少女がいたとかいなかったとか。

 

 




 何とか二人の力になってやりたい、と悩む心優しき()カオル。彼女は原作でウイングが二人を前に思い悩んでいたことを原作知識で知っていたが故に正確にこれを指摘し、そして見事彼の不安を取り除くのであった。~Fin.~

 べ、別に自分の手に余ることを他人に押し付けたわけじゃないんだからね!


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