実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい(本編完結) 作:ピクト人
鉄は熱い内に打つべし。作者のテンションが高く、インスピレーションが湧き出ている今の内にできるだけ話数を進めるのだ……。
実際問題、新学期が始まったのでそうまとまった執筆時間が取れなくなる可能性大なのです。
正面より飛来する大振りの拳を片手で打ち払い、反対の手で軽く突き飛ばす。そして間髪入れず背後より襲い掛かる手刀を身を捩って回避し、振り向き様に具足の脛部分で蹴り飛ばした。
「さあ、どんどん掛かってらっしゃい。休んでいる暇はなくてよ?」
「くそ、全然当たらないよ!」
「無闇に正面から行ってもダメだ!どうにかして隙を作り出すんだ!」
殴り掛かっては返り討ちにされ、不意を打っても敢えなく反応されまた返り討ちに遭う。手を出しあぐねて右往左往する二人の少年を観察し、私は思わず笑みを零す。
拳を握り、闘志を燃やし私を見据えるゴン。油断なく構え、鋭い視線で機を窺うキルア。両者ともに清澄なオーラをその身から放出しており、かつてのような無為に垂れ流しにされていたオーラとはもはや質そのものが異なっている。
───そう。二人は既に念に目覚め、拙いながらも四大行を修めつつあったのだ。
「行くぞ!」
それは宣言。私に対するものというより、自分に対して告げることでゴンは己を奮い立たせている。
ドン、と地を蹴って駆ける。小柄な体躯は地面すれすれを矢のように真っ直ぐに駆け抜け、下から抉るようなボディーブローをお見舞いせんと迫り来る。
「甘いわ」
それをヒラリと跳躍することで避ける。フェッテと呼ばれるバレエ特有の軽快な動きを捉えること叶わず、ゴンの拳は空を切った。そのまま一撃くれようと爪先の照準を拳を振り切った姿勢のゴンに定め───フッ、と側面より生じたオーラの揺らぎを感知し、瞬時に標的を切り替え踵を振り抜いた。
「くっそ、容赦ねぇな!」
悪態をついたキルアが迫る刃の如きヒールを慌てて避ける。もしまともに食らえば"練"のオーラ越しであっても肉を切り裂くそれを間一髪回避したキルアは、大粒の汗を散らして間合いを取った。
「惜しかったわね。でも念初心者にしては悪くない"絶"だったわ」
ゴンの攻撃を隠れ蓑に接近していたキルアは"絶"によって己の気配を隠していた。しかしやはりまだ未熟故か、攻撃の意に反応してオーラが漏れ出ていたのである。そのぐらいであれば"凝"を使わずとも察知してしまえる。
「やっぱりカオルは凄いや。オレたちの攻撃が掠りもしない」
「にしたって限度があるぜ。この状況で戦うのはやっぱり辛いな……」
ゴンとキルアの二人は滝のような汗を流しつつ激しく肩で息をしている。これは慣れない"練"の維持に体力を常より多く消費しているからというのも理由の一つだが、その極度の疲労の最たる原因となっているのは私である。
私はこの戦いの最中ずっと全力に近い"練"でオーラを顕在させており、ゴンとキルアの二人にプレッシャーを与え続けていたのだ。
念は生命エネルギーたるオーラに指向性を与えて人為的に操る技。それは使い手の込める想い、イメージの発露によってその性質を変化させる。何も意識しないニュートラルな状態であれば殆ど無色のエネルギーとして顕れるが、敵意などの攻撃的な意思と共に顕在するそれは重圧となって対象を襲うのだ。
そして度重なる修行とドレインによって増やしてきた私のオーラは、こと量だけなら最高位の念能力者たちにも引けを取らない。その全てが波濤となって敵意と共にゴンとキルアに向けられていたのだ。二人が感じていたプレッシャーは如何ほどのものか。
「一応言っておくけど、ヒソカのオーラはこんなものじゃないわよ。オーラ量なら私の方が上だけど、禍々しさと不気味さではあちらに軍配が上がる。まるで本人の"発"みたいに粘着質で、私も最初に会ったときは泥濘の中で戦っているような気分になったものよ」
そう、ヒソカのオーラはそこらの念能力者とは質が違う。桁違いに強力というわけではないが、しかし得体のしれない邪悪さを感じさせるオーラは相対した者に多大な精神的消耗を強いる。私がこうして無駄に多くのオーラを発しながら戦っていたのは、彼らに格上のオーラに気圧されない精神力をつけてもらうためだったのだ。
最初は可哀想なぐらい顔を青褪めさせていたキルアも、流石に慣れてきたのか当初よりは動きが良くなってきている。そして直接ヒソカと戦うことになるゴンは、このプレッシャーにも素早く順応して機敏に動き回っていた。
重圧に体力を削られつつも、普段通りのパフォーマンスを発揮するための訓練。それが私がウイングより任された「お手伝い」だった。
「はい、今日はここまでとしましょう。ゴン君もキルア君も、大変お疲れ様でした」
ぱんぱん、と手を叩いて訓練の終了を告げるウイング。それに応じて"練"を解くと、重圧から解放されたゴンとキルアはガクリと膝を折って座り込んだ。
「オーラ耐久訓練、時間にして35分42秒……いやはや、凄まじいものです。まだ念に目覚めて1ヶ月程度しか経っていないなど信じられないような成果だ」
ウイングが言う通り、これは普通ではあり得ない習得速度だ。30分もの間"練"を維持し続け、更に戦闘もこなす。しかも強大なオーラによるプレッシャーで精神を削られながらだ。これと同じことをこなせるようになるには、一般的な水準の念能力者であれば一年は掛かってもおかしくない。
二人が天空闘技場の200階層に到達してから一ヶ月。二人は順調に、そして驚異的なペースで念を我が物にしつつあった。
「200階以上の試合に設けられる準備期間は90日……最長あと60日ほどですか。しかしこの調子であれば、最低限は仕上げることができるでしょう。これもカオルさんの協力あってこそです」
私ではあれほどの出力でオーラを放出し続けることはできませんからね、とウイングは笑う。確かに彼の潜在オーラ量は豊富とは言い難く、今し方の訓練のような無茶なオーラ放出での長時間戦闘には耐えない。
しかし、それはウイングの力量が劣っていることを意味しない。むしろオーラ量が豊富ではない分、彼は必要最低限のオーラのみを使用した的確なオーラの運用を得意としていた。その繊細な技量は私の及ぶところではない。一切の無駄なく繰り広げられる彼のバトルスタイルは、いっそ芸術的ですらあった。
しかしまあ、褒められて悪い気はしない。こうして実際に貢献できているわけであるし、その賛辞はありがたく頂戴しておくことにする。
「ありがとう、そう言われると自信が持てるわ。でも、これだけ順調に進んだのはアナタの教え方が上手だったからよ」
ウイングの師匠であり、あのネテロ会長の弟子でもあるビスケット=クルーガー曰く、彼は「覚えの悪い弟子」であったらしい。どうもあまり要領は良くなかったようだ。
しかし、だからこそウイングは教え方が上手い。感覚で一足飛びに念を習得していく天才肌と違い、彼には一からコツコツと積み上げていった経験がある。故に、その経験に基づいた理論を順を追って丁寧に教授することができるのである。
やはり変に意地を張らず彼を頼ったのは正解だった。お陰でゴンたちはメキメキと上達していったし、私自身も学ぶことが多かった。大変有意義な時間であったと言えよう。
───ウイングにゴンとキルアの念習得の師となることを了承してもらってから一週間、二人には引き続き階層を攻略させつつ、空いた時間で念についての学習を進めさせていた。
四大行という念についての基本から、精孔を開くための瞑想など。原作では駆け足で進める羽目になったことを余裕を持って行うことができたのである。
特に無理矢理精孔を開くような事態にならなかったのは喜ばしい。原作では二人の類稀な才覚によって事なきを得たが、あれは本来非常に危険なものなのだ。ウイングも断腸の思いでその行為に踏み切ったに違いない。
とまれ、理想的な念の学習を進めていった二人は順調に力をつけ、今や"発"以外の行は全て及第点を与えられるレベルまで達している。それを察したのかヒソカによる妨害は起こらず、200階に到達してすぐにエントリーすることができたのだ。こうして与えられた準備期間を利用し、最後の仕上げに取り掛かろうとしている。今し方の対ヒソカ戦を想定した耐久訓練もその一環だ。
「すごいッスよゴンさん!キルアさん!自分、あんな恐ろしいオーラの中でああも動ける気がしないッス!」
「えへへ、まあ結局手も足も出なかったけどね」
「あー、しんどい……ズシも一度やってみたらどうだ?案外何とかなるかも。というかオレたちの苦労をお前も味わうべきだぜ」
「え、遠慮しておくッス……自分、まだ30分も"練"を維持できないので……」
ウイングの愛弟子であるズシと和気藹々と談笑する二人を見て思う。彼らの念は既に初心者の域を脱していると。恐らく並の200階闘士よりも練度は上であろうと判断して問題あるまい。
そう思ったのはウイングも同じだったのか。暫し二人を鋭い視線で観察した後、彼は備え付けの棚からグラスを取り出し、ピッチャーから水を注ぎ始めた。
「……いよいよ"発"の修行を始めるのね」
「ええ。ズシを含め、彼らは素晴らしい成長を見せてくれました。そろそろ次のステップへと進むときでしょう」
なみなみとグラスに注がれた水の上にそっと葉を浮かべるウイングを尻目に、私はクルリと背を向け部屋を後にする。
「おや、見ていかれないので?」
「そうしたいのは山々だけど、少し所用がね。ついでに汗も流したいし、私はここで失礼するわ」
そう告げ、ひらひらと手を振って部屋を出る。
これから行われるのは個人の系統を判断する「水見式」だ。結果は予め分かっているとはいえ、原作でも有名なワンシーンに居合わせたいと思う気持ちはないではない……が、しかしどうやら私に用がある者がいるらしい。後ろ髪を引かれつつも、私はその場を後にした。
「やあ、こんなところで会うなんて奇遇だね♥」
「ふん、白々しい。アナタが私を呼んだんでしょうが」
廊下の壁に寄り掛かって立つヒソカに険しい視線をくれる。ゴンたちの水見式を見逃してまで私が会いに来たのは、忌々しいことにこのヒソカだった。
「二人との模擬戦中ずっと殺気を寄こしておいてぬけぬけと……しかも私にだけ送りつけるなんて器用な真似して、何のつもりかしら?」
「だってしょうがないじゃないか♠あんな素敵なオーラを出されたらボクじゃなくても昂っちゃうさ……♦」
お前に向かって放っていたんじゃねーよ、と内心毒づく。妙に頬が上気していると思ったらそんな理由で興奮していたのか、この変態は。
「───ところでどうだい、ゴンの様子は?訓練は順調かな♣️」
「アナタに心配される謂れはないわ。もう"発"以外は及第点レベルにまで仕上がっている……これでもまだゴンからの挑戦は受け付けないのかしら?」
「へえ……♥」
それはそれは、と不気味な笑みを深めるヒソカ。ニヤニヤと笑う彼はピッと人差し指を立てると私に告げた。
「ゴンに伝えておいてくれ♠"キミの挑戦を受け付ける。日時はそちらで決めてくれて構わない"……ってね♦」
「あら、直接自分の目で仕上がりを確認しなくていいの?」
「カオルが及第点って言うんだ♣️ならそれは確かなんだろう♥」
それだけ告げてヒソカは背を向けて立ち去ろうとする。どうやらそれを伝えたかっただけらしい。
「あ、そうだ♠」
ふと思い出したように声を上げて立ち止まる。顔だけをこちらに向けてヒソカは首を傾げた。
「200階に到達したばかりのルーキーを狙う奴らがいただろう?本当ならゴンたちの試金石として宛がおうかなって考えていたんだけど、どうも最近姿が見えないんだ♦知らないかい?」
「ああ、新人ハンターのこと?」
ヒソカが言っているのはサダソ、ギド、リールベルトの三人のことだろう。原作ではズシを人質に八百長の試合をゴンとキルアに吹っ掛けていた三人組。勿論ここにもいたのだが……特に私から言うことなどない。
まあ強いて言うとすれば。
「さあ?あんな壁にすらならないような半端者たちは知らないわ。
───でもまあ、もしかしたらどこぞの路地裏で醜いスライムになって果てたかもしれないわね」
一言、ご馳走様でした、とだけ。
『す、凄い試合だァー!展開が早すぎて、実況が追いつきません!!』
実況席からヤケクソ気味の悲鳴が飛び、観客は熱狂に歓声を上げる。
広大な闘技場の中央に鎮座するリングの上。そこではゴンとヒソカが激しい攻防を繰り広げていた。
普段の試合では決して本気を出そうとはせず、パフォーマンス重視の試合展開を好むヒソカ。そんな彼だがこの試合に限り初めから肉弾戦による激しい立ち回りでゴンを翻弄し、観客を盛り上げていた。
対するゴンもまた激しく動き回り果敢にヒソカへと挑みかかる。200階までの全ての試合を張り手一発で勝ち進んできた彼の本気の発露。その機敏な動きを観客は目で捉えること叶わず、しかし白熱したその戦いに歓声を上げている。
『変化系は気まぐれで嘘つき♥キミはボクを失望させないでくれよ♠』
───でないと、殺しちゃうかもしれないからね……♦
その言葉に応と気炎を上げたゴンの奥の手、「石板返し」による目眩ましからの不意打ちがヒソカに直撃する。
その一撃を以て四次試験での借りを返したゴンから因縁の
ゴンから一撃貰うまで一歩もその場から動くことのなかったヒソカ。その彼が遂に動く。ぞわり、と悪寒を感じ取ったゴンが身を翻すや、直前まで彼がいた場所をヒソカの蹴撃が襲った。
『な、何という威力の蹴りだ!ヒソカ選手、蹴りの一発で石板を場外まで吹っ飛ばしましたァー!?』
ズズン、と無残に砕かれた石板が落下する。ゴンが両手で持ち上げたリングの石板を、ただの蹴りの一撃で吹き飛ばす。その変化系とは思えぬ威力の攻撃を見た観客席のウイングは息を呑み、カオルは顔を顰めた。
「何という威力!やはり今までのヒソカは一度として本気を出してはいなかった……!」
リングの上では、俊敏に動くヒソカが逃げ回るゴンに張り付いて離れない。ヒソカを振り切ることのできないゴンは次々と攻撃を食らっていく。
カストロ戦では見ることのできなかったヒソカの本領発揮。ウイングは戦慄し、その威力の攻撃を過去に何度も受けた覚えのあるカオルはますます渋面を作った。
(ダメだ、逃げてばかりじゃ何もできない!)
一方、最初とはスピードも一撃の威力も何もかもが様変わりしたヒソカの動きについていけないゴンは焦燥を露わにする。目では追えるが、身体が追いつかない。彼我の戦力差が、残酷なまでに両者の間に横たわっていた。
「フフフ……そんなに離れてちゃあ攻撃できないよ♣️さあ、こっちへ来るんだ♥」
クイ、とヒソカが人差し指を動かす。その動作に嫌な予感を覚えたキルアが叫ぶ。
「ゴン!"凝"だ!」
「!」
ハッとそのことを忘れていたゴンが両目にオーラを集め"凝"を施す。しかしもう遅い。いつの間にやら頬に張り付いていた念糸が伸縮し、勢い良くゴンを引き寄せ始めたのだ───大きく振りかぶった右拳を構えるヒソカに向かって。
「"
───良く伸び、良く縮む♦付けるも剥がすもボクの意思次第さ♣️
ゴッ、と激烈な右ストレートがゴンの頬に突き刺さる。あまりの威力にゴンの脳が揺れた。
「ガッ、ハ……!?」
「Stand up、ゴン♥」
クイックイッ、と挑発するように"
「ッ、ぐぅ……!」
『あーっと!ゴン選手、立ち上がったものの大きくよろめいている!やはりダメージは大きかったのかー!?』
悔しいが実況の言う通りだ。生まれ持った強靭な肉体を以てしても、今の一撃は甚大なダメージとなってゴンの体力を蝕んでいた。
ゴンは歯噛みする。分かっていたことだが、ヒソカはあまりに強かった。今の自分では勝てるビジョンが見えない。
しかし───
(けど、諦めるわけにはいかない!)
ゴンは知っている。ヒソカと同等の実力を持つ、自らのもう一人の師とも言うべき人物。白鳥のように華麗に舞い、
結局一度としてまともに攻撃を当てることもできず、キルアと共に転がされ続ける訓練の日々だった。しかしその戦いは確実にゴンを成長させ、格上と戦うにあたり必要不可欠となる忍耐力を彼にもたらしていたのだ。
まさに不撓不屈。ゴンは気合一つで動揺から立ち直り、苛烈な闘志の光をその瞳に宿し宿敵を見据えた。
「ああ……♠」
その強烈な意志、不死鳥の如き精神の発露を目の当たりにしたヒソカは感嘆の吐息を漏らす。
「逃げられないなら、向かうまでだ!」
ドン、と地を蹴り距離を詰める。ヒソカ目掛け駆けるゴンの姿は、まるでその意志のように真っ直ぐだった。
「嗚呼、ゴン……!」
ヒソカは真っ直ぐに己を見据える少年の瞳を見る。一切の邪念のない、曇りなき眼が我が身を貫いた。
「イイ……♦キミ、凄くイイよ♣️」
その瞳、その表情、その心意気。その全てがヒソカ打倒の意志を物語っている。
「今すぐキミを───」
───壊したい……♥
そして、遂にヒソカの本性が姿を現す。
迸るは邪悪なるオーラ。それはまるで奈落の底に蟠る悪意の淀みのようで、道化師はその昏いオーラの波動を抑えることなく総身から放出した。
「……ッ!」
それに一瞬気圧されるゴンだが、しかし強大なオーラの中での戦闘は散々訓練させられた。動揺は最低限に、立ち止まることなく拳を振りかぶる。
そして、ヒソカはその拳を避けることなく受け入れた。
「ああ、でもダメだ……もっと、もっと、もっと……!」
念で強化された拳の連撃が襲う。ここぞとばかりにラッシュをかけるゴンの拳を受け入れながら、しかし邪悪なオーラはいや増すばかり。
「崩すのが勿体なくなるぐらい、熟れてから……」
ヒソカの脳裏に描かれるイメージは、高く積み上げられたトランプタワーだ。高々と聳えるそれは、輝かしき努力の結晶、成長の証である。
それを自らの手で崩し、破壊する。何と甘美なことか。
「高く積みあがるまで、我慢……!」
グッ、と引き寄せられ身体が泳ぐ。再び引き寄せられたゴンは強烈な右拳を貰うも、しかし何とか交差させた腕でガードすることに成功する。
(よし!"
「両者、クリティカル!プラス2ポイント!プラスダウンポイント、ヒソカ!」
「えっ!?」
「トータル、ヒソカ9ポイント!ゴン、4ポイント!」
「ダウンじゃないよ!すぐ起きたし、ガードしたもん!」
これからだ、と意気込みを新たにしたところでの不本意なジャッジ。ゴンは思わず異議を唱えるも、しかし審判は首を振り判決を撤回しようとはしない。
(拙い……これだと後1ポイントでも取られたらお終いだ……!)
「フフフ……油断大敵だよ♦右の方を見てごらん♣️」
唐突にそう言われ、素直なゴンはバッと右に顔を向けてしまい───そして、突如左側から飛来した岩が側頭部に直撃した。いつの間にか"
「ああ、ごめん♥ボクから見て右の方だった♠」
ぬけぬけとそう嘯くヒソカ。しかしこれは、言い訳の余地なくまんまと敵の術中に嵌ったゴンの不覚。まさに"奇術師"の面目躍如だった。
「ダウン&クリーンヒット!プラス2ポイント!11-4!TKOにより───勝者、ヒソカ!!」
無情にも告げられる試合終了の判決。ここにヒソカの勝利と───ゴンの敗北が定まったのだ。
フッ、と笑ったヒソカはゴンに背を向ける。リングから立ち去りながら、ヒソカは呆然と座り込む少年に告げた。
「大した成長だ♥でもまだまだ実戦不足♠あと十回くらい戦えばいい勝負ができるだろうが、しかしそれは天空闘技場の中での話……」
───だからもうキミとはここで戦わない♦️次はルールなしの真剣勝負の世界で、命を懸けて戦おうじゃないか♣️
それだけ言い残し、ヒソカはリングを去った。後に残されたゴンは悔し気に唇を噛み締める。
遠い……今のゴンにとって、その背はあまりに遠かった。未だ影すら踏めはしないのだと思い知らされた。
「けど、届かないわけじゃない……」
グッと拳を握り締める。屈辱に震えながら、しかしそれ以上の決意を胸にゴンは前を向いた。
「もっと念を磨いて、次こそはヒソカに勝つ!勝ってみせる───!」
斯くして、少年の戦いはここに幕を閉じる。しかしこの敗北を糧に、少年は新たなステージへと踏み出そうとしていた。
ゴンVSヒソカ戦。結果は原作と変わらず、しかし作者の好きなシーンだったので飛ばさず最後まで描写しました。