実に下らない話だが、神はダイスを振るらしい(本編完結) 作:ピクト人
私は知っている。かつて感想欄にて、「主人公は旅団みたいな外道集団とは安易に仲良くなって欲しくない」というニュアンスの感想に多くのGoodが付いていたのを……!
旅団メンバーは作者も好きなキャラクターたち。正直ギリギリまで迷っていたが、もはやこのピクト人、容赦せんッ!
旅団死すべし、慈悲はない!(但し前半戦)
それは、まさに一方的な蹂躙であった。ヨークシンシティの郊外に広がるゴルドー砂漠の一角にて、ウボォーギンは追手のマフィア相手に暴虐の限りを尽くしていた。
「オオオオオオオオオオッ!!」
足踏み一つで大地を揺るがし、拳の一撃、蹴りの一撃悉くが人体を破壊して余りある威力を誇る。鎧袖一触とばかりに敵を蹴散らし、それは「陰獣」相手でも変わらない。
陰獣“
陰獣“
陰獣“
陰獣“
裏社会を統べる「十老頭」が誇る最高戦力であってもこの有り様。それは正しく、「誰よりも強くあること」を己に課す力の権化が齎す破壊。幻影旅団随一のパワーファイター、ウボォーギンによる蹂躙劇であったのだ。
「何なのだ、あれは……」
現場から離れた岩陰にて、ノストラードファミリー護衛団のリーダー、ダルツォルネが戦慄に声を震わせる。それに内心同意しながらも、クラピカは双眼鏡で狂獣の様子を冷静に観察する。
(あれがウボォーギン……“蜘蛛”一番の怪力を有する強化系念能力者か)
カオルから予め全団員の情報については聞いていたが、それでも驚愕を隠せない。あれは間違いなく、クラピカが見てきた中で最強の念能力者だ。
これが“蜘蛛”。これが幻影旅団。まともにぶつかってはまるで勝てる気がしない。
(ならば、まともにぶつからなければ良いだけのこと。力比べによる正面戦闘だけが戦いではない)
初めからここにいるのが幻影旅団であると理解していたクラピカは、心の準備ができていただけあって幾分冷静だ。臓腑の底で蠢く憤怒に蓋をし、努めて冷静に戦局を俯瞰する。
「どうするんですか、リーダー。あんな化け物、俺たちが束になって掛かってもどうしようもありませんぜ」
「ううむ……」
ウボォーギンの戦闘力を前に完全に戦意喪失した様子のスクワラの問いに、ダルツォルネは難しい顔で唸る。功名心が強く、オークション会場襲撃の犯人を捕らえることに躍起になっていた彼といえど、あの狂獣を相手にどうにかなると考えるほど驕ってはいなかった。
「ぬうぅ……口惜しいが、撤退するしかあるまい。スクワラの言う通り、あれらは我々の手に負える相手ではない」
妥当な判断だ。異を唱えるべくもない冷静な決断。しかし、クラピカはここで引くわけにはいかなかった。
「……お前たちだけで撤退してくれ。私はここに残る」
「な……待てクラピカ! どうする気だ!?」
「無論、奴を……“蜘蛛”を倒すのだ」
それだけ告げるとクラピカは旅団のいる砂漠に向かって歩き出す。それに慌てたのはリーダーであるダルツォルネだ。彼はリーダーとして、部下を生きて帰す責任があるのだ。
「無謀だ! あの怪物を相手に一人で行くなど、自殺行為だぞ!」
「無謀であれ何であれ、私は行かねばならない。それに……」
クラピカは手に持っていた双眼鏡を投げ渡す。慌ててそれを受け取るダルツォルネを促し、旅団が屯する場所を指差した。
「私は一人ではない。他力本願というのは業腹だが、強力な助っ人が一人いるのでな」
その指が指し示す先では、ある異変が起こり始めていた。
「これはマダライトヒルですね。丸一日かけて人畜の膀胱に辿り着き、卵を産むと死ぬんです」
「おう、それで?」
「卵はすぐに孵化して尿と共に排出されますが、そのときの痛みは死に値するとか」
「おいおいおい、冗談じゃねぇぜ……」
陰獣“蛭”に植えつけられたヒルについて解説するシャルナーク。その説明を聞いてウボォーギンは顔を顰めた。対戦車バズーカの直撃を「ちょっと痛い」で済ませるウボォーギンであっても、流石に中からの痛みには参ったらしい。
ただし、とシャルナークは続ける。このヒルが孵化するためには安定したアンモニア濃度が必要であり、濃度が低いと卵は無痛で排出されてしまうのである。
「つまり?」
「これから明日の今頃まで休まずがぶがぶビールを飲み、どんどん排出すること!」
「何だよ、脅かさずにそう言えぃ!」
そうなればむしろご褒美である。途端に上機嫌になったウボォーギンは打ち込まれた神経毒を吸い取ってもらうべくシズクを呼ぶ。それに頷いたシズクが歩み寄ろうとした、そのとき───
───
───
それは歌声。鈴を転がすような美声による歌が夜の砂漠に響き渡る。
───
───
バッとシャルナークが懐から携帯電話を取り出す。正体不明の歌声はまさにそれから響いていたのだ。
「どうしたの? 誰からの電話?」
「いや……馬鹿な、この携帯にこんな着信音は設定されていないはず───」
その携帯はシャルナークの“
「ッ!? シャル、あんた!」
「え?」
目を見開いたマチが声を上げる。ぼたり、と携帯の画面の上に青い粘液が滴り落ちた。
「え、え? 何だ、何か変だ。何かがオレの中に……」
ぼたり、ぼたり、と絶え間なく滴り落ちる青い雫。それはシャルナークの目や鼻、口の端から次々と流れ出していた。
───
「み……皆オレから離れろッ! 何かが、何かが流れ込んで、で、ででででdddddddddddddd」
───
パンッ、と破裂する。内側から溢れ出した青い液体の濁流によって、シャルナークの身体は木っ端微塵に弾け飛んだのだ。
「な───」
団員たちが突然の事態に硬直する中、毒々しいまでの深い青色をした液体は寄り集まり、一つの形を作り出す。
「ふふふ……」
渦を巻くようにして集う液体に撹拌されるシャルナークだったものの肉片。それは徐々に溶けていき、やがて完全に青に呑み込まれ消滅した。
「ふふ、あはは、あっははははははははははハハハハハハハハハハ───!」
哄笑が響き渡る。天上の調べも斯くやというその美声に込められたのは、ありったけの嘲り。
水流が集う。それは
「Ia,Ia……さあ、涜神の宴を始めましょう、“蜘蛛”の皆々様。不肖このカオル=フジワラが催す死と退廃の饗宴を、どうか心行くまで満喫されますよう!」
今宵、彼らは知るだろう。真の恐怖を。真の冒涜を。
───そして、真なる簒奪者の姿を。
「カオル=フジワラだと!?」
「それって、さっきシャルが言ってた賞金首ハンターじゃ……」
突然に、それも仲間の身体を突き破って現れた少女の姿にその場の全員が気色ばむ。鋼の具足を打ち鳴らし、少女───カオルは嫣然と微笑んだ。
「ふふふ……ひい、ふう、みい……あら、やっぱり六人しかいないのね。折角予め挑発しておいてあげたのに、残念」
「お前、何をしたね。シャルナークは一体……」
「フェイタン、ね。何だっけ、『アンテナ刺されて気づかないようなマヌケ』だったかしら?」
「ッ!?」
鋭い視線でカオルを睨みつけるフェイタン。しかし直後に告げられた聞き覚えのある台詞に硬直する。
「お間抜けさん! 私は気づかなかったのではなく、気づかなかった振りをしていたのよ。この身は変幻自在の流体、何にだって染み込む蜂。私に潜入するということは、私も潜入してくるということ」
操作系、具現化系、あるいは特質系。この身に干渉するもの悉くが都合の良い侵入経路であると少女は嗤う。それを聞いた団員は血相を変えた。
「じゃあまさか、シャルがアンテナを刺した時点で……!」
「ご明察、能力を発動せずとも繋がりができた時点でもう手遅れ。毒となった私はずっとあの男の中にいたわ。……さあ、答え合わせはもう十分でしょう? なら踊りましょう!
「黙れ」
斬、と刀が振り抜かれる。居合の術理によって高速で飛来した白刃は、過たずカオルの首を切り落とした。
ゴトリと地面に転がる少女の首を一瞥し、居合の張本人であるノブナガはフンと鼻で笑った。
「敵を前にお喋りとは油断しすぎたな。それで死んでちゃあ世話ねえぜ」
「いいえ、これは油断ではなく余裕というのよ」
転がった生首が流暢に喋り出す。ぎょっと目を剥くノブナガをせせら笑い、首だけとなったカオルはメリメリと音を立てて口端を歪める。ぎょろりと眼球を蠢かせ、耳まで裂けた口を大きく広げた。
「Ia,Ia……Gyiiiiiii───!!」
ごばぁ、と口内から青黒い触手が飛び出す。それは弾丸のような速度で伸縮し、呆然とするノブナガの首に巻き付いた。
「ガッ……!」
「ノブナガ!」
咄嗟に仕込み刀を抜いたフェイタンが絡みつく触手を切り裂く。触手は簡単に切断され、断面から腐臭を発するどす黒い血が流れ出した。
「何なんだコイツ、気持ち悪ぃ」
「言ってる場合、フランクリン!? 気をつけなよ、コイツきっと本体じゃない!」
如何にもその通り。ここにいるのはカオル本人ではなく、メルトウイルスが生み出したコピー体。
そして海魔へと変じたのは頭部だけではない。残った胴体も形を崩して内側から裂け、更に三体の海魔を生み出した。
『Gyiiiiiii───!!』
硝子を引っ掻くような奇声を上げて飛び掛かる海魔たち。それを旅団のメンバーは各々の方法で迎え撃った。ノブナガは刀で。フェイタンは唐傘と仕込み刀で。フランクリンは腕力と念弾で。マチは針と念糸で。シズクは「デメちゃん」という具現化させた掃除機でそれぞれ応戦する。
そしてウボォーギンは───
「う、うおおおぉぉぉ!?」
「ウボォー!?」
突如岩陰から飛来した鎖に雁字搦めにされ引き上げられる。ドップラー効果すら伴う勢いでフェードアウトしていくウボォーギンに慌ててフランクリンは視線を向けた。
敵が何をしてくるか分からぬ状況で孤立するのは拙い。フランクリンは念弾を吐き出す指先の照準を鎖に合わせようとし───
「“
「ガッ……ハ……!?」
ずぶり、とフランクリンの胸から巨大な棘が突き出した。“絶”で気配を絶った本物のカオルが背後から迫り、膝の棘で串刺しにしたのである。
そして変化はたちまち現れた。貫通した棘を中心に青が侵食していき、やがてそれが身体全体に及ぶやぐずぐずと輪郭が崩れて毒々しい色の
唖然とする団員たちには目もくれず、カオルは嬉々として鋼の脚をフランクリンだったものに突き刺した。踏み躙るようにして何度も何度もストンピングを繰り返し、やがて粘体は体積を減らしていき完全に消え去った。
「ああ……ご馳走様でした」
吸収されたのだ、と気づいたときにはもう遅い。シャルナークに続いてフランクリンまでもが死んだのだ。人としての形すら保てず、醜い粘液になって尊厳も何もかも踏み躙られて。
ぶちり、と血管が裂ける音が響いた。
「てめええええぇぇぇぇ───ッ!!」
激発したのはノブナガだった。旅団のメンバーとは意見の食い違いからよく諍いを起こしていたノブナガだが、本質的には仲間想いである彼は“蜘蛛”の結成当時からの仲間であったフランクリンの死を目にして一気に怒りが振り切れたのだ。
仲間たちの制止の声を無視し、斬っても斬っても自らの血から再出現し続ける海魔を振り切って駆け出した。腰の刀に手を添え、狙うは一点、憎き女の首ただ一つ。
「じゃ、早速使ってみましょうか」
そう軽い調子で告げたカオルが両手を前に突き出し、揃えた指先をノブナガに向けて構えた。そのあまりに見覚えのある構えに目を見開くノブナガを尻目に、カオルの莫大なオーラが指先へと集う。
「俺……いえ、“
ドドドドドドドドドッ!!! と凄まじい威力の念弾が連続して放たれる。それは紛れもなくたった今殺された仲間の念能力、フランクリンの“発”に違いなかった。
「な……馬鹿な!?」
両手の五指から放たれる念弾の威力は凄まじく、着弾する度に爆炎と共に地を抉る。混乱するノブナガはそれを必死に身を捩って回避するも、精彩を欠いた動きで弾幕と化したそれを避け切ることはできない。あわや直撃するかと思われた次の瞬間、身体に絡みついた念糸がノブナガを引っ張り上げた。
「マチか!」
「馬鹿、一人で突っ込んでるんじゃないよ!」
間一髪蜂の巣にならずに済んだノブナガは短く礼を告げる。大切な仲間を失ったとはいえ、しかしノブナガは死と隣り合わせの世界を生きてきた猛者。一度冷静になれば切り替えは早く、ようやく冷えた頭で怨敵に向き直った。
「うーん……微妙ね、コレ」
一方、カオルは自身の手と弾幕による破壊痕とを見比べてそんなことを言った。
フランクリンの“
加えて、カオルの鋼の脚は非常に鋭く尖った足先をしている。これは常に爪先立ちをしているようなものであり、“
そういった諸々の理由を鑑みての「微妙」という評価。しかしそんなことを知る由もない団員たちは仲間の能力を馬鹿にされたことで額に青筋を浮かべた。
「……絶対殺すね」
「糞が、それがアンタの能力かよ」
フェイタンの目が剣呑に細められ、ギリギリと歯を食いしばるマチが血を吐くような語調で詰問する。
怒りに思考回路が焼け付きそうになりながらも、しかし彼らは冷静さと警戒感を失わない。何故ならこの賞金首ハンターの少女は明らかに他者の能力を奪い取っていた。自身の系統も何もかも無視して奪った他者の“発”を自在に使いこなすその様は、まるで彼らが団長と慕う男そのもののようで───
「そうよ、これが私の力。どろどろに溶かして殺した相手の能力を奪う絶対の吸収能力!」
───名付けて、“
カオルが有する三つ目の“発”。彼女のid-es「オールドレイン」で吸収した相手の情報から念能力のみを抽出し奪い取る特質系の能力である。
相手を溶かし吸収すること自体は念能力とは何ら関係のない彼女自身のスキルなので、クロロのように複雑な手順を踏む必要はない。この“発”は、本来スキルや特殊能力といったカタチのないものを吸収できないオールドレインを強化し、念能力にのみ的を絞って抽出するだけのものだ。念能力としては比較的規模の小さいものだろう。
故に小難しい制約も誓約もない。いつもの戦闘スタイルの延長で容易に発動でき、従って今し方のようにドレインしてすぐに使用することもできる。
パラメーターはおろか、レベル、パーソナリティすら奪うオールドレイン。それに加え、ドレインでは実現できない相手の能力をも奪う“
「理解したかしら? なら跪きなさい、そうすればせめて楽に殺してあげるわ」
「ハッ、もう勝った気でいるのかよ。不意打ちで二人殺ったからって良い気になってるんじゃねぇぜ」
「……こっちは四人。四対一」
殺した相手の能力を奪い使役する能力。確かに恐ろしいが、ならば殺されなければいいのだ。
四対一という数の差で有利を取り、袋叩きにする。もはや動揺に囚われていた最初のようにはいかぬと四人は意気込み───じゃり、と砂を踏みしめる足音が彼らの背後から聞こえてきた。
「───四対一? 違うな、四対二だ」
現れたのは金髪の青年。どこか異国情緒漂う民族衣装に身を包んだその青年はどす黒い怒りの念を全身から溢れさせており、深紅の双眸が熾火のように炯々とした光を放っていた。
「遅かったじゃない、クラピカ」
「済まない、少し手間取った。どうも最低限の解毒は終えていたらしくてな」
金髪の青年───クラピカはカオルを一瞥すらせず残った旅団に怒りの籠った視線を向け続けている。
その手に鎖が巻き付いているのを見て取ったノブナガは、その青年こそが先ほどウボォーギンを連れ去った張本人であると察した。
「てめえ、ウボォーギンはどうした!」
「殺した」
ノブナガの問いにクラピカは至極淡々と答える。ジャラリ、と中指の指輪から伸びる鎖が蛇のように蠢いた。
「な……嘘を吐くんじゃねえ! ウボォーギンがテメエみたいなガキにやられるはずが……!」
「嘘ではないさ。かつてお前たちがしたように、情け容赦なく殺してやったとも」
ジャラジャラと鎖が蠢く。それはクラピカの怒りに震える心を映しているかのように荒々しく、込められたオーラの密度にギシギシと軋んですらいた。
鎖の先端に付いた鉤爪の楔がノブナガを照準する。平坦な声音に煮え滾る憎悪を乗せて、クラピカは死刑宣告を告げる。
「安心しろ、すぐに後を追わせてやる───全員残らずな」
「キッ……サ、マァ……!」
フランクリンに引き続き、最も仲の良かったウボォーギンまでも失ったノブナガは激しい怒りに顔を歪める。一度は取り戻した冷静さなどかなぐり捨て、震える手で刀を握り締めた。
「熱くなりすぎないでノブナガ! 流石に状況が悪い! ここは一度引いて……!」
「……怖気づいたか、マチ?」
「ちっげーよ! だけど三人も失ったんだ、一度団長に指示を仰ぐべきでしょう!?」
「あら、残念だけど逃げられないわよ?」
撤退を提案するマチに、カオルは酷薄な笑みを向ける。まるで獲物を網に捕らえた女郎蜘蛛を思わせる不気味な笑みを口元に浮かべ、大仰に手を振って周囲を指し示した。
「さっきまでアナタたちと遊んでいた海魔。あれをざっと六千匹ぐらい召喚してここゴルドー砂漠を包囲させているわ」
「ろっ……!?」
バッと周囲一帯の風景に目を凝らす四人。果たしてカオルの言に偽りはなく、岩場に囲まれたこの場所を中心に数えるのも億劫になるほどの名状し難い怪物たちが犇めき壁を形成していた。
あの倒しても倒しても己の血すら糧にして復活する悍ましい魔物、それが六千匹。あまりに常軌を逸した光景にマチは眩暈を感じてよろめき、シズクは既に顔面蒼白にして佇むばかり。
「……まさか、そのためにフランクリンを先に殺したか?」
「大正解♪」
「……
唯一この包囲を突破できる可能性があった広範囲への破壊力を有するフランクリンは既にいない。それを辛うじて冷静さを保っているフェイタンが指摘すると、カオルはムカつくほど可憐な笑顔でそれを肯定した。フェイタンの額に青筋が浮かぶ。
「言ったでしょう? 死と退廃の饗宴を楽しんで行って下さいな、って。途中で逃げるだなんて許さないわ」
「決して逃がさん……決してな」
カオルが楽しそうに鋼の具足を打ち鳴らし、クラピカは変わらず能面のような無表情で殺気を放ち続ける。その二人の様子を見ていよいよ逃げ場などないと確信した四人は、苛立ちと僅かな諦念を顔に浮かべオーラを奮い立たせた。
「クロロ=ルシルフルがいないのは残念だが、この際贅沢は言うまい。貴様らだけでも確実に葬り去る。一族の仇だ、ここで───」
「───ほう? オレをご指名か、クルタ族の生き残りよ」
突如としてこの緊迫した空間に投じられた何者かの声。その何人にも無視し難い威厳を孕んだ声音に、この場の誰もが声のした方角を振り仰ぐ。
乾いた砂に半ば埋もれるようにして聳える大岩の上。そこには黒衣を纏い、額に十字架の入れ墨を刻んだ黒髪の男が佇んでいた。その背後にはジャージ姿の男と全身を包帯に包まれた男が控えている。
その姿を見たマチは安堵の笑みを浮かべ、その男の名を呼んだ。
「団長!」
「マチ。それにノブナガとフェイタン、シズクの四人か、残ったのは。
……何を情けない顔をしている。オレがここにいて、お前たちもこうして生きている。ならば“蜘蛛”は未だここに健在だ」
その男は感情の読めない声でそう告げ、次いでカオルに視線を向けた。
黒々とした底知れぬ光を宿した黒瞳。そして海原を思わせる青い瞳とが交わった。
「やはりお前だったか。何となくそんな気はしていたよ、カオル=フジワラ」
「ふん、噂通り読めない男。まさか六千の海魔の群れを無視して現れるとは思わなかったわ。
───クロロ=ルシルフル……!」
───幻影旅団団長、クロロ=ルシルフル……参戦。
【総てを簒う妖婦の顎門/マリス・ヴァンプ・セイレーン】
・特質系能力
オールドレインによって吸収した情報から、念能力(発)に関する情報のみを抽出しコピーする。この能力によってできることは情報の抽出とコピーのみで、ドレインは本人のスキルとして行うしかない。故に“盗賊の極意/スキルハンター”でこれを奪ったとしてもクロロが扱うことは不可能である。良くも悪くもオールドレインを前提とした能力。
〈制約〉
・能力をコピーするためには、対象を肉片一つすら残さず全てドレインする必要がある。
・能力をコピーした場合、本来得られるはずだった経験値は能力分差し引かれる。
〈誓約〉
・特になし
……以上、名前すらオリジナルのオリ念能力でした。ちなみに能力名は作者が中二病を再発させることでようやく搾り出せました。やっぱり既存の能力とか設定を使う方が楽……。
マリス:悪意、悪巧み
ヴァンプ:妖婦、毒婦
セイレーン:クラシックバレエ『放蕩息子』より、放蕩息子を誘惑し身包み剥いだ妖婦の名前。
要するに「妖婦セイレーンの悪意」みたいな意味合いの名前です。
いいかー、感想欄ではぜったいにこの能力の名前はだすなよー。ピクト人恥ずかしくて死んじまうからなー。何かしら言うときは「三つ目の“発”」もしくは「三つ目の奴」とかで頼むぞー。
ではまた次回。次で旅団戦決着です(多分)