東方幻操卿   作:さんにい

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突撃!湖畔の紅魔館

「ほんとにお前飛べないんだな……」

「はい。あの時はフランさんのとこに行く前、姉のレミリアさんになんかいじってもらってたので。

 そういえば、フランさんと弾幕ごっこをしたのもレミリアさんのお願いでしたよ」

「へぇ、あのレミリアが詩音にお願いねぇ」

「あれ、魔理沙さんもレミリアさんと面識あるんですか?」

「ああ、異変後の宴会で仲良くなったぜ」

「宴会って……まさか、お酒も?」

「……どうしてそんなこと聞くんだ? 当たり前だろ」

「いや、未成年……」

 

 そんな、箒を乗りこなす少女らの真横を、風が大きく吹き抜けた。

 

 残暑というのは、どこへ行っても実に鬱陶しく、また終盤に入った夏の名残を犇々(ひしひし)と感じさせるものだ。未だ昼間は茹だるような暑さが続く幻想郷でも、それは勿論変わりない真理である。

 しかしそれは同時に、時折吹きさす涼風を引き立てる効果も持つ。その秋風がもたらす心地よさは、それまでの不快指数を帳消しにする程である。春先に吹く強い風を“春一番”と名付けるのならば、秋へと人妖を招き入れるこの風は“秋一番”と呼んでも差し支えないように思う。

『秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる』と歌にもあるように、秋の始まりを風が伝達するというのは古代からの理であろう。

 

 さて、そんな夏と秋の境界な快晴の空を、魔理沙は詩音というおまけ付きで飛び回っていた。

 行き先は、数週間前彼女らに新しくできた友人が住む館である。

 

「にしてもお前、最近突然こっちに来なくなったよな」

「あーそれですか。実は外の世界にはですね、子供が勉学に励む施設がありまして。十五歳まではそこへ通わなきゃいけないんですよ」

「勉学……寺子屋みたいなもんか?」

「あ、寺子屋はあるんですね。まあそんな感じです。んで、それまで長い休みだったんですが、一週間前くらいからまた始業しまして」

「それで来れなくなったと。……面倒臭いな」

 

 詩音の話を聞き、寺子屋に通う自分を想像したのだろう。魔理沙は辟易したような声を出す。

 

「それほど悪いものでもないですよ? 友達百人とかできますし、今日みたいな休日なら幻想郷に来れますし──っと、見えてきましたね」

 

 ──そして、詩音が言葉を打ち切ったのと、それまで木々の緑ばかりだった視界が開けたのとはほぼ同時だった。

 

 目前に広がる湖は相変わらず氷点下の霧で覆われており、そこだけ秋が通過した後のようである。そんな湖に浮かぶ島にて威風堂々とした存在感を放つ、紅い洋館。

 そこが彼女らの目的地、紅魔館である。

 

 魔理沙の視界にも入ったのだろう、彼女は操る箒の速度、高度を下げ始めた。

 

「……なんか懐かしいですね。まだ一月も経ってないのに」

「?……あっ、そうか。詩音は異変が終わってから、まだここに来てないんだったな」

「そう……ですね。アリスさんの家に数回お邪魔したり、幻想郷に来たら妖怪の山って所に飛ばされてて烏天狗の人に質問攻めにされたりはしましたけど」

 

 ほーんそうか、と魔理沙は含みのある相槌を打つ。

 ……その目に、魔法使いでない彼女(シーフ)の鋭い眼光が輝いていることに詩音は気づかない。

 

「ってその口振りからするに、魔理沙さんはもう何回か来たんですか?」

「まあな。──時に詩音。あそこを見てくれ」

「あそこって…………あ」

 

 次第に距離が縮まり、霧の中であっても鮮明な象形を現してきた門へと魔理沙は指先をやる。

 そこは異変の際、意識はあるのに顔を土につけるという屈辱を武人の門番が味わった場所。そして今現在──立ってはいるが守るべきである筈の門へ寄りかかり、意識は遥か夢の国へと遊行している怠惰な美鈴の生息地だ。

 

 本日も彼女は絶好調なようで、幸せそうに涎を垂らしながら船を漕いでいる。

 

「……鼻提灯膨らませながら寝る人なんてリアルでは初めて見たんですが」

「同感だぜ……まあ、それは置いといて。ここに入るには、ちょっとしたルールがあるんだ」

「ルール? 毎回美鈴さんと戦わなきゃいけないとかですか?」

「まあ大体合ってるな。詩音、こいつを箒の後ろに取り付けてくれ」

 

 そう言って魔理沙は、帽子の中から何かを取り出した。

 ぶしつけに詩音へ渡されたそれは──彼女が最も愛用する魔法道具、ミニ八卦炉である。

 

「──っと。魔理沙さん、とりあえず装着しましたけど、これって一体──

 ──え!? それって……」

 

 言われるがまま、箒の後部にミニ八卦炉を取り付けた詩音。しかし、前を振り返って目にした、魔理沙がいつの間にか懐より出していた()()に目を見張ることとなる。

 

「そうだ! 舌噛み切らないよう歯ァ食いしばって、しっかり捕まってな!!」

 

 そして魔理沙は、無慈悲にも宣言した。

 

 

 

 

 彗星『ブレイジングスター』

 

 

 

 

「…………はっ!? この魔力は、もしや魔理沙さん! 今日という今日こそ、この門を突破されるわけにはあぎゃあぁあああぁぁぁぁ──!!」

 

「──へっ! 今日も私は絶好調だぜ!!」

「……南無」

 

 哀れな美鈴の断末魔が響き渡る。いやまあ、自業自得だから哀れむ余地はないが。

 そしてこちらこそ本当に哀れなことに、大きな館に相応しい立派な門は魔理沙の勢いによって、見るも無惨にひしゃげてしまっていた。

 

「……うわぁ。凄いスピードですね」

「へへっ、まあな! 天狗の奴らさえいなけりゃ、幻想郷一の自信はあるぜ!」

 

 詩音の言葉に胸を張る魔理沙。しかし彼女のそれはいささか物足りない……と言うのは仮にも失礼に当たるため自粛する。

 

「ここにも仲間がいて安心しました」

「仲間? 何のだ?」

 

 まあその辺の乙女事情はひとまず隅へと追いやって。

 文字通り“突撃”を成功させた魔理沙たちは現在、美しい花々が咲き乱れる庭の上を飛翔している。

 なんでも、ここの管理者は門番である美鈴が兼任しているらしい。彼女の弾幕は色鮮やかで見ていて飽きないが、この庭もそれに負けず劣らずの絶景となっている。

 

 そんな自然の美を、詩音は恍惚とした表情で眺めていた。異変時にも一度通った筈だが、今日はあの時と違い雲一つない青空。花見において、月夜だからこそ感じられる趣があるように、快活な天気の下で彼女が受け取った感動もまたひとしおだったのだろう。

 

 そんな、立派と呼んで差し支えない洋館の庭。

 

 ──しかしその瞬間、そこに、まばたきもしない内に大量の銀の短剣が出現していた。隙間なく並べられ彼女たちを取り囲むそれからは、最早逃走など不可能である、という最終通告の意味合いも感じとれる。

 

「うぉわ!?」

 

 それを見て、詩音は思わず間の抜けた声を出し、体を仰け反らせる。まあその反応は自然なものだろう。

 だが、同乗者の対応は対照的だった。

 

「おう、咲夜か。邪魔してるぜ」

「──魔理沙、貴方もう少し驚いてもいいんじゃないかしら」

 

 冷静……と言うよりはふてぶてしい態度で、魔理沙は虚空に向かい声を上げる。

 すると果たして、次にまばたきをした時にはそれらの凶器は消え去り、代わりに蕭洒な従者が現れていた。

 

「……え? あ、咲夜さん?」

「はい、詩音様。出会い頭にこのような御無礼、申し訳ございません」

 

 詩音の姿を見るなり、咲夜はそちらに対して恭しく頭を下げる。

 恐らくそんな、最大級に気を遣われる状況に慣れていないからであろうか。詩音はそんな咲夜の態度に少し慌てていた。

 

「いえいえそんな、別に頭を下げなくても」

「……あれ? 同じ客なのに、私と詩音とで滅茶苦茶対応が違わねえか?」

「馬鹿言ってるんじゃないわよ。詩音様は、妹様を救って下さった大恩人。貴方、無理やり門を突き破る強盗。対応が違うのは当然じゃあないかしら?」

 

 流石に看過出来なかったのだろう、魔理沙の物言いに咲夜は顔を上げ、反論する。

 

「……強盗?」

「本当はさっきだって詩音様にナイフを向けたくなかったのだけど、そろそろ貴方による図書館の被害がバカにならなくなってきたからね」

 

 そう言うと咲夜はこめかみを押さえ、大きく溜息をついた。

 ……それで一纏めにナイフで囲む辺り、どこか抜けている気がする。もう少し、例えば二人を分断させるとかの策はなかったのだろうか。

 

「魔理沙さん、紅魔館で一体何を仕出かしてるんですか……?」

「仕出かす、とは人聞きが悪いな。私はちょっと、パチュリーの有り余っている本を有効活用してやろうと借りてってるだけだぜ」

「『一生借りる』と言って風のように現れ、そして風のように去るのは既に盗みの領域よ」

「言葉の綾だな」

「うわぁ」

 

 あくまで堂々とする魔理沙。うわぁ。

 

「──じゃ、咲夜に会えたから詩音も大丈夫だろうし、私はお先に失礼するぜ!」

「え? あ、ちょっと待ちなさっ──

「あばよーー!!!」

 

 そのまま金髪の強盗は、自慢の速度を最大限に活用して館へと消えていった。

 

「…………はぁぁ」

「な、なんかすみません、私の連れが……」

「いやいや、詩音様が謝ることではありません。こちらの不手際が問題なので。……はぁ」

「え、えーっと……」

 

 ……沈黙が広がる。

 

 と、思ったら。

 

「──ふへへ」

「え? さ、咲夜さん?」

「──はっ! も、申し訳ございません。疲れのあまり、妄想の中でお嬢様を愛でてしまっておりました」

「え、も、妄想!?」

「お待たせしてすみません。それでは、ご案内致します。どうぞこちらへ」

 

 そのまま何事もなかったかの如く、咲夜は屋内へと歩みを始めた。心なしか、先ほどまでよりも機嫌が良いように見える。

 

「え、えぇぇ……」

 

 詩音は釈然としない様子であるが、そのままでは咲夜に置いていかれてしまうだろう。

 慌てて、距離を詰めていった。

 

 

 *

 

 

「そういえばこれ、どこへ向かっているんですか?」

 

 館の外が光ならば、館の中は陰、と言っても過言でないだろう。

 

 吸血鬼の住まうその洋館は、異変の時も今日も変わらない暗さを保っていた。窓から射す光もなく、というかそもそも窓などなく、蝋燭の赤い光が紅い廊下に陰翳を与えている。

 まあ吸血鬼という種の特性上、光が不足しているのは必然の事態ではあるが。気味の悪い紅色は、主人の嗜好であろうか。

 

「お嬢様の部屋にございます。詩音様が再び御出になられたら私の元に通せ、と命じられてます故」

 

 そんな紅の中に、咲夜の恭順を滲ませた言葉が響く。

 加えて彼女は一度足を止めて詩音の方へと振り返ると、ご足労感謝致します、と再びお辞儀をした。

 

 一方の詩音は、どこかむず痒そうな表情をしている。

 

「あの、咲夜さん……。もっと魔理沙さんにしてたみたいに、フランクな口調を使ってくれませんか? なんかこう、そんなに敬意を向けられるとくすぐったくて……」

「そんな、滅相もございません! 詩音様は妹様、フランドール様をお救いになられた大恩人。従者の身である私があのような馴れ馴れしい口調など、とてもとても」

 

 いささか大袈裟な言葉で、咲夜は詩音の申し出を固辞する。まあ気持ちはわからなくもない。

 詩音は彼女の敬愛する主人を見事救って見せた、いわば英雄なのだ。畏まるのも無理はないだろう。

 

「そう言う詩音様こそ、私などに丁寧な言葉をお使いなさらなくても」

「あーいやー、これはもう癖っていうか、性根に染み付いちゃってるんですよね。私としては、この言葉遣いじゃない方がむしろ不自然なんで」

「はあ、そう仰るのなら無理にとは言いませんが……」

 

 ──そうした会話を続けていた二人だったが、不意に視界が捉えたそれに言葉を区切る。

 

「あ、これは見覚えありますね」

 

 彼女たちの目前に現れたのはやはり紅い、大きな木の扉。

 ここが行き止まりということは無論、この先が目的地ということだ。

 

「はい、この先がお嬢様の御部屋にございます。

 ……それでは、お二方の邪魔になるといけませんし私はこの辺で──

『あ、いいわ咲夜。貴女は私の隣で待機していて頂戴』

 

 咲夜が気を利かせて退去を申し出ようとしていると、部屋の中から聞こえてきた幼い声に遮られた。

 

「お、お嬢様!? いやしかし……」

「私も別に構いませんよ」

『ほら、詩音もそう言ってるし。さあ入った入った!』

「はあ……じゃあそこまで仰るのなら、私も失礼します」

 

 主の意図が読めない咲夜であったが、特段拒絶する理由もない。

 そのまま彼女は両開きの戸に手をかけ、ゆっくりと押し開いた。

 

 重厚な、木の音が響き渡る。

 

 

 

「──いらっしゃい、詩音。もっと早く来てくれてもよかったのに」

 

 彼女は異変の時と変わらず、中央にある円卓に座していた。

 部屋の様子も同様で、血に塗られたかの如く怪しく映える色が視界を占拠している。

 

 ……唯一違う所といえば、円卓に座す少女の表情が随分と柔らかいことであろうか。

 

「こんにちはレミリアさん。いや何回かは来ようと思ったんですが、そういえばここの場所よく知らなくて」

「……ああ、貴女には飛んで探すってことも出来なかったわね。

 まあいいわ、来てくれたことに変わりはないもの。我々紅魔館は古卿詩音、貴女を心から歓迎する。ささ、座って座って」

「じゃあ失礼して」

 

 そう言って、レミリアは自らの恩人であり友人と認める彼女に席を勧めた。

 詩音もそれに応え席に着く。

 

「……まずは、お礼を言わなくちゃね。詩音、貴女は私が想像していた通りに──いや想像以上に、フランの救いになってくれたみたいね。改めて、ありがとう詩音。この恩は生涯、忘れないわ」

「いや生涯ってそんな大袈裟な……」

 

 詩音が席に着くなり、レミリアは柔らかい表情のまま彼女へ自らの謝意を伝える。

 それは吸血鬼など関係ない、ただ家族が大好きな少女の、自尊心など抜きにした本当の気持ちであろう。

 

 しかし先ほどの、咲夜とのやり取りから推察できるように、どうやら詩音はそういう堅苦しい関係は望んでいないようだ。

 

「私はただ、フランさんと弾幕ごっこしただけですし。そこまで律儀にならなくても」

「あら、律儀さを失ったら妖怪は妖怪でなくなるわ。肉体よりも精神に依存する妖怪が、認めるべきものを認められないこと、それはすなわちその妖怪にとっての死に等しいもの。

 それに、貴女が“ただ”と言うそれは、今まで誰も成し遂げられなかったことなのよ? 感謝の言葉くらい受け取って頂戴」

 

 それでもどこか、承服しかねているような表情の詩音。

 するとレミリアは、何かいい台詞を思い浮かんだようだ。

 

「──ほら、『親しき仲にも礼儀あり』って言うじゃない。友人の偉業を賞賛できなければ、それは最早友人ではないわ」

「……まあ、それもそうですね。じゃあその言葉、レミリアさんの友人として受け取っておきます」

 

 ようやく折れたようで、一息ついて詩音は机の上にある紅茶を口に含んだ。

 独特の、甘い香りが彼女の鼻を突き抜ける。

 

 ……ふと、同じように紅茶を味わうレミリアと目が合った。

 

「……ふふっ」

「くくっ……」

 

 双方に、自然と笑みが溢れた。

 

「そういえば詩音、何か願いはあるかしら?」

「……? どうしたんですか藪から棒に」

 

 そうして存分に紅茶を楽しんでいると、レミリアが詩音を自らの部屋へと招いた本来の目的を尋ね始める。

 

「貴女にお礼がしたいのよ。詩音は命を賭して、私の悲願を叶えてくれた。その借りを返すのは当然じゃなくて?」

「いや私はそんなもののためにやったんじゃ──

「何がいいかしら? 貴女が望むのなら金銀財宝でも、永遠の命だって与えるわよ!」

 

 再び詩音は遠慮しようとするが、レミリアは有無を言わさざる勢いで迫ってくる。恩を感じてるならちゃんと話も聞くべきだろうが、そこは身勝手な吸血鬼であり子供だからであろうか。

 

 ……そんな天真爛漫な主に、隣から従者は愛でるような、うっとりとした瞳を向けている。このメイドもう駄目じゃないか?

 

「……あ、そうだ」

「ん? 何か思いついたかしら?」

 

 それを見かねてなのかはわからないが、詩音は少しして声を上げた。

 

「はい。私の願いは──咲夜さんに、タメ口を使って欲しいです」

「え?」

「はっ? わ、私?」

 

 彼女らにとっては、寝耳に水であろうその声を。

 

「ほら、これでもういいじゃないですか。さっきレミリアさん、私を友人と言ってくれましたよね? 友人ならば、その間に貸し借りなんて無粋なものは要りませんよ。

 ささ、お茶を楽しみましょ!」

 

 そう言うと詩音は、いつの間にか円卓の上に出されていた焼菓子を頬張る。そしてその美味しさに、目を見張っていた。

 

「……くくくっ」

「あ、あの、お嬢様……」

「──あはははっ! これは一本とられたわね、貴女の言うとおりよ!

 咲夜、他でもない詩音の頼みよ。もっと彼女に対して、自然に振る舞うことを許可するわ」

「ええ!? いやしかし……」

 

 突然の展開に着いていけず、たじろぐ咲夜。だが期待を籠めて自分を見つめる二つの視線に、ようやく観念したようだ。

 

「……はあ、まったくしょうがないわね、詩音さんは」

「あれ、呼び捨てにはしないのね」

「はい、お嬢様。私が詩音さんを尊敬してるのも、また事実ですから。

 ……それじゃ、改めてよろしく頼むわね。詩音さん」

「もちろんです、咲夜さん! やっぱその口調の方がデキる女って感じで格好いいですよ!」

「あら、そうかしら? ふふっ」

 

 これまで畏まって待機していた彼女の元にも、詩音によって笑顔がもたらされていた。

 

「……成る程。咲夜を部屋に入れろ、っていうのはこういうことだったのね」

 

 どこか遠く──もしかしたら彼女が操るという運命かもしれない──を見つめ、レミリアは微笑む。

 

「? お嬢様、何か仰いましたか?」

「なんでもないわ。それより詩音、次は貴女の方から何か面白いこと話して頂戴ね」

「無茶振り甚だしいですね!?」

 

 詩音の大きな反応に、思わず二人は吹き出す。それに釣られ、詩音も声を出して笑いだした。

 部屋の中に、少女たちの笑顔が広がる。

 

 ……そんな穏やかな光景に帰着する運命を生み出したのは、運命を操る吸血鬼でもその従者でもなく、紛れもない詩音なのだ。こう言えば、レミリアの感謝が筆舌に尽くしがたいのは想像できるだろう。

 

 そうして紅い館での、少女たちの笑顔が花開く会合は、絶品の焼き菓子と紅茶をお供に粛々と進んでいった──って、こっち来てからお茶ばっかしてるな詩音は。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「さて、着いたわよ」

 

「相変わらずデカい扉ですね。ここは確か、図書館でしたっけ」

 

「そうね。この時間だったら妹様もここにいらっしゃるだろうし、あときっとあの強盗も──」

 

 

「──へっ、今日はこのくらいにしといてやるっ! フラン、またなっ!」

 

「えへへー、これで七勝八敗だよ! 次で追いつくからねっ、バイバーイ!」

 

 

「……噂をすればなんとやら、ですね」

 

「ちょっと、フランに負けたなら本も置いてきなさいよ」

 

「借りるだけだぜ!──っと、詩音か。悪ぃ、先帰ってるぜ!」

 

「どうぞ」

 

「いや緑目の貴方そこは止めなさ──

 ……ってああ、もういないし」

 

「あ、詩音だー!」

 

「こんにちは、フランさん、お久し振りですね」

 

「うん!……本当だ、魔理沙の言ってた通り」

 

「え、何がですか?」

 

「さっき魔理沙がね、今日は詩音の目の色が、右と左で違うって言ってたから」

 

「……フランさんもそれ言うんですね。私は一応、物心ついたときから今みたいな感じなんですけど」

 

「えーほんとー?……まあいいや。詩音、一緒に弾幕ごっこしよっ!」

 

「お、いいですね。じゃあ今回は、私から行かせてもらいますよ!」

 

「今度は負けないからねー!」

 

 

 

「……ふふ。微笑ましいですね、パチュリー様」

 

「いや私本盗られたんだけど」

 

 

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