まあ公式からして記述がバラバラなんで、そんなに気にならないとは思いますが一応。
「これは……海?
……いや、湖、ですね」
「困りましたねぇ……。何だか、ここの真ん中に行ってみたいんですが。
霧が濃すぎて、どうなっているかよくわかりませんし……。どうやって飛ぶのかは、未だによくわかりませんし」
「にしても、ここちょっと寒すぎ──
────ん、ん!?」
「あれは………りゅ、流氷?」
***
辺りには、妖霧が凝縮していた。
何処を見渡せど、目に入るのは霧、霧、霧。最早、隣り合って語る人物の表情すら目視出来ない。
それどころか、会話する言葉や、相手そのものすらも深淵なる幻想に取り込まれてしまいそうな、そんな赤みを付帯している。
比喩でもなんでもなく、霧の湖周辺は“一寸先は赤”の状態であった。
──そんな、赤い湖の、その中心に。
即ち、幻想の最奥部に。
赤よりも紅い館が建っていることに気づいた者は、まだほとんどいない。
「……ぐっ……お、お嬢様、申し訳ございません……」
……ほとんど、いない。……筈だったのだが。
そんな紅い館の門の前に、淡い緑の華人服を身に纏った、紅い長髪が美しい少女──紅美鈴は突っ伏していた。
その服はぼろぼろに擦り切れ、肌にも無数の傷が目立つ。それは正しく満身創痍。彼女が妖怪だとわかっていても尚、その有り様は痛ましい。
果たして美鈴は、ほとんど誰も気づかない筈のこの場所で敵に襲われたのか。それとも、突如として天変地異に巻き込まれたのか。はたまた、壮大に転んだだけなのか。それは、彼女の悲痛な見た目だけでは判断しかねる。
しかし、肌の無数の傷、後ろの強引に開かれたような門、そしてどこよりも深いここの霧を加味するならば、何が起こったのかは容易に想像できるだろう。
……まあ、端的に言ってしまうのならば、
「何なんですか、あの紅白と白黒は……」
相手が悪かった、ということだ。
しかし美鈴は、門を守る、という重大な任務を負っている。ましてや今は、
美鈴は奮起し再び立ち上がる。己の主人との誓いを果たすために。
「いや……こんな所で、寝ている場合ではありません! お嬢様にも、『出来る限りでいいから頑張って頂戴ね』と言って頂いたんだから……!」
……若干、主の美鈴に対する信用度が透けて見える気がするが仕方ない。
遠い異国の昼寝文化を持ち込んだ、彼女の罪は重いのだ。最近では、どこぞの賢者も言い訳に用いるようになったとかなんとか──
「へえ、ならそのお嬢様に会わせてもらえませんかね?」
──夜の帝王の力に満ち溢れた霧の中に、出し抜けに響く声。それに美鈴は身構える。
姿は見えない。どこまでも深い幻想は、妖怪の能力をもってしても周囲の把握を困難にしていた。美鈴の視界には一面の赤と、守るべき紅が映るのみである。
「誰だ!!」
だが、返事はない。
聞こえた声は、少なくとも美鈴に覚えのあるものではなかった。友好的な者などではなく異変を解決しに来た者である、と考える方が妥当だろう。
しかし、美鈴にとって不審な点が一つ。
「……どうして、そんな低空飛行をしているんですか?」
……その声は、地に足を着けている美鈴の
既に言及した通り、美鈴の仕える館は湖の島に建っている。よって、門を守る美鈴の少し前には、滾々と水が張っていた。
当然、水の上を歩く、などという芸当が出来る者はそう多くはない。というか、そんな事をするくらいならば飛んだ方が速い上に楽だ。
この湖に舟が通ってる訳でもなし。故に彼女が、声の主が低空飛行をしている、と考えたのはごくごく自然だろう。
……尤も、“飛翔することが可能である”という幻想郷での常識が前提ではあるが。
だが、そんな彼女の幻想郷的思考とは裏腹に、ある音がその方向から聞こえてきた。
それは、小舟を漕ぐかのような、かき上げられた大きな雫が再び湖へと集合するような、そんな音。
ただ飛ぶだけではそのような音は生じない。美鈴は、更に警戒心を高める。
そして、深い幻想の中から突然その姿は現れた。
「──虚空に潜むアンノウンどもよ。音にも聞け、頭を洗え! 異界より誘われし使者、古卿詩音! ここに、見・参!!」
──それは、湖に漂う氷の上に乗った、少女の姿であった。
「……………………」
「よっこいしょ、っと。いやー、湖って氷で渡れるものなんですね」
言葉を失う美鈴をよそに、詩音は悠々と新たなる大地へ上陸する。もっと怖い妖怪が出てくるかも、などといった考えは頭にないようだ。
姿は、儚いただの少女。しかしその心意気は、幻想郷の常識の枠に留まることを知らない。
美鈴も、まさかここまで普通であり、どこかおかしい人間が訪れることは予期していなかったのだろう。少しの間、詩音を観察してしまっていた。が、与えられた使命を思い出したのか、慌てて我に返る。
……その前の二人も人間だったのではないか、だって? いや、あの二人には“普通の”という冠詞はつけるべきではないと思うのだが。
「……っ、いけない、あなたも侵入者ですよね。ならば、ここから先には通すわけにはいきません!
くそっ、こうなったら背水の陣だ!!」
「どちらかと言えば、背門の陣、ではないですか? あ、もしくは面水の陣とかでもいいかも」
華符『破山砲』
美鈴の拳から、虹色の光が溢れる。
それは暗夜を過ごしているかのような館を、電飾の如く照らしていた。溢れだす力に木々はざわめき、水面は踊り、近辺の妖精は血相を変える。
そんな力を纏った美鈴は、少し足を引いたかと思うと……
──全力で、飛び出した。
風を追い越す。空を切り裂く。その余波は、今までになく重厚な妖霧に今までにない程の鳴動を与える。
しかし、その揺らぎすらも美鈴に追い付くことは出来ない、それほどの一撃。どうして妖怪が人間に対してそんな全力で、と思うかもしれないが、美鈴は先ほどその人間に撃破されているのだ。目前の者も同じくただの人間ではない、と考えるのは至って自然である。
それに、実際その考えは当たっているのだから。
一方の詩音はと言うと、霧に映し出された彩光を、恍惚とした表情で眺めていた。何を思い出したのか「プロジェクションマッピングみたい……」などと呟いている。
そんな詩音に、美鈴は刹那も経ずして距離を詰める。このままでは直撃は確実だろう。というか、構えていても人間には反応すら難しいかもしれない。
──しかし幸運なことに、と言うべきか、はたまた残念なことにと言うべきか。どちらにせよ驚愕が伴うのは間違いないが。
この古卿詩音という人間は、回避不能の攻撃を回避する、発想も技も持っていた。
曰く、「避けられない弾幕は、跳ね返せばいいじゃない」とのこと。
──ならば、「躱せない一撃は、その場からいなくなればいいじゃない」、らしい。
……なに、発想が根本からぶっ飛んでいることに異論はない。
幻想『プリンセス天狐』
……そして、いとも気軽に発動されるスペルである。
詩音の手中に、辺りを照らす虹とは別の、淡い輝きが集う。それらが一枚の札の形を成したのと、美鈴の拳が詩音に達したのはほぼ同時だった。
熾烈なその一撃は、たった今詩音がいた
だが、今は弾幕ごっこの場。スペルカードルールに則っていれば近接技を出すことに問題はないが、相手がそれに付き合う道理もないのだ。
不意に背後を襲う青い弾幕を、美鈴は拳で弾いた。
「うおっ、いまのバチッ、と弾くやつ格好いいですね」
「手応えがなかったと思えば……それは、まさか瞬間移動?
……あなた、本当に人間ですか?」
「一日に二回も種族を疑われたのは初めてですね。これでもバリバリ人間やってるつもりなんですが」
美鈴の後方を漂うのは、輝く瞳の人間。妖狐より拝借したスペルは無事身体に馴染んだらしく、嬉々とした顔をしている。
一方の紅い妖怪は、複雑そうな表情だ。まあ、彼女に今日降りかかった災難を思えば同情に値するだろう。
「まったく……全然攻撃が当たらない、私よりも火力バカ、そして今度は物理超越、ですか。咲夜さんもそうですが、妖怪と人間という違いの意義を見失ってしまいそう」
「そもそも、人間と妖怪の違いって何でしょうかね。今まで遭遇してきた方々も、見た目すごく似てましたし」
「……妖怪は人間に恐れられる、人間は妖怪を畏れる者、かな? 幻想郷は、そのバランスの上に成り立ってますから」
「それだと、妖怪を信じていない世界の大半の者は、人間でなくなってしまうんですが……」
「ああ、外界での妖怪の排斥は、本当に嘆かわしい限りです」
「そもそも妖怪を見かけないですね。逆に、こんな楽園があると知ったら攻め込んできそうです。娯楽目的で」
「──あら、人間ごときが私たち妖怪に太刀打ちできると思って?」
少しの間漂う沈黙。美鈴から溢れる妖力が、詩音の先ほどまで輝いていた翡翠が、互いをその場に留めさせる。
こんなにも呑気で激しい応酬にも関わらず、霧は散開の気配を見せない。それどころか、この二人を愉しげに観察している風にすら感じられた。
「──だからこそ、」
そんな中で先に動いたのは、美鈴の方だった。
「だからこそ、私は
……そして、何よりもお嬢様のために!
紅魔館が門番、紅美鈴! 推して参る!!」
虹符『彩光の風鈴』
周囲に、再び“気”が巻き起こった。
しかしそれらは、先ほどのように美鈴にまとわりつくことはなく、四方八方へと放たれていく。速い弾に、遅い弾。曲がり、突き進む、色鮮やかな弾々。やたらめったらと言ってしまえばそれまでだが、その流動性、不規則性は相手を翻弄する。その動きは、色彩こそ違えど蔓延する妖霧に酷似していた。
対する詩音は、もう効果が切れかかっていたのだろう、スペルを解除すると、地面に降り立ち回避を始めた。不規則に動く虹の中を、翡翠の少女は駆け抜ける。まばゆい照明で飾られた紅い舞台を、詩音は駆け巡る。
……だが、いかんせん数が多い。それまで深い幻想で一色だった館の周りが、いつの間にか虹色に染まっていた。それらは美鈴の身体から絶え間なく、緩やかに、波のように押し寄せる。
それでも詩音はめげずに避け続けていたが……今、いい一発を腕に貰った。結構痛そうな表情をしている。
このままでは詩音はいずれ、弾幕の波に飲まれてしまうだろう。
そして、この状況を打開する方法は、やはり一つしかないのだった。詩音はもう一度、手に力を込め始める。
「くそ、こうなったら全部跳ね返して──」
「──その隙、頂きました!!!」
突如声が轟いた。驚き、詩音は今さっきまで美鈴のいた場所、即ち虹弾幕の発生源を捉える。
……しかし、そこには誰もいなかった。
それどころか、いまの今まで目一杯に広がっていた虹が、跡形もなく消滅している。
俄然有利だったにも関わらず、スペルを解除する。この意味が、詩音にはわからなかった。あのまま継続していれば、美鈴が押し切れた可能性は高い。また、詩音にそのような打算的な考えがあるかは知らないが、美鈴はまだ詩音の
「くっ、一体どこに……」
「────それは」
……実は、その理由は二つあった。
一つは、詩音の隙を突くこと。彼女は何故か、その場でスペルカードを生成する、という訳のわからない事をやってのけている。それは十分に驚くべきことなのだが、同時に相手へ付け入る隙を与えていた。
その場で生成する以上、彼女がスペルを発動するのには生成のための時間が必要であった。それでも限りなく零に近い隙なのだが、手に光が集まる、というわかりやすい予兆が存在するため、万能を買われた門番がそこを突くことは可能であった。確かに、弾幕を撃ち続けて下手にスペルを発動されるよりは、勝つ確率は高いだろう。
戦闘力が十分に高いのにも関わらず、それに胡座をかかず常に勝利の可能性を模索する。この美鈴の、武人としての気質があってこそ成せる技だろう。
「あなたの後ろ、ですよっ!!」
……そして、もう一つは。
華符『彩光蓮華掌』
やはり美鈴の決め技は拳なのだ、ということ。
美鈴は妖怪の脚力を駆使し、まばたきをするよりも短い時間で詩音の背後を取った。
そして
「……って両方いっぺんに使えるんですか!!」
そう。美鈴の放つ莫大な気は、空と彼女の拳、双方を支配していた。
もし拳だけならば、先ほどのように回避することは可能であった。しかし周囲には、美鈴を中心にして蓮華の花のような弾幕が展開されており、詩音もその中に封じられている。
当然、ここまで一度に能力を使うとなると、相当の気力が必要だ。それほどまでに、美鈴はこの一撃に賭けてきた、ということだろう。
詩音は、かなりの窮地に追い込まれていた。
この全身全霊の攻撃を受ければ、彼女が墜ちてしまうことは想像に難くない。
かといって避けようとしても、周囲には弾幕の壁。逃げ場はない。
先ほどのようにスペルで移動するのも手だが、事態はそれよりも差し迫っていた。このままでは、詩音はスペルを宣言し終わる前に攻撃を食らう。
空間も、選択肢も、全て八方塞がり。
そうしている間にも、美鈴は腕を振りかぶり、数瞬後に詩音を貫くであろうその一撃への道を刻一刻と作り上げている。
可能性があるとしたら──
今この瞬間に、
「…………!!」
その刹那に、詩音の瞳は今までにない幻想を見せた。
そして────────
幻技『チェンジ・ザ・ワールド』
「っ!? …………って、ああ。止まってますね。一か八かの賭けでしたが、上手くいったようです」
「取り敢えず、この花みたいな弾幕から抜けて、っと。
……相変わらず綺麗な弾幕ですね。これは、蓮華の花ですかね?」
「……って、そういえば十秒しかないんでした。こっからどうするか……」
「……このまま美鈴さんのスペルを捌ききるのは、ちょっと無理そうですし。やっぱりやるなら世界解除と同時に、ですかね」
「よし、この作戦で決まり! それじゃあ……
時は、動き出す──────」
────────そして、美鈴は拳を打ち抜いた。
だが。
「──って、またいない!?」
捉えた筈の少女の姿は、忽然と消えていた。今度こそ不可避の筈の攻撃が空振りに終わったことに美鈴は驚愕、愕然とする。
しかし、そこで止まらないのが彼女である。急いで辺りを見渡し、またもや物理を超越した人間の痕跡を探す。
同時に、自分の一撃への反省も始めた。
何処が悪かったのか。自分のどこに落ち度があったのか。詩音は、どうやってこの包囲網を抜けたのか。美鈴は瞬時に、考えを巡らす。
しかし、
「やっぱ時止めと言えばこの人ですよね…………!!」
突如囁かれた声に、そして続く猛りに、それは遮られた。
「いきますよ、美鈴さん! 二連続でパクリ技ですけど、まあ許してっ!!
──ロードローラーだあっっっ!!!」
幻技『天誅ロードローラー』
そうして、スペルが宣言された。されたのだが……何も、起こらない。
美鈴は、ますます詩音への謎を深める。前の二人は馬鹿みたいに強い人間、で納得できたが、詩音の所業はそれを遥かに越えている。
しかしそれでも、武人が最後まで警戒心を解くことはなかった。ともかく、スペルの効果が続くうちに倒そうと、そう考えたのだろう。美鈴はもう一度構えて──
「──って、あれは……?
……!! え、ちょ、まってえっ、う、うわぁぁぁ!!!」
──上から襲いかかった圧倒的質量に、押し潰されていた。
*
「……っと。いい感じに決まりましたね、ロードローラー型弾幕!」
そして、全てが終わり。
勝ち誇っていたのは、翡翠の目を持つ少女だった。なんだか長年の夢が叶ったかのような、清々しい表情をしている。
……そんな麗らかな少女の目前には、たった今隕石が落ちたかのような、煙を上げる窪みが。
その中に哀れな妖怪の姿が覗いているのは、最早言うまでもあるまい。
「これはこれは、美鈴さん……。
あの、その、あれです。えーっと、
……ヤム○ャしやがって」
……この惨状を作ったのは自分であるのに、呑気なことだ。まあやり過ぎの自覚はあるようだが。
しかし、その時。
煙を上げるその影が、もう動けない筈のその影が、立ち上がった。
「っ!!!」
「────っ、はあっ、はあっ、ま、まだ終わってません……。
お、おじょうさまの、ため、にも、ここは、私が、守らなきゃ……!!」
だが美鈴は、息も絶え絶え、足元もふらついていて、焦点も合っていない。既に限界を迎えていることは明白であった。恐らく、立つだけで精一杯だろう。
それでも尚、彼女は突き動く。その忠勇の源は、一体何なのであろうか。
凄まじい程の気迫に、詩音は言葉を失っていた。
「…………っ」
「っ、いいですか、行きますよ……!
今度こそ、私のスペル……! 紅美鈴、改めて推して──
「『そこまでよ、美鈴』」
どこまでも深く、この場を支配している妖霧。それが、ここに来て初めて、怯えるようにざわついた。
同時に響くのは、永遠に紅い、幼き声。だがその声にも、夜の帝王に相応しい威厳が含まれている。
「その声は、お、お嬢様!?」
突然の主の来訪に、美鈴は仰天した。
それもそのはず。この声の主は、異変を起こして幻想郷を混乱に陥れている真っ最中なのだから。
そんな美鈴と、詩音の側に、一匹の哺乳動物が降り立つ。
「これは……蝙蝠?」
「『この子は私の使い魔よ。今は少々手が離せなくてね。こんな間接的な形で失礼するわ、客人』」
「へぇー不思議、面白いですね」
……人語を話す蝙蝠という、外界基準で言えば摩訶不思議な出来事を詩音は今更ながら楽しんでいる。
まあ、彼女についてはもう特に触れない。今まで散々不思議なことがあっただろと言いたい所だが、もう触れない。
しかしその横に、先ほどとは違った驚愕に染められている妖怪が一人。
「……きゃ、客人? え、お嬢様、もしかして詩音さんって……」
「『ん? ああ、そうね。まだ言ってなかったわ』」
若干青ざめたような表情で、美鈴は恐る恐る尋ねる。その顔と紅い髪が対照的で、なんともまあ……哀れだ。
そんな部下の様子を知ってか知らずか。彼女の操る使い魔が、二人の頭上まで浮上すると、
「『──古卿、詩音。貴女を、このレミリア・スカーレットの名の元に、紅霧異変の“来賓”として今からお招きします。
……先ほどは、うちの門番が失礼したわね』」
幼き吸血鬼は、そう仰々しく告げた。
「これは、ご丁寧にどうも。いやいや、なかなか楽しかったですよ。長年の夢も実現しましたし」
「──や、やっちまったーーー!!!」
……その反応は、二者それぞれであったが。
詩音は着物の裾を摘まむと、恭順の意を述べる。中二びょ……コホン、好奇心旺盛な彼女にとっては、願ったり叶ったりであろう。
対して美鈴は……頭を抱え、慌てふためいていた。
「『……ねえ、美鈴』」
「うわぁぁぁ、どうしよう、ヤバいヤバい! 侵入者を二人も許すだけじゃ飽きたらず、お客様に手を上げるなんて、これは咲夜さんのナイフどころか下手したら一週間ご飯抜きに……」
主の声も聞こえていないようだ。
……というか、今回彼女に落ち度はないと思うのだが。美鈴は客人の旨を聞いておらず、ただ使命をまっとうしただけなのだ。どうやら焦って、その辺りの判断力が鈍っているようである。
「『──おい、紅美鈴!!』」
「ひゃあっ! な、何でしょう!?」
「『彼女を、私の所まで案内して頂戴。咲夜も今取り込み中だし、それにどうせ貴女、もう殆ど傷は治っているのでしょう?』」
「は、はい、それはバッチシです」
「! マジですか!? はぇー、流石妖怪ですねー」
自分のこの先にばかり囚われている美鈴に、レミリアは訓戒する。その一言一言には、大妖怪に相応しい威厳が感じられた。
「『じゃ、あとはよろしく頼んだわ。門の番も、今日はもう結構よ』」
「……成る程、
美鈴も、幾分か落ち着いたようだ。どうやらお仕置きが無さげだと感じ、安心したのかも知れない。
そして、用件を伝え終えた使い魔の蝙蝠は飛び立った。そのまま、館の方へと向かっていく。
それに対して美鈴は、ずっと恭しく敬礼を保っていた。
「『あ、そうそう美鈴』」
「は、はいっ」
「『……私のために、ボロボロになっても守ろうとしてくれてありがと』」
「……! も、勿体無いお言葉で……」
……そうして蝙蝠は、赤より紅い館へと消えていった。
「──さて、じゃあ私たちも向かいましょうか」
「了解です! いやぁ、こんな
「……何でもいいですが、はぐれないでくださいね? この館は、見た目以上に広いんで」
浮かれ気味の詩音に、美鈴は釘を差す。
……普通、人間が妖怪の住処へと乗り込む、なんてことは、例え向こうから招かれたのであってもお断りなのではないのだろうか。ましてや吸血鬼という、人間を糧にすることが明白な妖怪ならば尚更であろう。少なくとも浮かれることは絶対にない。
まあ、今更感が甚だしいにも程があるが。
「わかってますよ、それくらい。
──時に、美鈴さん」
「? 何ですか?」
そんな人間は、妖精のような笑みを浮かべる。
その嬉々とした表情は、見ているだけで微笑ましくなってしまうような物で。しかし、油断した者には手痛い仕打ちが待っている物である。
「ふふっ、さっきからとっても、ニヤニヤしてますね」
「なっ……!」
美鈴は慌てて顔をおさえ、伏せる。その表情は先ほどまでと打って変わって、赤みを帯びていた。
……まあ、良い関係が主人と結べているのならば、それは恥じることではないだろう。
そんな美鈴を尻目に、詩音は駆け出した。
「ほら、美鈴さーん! 速く速く!」
「……ってちょ、待って下さいよー!」
──こうして詩音は、幻想の最奥部の、そのまた更に深層へと誘われていったのだった。
Stage4 不撓不屈の門番 ~紅美鈴~
Stage Clear!
今回の自己紹介の元ネタがわかった方は、たぶん私と趣味が合います