小説版仮面ライダーエグゼイド 〜GAME IN THE LOSTBELT〜   作:玉ねぎは大正義ッ!

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キアラって平成ライダー世界線だったら心療内科医として永夢同様聖都大学附属病院に勤務してるかもしれない。そんで永夢と知り合いで実は医者を目指したきっかけも同じで日向先生率いる医療チームに命を救われたから、とかだったかもしれない。それ故に永夢と甘い関係になってたかもしれない。
なんてことをふと思ったので第3話投稿です。


第3話 そして、人類未踏のGAMEへ…!!

敵の数が多すぎる。当たり前なことだがこれじゃキリがない。

 

 

万能の天才ことレオナルド・ダ・ヴィンチはそう思っていた。今彼以外で戦えるのはマシュ、そして貴利矢と罪黎斗のみ。サーヴァント二騎に仮面ライダー、それもバグスターウイルス系統のそれが二人。今は貴利矢が永夢の遺体とゴルドルフの保護に回っているが。だとしても普通に考えれば過剰戦力が過ぎるのだが、それでもどうにかなっていないのが現状なのだ。

その理由は幾つか存在するが、その中から特にピックアップするとすれば、敵の首魁及びその側近と思われる存在がサーヴァントでありその霊基が神代の英雄たちのそれに比肩して劣らないものであること・加えてバグスターでもあり、その意味でも桁外れに強いということ・雑魚だと捉えていた黒服の連中が罪黎斗曰く未知のガシャットを使用した瞬間にその強さが何倍にも跳ね上がったということ・罪黎斗が、自らが現れた直後にダ・ヴィンチにバグスターウイルスを注射してきたこと・そして何より永夢の死に自分もマシュも少なからず、いや大いに動揺と哀しみを覚えているということこの五つの事柄が該当するだろう。

 

 

「ハァ…あの、いい加減にくたばってもらえません? この状況で諦めの悪さを褒めてあげるほど私は暇じゃないし、できた存在でもないのよ」

 

 

そうダヴィンチたちに淡々と告げるのはコヤンスカヤ。カルデア新所長ゴルドルフ・ムジークの補佐としてやってきたロシアの民間軍事会社「NFFサービス」の社員であり、そして何よりカルデアを現在の状況にした連中の一人だ。またその顔付き、声色・髪色・イヤリングはある二騎のサーヴァントを想起させる。

 

「断固お断りします! あなたたちにはカルデアを、何より先輩の、先輩のッ…! 遺体を絶対に渡したりはしません!!」

 

「そぉうだァ!そして私に許可なく私のアイデアを横取りし剰えそれで不正なガシャットを生み出したことの重さを理解させてやる!!」

 

「まだ君はそんなことを考えてたのか…オホン! 失敬した。今の質問だが返答するに値しないとだけ述べさせてもらおう」

 

「何よそれ、痩せ我慢なんてしちゃって。あーやだやだ、醜い醜い。これだから汎人類史の連中っていうのは。ささ皇女様、奴ら纏めてサクッとゲームオーバーにしちゃってくださいませ♪」

 

「…」

 

 

直後、コヤンスカヤの意見を汲み取るかのようにダ・ヴィンチたちに向けて手を静かに突き出したのは、彼女に皇女と呼ばれた一人の少女。病的なまでの白さと皇女と呼ばれるに相応しい高貴さを感じさせるその肉体からは、白くたなびく冷気が見るもの全てを凍てつかせるように放たれている。それだけでカルデアを凍りつかせた元凶だと十二分に理解できる。そんな彼女は腕を突き出してから、冷気をそのままに、底冷えのする視線でこちらを見ている。それだけで、この場にいるものの殆どに必然的に鳥肌が立つ。そしてそんな彼らの気分をよそに、彼女場底冷えするような冷淡さを感じさせる口調で何やら呟き始めた。

 

 

「…皇帝(ツァーリ)の威光に従わないものには死を。裏切り者には粛清を」

「ヴィイ、私が願います。私が呪います。石に。氷に。頑なに。我らはあらゆる“善き者”を砕きましょう」

 

 

「“邪眼”を開きなさい、ヴィイ!」

 

 

瞬間、世界に在るものの悉くを凍りつかせんばかりの冷気が放たれる。当然、その場にいた意識があるもの全員が身構えた。マシュやダヴィンチに至っては重圧感すら伴う絶対の冷気に圧され、思わず目を細めた。

 眩いばかりの白銀の氷が、辺り一面を埋め尽くす。

 何もかも、すべてが絶対零度の波に飲み込まれる――。

 

 ピシィ! とすべてが凍る音がした――気がした。

 しかし、いつまで経っても彼等に痛みは襲ってこなかった。

 

 

「――――ダヴィンチちゃんやカルデアの皆、何よりマシュの命を傷つけ奪おうだなんて、絶対にさせない!!」

 

どこか冷徹な、しかして怒りに満ちた声が辺りに轟く。それに釣られて目を開けたマシュとダヴィンチは驚愕した。自分たちはいつのまにか敵集団が陣取っている位置より奥に移動していたからだ。しかし、何より目を引くのは、マシュたちと敵との間に傲然と立つ流星のように眩く輝く全身の殆どが黄金色で形成された仮面の戦士だった。

 

 

「せ、せん、ぱい……?」

 

その声の主にマシュもダヴィンチも心当たりがあった。

 

 

「やはり君は私の想像を覆す男だなぁ、宝生永夢ゥ!!」

 

そう。今罪黎斗が叫んだ通り、彼の名は宝生永夢。ダヴィンチやカルデアのメンバー、マシュにとっては人類最後のマスター、皆の心を繋ぐ楔であり、罪黎斗にとっては自分と同等のゲームクリエイトの才を有する天才ゲーマーで聖都大学附属病院小児科医の一人である男だ。

そんな彼の今の姿は仮面ライダーエグゼイド 。黎斗や貴利矢が変身する仮面ライダーと同系統の力で成り立つ「究極の救済」の名を冠する仮面の戦士、その最強無敵の姿、ムテキゲーマーだ。

だがどうやら今のムテキゲーマーからはそれが感じられそうになかった。

かなり疲労しているのではと思えるほどにフラフラとしていたからだ。おまけにガシャットからは故障したのではないかと思えるほどに電流が走っている。

 

 

「僕ちゃん、蛮勇と勇気は違うっておうちで習いまちぇんでちたか〜? 今のあなたからはあの連中から聞いたほどの強さを感じられないわよ? まあ月に叢雲花に風、立つ鳥跡を濁さずがモットーな私です。バッチリきっかり息の音を絶たせてもらいますけども」

 

コヤンスカヤはそう言いながらライドプレイヤーに似た集団に指で指示を出す。

ムテキが来た意味はなかったのか。やはりやられてしまうのか。

マシュやダヴィンチの脳裏にそういった想像が過ぎりそうになったときだった。

 

 

「そういうわけにいくかよ!」

「キメワザ! ドクターマイティクリティカルフィニッシュ!」

 

直後、辺りに永夢の叫び声と、先程と同様に電子音声が鳴り響いた。だがしかしてそれは先程の電子音声とは全く異なるものだった。

その発生源は「ドクターマイティブラザーズXX」というガシャットからだ。このガシャットは最強バグスターであるゲムデウス攻略のためとしての貴利矢と罪黎斗の協力(ころ)し合いの果てに生み出された対ゲムデウス用ワクチン(もの)だ。そのため凡ゆるバグスターの天敵とされるアイテムでもある。

 

 

「マズいっ!?」

 

 

無論コヤンスカヤも例外ではなく、また彼女はそれが何であるかを知っていたのか少女を連れて逃げ出そうとする。

 

 

「遅ぇよ」

 

 

だが永夢のほうが一歩早かったらしく、即座に手にした得物、ガシャコンキースラッシャーを振り抜く。刹那、刃から発せられた斬撃がライドプレイヤーに似た集団、コヤンスカヤ、謎の少女といった順で炸裂する。

次の瞬間、ライドプレイヤーに似た集団は消え去った。

同時に、「マキシマムマイティアクションX」と「ハイパームテキ」がバチバチとこの状況では嫌にしか感じられない音を立てて強制排出される。

 

 

「グゥッ!?」

「……!」

 

コヤンスカヤと謎の少女はというと、直撃は何とか回避できたもののそれでもそれなりにダメージを負ったようで膝をついていた。

しかし、いややはりというべきか心は折れていなかったようで、大層憎しみのこもった目でこちらを見ている。

 

 

「いつつ…やってくれたわね。でもだからって逃す理由にはなりゃしないわ」

 

彼女がそうテンプレな台詞を吐いた直後、再びライドプレイヤーのような連中が出現する。

今度の今度こそ本当に万事休すか。

そう思われたとき、永夢の双方が再びオッドアイと化す。そして再び永夢の懐からガシャットが飛び出る。

永夢?は名を「ガシャットギアデュアルアナザー」と称されるそれを掴みこう呟いた。

 

 

「悪い永夢、少し辛抱しててくれ。この場は俺が引き受けるから」

 

⦅ああ、頼む⦆

 

そしてその行動によってある事実が判明した。

つまり今は永夢の肉体は永夢に宿るバグスターであるパラドが使っているというわけだ。

そしてパラドはこんな状況に不釣り合いな口調でこう呟く。

 

 

「今度は俺が遊び相手になってやるよ。ギガントマックス大変身!」

 

そしてそれに合わせて両腕でXの字を描くようにしながらガシャットをゲーマドライバーにセットする。するとまた聞き覚えのない電子音声が鳴り響いた。

 

 

ガッチャーン!

マザルアーップ!

悪の拳強さ!闇のパズル連鎖!悪しき闇の王座!パーフェクトノックアーウト!!

 

「二つのアナザーガシャットの力が一つになった姿、仮面ライダーパラドクスアナザーパーフェクトノックアウトゲーマーLv. 10億(ビリオン)だ」

 

「ビリオンですってえ!? んな馬鹿なッ!?」

 

そうしてパラドは目は赤と青、それ以外の体色は黒とガンメタルの俗に言うモノクロカラーから形成された「異常な重複」を意味する仮面の戦士、仮面ライダーパラドクス・アナザーパーフェクトノックアウトゲーマーLv.10億に変身完了した。

 

 

「さあ、かかってこいよ」

 

パラドクスLv.10億は余裕があるのかそう相手を挑発する。瞬間、ライドプレイヤーに似た集団が四方八方から飛びかかってくる。なお、忘れているかもしれないがこのゲームエリアはLv.0のもの、則ちアンチバグスターエリアだ。よってバグスターウイルスに関する凡ゆるものは弱体化という縛りを受ける。

だというのに、パラドクスはそれをものともしていない素振りで裏拳と裏回し蹴りを繰り出した。瞬間、敵集団は爆発四散する。

 

 

「チッ、使えない連中ね。まあこのクラスの相手じゃ致し方無しなところもあったかもだけど」

 

コヤンスカヤの苛つきを余所に、ライドプレイヤー擬きの集団の撃破を確認したパラドクスは瞬間、空中をなぞるような動きを見せる。

すると、ゲームエリア内に散らばるメダル状のアイテム、通称エナジーアイテムがパラドクスのもとに瞬時に集まった。パラドクスはその中からある同じメダルを6枚選び、コヤンスカヤと謎の少女目掛けてそれぞれ3枚ずつ形容するのも余りに馬鹿らしい速度でぶだ投げつけた。

 

 

「睡眠! 睡眠! 睡眠!」

 

するとその瞬間、立ち上がっていた筈の二騎は声を出す間も許されないほどに早く眠りの森へと入っていった。

瞬間、パラドも変身を解き意識を永夢に返す。すると当然色々な負担から疲労がMAXだった永夢は倒れそうになる。しかしそこに貴利矢が駆け寄る。片腕でゴルドルフを抱き抱えながら。

 

 

「貴利矢さん、有難うございます…」

 

「なーに言ってんの。これについてはさっき話し合って決めてただろ」

 

「そ、そうでしたね…」

 

「そうそうそういうこと、ささ皆、今のうちだ! 永夢とパラドが稼いだ時間を無駄に浪費しちゃいけねえ」

 

「色々と問い質したいことはあるが、とりあえず了解した。行くよ、マシュ!」

「は、はい!」

「ふむ。では私はコンテナ内に戻らせてもらおう」

 

 

そう告げると、黎斗神だけはバグスター特有の短距離ワープで永夢たちが目下のところ目指すべき場所へ一足先に戻っていった。なお後で知ったことだが、罪黎斗とポッピーはコンテナ内にワープしていたらしい。

 

 

「あいつ…まあいいや。急ぐぜ!」

 

貴利矢のその言葉を合図に皆再びコンテナ目指して走り出した。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆三分後◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

あと少しでコンテナのある区画に行き着くという頃、永夢とマシュの間でこんな会話がなされていた

 

 

「あの、あの、ほんとのほんとに先輩なんですか!?」

 

「うん、そうだよマシュ、ダヴィンチちゃん。心配かけてごめん。僕はもう大丈夫…っていうには無理があるか。マシュ、君にどうしても話しておきたいことがあるんだ」

 

「な、何ですか…?」

「実は…僕は僕じゃないんだ」

「……え…?」

 

 

やはりというべきか永夢の返事にマシュは驚いていた。だがだからとて話を進めないわけにはいかない。永夢はそのままマシュの手を握る。何故このような行動に出たのか。多くの魔術師に知られていることだがサーヴァントとマスターはバグスターとその宿主のそれのように、ランダムではあるが互いが心に秘めていることを覗くことが可能なのである。ゆえに永夢は、こうすれば口で伝えるより早く今自分が言いたいことをマシュに知ってもらえると踏んだわけなのだ。

そしてそれは功を奏したようだった。マシュの顔に様々な表情が浮かんでは消えていく。そして最終的に何やら決意したような表情に収まった。

なればもう会話を再開しても大丈夫だろうと永夢は再び話しかける。

 

 

「もう分かってもらえただろうけど、今の僕は二つの世界の宝生永夢が一つになった存在なんだ……………それでもマシュはこんな僕を信じて、付いて来てくれるかな…?」

「……そうですね、先輩。先輩は私が最も好きな物を知っていますか?」

「? !」

 

だが直後、マシュは唐突にそう問いかけてきた。

普段ならば何だと思うのが自然だろう。

だが今は状況が状況。永夢は即座にその意味を察し、それに答えることにした。

 

 

「……マシュマロ、そして僕の笑顔だよね?」

 

「正解です。そしてこれで確信できました。先輩は先輩なのだと」

 

「ええ!? 僕が言うのも何だけど、これだけで本当に大丈夫?」

 

「はい。それに本当は、もっと些細な事実(こと)、先輩が先程私たちを助けて私たちのことで怒ってくれた。その当たり前だけど大切な事実だけでその間にどんな不思議なことがあったのだとしても先輩は私の良く知る主治医で何より先輩の宝生永夢なのだと確信できるのです」

 

「…本当に?」

 

「はい、本当にです。ですから、先輩も泣かないでください。貴利矢さんの背中が濡れてしまいます」

 

「………有難う、マシュ。だから僕も改めて僕自身の意思で約束するよ。この先どんなことがあってもマシュだけは絶対に守る。絶対に」

 

 

永夢は涙を拭きながら貴利矢の背中から降り、マシュの手を強く強く握った。

 

 

「せ、先輩。今は移動中ですから…///」

 

「「うんうん、泣かせてくれるねえ」」

「グスッ、ああ全くだ! 久々に大泣きしてしまったぞこんちくしょう!」

 

 

永夢のある種のプロポーズとも言えなくもないその仕草に思わずもらい泣きしてしまったダ・ヴィンチ、貴利矢、ゴルドルフだった。

 

 

「なんだ起きてたのかゴルドルフさん。じゃああんたもとっとと走ってくれよな」

 

「当たり前だ! 誰にものを言っている。今のでやる気が少し出た。さあ貴様ら、早く移動を再開するぞ!」

 

「やれやれ、調子のいいことで。だがまあゴルドルフ氏の言うことも一理ある。先程強い霊基反応がこちらに向かい始めた。どうやら連中が目覚めたようだ。急ぐぜ皆!」

 

 

「「「はい(了解だ)!」」」

 

 

そうして永夢たちは再びコンテナに向かい始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆約五分後◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

そしてそこから更に幾ばくかの時が過ぎた頃、永夢たちは漸くコンテナのあるシェルター区画に到達していた。

 

 

「ハァ、ハァ………どうにか此処まで辿り着けました……! 途中で遭遇した貴利矢さんを含め、全員無事です……!」

 

マシュは何処か無理をしているのではないかと思わせる様子で、息も途切れ途切れにそう告げる。

 

 

「成る程な! ここが格納庫か、資料で閲覧したものより幾らか大きいではないか!」

 

「感想も驚嘆もあとあと! 今はとっととコンテナに入る! 後ろから二度は味わいたくないあの冷気が迫ってきてるぜぃ!」

 

自身の識るそれよりある程度増して見える格納庫を見て驚嘆混じりの感想を告げるゴルドルフ。そしてそんなことよりとばかりに格納庫へ入ることを急かすダ・ヴィンチ。無論、先程の皇女とやらが放ってくる絶対零度に勝るとも劣らない冷気から逃げ果せるため。

 

 

「おーい! こっちだ、早く来ーい!」

「氷が迫ってきてる―――! すぐ後ろ、ほら―――!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

それを示すかのように、永夢やマシュの良く知るカルデア職員のムニエルと、カルデアの愛玩動物として名を馳せるフォウ、真名をキャスパリーグとする生き物がこちらへ向けて叫んでいる。

 

 

「チッ、やむを得ねえな! 自分とダ・ヴィンチさんが食い止める! 皆は先に入ってろ!」

 

「ちゃんでいいんだぜ! だがその案には乗った。マシュ、君は永夢とゴルドルフ氏を連れて先に入っていたまえ!」

 

「了解しました! 先輩と新所長もいいですね!」

 

「ああ、頼んだ!」

 

「悔しいが仕方あるまいな。了解だ!」

 

「おーし、そんじゃまあもう一踏ん張り行くとしようかねダ・ヴィンチちゃんさん!」

 

「その言い方にはいささか不服だが同感だ。これさえ乗り切れば私たちは無事逃げ果せられる。とっとと殿の役目を果たすことと行こうじゃないか!」

 

 

 

 

「ふむ。残念だがそれは果たされない。どうやら君たちは後一歩足りなかったようだな」

 

 

「え――――――」

 

 

聞き覚えのあるその声、底知れなさをありありと感じさせるその声が今しがた自身の後方柄聴こえたことに疑惑の念を抱き、すぐさま永夢はそちらへ振り向いた。するとそこには―――――――――

 

 

「っ、ガフ……………ッ!?」

 

床に尻餅をついている貴利矢。

そのすぐ近くで心の臓の辺りに穴を開けられそこから夥しい量の出血をしながら立っている我らがレオナルド・ダ・ヴィンチ。

―――そしてその原因であることを示すかのように臆面も恥じることなくダヴィンチの肉体を背側から腹側に穿つ形で右手を突き出しながら立っている如何にも黒幕という雰囲気を醸し出す神父だった。その容姿は永夢がよく知るあるゲームのキャラクターを想起させる。とはいえそれはこの状況下では些末な事柄だった。今はこの男がこの場に存在する意味の方が重要だからだ。

 

 

「なんでお前がここに…!」

 

「それに答える義務はないと述べておこう。しかし失礼した。隙だらけな存在が二人もいたのでね。つい手癖で貫いてしまった。だが同時に残念でもある。そこで尻餅をついている男を今こうして私に穿たれているサーヴァントの邪魔のせいで貫き損ねてしまったのだから」

「ああいや、そこまで肩を落とすことでもないか。よく考えてみれば本命はこの男、レオナルド・ダ・ヴィンチだったのだから」

「そして霊核を潰したからには消滅は時間の問題であるのは、恐らくこの場の誰の目にも理解できてしまえるだろうほどに明らかな事実だ」

「さらばだ万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデア唯一無二の頭脳はこの瞬間この場にて完膚無きまでに打ち砕かれた。いや、私程度の一撃を易々と貰ってしまうような天才なればお里が知れているな」

「ッ……!」

 

はち切れんばかりの怒りと共に永夢は理解した。

つまりは貴利矢を庇いその代わりになる形でダ・ヴィンチは負傷、その過程でサーヴァントにとってのアキレス腱の一つたる霊核を潰されたということだろう。迂闊だった、本当に。なればこの状況は非常に危ういものだ。そしてだからこそ瞬時に把握できた。今永夢が為すべきことも。

そう、それは――――――

 

 

「いやっ、離して、離してください先輩!」

「駄目だ。絶対にマシュをダ・ヴィンチちゃんの下にはやらせない」

 

今、自分と同じくダヴィンチのこの有り様を目に捉えたことで確実に彼を救出に向かおうとする自分の大切な後輩を何としても引き止めることだった。

 

「なんでですか! 先輩だってドクターであるならわかってるはずです! 今ダ・ヴィンチさんの命を粗末にしてはいけないは当然のことd「ああ、分かってるさ!!!」……ッ!?」

 

そう、そんなことは分かっている。永夢とてドクターの端くれ。人の理不尽な死を容易く受け入れることなぞ断固としてしたくはない。しかしだからこそ……

 

 

「だからこそ…怒りに任せた行動で旅の記録を、聖地での冒険を、今までの冒険の全てを無為なものにしちゃいけないからこそ…ダヴィンチちゃんとの思い出を絶対反故にしちゃいけないからこそッ! ……ダヴィンチちゃんからさっき託されたものを守らなくちゃいけない、いや守る! そしてそのためにどれだけ悔しくても今は逃げるんだ!」

 

「っ……! うう、ううっ……! 分かりっ、ました………ッ!」

「ああ、それでいい。それで、いいんだ…」

 

そう、どれだけ受け入れ難くとも……。そして永夢たちは再びコンテナへ駆け出そうとする。無論、貴利矢とゴルドルフもだ。しかしそれを拒もうと動く輩も当然の如く存在する。

 

 

「ふむ、大言壮語を吐くのは勝手だが素直に現実を受け止めることも吉だと私は思うがね」

 

そう、神父だ。彼はすぐさま永夢たちを追う態勢に移行しようとする。だがしかし、それを阻むものもやはりというべきか居合わせていた。

 

 

「む…? 」

 

その者とは、神父によって致命傷を負わされたダヴィンチだった。

 

 

「…何のつもりかな、とは敢えて問うまい。この状況で私を引き止める動機なぞたかが知れているからな。とはいえ、見上げた胆力だ。その背中でもってやってのけるとは。素直に敬意を表させてもらおう」

 

そう、彼は今の自分が持ち得る全てでこの得体の知れない男をこの場に拘束、いや繫ぎ止めることを選んだのだった。

 

 

「へっ、そいつはどう、も…ッ!ならこれから私が言い出すことも黙って、そして大いに後悔しながら拝聴しておくことだね!」

 

「ああ、是非そうさせてもらうとしよう」

 

「フン! 永夢、よく聞いてほしい! さっきの君の判断、大いに感服した。そうだ、その通りだ! それこそがこの状況下で私が君にとってほしい最善の行動だったのだから! 」

「そしてすまない。こんな形でお別れをすることになってしまって。だが得てして別れとは唐突なものさ。無論それはこの天才(わたし)にも漏れなく当てはまる!」

「…というか今度こそ正真正銘ヤバいな、これ。マジで次はなさそうだ。どうやら聖地の時のように事が運ぶってわけにはいかないらしい」

「………だからこそ、マシュを頼んだよ。勿論、あいつが託した未来、その証たるトランクの中身も大切にね」

「今言ったようにそれはキミたちの努力の(れきし)だ――――そして今は亡きある男の決して譲れない誇りでもある。故にこそ、それを消してしまうのは何があってもイヤだったわけなのさ」

「ゴホッ……! いよいよアケローンがお迎えに来たみたいだ。さあ永夢、急ぎたまえ。キミの良く知る、いや知っていたカルデアはここでゲームオーバーだ」

「だがキミとマシュがいれば続きはある。この先の未来には、希望が、新しいカルデアがあるはずだ」

 

 

「――――――チヴェディアーモ、万能の人」

 

「ああ、グラッツェ。そしてブォンラヴォーロ、永夢! 無茶なオーダーだがこれからもマスターとして一人のドクターとして日々精進するといい!」

「そして負けるなよ! この先で如何な困難に相対しようとも! 笑顔でいる限りキミは未来(あす)という暗闇に光放つ道標であり続けられる! キミはキミのままであることを決して忘れるな! 永夢、キミの運命は…キミが変えろ!!」

 

「ッ! ……行こう、マシュ」

「グスッ…はい!」

 

それを最後に永夢たちは完全に走り出す。そしてコンテナに乗り込んだ。

 

 

「マシュ・キリエライト、宝生永夢、九条貴利矢、ゴルドルフ・ムジーク、以上三名、コンテナに収容しました! これで最後です!」

 

「四名、五名ではなく? ダ・ヴィンチ氏は?」

 

「そうだよ! ダ・ヴィンチさんはまだなの!?」

 

しかし当然、ダヴィンチがこの場にいないことに疑問を持つものもいた。シャーロック・ホームズ。世界的に有名な名探偵でルーラーのサーヴァントだ。そしてポッピーピポパポ。日本で有名なリズムゲームである「ドレミファビート」のイメージキャラクター、そして同名のガシャットのバグスターだ。

 

 

「…………ダ・ヴィンチさんは…………ダ・ヴィンチさんは……ッ!」

 

「もういない! あのサーヴァントは所長代行として殉職した!」

「ああ、そりゃもういっちょまえにな……」

「そこの監察医の言う通りだ! だからメソメソするな小娘! 私まで辛気臭くなるだろうが!」

 

マシュが悲しみを隠しきれない様子で答えようとする。だが貴利矢と、そして以外にもゴルドルフがそれを遮り代わりに受け持った。

 

 

「うそ…」

 

「――――――そうか、ならば後は我々が生き残るだけだな」

 

ポッピーは唖然とする。そしてホームズはというと、まるでこうなると予測できていたかのように落ち着いた、悪く言えば冷めた反応を示した。

 

 

「そ、それはそうですけど、これからどうするんスかホームズさん!?」

 

「シェルターって言っても限度があるでしょ!? 外、どんどん凍りついていってますよ!?」

 

「無論、こうするのさ。諸君、壁にパイプのようなものがあるだろう?」

 

そう言ってホームズは壁を指差す。すると彼が口にした通り、パイプによく似た何かが点在していた。

 

 

「それを握って口をしっかり閉じるように。ここからは火のついた馬のように馬鹿になる」

 

 

「へ? もしかして私たちこのコンテナごと――――――!?」

 

「ご明察だミセスポッピー。その通り、そして君は知らないだろうがこれはもともとそういう用途のコンテナなのさ」

 

「なあに、気圧変化による障害はとうの昔に対処済みだ!

安心して高度6000メートルからの滑走を満喫したまえ!」

 

 

「な、何それーーーーーーー!!!!!」

 

ポッピーは当然驚く。そしてそれはここにいるメンバーの殆どもそうだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

――――――それから何分か時間が経過した頃、コンテナ内が激しく揺れた。いや、正しくは左右に回転し始めたのだ。

 

 

「うえええ、何、何なの―――――!? 回ってる、これ、コンテナが回転してるよーーーーー!!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「狙撃か!? もしや今のは何処からか狙撃されたのか!?」

「もしそうならコンテナがこここ、壊れちまう! こんなスピードで外に放り出されたら……」

 

「……」

 

皆が皆、動揺を感じさせるような反応を示す中、永夢だけは落ち着いていた。そしてホームズに問いかける。

 

 

「ホームズさん!」

 

「ああ任せたまえ! コンテナなんぞただのガワだよ、ガワ!」

「我々は必ず生き延びるともさ!」

「だってこんなこともあろうかと半年前からカルデアを飛び出す直前まで急ピッチで改造を進めてきたのだからね!」

 

そしてそれにホームズも自信たっぷりに返事を返す。すると次の瞬間それを示すかのように、驚くべき、しかし何処か懐かしい人物が永夢の前に姿を現した。

 

 

「ええっ!? こ、これって――――――!?」

 

「やあ! グッドモーニング、カルデアの諸君! いや、この姿では初めまして、かな?」

 

「私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。親しみを込めてチ・ヴィンチちゃんと呼んでくれてもいいぜ?」

 

「――――――」

 

「フォ――――――」

 

「「「「な――――――」」」」

 

「何これーーーーーー!? ああもうピプペポパニックだよーーー!!」

 

皆が驚嘆に満ちた反応を示すのも無理はなかった。

そう、その人物とは先程自分たちが別れを告げた筈の万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチその人だったのである。――――――もっとも、姿は幼女のそれだったが。加えて彼女は、永夢がかつてよく目にしたことのある物体から姿を見せていた。

 

 

「何ってそりゃ、モチのロン、リニューアルさ! 天才なんだから、いつまでも同じ姿なわけないだろう?」

 

「あ、もしかして私の魅力に改めて心打たれて、言葉を失くしているのかな? このこのー!」

 

「まーあ、これが真打ちの力って感じ? グッバイしてからの5分での再登場、驚いてもらえたかな?」

 

「いや、あの、それ以前にその土管は?」

 

「ああこれ? これはn「それについては罪な男であるこの私が説明してやろう!!」

 

マシュが問うた土管の謎について、新生ダ・ヴィンチ、いやチ・ヴィンチが答えようとした時、永夢・貴利矢・ポッピーにとって聞き覚えのある酷く自信に満ちた声、罪檀黎斗の声が響いた。

 

 

「マシュ・キリエライトォ!

なぜレオナルド・ダ・ヴィンチが生きているのか、

なぜ小さな姿、通称チ・ヴィンチに変わったのか、

なぜ私のそれと同様の土管から姿を現しているのくわぁ!

その答えはてゃだ一つぅ…ヘァ-…♡

マシュ・キリエライトォ!

ダ・ヴィンチはつい先程ォ…私の手で新たに開発されたガシャットである「爆走デンボーダー」Lv.0のバグスター兼サーヴァント、バグヴァントと化したからだぁぁぁぁぁアーハハハハハハハハハアーハハハハh「黎斗?」ゴメンナサイ」

 

「要するに今のミスター黎斗神の説明の通り、彼、レオナルド・ダ・ヴィンチは姿を変え種を変え生まれ変わったわけなのさ。爆走デンライナーというワードについては後ほど説明しよう」

 

「そういうことだ、つぅまりィ…こいつはたった今私の手で低出力低コストのサーヴァント、つまりは低ランクサーヴァントとして産声を上げたばかりだということだぁぁ!!」

 

「あーあ。全く、操縦室でへったくそな運転をしている黒コートの薬中ボーイと、忌々しいことだけども恐らくは私以上に万能の天才な野郎のせいで簡単にネタばらしされちまったじゃあないか」

「これでも最高のタイミングを伺っていたというのになあ。あ、でもたしか今の永夢はこれには慣れてるのかな?」

 

「は、はい。そうですね…」

 

「うーむ、ならばもっと見極めるべきだったのかもだ」

 

チ・ヴィンチがこう言ったということは、黎斗の手でダ・ヴィンチは見た目も体質も生まれ変わったということは狂いようもない事実のようだ。

 

 

「あ、あの、先輩には申し訳ないのですが、私は未だにこの事実が上手く飲み込めずにいます。ええと、本当に? 本当にダ・ヴィンチさんなのですか?」

 

「おうともさ。姿や体質はちっとばかし変わっちまったけれども、キミのよく知るダ・ヴィンチちゃんだぜ? っと、今はチ・ヴィンチちゃんだった。 あ、この眼鏡をつければ信じるに値するかな?」

 

 

マシュの問いかけに対し、チ・ヴィンチは彼が(ダ・ヴィンチ)だった頃愛用していた眼鏡を取り出し装着してみせた。するとその容貌はかつての彼を強く思い出させるものとなった。

 

 

「あ…」

 

マシュはそれが酷く懐かしく、また嬉しかったのか思わず涙を零しそうになる。一方のチ・ヴィンチもそんな彼女の反応にとても満足気だった。

 

 

「うんうん、その様子だと信じてもらえたようだね。では改めて初めまして、永夢、マシュ。この姿で君たちと会うのは初めてだけれど、よく知っている。いや、覚えているよ。なにせ前の私から記憶を引き継いでいるからね」

「だからこれからは『この私』、レオナルド・チ・ヴィンチを頼ってほしいな。前の私より少しばかり万能度はダウンしているけどもね?」

 

するとそこにホームズが割り込んできた。

 

 

「挨拶は済んだかね? ならば制御の役目に戻ってくれチ・ヴィンチ」

「キミはこの特殊車両――――――――――――虚数潜航艇デンボーダーのナビをするために生み出されたバグヴァントなのだから」

「ゆえにキミの頭脳なくしてデンボーダーの機能は十全に発揮され得ない」

 

「ったく。ホームズったらせっかちだなあ。 制御管に座ったら、私、しばらくは会話不可になるというのに」

 

「だが今は緊急時、皆の安全が最優先だ。潔く眠りにつくとしようかな。それじゃあまた、落ち着いたら話をするとしよう」

「お休み、永夢、マシュ」

 

チ・ヴィンチはそう言うと軽く会釈をして、制御管の方へ歩いていった。

 

 

「はい、お休みです。チ・ヴィンチさん」

 

マシュは深々とお辞儀をする。

 

 

「きゃっ!?」

 

その時再び、車内が大きな衝撃に見舞われた。自然とシャドウ・ボーダー内に再び同様の声が漏れ始める。

 

 

「……おおっと、また撃ってきやがったのか? ったく、しつこいねえ敵さん一行も」

 

「何を言っている監察医! こいつは敵連中からの攻撃などではなく斜面を越えた震動だ! よく考えてからものを言え!」

 

「あっマジ? 悪いな新所長さん」

 

(ってことはやっぱ…)

 

そしてそんな中、ある予測から敢えて嘘をついてゴルドルフから先程の衝撃に関する情報を聞き出した貴利矢はホームズにその真偽を問うた。

 

 

「んで、実際のところはどうなわけ。名探偵さん?」

 

「正解だよ。ズバリ的中している」

 

「ふむ、となると…」

 

ゴルドルフの発言が正解であったという事実から貴利矢の脳裏にある想像が浮かび上がる。

 

 

「新所長さん、もしやあんた、ドライブが趣味なんじゃないの?」

 

「う、うむ。自慢ではないがアマチュアのレースをやっていてね」

「スポンサー、私。ドライバー、私。チーム戦略、私。その様はさながら不死鳥のムジークと、」

 

と、そこで再びホームズが会話に割り込んできた。

 

 

「ゴルドルフ氏、悪いが口を閉じていてくれ。今から氷原に出るぞ! このまま海岸を目指して海に向かう!」

 

だがそれは永夢にとっては聞き逃せないものだった。

 

 

「ん?」

 

「どういうことなんですかホームズさん、カルデアは標高6000mの雪山のかなり高い位置にあるんじゃなかったんですか?」

 

そう、永夢の記憶が正しければ、カルデアは6000mの標高の雪山のかなり高い位置に座している筈だ。だが、ホームズの意見が正しければこの近くには氷原があるという。途轍もなく高い山に存在する筈のものが平地にあるとはどういう仕組みなのか。

そこまで至った時点で永夢は自然とホームズに質問していた。

 

 

「すまない、私は今忙しい。それにその事柄に関してならばキミの知り合いの天才ゲームクリエイター殿のほうが詳しいはずだ」

 

しかし当の本人は状況が状況であるが故に答えづらく、加えて罪黎斗のほうが役に立つと告げてきた。仕方なく、永夢は彼の意見を汲んで罪黎斗に問うことにした。

 

 

「そうなんですか黎斗神さん?」

 

「ああそうだなあ! とはいえ、この状況では私の説明より実際に見たほうが早い。百聞は一見にしかずだ。はやく確かめてみるがいい!」

 

結局似たり寄ったりな返事だったが最後に直接見たほうが分かりやすいと言われたため、永夢は窓に近づき外を眺めた。

すると其処には、驚くべき景色が広がっていた――――――――――――――

 

 

「ええええええええええーーーーーーー!?」

 

そう、其処に広がっていたのは永夢どころか世界中の多くの人が知る大雪原地帯・数日前に8チャンネルでやっていた番組で見た筈の場所、そう、永夢が見た景色とは、南極大陸だったのだ。

 

 

「どうだ驚いたろう、永夢ゥ!」

 

「――――――正直、今までで一番驚いてます。カルデアが南極、それも「狂気山脈』にあったなんて…」

 

「そうだろうそうだろう、ブウハハハハハハハハハハハハハア!!!」

 

煩い罪黎斗の叫び声はいつものこととして、永夢は本当に生まれてからこのかた一番のレベルで驚嘆に浸っていた。そして同時に、先程のホームズの罪黎斗のほうがこの景色に詳しいというのも合点がいった。よくよく考えてみれば至極明快かつ単純なものだった。

何故ならば罪黎斗は「Fate/Grand Order」の開発者にして脚本家でもあったのだから。当然、カルデアに関する設定全ても誰よりも把握している。ゆえにカルデアが南極大陸の、恐らくはこの世界でいう創作神話のトップのクトゥルフ神話に名高い『狂気山脈』に相当する山々に位置するということも知っているというわけだ。

そしてそんな永夢の反応にご満悦そうな罪黎斗は勝手に何やら話し始めた。

 

 

「多くの国家がその所有権を主張するものの、まだ人類の手が十全には及んでいない地球最後の開拓地ィ…その只中にカルデアは建設されたァ、如何な国家にも私的運用されぬようになあ!」

「元々は決して止むことなき吹雪……神秘の残り香によって隠されていた(・・・・・・)山脈を強力かつ複雑な魔術結界で補強し、その存在と機密をただひたすらに隠匿し続けた地球最大にして唯一無二の人理観測所。それがフィニス・カルデアというわけさあ!!」

 

「はー、なるほどなあ。それがカルデアの特徴と成り立ちってわけか。にしても分かりづらいなおい!」

 

「そうだよ〜、またピプペポパニックになっちゃったよお〜」

 

貴利矢とポッピーも同様の反応だった。と、そこでホームズが何やら言いたそうにしていた。

 

「どうしたんですか、ホームズさん?」

 

マシュは元々知っていた側だったので特に驚くこともない、つまりは暇と呼べる状態だったため、ホームズに問いかけることにした。

 

「ん、ああいや先程のミスター黎斗神の発言、最後の辺りを訂正しておくべきだと思ってね」

 

「あ゛?」

 

 

当然、それは黎斗神の気に触る。

 

 

「どういうことだあ、シャーロック・ホームズゥ! 今の私の発言のぬぅわにが遺憾だというのだあ!?」

 

「ああいや、遺憾ではなくただ訂正したいだけだ。勘違いさせてしまったならば謝ろう。」

 

「どぅわから何がだあ!?………あ。成る程な、チイッッ! 忌々しいがそういうことかぁ!!」

 

勝手に納得したらしい黎斗神。だがその表情は強い怒りに満ちていた。となれば当然マシュも気になるわけで…

 

 

「えっと、どういうことなのですか?」

 

「それはだね、カルデアは先程キミたちも目撃した謎の敵によって奪われ、そして今まさに閉館しようとしている、ということさ」

 

「「……え?」」

 

簡素に告げられたそれは、だがしかして永夢とマシュを再び驚愕させる、そして重大さと危険性を嫌が応にも感じさせるものだった。

 

 

「ど、どど、どういうことなんですか? 詳しく説明してください!ホームズさん、罪黎斗さん!!」

 

「二十秒前、管制室の全ての通信の停止、並びに動力停止を確認した」

「加えてカルデアスもその運転を停止。空調は止まり、館内の気温はマイナス1000度から更に低下」

「言いづらく、また君たちにとっては受け止め難いものではあるが、事実は事実として述べよう。カルデアは、崩壊した…完膚無きまでにね」

「そういうことだ…クソッ、ああ腹ただしい! 今の私たちにはもう、あの場所を取り戻す手段も、帰還する術も微塵もありはしないということだ!!」

 

「そん、な……」

 

それはたしかに余りにも直視し難く、また受け止め辛いものであった。永夢でなくとも、恐らくはこの場のメンバーの殆どがそうだろう。

そしてそれ故に、彼女がそういう行動をとったのもまた仕方ないと言えるのかもしれない。

 

 

「ダメだよマシュ! その体で今そっちに行っちゃ!」

 

「―――――嫌です! 止めて、止めてください! 私はカルデアに戻ります! お願いですから戻らせてください!」

 

そう。マシュが、カルデアに帰還するなどという普通に考えればトチ狂っているとしか捉えようがないそれを実行に移そうとしたのは。

 

 

「だって、だって! まだ奪われてなんて―――――奪われてなんていない!」

「たとえどんな事になったとしても、カルデアには皆さんとの掛け替えのない思い出が残っています!」

「ッ…! それに、それに…ッ!彼処には、まだ、あの人の、Dr.ロマンの部屋が……!」

「それが私の未熟さのせいで失われてしまうなんて絶対に嫌です! だから、だから行かせて下さい! 止めないでください!」

 

彼女は恐らく誰より酷く狼狽していた。無理もない。あの場所で誰より人の闇を見て、そして誰より人の光を見てきたのだから…

 

 

「よ、止さんか! 今から戻って何になるというんだ! おい、お前たちも何か言ってや、れ…?」

 

ゴルドルフも慌てる。だが彼女の言っていることは皮肉だが一つの正論でもあった。故に止めるものはいないと思われた。だが永夢だけはある行動に出た。そしてそれもまた、自然と言えば自然だった。

 

 

「――――――マシュ、君の気持ちは痛いくらいによくわかるよ。だけど、だけどこれは、誰のせいでもない。だから自分を責める必要はない、責めちゃいけない」

「…そして、逃げちゃダメだ! いつだって未来は諦めないものにしか、(あす)に向かって歩くものにしか訪れない、与えられないものだから…!」

 

そう。それは、強く、悲しく、そして暖かいマシュへの抱擁と語りかけだった。マシュに対する永夢の今の気持ちの全てがこれに集約されていると形容しても過言ではないほどの…。

 

 

「せんぱい、せん、ぱいっ………ううっ、ううう、うわああああああああああああああん!!!!」

 

そしてそれにあてられたのか、マシュは泣き出した。わき目も振らず、辺りに憚りもせずに…。

 

 

「ミスター永夢、マシュが泣き止んだら彼女が怪我をしないよう、椅子に座らせてシートベルトを締めてあげるといい。本当は今の彼女は無茶なデミ・サーヴァント化でハッチを開ける気力も残っちゃいない筈だからね」

 

ホームズもそれを気遣うようにそう告げた。

 

 

「…永夢、マシュちゃん……ん? んん!? 何だありゃあ!?」

 

そんな中貴利矢も何か励ましの言葉を言おうとしていたのだが、そのとき彼の目に再び驚愕すべき光景が飛び込んできた。そしてそれは、先程の衝撃を軽く飛び越えていくほどのものだった。

 

 

「おい名探偵さん、窓の外が見えてるよな!?」

 

「ああ勿論。ハンドルを握っているときから見えていたとも―――――にわかには信じ難い。それこそ夢か幻の類かと見紛うほどの光景だがね」

 

――――――それは、まるで夜空の如く漆黒に染まった空に光の柱、いや彗星だろうか、とにかく形容し難くしかして強く輝きを放つ何かが降ってくる、という光景だった。しかもその数は徐々に増していき、最終的に七つになった。

この有り様に貴利矢だけでなく永夢やポッピー、罪黎斗、同乗していたカルデアのスタッフも動揺し、騒ぎ始めた。

 

 

「あれは隕石―――――!? いや、しかしパナマから報告はなかったぞ!?」

 

「大気圏で燃え尽きないサイズの落下物は確認されていなかった!」

 

「しかも何だ、あの落下軌道はァ!? 既存の物理法則全てを逸脱している! おのれぇ、どういった理屈で真っ直ぐ(・・・・)に落ちてきているゥ!?……ああ! 成る程なあ、つまりはそういうことかぁ!! おいホームズゥ!」

 

だが黎斗神だけはやはり一人納得した様子でホームズに問いをぶつける。

そしてそれに対し、ホームズはこう告げた。

 

 

「ああ。キミの考えはずばり正解を穿っている。今続々と空から飛来してくるアレは人類の常識にないもの、ということは、遠く宇宙を飛んできた隕石でもないのだろう。かといってデブリの類いでも決してない」

「ならば、あとはフィクションの話しかあるまいね。たとえば、宇宙からの侵略者(インベーダー)、といった」

 

「流石私! やはり想像通りだ!!」

 

「ぴょ、ぴょえええええ、何ソレーーー!? というか笑ってる場合じゃないよ黎斗!」

 

「彼女の言う通りだ! 真顔でしれっと恐ろしいことを宣うヤツがあるか!」

「では何かね!?奴らは宇宙人だとでもいうのかね? そんなの全くもって馬鹿げてるぞ!」

「異なる星の連中が地球人のフリしてやってきてカルデアを独占したとでも」

 

「すまない、静かに! 外部からの通信だ。ただ、この周波数はキミたちカルデアのものだが」

 

ホームズの発言にポッピーやゴルドルフが更に驚き騒ぎ立てる中、シャドウ・ボーダーに設置された通信機の一つが音を立てる。だがソレは、かつて失ったはずのものから届けられたモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……通達する。我々は全人類に通達する』

『この惑星はこれより、古く新しき世界に新生する』

『人類の文明は正しくはなかった。我々の繁栄は正解ではなかった』

『…よって、私は決断した。これまでの人類の成長の(れきし)――――――汎人類史に叛逆すると!』

『今一度、この世界に人ならざる神秘(きょうき)を満たす。神々の時代を、この惑星に奪還する』

『そのために、遠きソラから神は降臨した。全能の力を以って生み出した七つの種子を以って、新たな指導者(プレイヤー)を選抜した』

指導者(プレイヤー)たちはこの星を作り替える。もっとも優れた『異聞の指導者(プレイヤー)』のみがこの世界を更新する』

『汎人類史の生命ははこの競争(ゲーム)、『聖杯探索クロニクル』に参加できず、また観戦の席もない』

『空想の根は落ちた。創造の木は地に満ちた』

『これより、旧人類が行なっていた全事業は凍結される。君たちの罪科(ペナルティ)はこの処遇を以って清算《リセット》するものとする』

『汎人類史は2018年を以って終了した』

『私の名はヴォーダイム。キリシュタリア・ヴォーダイム』

『7人の選手、いやクリプターを代表して君たちカルデアの生き残りに――――いや。今や旧人類、最後の数名となった君たちに伝達する』

『――――この惑星の歴史は、我々が引き継ごう』

『我々の意思に関する説明は以上だ。最後に、ゲーム開幕を告げる起動音声を以ってこのやり取りを終えるものとする』

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレを最後にキリシュタリア・ヴォーダイムと名乗った者からのメッセージはそこで途切れた。

そして入れ替わるかのように、空に見たことのない模様と、文章が浮かび上がる。そしてそれを読み上げるかのように辺り一帯に途轍もなく大きな電子音声が響き渡る。

 

 

 

 

「聖杯探索クロニクル!!」

「星の(うつわ)となれクリプター! 克ちとれクロニクル! 今こそ幕は開かれりィ!!」

 

 

 

 

「……キリシュタリアさん……? 今の声はたしかにキリシュタリアさんです、が――――――」

 

マシュにはそれよりも気になることがあった。

 

 

「「キリシュタリア・ヴォーダイムだとゥ!?」」

 

「Aチームのリーダー、私が保護してやろうとした若造が、何を偉そうに……!」

 

「ふぅざけるなァア! ぬぅわにが「聖杯探索クロニクル」でゃあ!! あの男、ゲームマスターたるこの私、檀黎斗神に断りも無くよくもよぉくも不正なゲームをォォ!!」

「そして“異星の神”ィ!! 神たる私に断りもなく神と名乗り挙げ句の果てにはゲームマスター紛いの行為を行うなど万死に値するゥ!!」

 

が、それは黎斗神がある程度説明してくれた。だがそれだけでは理解が追いつかない。ゆえに問おうとしたが、その時ボーダー内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 

 

「こ、今度はいったい何なんだぁ!?」

 

堪らずムニエルが叫ぶ。すると回答はすぐにやってきた。

 

 

『あー、電算室から緊急報告。電算室から緊急報告〜』

『はーい、こちら一人でボーダーの全機能を受け持ち中のチ・ヴィンチちゃんだよ☆ 海岸まであと2000m足らずだけれども諸君、窓の外を見てごらん。トラブル発生だぞ☆』

『前方に大量の霊基及びバグスターウイルス反応を感知。カルデアを襲ったあの猟兵どもだ』

『そしてその数は――――――まあもうお分かりだろうから言うまい!』

 

それは、あと少しで海岸に行き着くというところで、先程カルデアにて惨劇を引き起こした原因の一端である黒い猟兵、ゴルドルフ曰くオブリチニキというらしいそれらが群を成してこちらに向かってきているというものだった。

 

 

「あれは――――――先程の……ッ!」

 

「うへえ! なんて数だこんちきしょうめ! 見てわかるだけでも一個師団はいやがるぞぅ!?」

 

「ぴえー!?あんなの今の私たちじゃ抜けらんないよ〜〜!!」

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「くそっ、情けない! 今の僕じゃ、どうにもできやしない…!」

 

やはり皆動揺する。そしてそんな様子を見た永夢は、ガシャットが使えなければ一介の小児科医でしかない自分を、先程この世界線の自分との約束を果たすことなど到底できそうにないと感じさせられる自身のあまりの無力さをこれ以上無いほどに呪った。

だがしかし、そんな永夢を励ますようにチ・ヴィンチがこう告げる

 

 

『おいおい、そう悲観的になるなよ永夢。さっきも言ったろう、何があってもどんな時でも諦めてはいけない、今の君がどれだけ複雑怪奇な事情を抱えた別人であろうとも、宝生永夢という男には白衣と笑顔と元気が一番似合うのだから! 』

 

「チ・ヴィンチちゃん…」

 

(そうだ、さっきマシュにカッコつけたくせして何をくよくよしてるんだ僕は。ここで肩を落として自己嫌悪に浸ったところで、状況は悪化、良くても停滞したままだ。なら、どこまでも悪あがきしてやる!そのほうが今の僕にはよっぽど合ってる!)

 

チ・ヴィンチの言葉に再び心の火、心火を灯されることとなった永夢だった。

だがとうの本人は少々焦り気味だった。

 

 

(…と、カッコつけて永夢に言ってはみたものの、ボーダーであの囲みを突破するのは現状不可能と言える。おまけにソナーに映るものは……かといってこのまま何もしなければ全員良くて海の藻屑、悪くてそこら中に屍体をつくっちまう、つまりはどっちに転んでも確実に死を迎えることになる。ならば…)

 

『ようしホームズ、ハンドルを急いで右に! この際だ。船は諦めて一先ずは他の観測基地を探そう!』

 

ゆえにそういう結論に到達し、それをホームズに通達したわけなのだが…

 

 

「その提案は却下だ、チ・ヴィンチ。アメリカ基地からの反応はない」

「そう、悔しいがホームズの言う通りだあ!!」

 

明らかな拒否を示してきた。あと、何故か黎斗神が割り込んできた。

 

 

「現実を直視したまえ。ソナーには文字通り何も無い」

「チ・ヴィンチ、貴様も本当はホームズの真意を理解できている筈だァ! この南極にいる限り私たちに勝利は永劫訪れない。カルデアを占拠したあの部隊に追いつかれれば何もかも無に帰してしまうとなァ!!」

「そしてそのうえで存在する生存ルートが有るとすれば、それはあの人垣を突破することのみだ。つまりは何としても“海”に出る」

 

「おい止さんか馬鹿者ども、一か八かのようなことは! あれを突破するなど不可能だろう!?」

 

だが当然不服を申し出るもの、それは間違いだと糾弾するものもいた。そのうちの一人がゴルドルフだ。

 

 

「仮に海へ出られたとしても船はとうの昔に占拠されているわ!」

「なれば、こんなボロトラックなぞすぐに突入されて皆殺しになるのが関の山だろうが!」

 

「だそうだが、永夢。キミはどう思う?」

 

しかしホームズはそれでも落ち着きを崩さず、永夢にそんな質問を投げかけてきた。黎斗神も永夢の様子を伺っている。

 

 

「――――――ホームズさん。貴方と言えば冒険、それにつきます。僕はそう思いますよ」

 

それに対し永夢は迷うことなく、強い自信に満ちた表情でそう答えた。

 

 

「…フフッ。ああ、その通りだとも! これは冒険だ。それも極上、正しく飛びっきりのね!」

「ヘェアアア! やはりこの私が見込んだ男なだけはあるなあ永夢ゥ!」

 

その反応を見るに、ホームズと黎斗神の意図したことに見事的中していたようだ。

 

 

「だが、あの悍ましい人狩り軍隊を突破する、なんてそんな退屈に満ちた冒険じゃあない」

「これは人類初の魔術航行。月世界旅行。地底世界旅行、時間旅行――――――」

「そのどれとも違う偉大なる試みだ」

「あると定義しなければこの世界は成立せず、かといって我々には到底接触できない領域。即ち、マイナス世界への挑戦だ」

 

「ッ…!?」

 

途端、ゴルドルフの顔に戦慄が走る。

 

 

「な……なんだと?おい探偵、そいつはまさか――――――」

 

そして唾を飲み込みながら、恐る恐るとある禁断のワードに関する質問をした。だがホームズはそれをスルーしてチ・ヴィンチに話しかける。

 

 

「チ・ヴィンチ、ペーパームーンの使用許可を」

「ミスター黎斗神も承知の上だとは思うが、アトラス院からアレの使用許可は出ていない。だがその使用法を私は熟知している」

「なにせ彼らの本拠地で直接、その極秘マニュアルを盗み見たのだからね」

 

『アトラス院でのトライヘルメスか。探偵というやつはどんな時でもマメなんだねえ。まあ後顧の憂いを絶つのは良いことだが』

『だけども実際のところ、成功率はどのくらいなわけ? あの物言わぬ兵隊たちとやり合うより生存率は上なのかな?』

 

チ・ヴィンチはそれに、何処か唖然とした感じの声色での質問で応える。

 

 

「ふむ、そうだな。成功率は三割を越えれば上の上、といった具合だ。加えて何処に浮上するかも曖昧と来ている」

「つまり“この場を切り抜ける”といった条件だけに絞るならば、他の道を模索した方が気休め程度ではあるが良好だろうさ」

「だが、この先(・・)を視野に入れるのならばこちらを推薦させてもらおう。我々がこの先クリプターたち(あの連中)と戦っていくために」

 

「……」

 

それを聞いたチ・ヴィンチは暫し沈黙し…

 

 

 

 

『――――――あい分かった。虚数観測機・ペーパームーン、展開』

 

了承したのかペーパームーンの使用を開始した。そして…

 

 

『シャドウ・ボーダー外部装甲に倫理術式展開。実数空間における存在証明(ハーケン)着脱(ハズレ)

『未来予測・20秒後に境界面を仮説証明。時空摩擦減圧、0.6秒間で緩和』

『そしてコクピット内の諸君! 一瞬魂が抜けかけるが、なあに、気にすることはないよ☆ 普通(ふっつう)の幽体離脱だからね!」

「“あ、わたし浮いてる? 浮いてる? ていうか目の前にあるのわたしの体!?」

「なーんて事態(こと)になったら、急いで体に手を伸ばしてしがみつけばもう安心! どうにか一命を取り留められる筈さ!」

 

などととんでもないことをさも当たり前のように、ナチュラルにぶち上げた。

 

 

「あのね、そんな強引に強引を重ねたような言い方ある!? そんなの我々全員に一回死ねと言ってるようなものだろうがーーーーーー!」

 

フォウフォウ(よしよし)ン、フォーウ(まあ、気持ちは分かるから落ち着きなよ)

 

「猫なのか栗鼠なのかよく分からん獣に慰められた! こんな屈辱初めてだぞ!? だというのにああちくしょう! それを有り難く感じとる自分がおるのも事実なのが忌々しい!!」

 

当然またも騒ぎ立てるゴルドルフだが、それをフォウが慰める。

 

 

「あの、先輩! 状況に追いつけませんが、本当にいいのでしょうか……?」

 

一方でマシュも同じように困惑し、永夢に助けを求めてくる。

 

 

「まあよくはないだろうけど、でも大丈夫だよ。マシュも知ってるだろ? これはいつものことだから」

 

「…! ふふっ、そうですね」

 

だが永夢はそれに対し、何処か落ち着いた感じではにかむような笑顔でそう答えた。何故ならそれは、自分でない自分も、自分も、二人揃って見慣れた風景だったからだ。

マシュもそんな答えにいつものように励まされたらしく、軽く微笑んだ。

 

 

『うんうん安心した! 中身が別世界線なのだろうが今のキミはまったくもってキミらしいよ永夢! それじゃあ遠慮なく始めるとしようか!』

 

チ・ヴィンチはそんな二人のやり取りに喜びながら、今再び始まろうとしている大冒険、その合図を告げる。

 

 

『今から行われるのはカルデア初期に想定されたものの、その困難さ、危うさから同時期に廃止された事象干渉手段』

『マスターを霊子分解し、数値として時空帯に出力するレイシフトとは真逆のアプローチの空間移動法』

『この世界の隙間に入り込み、現実から完全に消失する“時空の狭間”にダイブする行為だ』

『カルデアを襲撃した敵。ソラから降り注いだもの。クリプター』

『マシュやポッピー君の言う通り、状況は全くもって不明だ』

『だが、彼らは間違いなく私たちの敵だ』

『加えて永夢、あのコヤンスカヤと名乗る女狐の台詞やこの肉体に檀黎斗がインプットした知識から察するに、程度や形は不明だが君たちの世界における仇敵の一角である財団Xと提携している恐れがある』

『つまりカルデアを滅ぼした強大なる人類の脅威ということだ』

『この事態に対応するため、我々は今以上の禁忌に触れよう』

『苦労して取り戻した未来を、素性のわからない新参者にむざむざ台無しにされてたまるものか 』

『まずはこの窮地を切り抜ける。反撃はその後だ。さあ、行くぞマスター・永夢』

『これが私たちの新たな武器、新たな旅路――――――デンボーダー、現実退去(ザイルカット)

虚数潜航―――――『ゼロセイル』、敢行するッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖都大学付属病院付きの小児科医・宝生永夢。その戦いはまだ終わりではなかった。幾たびに続く様々な戦いを乗り越えた先に突如として姿を現した新たなる脅威。そしてそれによってこの世界線の人類史に齎された大いなる悲劇。

事態を打破するため、この世界の自分(エム)、そしてその友にして恩師であるロマニ・アーキマンが託し遺してくれた未来を取り戻すため、永夢はその仲間たちと共に再び戦いの渦中へ、自身を導く異聞帯(ばしょ)へと駆けていくこととなるのだった……

 

 




次回、仮面ライダーエグゼイド 〜GAME IN THE LOSTBELT〜!

「現実との『縁』が必要です」「あれから約一週間」「地球は漂白状態に陥っている(・・・・・・・・・・・・・)」「シャドウ・ボーダーを守れ、九条。これは所長命令だ!」「彼らもまた我々を知っている」「これは……」「無理はダメだぞマシュ!」「凄い吹雪だ」「何もんだてめえら!?」「え……?」

第4話 獣たちのKingdom!!
投稿日未定!


次回 新章突入。 見たこともない景色や種族が登場します!

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