僕と戦車乙女の“非”日常です   作:神崎識

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臨戦態勢です!

連絡船に揺られて2時間少々経っただろう。

 

空気も少しひんやりしてきて温度も低下してきた。

 

もう既に東北の近くに来ていると肌で実感出来ているのだ。

 

巧本人には少し急な温度差の変化で少し身震いしていたが、慣れるだろうと思いながら東北支部がある青森県に近づいていた。

 

大洗女子学園の学園から出発してから巧のスマホが鳴りやまない状態で、巧は耐えかねて電話に出る事にした。

 

「もしもし、麻子?」

 

『お父さん!?どこに居るんだ!?』

 

麻子の必死そうな声に巧は罪悪感があった。

 

「麻子、お父さんは仕事でしばらく帰れないんだ」

 

『・・・』

 

「お父さんも寂しいけど、また近々に会えるからその時は家族二人で出かけようか」

 

『・・・わかった。家族二人で出かけよう』

 

「そ、そうだね。お父さんは仕事だから電話切るよ(『家族二人』と言う言葉だけ強調して言ったような気がする・・・)」

 

『ん、わかった』

 

電話を切った巧は一息入れて立ち上がり、海に目をやっていた。

 

海鳥は低空飛行しており、船の周りを飛び回っていた。

 

「もうすぐかな・・・」

 

青森港が見え始めていた。

 

そこには二つの学園艦があった。

 

1つは去年、絶対王者だった黒森峰女学園を破ったプラウダ高校と、もう一つは秘めたる実力を継続高校の二隻の学園艦が停泊していた。

 

普通に学園艦同士の接触ならこんなには騒がないが、プラウダ高校と継続高校は昔から仲が悪く、過去に全国高校戦車道大会前日に騒ぎを起こしてその年の全国高校戦車道大会は二校とも出場停止処分が下ったのだ。

 

それ以降、戦車道連盟は二校の接触を必要以上に警戒しているのだ。

 

東北支部も今回は去年の優勝校であるプラウダ高校が継続高校に争いを起こした場合の被害は計り知れないので、必要以上の警戒をしていたが、いざこういう事になってしまったら阻止しようにも方法がわからないので適任者としての伊藤巧の派遣を求めたのだ。

 

連絡船は港に到着して巧は船から降りた。

 

戦車道連盟東北支部の役員が数人異様な雰囲気を出して待っていた。

 

「お疲れ様です」

 

「状況は?」

 

「継続高校の隊長とプラウダ高校の隊長がプラウダ高校にて接触したという情報が入ってます」

 

「それは急がないとね。でも大勢で行くと騒ぎになるから僕一人で行く。いいね?」

 

『はい!』

 

巧の指示で東北支部の人間が動き始めた。

 

「移動にはこれをと副理事長から」

 

「ありがとう。遠慮なく使わせてもらうよ」

 

東北支部の人間が用意したバイクにまたがり、エンジンを始動させてプラウダ高校に向けて出発した。

 

プラウダ高校の学園艦は広く、徒歩ではプラウダ高校には容易にたどり着かない。

 

プラウダ高校の敷地も広いため普段はヘリかプラウダ高校の生徒の乗り物に乗せてもらい移動する事にしているが、今回は異例な事で東北支部の人間が巧の為に移動手段として小回りの利くバイクを用意したのだ。

 

古き良きロシアに似た街並みを颯爽とバイクで街を抜けて行き、プラウダ高校に近づいていた。

 

バイクの速度も上げて颯爽とプラウダ高校の校門前に着いた。

 

エンジンを停止させてバイクから降りた巧はプラウダ高校の校内に入って行った。

 

会談をするならプラウダ高校の応接室しかないと巧はわかっていたのでプラウダ高校の校舎内に入って行った。

 

プラウダ高校の校舎内は高校とは思えないほど豪華な廊下を通過していき、プラウダ高校の応接室に到着した。

 

これまでプラウダ高校の生徒は誰一人もすれ違わない事を考えると、どれほどの緊張感がこの学校内に漂っているかはよくわかる。

 

巧はどれほどの事態かをよく理解して、応接室のドアを勢いよく開けた。

 

「失礼するよ」

 

継続高校戦車道の隊長のミカと、プラウダ高校の副隊長のブリザードのノンナ。

 

「タクーシャ!」

 

そして、その声と共に真っ先に誰よりも早く巧のところに駆け寄ってくる小さな少女こそ絶対王者だった黒森峰女学園を破り全国優勝したプラウダ高校の隊長、地吹雪のカチューシャだ。

 

「急にごめんね。でも君たちが継続高校と揉めていると聞いてね」

 

「揉めている?違うわ!タクーシャ聞いて、あの盗人共がプラウダのちっちゃいかべーたんを盗んだのよ!」

 

事情が読めてきた巧は話の中に入って行く事にした。

 

「それは本当かい?ミカちゃん」

 

「そんなことは今は重要じゃない。今は君と私の再開を祝いたいと思うんだ」

 

ミカは巧に近づいて必要以上に体を密着して巧の首に手をまわして顔を近づけた。

 

「同志巧から離れてください」

 

ノンナがブリザードの異名如く冷たい目でミカを睨みつけてミカの頭部にマカロフを突き付けた。

 

ノンナは既にマカロフのトリガーに指をかけており、セイフティーロックを既に解除済みでいつでも発砲できるようになっていた。

 

「ノンナ、さっさとこの目障りな女を殺してちょうだい。タクーシャに腐臭が付くわ」

 

「ち、ちょっと待って!」

 

巧が仲裁に入って二人を止めると同時にミカを突き放すように引きはがした。

 

「ノンナ君、マカロフを降ろしなさい。危ないから」

 

「わかりました」

 

「それと僕においしいロシアンティーをいれてくれるかな?」

 

「わかりました。少し待っていてください」

 

ノンナは応接室から退室していき、巧は残った二校の隊長を座るように促した。

 

「2人とも座って」

 

2人は素直に巧の言う事を聞いて対面するように座った。

 

巧はその2人の間の真ん中に座った。

 

「さてと、KV-1についてだけど今回は大会開催間近だから僕からプラウダ高校の方にKV-1をプレゼントしよう」

 

「え!?本当タクーシャ!」

 

カチューシャは巧の提案に嬉しくて子供のようにはしゃぎ始めた。

 

「少し待ってくれないかな?」

 

ミカが話に割って入って止めた。

 

「KV-1を盗んだことを認めるよ。だからプラウダ高校にKV-1を返して、巧のKV-1を私たちがもらうよ」

 

ミカのとんでもない発言に巧は度肝を抜かれた。

 

「やっぱり!ちっちゃいかーべーたんを盗んだのあんた達だったじゃない!」

 

巧はカチューシャを手で制した。

 

「ミカちゃん盗みは犯罪だよ。今回は特別に何事もなかったことにするけど、次はないからね。カチューシャ君も僕がKV-1をプレゼントする事で僕に免じて許してくれるかな?」

 

「別にいいわよ」

 

「ありがとう」

 

騒動を何とか何事もなく終わらせる事に成功して巧はやっと一息ついた。

 

「お待たせしました。同志巧」

 

ノンナが真っ赤なロシアンティーと真っ赤なジャムが巧の前に用意された。

 

「すまない。それでは頂くよ」

 

巧はジャムを舐めてロシアンティーを口に入れた。

 

「(な、なんだ!この鉄さびみたいな味は!)」

 

巧は思わずロシアンティーを吐き出してしまった。

 

いつものロシアンティーの味ではなく、鉄さびのような味に巧は思わず吐き出してしまったのだ。

 

「ごめんノンナ君。いれなおしてくれるかな?」

 

「もちろん。いいですよ」

 

ノンナが巧の使っていたティーカップを取る際に巧はあることに引っかかった。

 

ノンナの指に真っ赤血が滲んだ包帯が巻かれていたのだ。

 

巧はその事に懸念を抱いたが、ノンナに聞かなかった。

 

「・・・その行動に意味はないと思うけどね

 

ミカがボソッと呟いた言葉は巧とカチューシャには聞こえていない。

 

「私はこれで帰らせてもらうよ。巧とはまた風のめぐりあわせで会えると思うからね」

 

ミカは立ち上がり、いつも通りの少し理解しにくい言葉でさよならの言葉を告げた。

 

ミカは巧に近づいて耳元でこう呟いた。

 

今度会う時は邪魔者が居ないときに二人でゆっくりと楽しい事を・・・ね

 

巧はミカのその言葉にビクッと身震いした。

 

「それじゃあね」

 

ミカは何食わぬ顔で応接室から立ち去って行った。

 

「そ、それじゃあ僕もお暇するよ」

 

「もう少しいいじゃない!」

 

「組み合わせ抽選会の用意があるから。ごめんね」

 

巧はホントはない仕事をでっち上げてさっさと帰る事にした。

 

巧は立ち上がり応接室から出ようとした。

 

入り口でノンナとすれ違った。

 

「せっかくロシアンティーをいれなおしてくれたけど仕事があるから帰れせてもらうよ」

 

巧はそう言い残して逃げるようにプラウダ高校を後にした。

 

~★~

 

巧は急ぎ足で校門まで行き、バイクのエンジンを始動させて逃げるかのように急いで走らせた。

 

巧はふとあることを思い出した。

 

そういえば千代に誤解されたままの事を思い出した。

 

巧は新たな予定として、詫びの品として千代が好きなワインを購入するために、美味しいワインを販売しているアンツィオ高校に立ち寄ることにした。

 




どうでしたか?

次回はアンツィオ高校です!

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