僕と戦車乙女の“非”日常です   作:神崎識

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今回はしほとまほがメインです!


久々の第二の実家です

学園艦から降りて車で街を走っていると巧は街並みに目を向けていた。

 

巧の学生時代はいつも歩いて道も今では車で通る程度になってしまい、少し寂しく思っていた。

 

それから少し走ると景色は一変して田んぼや畑が目立つようになった。

 

いつも三人で遊んでいた駄菓子屋や空き地は今もそのままで残っており、巧の操縦するⅡ号戦車でいつも遊びに行っていた事を思い出した。

 

巧は自分たちは変わってもここは変わらない事に少し安心している。

 

懐かしい景色を見ているとすぐに西住の家に到着した。

 

相変わらず大きな家で始めて来た時は迷ってしまっていた巧だが、今ではしっかりと家の中を把握している。

 

いつも通りに家の中の戦車がある蔵の近くに車を停めた。

 

「まほちゃん着いたよ」

 

「はい」

 

まほは巧の上着を着たまま車から降りた。

 

巧も車から降りると、後部座席に置いてあった仕事鞄と風呂敷包みを持った。

 

片手で鞄と風呂敷包みを一緒に持っていて、空いている片手の方はまほが腕を組んできた。

 

巧はいつも通りの事なので大しては気にしなかったが、最近まほの体の発育のせいか少しドキドキするようになった。

 

少し歩いていくと女中の菊代さんが待っていた。

 

「おかえりなさいませ。まほお嬢様。巧様」

 

「ただいまです」

 

巧は持っていた荷物を菊代に預けた。

 

「まほお嬢様。お着替えはお部屋に用意しています」

 

「いつもありがとうございます。菊代さん」

 

まほは巧の腕から離れて自分の部屋に向かうのであった。

 

菊代はこの光景に慣れているので大して驚いてはいない。

 

それどころか巧に『お疲れ様です』と言う顔をしていた。

 

それに答えるかのように巧は『慣れてます』と言う顔をしていた。

 

巧はふと思い返した。

 

まほはいつからこのようになったのか?

 

小学校に入学した当初は・・・

 

『巧さん!大好きです!』

 

まだこの頃のまほは素直で異性的に好きではなく、家族的みたいだった。

 

だがまほが変わる大きな要因となったのは巧の大学進学だった。

 

大学進学を皮切りに大きくまほは変わってしまった・・・

 

そのせいか小学校を卒業する頃は・・・

 

『あと4年です。4年待ってください』

 

この時の言葉の意味を巧には理解できていなかった。

 

まほは黒森峰女学園の中等部に入学した時から今みたいになっていた。

 

『巧さん!初潮がありました!いつでも巧さんの子供を作れます!』

 

この頃からまほが今みたいになったのは。

 

高等部に上がった時は・・・

 

『入学祝に婚約してください』

 

逆プロポーズされたことを思い出した。

 

小学校の卒業の時に言われた事の意味をやっと理解した巧であった。

 

この高校生になった直後からドンドンとエスカレートしてきた。

 

さっきの婚姻届の件はまだ軽い方だ。

 

「巧様!」

 

巧は考え込みすぎて周りの声が聞こえていなかった。

 

菊代さんの呼ぶ声でやっと意識が戻った。

 

「すいません。少し考え事をしてました」

 

「大丈夫ですか?師範がお待ちしているのですが・・・」

 

菊代さんに変な心配をかけた巧はしっかりとした声で答えた。

 

「大丈夫です。行きましょう」

 

「こちらです」

 

菊代さんに案内されてしほの居る部屋に向かうのであった。

 

屋敷の中の長い廊下を歩いてしほの居る部屋の前に到着した。

 

「師範t「巧さん入って来なさい」し、師範!?」

 

巧を連れてきた事を伝えようとしたが、しほが言うまでもなく巧の存在を当てた。

 

「菊代さん荷物ありがとう」

 

巧は菊代から預けておいた仕事鞄と風呂敷包みを菊代から貰った。

 

「失礼しますしほさん」

 

襖を開けて入室し、机を挟んでしほの対面に座った。

 

仕事鞄を自分の隣に置き、風呂敷包は机の上に置いた。

 

「手土産に日本酒を買ってきました」

 

風呂敷を開けて中の日本酒の瓶を見せた。

 

「ありがとう巧さん」

 

日本酒の瓶を受け取り机の上が空いた。

 

しほは立ち上がり、巧の隣に座った。

 

しほは巧の肩に頭を置いて体を傾けた。

 

巧は戸惑っていたが、動くとしほが倒れてしまうので動けずにいた。

 

「少し疲れました・・・」

 

「お疲れ様です」

 

普段から気を張っていて気を休める暇も無ければ、休ませてくれる人もいないのでたまに巧にこうしているのだ。

 

最初はカチコチに緊張していたが、今では少しは戸惑うが幾分かはましになっている。

 

「常夫さんにはこういう事はしないのですか?」

 

「あの人よりもあなたの方が休まります」

 

今のしほは夫の常夫よりも巧の方が愛しているのだ。

 

上面だけの夫婦と化しており、この事は常夫本人も気づいていない。

 

「近々に家元を襲名する予定なのですが、巧さんには西住流の師範になっていただきませんか?」

 

西住流の師範になるという事は、日本の戦車道を背負うという意味もある。

 

それに男として初めての西住流戦車道の師範となるのだ。

 

そんな凄い事に巧は迷いもせずに言った。

 

「すいませんが今回はお断りします」

 

「なぜですか?」

 

「実は戦車道日本代表チームの総監督に推薦を受けているので」

 

巧の実績を認められ、日本戦車道連盟の理事長を務めている児玉七郎と文部科学省学園艦教育局長の辻廉太の推薦を受けているのだ。

 

そしてもう一人、巧を推薦している人物が居る・・・

 

「大学戦車道連盟の理事長の島田千代さんにも推薦を受けています」

 

島田千代の名前を聞いてしほの顔が変わった。

 

普段の門下生に指導をしている時以上に憤怒にまみれた顔をしていた。

 

それもそうだろう。

 

西住流と対立する流派である島田流の家元が巧を高校戦車道連盟のしほを差し置いて推薦しているからだ。

 

それにかつて黒森峰女学園に在学中の巧を大学選抜に勧誘して当初すぐに連盟の強化員になるはずが、大学に進学することになってしまったのだ。

 

しほはそれかなり恨んでおり、ここぞとばかりに島田流を潰そうとしている。

 

千代もそれに対抗して西住流との溝が広がったのだ。

 

それに巧がたまに大学選抜に顔を出して指導している事にも腹を立てているのだ。

 

本当は巧が大学選抜で在中していた頃に指導をしてくれた千代に恩を返すために大学選抜に訪れるのだ。

 

しほはそれを知らずに千代が巧を無理やり大学選抜の指導をさせていると思っているのだ。

 

「千代め!また私の巧さんを騙そうとして!」

 

「っ!?」

 

しほが巧を逃がさないように腕をがっちりと力強く組んだ。

 

巧は痛さで声にならない悲鳴を上げた。

 

「い、痛いです!」

 

「ごめんなさいね巧さん」

 

巧が悲痛の声を上げたため、しほは素直に離した。

 

「今回の師範の件は延期にします。日本代表チームの総監督の件は私も推薦させてもらいます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

二人の会話が終わり、静寂に包まれる部屋に廊下から人の走ってくる足音が聞こえてきた。

 

ドンドンと近づいてきて部屋の襖の前で止まった。

 

「失礼します」

 

声の主はまほだった。

 

襖を静かに開けて入室してきた。

 

服装は普段着で白で統一された清楚系の服装で、普段の制服やパンツァージャケットのミニスカートとは違うロングスカートを着用している。

 

しほと反対の巧の隣に座った。

 

母親のしほに対抗するように、巧と腕を組んだ。

 

「まほ。それは母親に対する私への挑戦ですか?」

 

「そう受け取って貰って結構です」

 

巧を挟んでしほとまほの親子同志で火花を散らしていた。

 

普段は母親の言う事を聞くまほでも巧の事になると流石に親子喧嘩になる。

 

「二人とも落ち着いてください。まほちゃん、しほさんは母親なんだからそんなこと言ったらだめだよ?しほさんもまほちゃんの言動を真に受けたらいけませんよ?」

 

「巧さんが言うなら・・・」

 

「ごめんなさいね。巧さん」

 

二人は巧に言われた事を素直に聞き、いつも通りに戻った。

 

「巧さん。食事にしましょう。巧さんから貰ったお土産を飲ませていただくわ。巧さんも飲むでしょう?」

 

「僕は仕事で今日の夜には戻らないといけないので気持ちだけで」

 

 

「残念ね。それなら菊代に夕食をすぐに用意させるわ」

 

しほさんが菊代の事を呼ぶとすぐに菊代が現れた。

 

「夕食の用意してくれるかしら?」

 

「かしこまりました」

 

菊代は用件を聞いて部屋を後にする。

 

その時に巧に向けられた表情は同情に満ちていた。

 

「巧さんは今度いつ黒森峰に来てくれますか?」

 

「戦車道全国高校生大会の準備と運営で忙しいけど、大会期間中に一度指導に行くよ」

 

「そうですか、できるだけ早くに来てくださいね?」

 

まほは巧の服の袖をギュッと掴んだ。

 

巧はまだまだ子供で寂しいのかな?と心の中で安心しながらまほの頭を撫でた。

 

だけどまほのこの行為の本当の意味合いは違った・・・

 

「(巧さんが誰にも盗られないように・・・)」

 

本当の意味は巧がどこにも行かないように軽めの拘束行為なのだ。

 

まほの目から光が消えた事は巧は気づいていない。

 

巧の身近で彼女の心は黒く染まっていっていた。

 

菊代が唐突にも襖を開けた。

 

「皆様。食事の用意が出来ました」

 

菊代に続くように西住家の女中達が食事を部屋に運んできた。

 

豪勢で美味しそうな和食の数々が並べられた。

 

「師範もあまり飲みすぎないようにお願いします」

 

「わかってるわ」

 

菊代もしほに注意を促して食事の準備が整ったので女中全員が部屋から出て行った。

 

「いただきますね」

 

「巧さんは遠慮しなくていいのよ?」

 

「ありがとうございます」

 

三人は黙々と食事を始めた。

 

しほは巧のお土産の日本酒を飲みながら食事を楽しんだ。

 

食事の途中に巧は何かを思い出したかのように箸が止まった。

 

「しほさん少しいいですか?」

 

「なんですか?」

 

巧は仕事鞄から一枚の紙を取り出した。

 

「来週に今年度の戦車道全国高校生大会の会議をする予定なのでお願いします。今回は去年度からの反省で試合中断の審議の基準を下げたいと思いまして、それの審議を取りたいのでお願いします」

 

去年の第62回戦車道全国高校生大会の決勝戦において大雨により地面が滑り黒森峰の戦車は増水する川に転落した。

 

黒森峰女学園の西住みほのおかげで転落した戦車の乗員は幸い命に別状はなかったが、そのせいか黒森峰女学園は敗退した。

 

十連覇を目前に連盟の判断ミスともいえる事で勝てるはずの高校が敗退を余儀なくされた。

 

当時、大会の総合審判長をしていた巧はこの事故を二度と繰り返さないようにするためにもこの会議の開催を大きく推進した。

 

そして転落した戦車の乗員を助けたみほが黒森峰女学園を去らなければいけない事になった事にも後悔した。

 

だから高校戦車道連盟の理事長であるしほにも直接会って参加の表明を取りに来たのだ。

 

「心配しなくても、私は会議に遅刻もしなければ欠席もしたことがないのよ?」

 

「ありがとうございます。児玉理事長に報告したいので少し席を空けますね」

 

巧は心の底から安心して、この案件に力を貸してくれた日本戦車道連盟の理事長の児玉七郎にすぐさま報告をしたいのだ。

 

巧は退室して部屋から少し離れたところで携帯を取り出した。

 

だが携帯を見て巧は驚いた。

 

不在着信とメッセージが大量に届いていた。

 

その全ての送り主は西住みほだった。

 

巧は落ち着いてまずは仕事を終わらせようと児玉に電話を掛けた。

 

数コールした後に電話に出た。

 

「もしもし巧です」

 

『巧君どうしたんだ?』

 

「高校戦車道理事長の西住しほさんが来週の会議の参加してくれるそうです」

 

『そうか!それじゃあ次は大学戦車道理事長の島田千代さんにお願いに行ってくれ』

 

「わかりました。それでは」

 

電話を終えて巧は意を決して緑のアイコンのメッセージアプリを開いた。

 

『巧さん今暇ですか?』

 

『巧さんどうしたんですか?』

 

『巧さんもしかして仕事で忙しいですか?』

 

『返事ください』

 

『まだですか?』

 

『寂しいです』

 

『悲しいです』

 

『もしかして去年私のせいで優勝できなかったこと怒っているんですか?』

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 

等の無数のメッセージが送られてきていた。

 

盛大に勘違いをしているみほに巧は焦っていた。

 

それとサイレントモードにしていた自分を責めた。

 

巧は去年の事を責めたりはしていない。

 

むしろ大会の総合審判長していた自分の判断ミスだとみほに謝ったくらいだ。

 

巧は誤解を解くためにすぐに電話を掛けた。

 

1コール目にしてすぐに電話に出た。

 

「もしもしみほちゃん!ごめんね少し忙しくて電話とメッセージに気づかなかったんだ!」

 

海の波の音と風の音、そしてみほの泣き声が聞こえた。

 

『・・・本当にですか?』

 

泣き止んだようだが、鼻水をすする音が聞こえる。

 

巧は瞬発的に声が出た。

 

「本当だよ!明日も約束通り大洗に行かせてもらうから!」

 

『わかりました!楽しみにしてますからね!』

 

みほが電話を切って巧は一安心した。

 

巧は廊下を歩いて部屋に戻るのであった。

 

何も声を掛けずに部屋に入室した。

 

その瞬間、まほとしほが慌てた素振りで座っていたところに戻って行った。

 

巧が座って机に目をかけた。

 

「(あれ?箸をこんなに乱雑に置いたかな?それに箸の先端が濡れているような気が・・・気のせいかな)」

 

巧は気づいていないが実はまほとしほが・・・

 

「(危なかったわ。巧さんの箸の片方を使ったのがバレなくて・・・)」

 

「(巧さんが気づかなくてよかった・・・)」

 

巧は気づいていないがまほとしほが巧の箸を堪能していたのだ。

 

何も巧は気にしていないが、まほとしほは内心は間接キスが出来た事に喜んでいた。

 

その後は大して会話をしないで食事を終えた。

 

「それでは僕はここで」

 

「あら。もう少しゆっくりしていればいいのに」

 

すっかり出来上がってきているしほが巧を止めようとしていた。

 

まほもそれに便乗してきた。

 

「巧さん何なら私と一緒にお風呂に入りましょう」

 

「まほちゃんもうそんな歳じゃないでしょ?」

 

まほは絶望に満ちた顔で項垂れていた。

 

「また今度来ますから」

 

「絶対ですよ?」

 

「僕は約束を破った事ないでしょ」

 

まほを説得して巧は帰ろうとした。

 

「それでは巧さん今度は来週ですね」

 

「はい。お願いします」

 

しほは娘であるまほに羨ましいでしょ?と言う大人げない顔をしていた。

 

まほはそれに対してあまり悔しそうな顔をしなかった。

 

巧は部屋を後にして泊めていた車に乗り込んで西住の家を後にした。

 

西住の家を出て少しした時に巧が気づいた。

 

「(そういえばまほちゃんに上着を返してもらってなかったな・・・)」

 

実はこの事がまほが悔しがった顔をしなかった理由の一つだ。

 

~★~

 

まほが巧が帰った後に自分の部屋に戻った。

 

部屋には巧がまほに預けた上着が丁寧にハンガーに掛かっていた。

 

まほはその上着をギュッと抱きしめてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。

 

「巧さんはワタサナイ」

 

まほの瞳には光が消えており欲望に満ちていた・・・

 




いかがでしたか?

次回は大洗での巧の話です!
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