僕と戦車乙女の“非”日常です   作:神崎識

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巧は大洗を訪れる

巧は連盟のヘリにて少し考え事をしていた。

 

大洗には先日に巧の後輩である蝶野亜美が教官として行っていたのだ。

 

連盟に報告した内容に巧は目を疑っていた。

 

各員戦車を始めて動かしたはずなのにまともに戦えていたと報告していたのだ。

 

流石に校内練習試合は何が何でもやり過ぎだと巧は亜美を叱った。

 

理由は初心者に練習とはいえ試合をさせるなど連盟の名が傷つくことなのだ。

 

これでけがでもしたら更に連盟の名が地に落ちるのだ。

 

だけど巧は報告内容に重視し、次期日本代表候補として直々に手を加えたいと思ったのだ。

 

だが、本当の目的は西住みほの心のケアだ。

 

心身ともに傷ついたみほがどうして戦車道を再開したのか?

 

一番の懸念だ。

 

巧としてはあまり無理をせずにしてほしいところだが、優先すべきは本人の意思だと考えているのだ。

 

だが今後は仕事が忙しくて中々みほに会えないから今回は巧にとってはかなりいい出来事だ。

 

これから高校戦車道大会の準備と会議、更には各校に指導に行かなければならないのだ。

 

大学選抜にも島田流家元の島田千代に会議参加の表明を取らなければいけないのだ。

 

この時期になると巧は忙しくなるので休みの日数が少なくなり、連日勤務で忙しくなるのだ。

 

せめて休める日に休みたいのだが、流石にみほの事が関わると断れなかったのだ。

 

抽選会では運営をしなければならないので抽選会場に行かなければならないのだ。

 

この後も聖グロリアーナ女学院、サンダース大付属高校、アンツィオ高校、プラウダ高校、継続高校、知波単学園、黒森峰女学園、BC自由学園等の数校にも指導に行かなければならない。

 

それに大会で負けた高校と勝った高校のアフターサポートに回り、大会では審判員として全戦で仕事をしなければいけないのだ。

 

巧は案外に忙しく、気も休まらないのだ。

 

「もう少しで大洗女子学園です」

 

「ありがとう。帰りは連絡するよ」

 

一息をついて日本戦車道連盟の指定のジャケットを着て降りる準備をした。

 

海の上を進んでいたヘリから見る景色が学園艦の街並みの風景に変わってきた。

 

街の上を通過するヘリは学園艦のほぼ中心に位置する大洗女子学園のグラウンド上空に到着した。

 

ドンドン降下して行くヘリはグランドに砂煙をまき散らしながら着陸した。

 

スライドドアが自動で開いて、巧は大洗の学園艦に足をついた。

 

巧が少し歩いて行くと、連盟のヘリが飛び立った。

 

巧は自らの目で大洗女子学園の戦車道を履修している人物全員を見た。

 

かなり個性が強いが、これまでにも他の高校で個性が強い生徒を見てきたので巧はそこまで驚いていなかった。

 

「こんにちわ。日本戦車道連盟の強化員の伊藤巧です。今日は皆さんよろしくお願いします」

 

大洗女子学園の生徒は十人十色で色々なリアクションをしていた。

 

ある者は目を輝かせ。

 

ある者は何故か興奮していて。

 

ある者は全然わかってない顔をしていて。

 

そしてある者は・・・瞳の光が消えていた。

 

巧はみほに向かって手を軽く振った。

 

みほは笑顔だったが、どす黒い笑顔だ。

 

みほは全力疾走してる勢いで巧に飛びついた。

 

巧はデジャヴ感を覚えたが、倒れずにみほをしっかりと受け止めた。

 

「巧さん巧さん巧さん巧さん巧さん巧さん巧さん」

 

みほが巧の胸の中で巧の匂いを嗅ぎながら額を服にこすりつけた。

 

大洗女子学園の生徒たちはどよめいていた。

 

それもそうだろう。

 

普段はおとなしいみほでも巧の事となると別だ。

 

みほが黒森峰女学園在学中もこんな感じで初めて見た人間は大抵は驚く。

 

巧は苦笑しながらみほの頭を撫でた。

 

みほの顔は無邪気な子供のような顔に変わった。

 

ある程度したら満足したのかみほは巧から離れた。

 

「すまないけど隊長は誰ですか?」

 

みんなを置いてきぼりにして巧は戦車道の代表者ともいえる隊長を探した。

 

「わ、私だ」

 

片眼鏡の少女が巧の前に出てきた。

 

「保有戦車を教えてくれるかな?」

 

「Ⅳ号戦車D型、38(t)戦車、八九式中戦車、Ⅲ号突撃砲、 M3中戦車リー の計五両です」

 

「ありがとう」

 

巧は顎に手を掛け少し考える素振りを見せた。

 

だがその時一人の少女が声を上げた。

 

「あの!」

 

巧は考えるのをやめてその少女の方を見た。

 

「なにかな?」

 

「伊藤教官はあの黒森峰の伝説の伊藤巧ですか!?」

 

巧は少し苦笑しながら答えた。

 

「若い頃はバカなことをしただけだよ。あの事なんて伝説とは言えないよ」

 

少女は輝いた表情をしており、数人の生徒がその事を聞きたがっていた。

 

「かつて黒森峰戦車道を常勝集団に変えた張本人!そして全国高校戦車道大会でほぼ負けであろう状況から獲物を狩るタイガーの如く敵戦車をなぎ倒した伝説の選手!」

 

「恥ずかしいな。馬鹿みたいに暴れてただけだよ」

 

少し照れながら頭をかいた。

 

「それだけではありません!黒森峰卒業後も大学選抜にて日本代表として世界大会に出場し、上位に入りました!そして日本新記録ともいえる単騎での撃破数はなんと!20両を超えています!その後は現役を引退したとは言え、若い人材育成と去年は総合審判長として活躍なされている方ですよ!」

 

また大洗女子学園の生徒たちがどよめいていた。

 

それもそうだろう目の前に居る人物がそんなに凄い人なんて誰もが思わない事だ。

 

「もう十年以上も前の事だからね。僕もあの頃みたいに暴れる事はできないから」

 

少し巧は寂しそうな顔をした。

 

あの学生時代の楽しい思い出は巧の中に残っているが、一緒に戦ってきた仲間とは今は連絡を取り合ってはおらず、巧は会いたいなと心の中で思った。

 

「一応誤解を解いておくとみほとは僕が黒森峰の中等部時代からの関係で西住の家に居候させてもらってたから仲が良いんだよ」

 

大洗女子学園の生徒のみんなが納得してくれた。

 

流石に誤解を解いておかないと日本戦車道連盟の沽券にかかわる問題になり得る可能性があるからだ。

 

「さてと練習の風景でも見せてもらおうかな?」

 

「ぜ、全員整列!」

 

片眼鏡の少女が号令をかけていた。

 

「これより本日の練習を始める」

 

『よろしくお願いします!』

 

少女たちの声がグランドに響いた。

 

~★~

 

巧はある意味、期待を裏切られていた。

 

変な塗装の戦車たちにだ。

 

ピンクに金色、八九式に関しては戦車道ではなくバレーボールの事が書かれていた。

 

それにⅢ突に関しては手の凝った塗装に四本の幟がたてられていた。

 

それ以外の操縦センスは問題なかったが、戦車は論外だった。

 

Ⅳ号だけが唯一まともでよかったと巧は安心した。

 

巧は各員のプロフィールを読みながらどうするか考えていた。

 

巧は初心者だからキツイ練習とか何か言うよりかは自ら学ぶ方が良いと思った。

 

反省し改善を繰り返したらこの塗装もやめるだろうと思った。

 

そうなると他校との練習試合で学べばいいだろうと思った巧だが、それは弱い相手ではなく、彼女を成長させてくれる強い高校の方が良いだろう。

 

黒森峰はまほとみほの衝突が起きたり、しっかりとまだトラウマが治ってないからみほが黒森峰と戦うのは早いと判断した。

 

プラウダ高校も同様でみほの為に練習試合は避けた方が良いと巧は思った。

 

そうするとサンダース大付属高校か聖グロリアーナ女学院のどっちかだ。

 

「(聖グロリアーナ女学院の期待の一年生の成長力を見る為にもここはサンダース大付属高校ではなく聖グロリアーナ女学院の方が良いかな)」

 

巧の考えで練習試合の相手は聖グロリアーナ女学院に決定した。

 

聖グロリアーナ女学院には巧が期待をかけている生徒が居るのでお互いに刺激しあって急成長を見せてくれるかもしれない。

 

巧は期待と大きな希望に掛けてこの練習試合を成功に収めたいと思った。

 

巧は無線機を持って各戦車に連絡を入れた。

 

「そこまで。一旦戻ってください」

 

各戦車を取集して全車が巧の元に戻ってくる。

 

巧の前に整列する生徒たち。

 

「他校との練習試合をしたいと思います。隊長の河嶋さんどうですか?」

 

河嶋が38(t)の乗員の小山と角谷と話し合いを始めた。

 

この三人は生徒会のメンバーで仲が良いのだ。

 

「それじゃあやろうか。練習試合」

 

角谷が巧に答えを出した。

 

「ちなみに練習試合の相手は聖グロリアーナ女学院。準優勝の実績がある強豪校でいい経験になると思います」

 

驚きの声が上がっていた。

 

「勝つ事を意識せずに経験を積んだらいいからね。聖グロリアーナには僕から直接お願いするから。日程が決まり次第連絡します。あとは質問とかある?」

 

その言葉に元気よく一人の少女は手を挙げた。

 

「えっと君は・・・」

 

巧はもらっている各員のプロフィールを確認して外見が一致する生徒を探した。

 

巧といえど短時間では生徒全員の名前は覚えることが出来てないので確認する必要がある。

 

それに他校の生徒の名前も憶えているので間違うことも多々ある。

 

「武部さん。何か質問?」

 

「教官ってモテますか!?それと彼女とかいますか?」

 

思いもよらない質問で巧は苦笑するしかなかった。

 

「モテるよ。でも彼女はいないよ」

 

確かに巧は各校の生徒たちにモテモテだ。

 

流石に巧は鈍感ではないのでその事は本人も知っている。

 

だが本人は誰とも付き合う気もない。

 

その理由は一部の人間の威圧のせいだ。

 

その一人のみほがその一言で機嫌が最悪になった。

 

笑っているはずなのに笑ってはいない笑顔でどす黒い笑顔だった。

 

瞳から光が消えて吸い込まれそうな色をしていた。

 

巧はそれに気づいてすぐさま声を出した。

 

「今日はここまでにしよう!解散!」

 

大洗女子学園の生徒たちは疑問を浮かべて皆それぞれに離れて行った。

 

みほは巧に歩み寄ってきた。

 

「巧さん。モテるってドウイウコトデスカ?」

 

みほの気迫に動揺を隠せない巧。

 

「ほんの冗談のつもりで言っただけだよ」

 

適当な言い訳で誤魔化そうとした。

 

「ふ~ん・・・私の家に行きましょう」

 

「はいワカリマシタ・・・」

 

巧に拒否権はない。

 

みほに腕を組まれて強制連行されていった。

 

~★~

 

巧と腕を組んでいるからみほは機嫌が良くなっていた。

 

上機嫌で鼻歌を歌っているくらいだ。

 

ちなみにみほが歌っている曲はもちろん『おいらボコだぜ』だ。

 

みほはボコファンでかなりのマニアなのだ。

 

「上機嫌だね」

 

「巧さんと下校できるなんて夢のようです」

 

「そうかい?」

 

みほの気分は最高潮であった。

 

だが巧には時間がないのだ。

 

「みほちゃん。悪いけどそんなに長くは居れないよ?」

 

「どうしてですか?」

 

「仕事でね。会議の資料作りがあるんだ」

 

もう一週間を切ったルール改正会議の為に巧は忙しいのだ。

 

「しょうがないですね・・・ですが最後に良いですか?」

 

「どうしたの?」

 

みほが立ち止まりそれに合わせて巧が立ち止まる。

 

みほは巧の前に移動した。

 

そして巧に抱き着いた。

 

「・・・しばらく大丈夫なように抱きしめてくれますか?」

 

「いいよ」

 

巧はしっかりとみほを抱きしめた。

 

「(巧さんは騙されているんだ・・・お姉ちゃんや他の女は巧さんの優しさに付け込んでいるんだ・・・)」

 

巧はみほの異常に一切気付いてはいなかった。

 

「・・・巧さんありがとう。次はいつ会えるかな?」

 

「次は練習試合の時に審判をさせてもらいに行くよ」

 

「また近々会えますね」

 

「そうだね。もう時間だから」

 

みほが手を振って巧を見送った。

 

「(私がしっかりしないと巧さんが悪い女に騙される・・・)」

 

みほは巧を守る事を強く決心するのであった・・・

 

~★~

 

巧はみほと別れた後に少し歩いて学園艦の海が見える所に行った。

 

一息つくためにベンチに座った。

 

携帯電話を取り出してある人物に電話を掛けた。

 

1コールの途中で電話に出た。

 

「もしもし今いいですか?」

 

『大丈夫です。どうしたのですか?巧さん』

 

「久しぶりですね千代さん」

 

電話の相手は島田流家元であり、大学戦車道連盟の理事長である島田千代だった。

 

「明日の午後に大学選抜に伺いますが、いいですか?」

 

『構いませんよ。それより島田流の師範に興味はありませんか?』

 

「千代さんは僕を戦車道日本代表チームの総監督に押したはずですが・・・」

 

巧はしほ同様に戦車道日本代表チームの総監督を言い訳に断ろうとした。

 

『あら。別にその後でも構わないのよ?』

 

「それでしたら検討させていただきます」

 

『ありがとう。それじゃあ同じく愛里寿ちゃんとの婚約も検討してくれるかしら?」

 

「えっ!?」

 

巧は思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「愛里寿ちゃんはまだ13歳ですよ!」

 

『いずれは結婚できる年齢になるわよ?』

 

「そうなると僕はもう30代ですよ!そんな男が少女と婚約なんて戦車道連盟と島田流の名に泥を塗りますよ!」

 

『大丈夫よ。島田流の力を使えば問題ないですよ』

 

「ですけど何で僕なんですか?」

 

巧は根本的な理由を聞いた。

 

『それはあなたと愛里寿ちゃんとお似合いだからよ。それにあなたは西住流より島田流の方が似合ってるわ』

 

「・・・わかりました。あくまで検討ですよ?」

 

巧は折れて千代の要求をのんだ。

 

『ありがとう。それじゃあ私をお義母さんて呼んでくれるかしら?』

 

「まだ気が早いですよ」

 

千代は楽しそうだが、巧は少し疲れていた。

 

「もういいですか?」

 

『私は楽しかったからもう満足よ。あっ言い忘れたけどくれぐれも浮気はしないように・・・ね?』

 

巧は最後の千代の言葉に少しビクついた。

 

言葉だけで覇気を感じるのだ。

 

電話を終えて一息つく暇もなく、聖グロリアーナ女学院に練習試合の申し込みの電話を掛けた。

 

数コールの後に電話に出た。

 

「もしもし。伊藤巧ですけど」

 

『あら?巧さんお久しぶりですわね』

 

電話に出たのは聖グロリアーナ女学院の戦車道隊長のダージリンだった。

 

「急ですまないけどある高校と練習試合をしてくれないか?」

 

『巧さんのお願いは断れませんわ。それよりもそれはどこの学校かしら?』

 

「大洗女子学園と言って戦車道が復活したばかりなんだ」

 

『そうですの。でも私達は受けた勝負は全力で行く主義ですの』

 

「そっちの方が君たちも大洗の子も更に成長するからお願いするよ」

 

『練習試合の申し込みはこちらから連盟の方に送りますので予定が決まり次第に大洗女子学園の方にはこちらからお電話させていただきますわ』

 

「ありがとう。助かるよ」

 

巧は電話の向こう側の騒ぎ声が聞こえる事に気づいた。

 

『ダージリン様!巧様のお声を聴かせてください!』

 

『そうですわ!わたくしも巧様のお声を是非とも!』

 

声の主は巧が目をかけている聖グロリアーナ女学院の期待のルーキーの二人。

 

オレンジペコとローズヒップだ。

 

「声が聞こえるけどみんなは元気かい?」

 

『声の通りですわ』

 

少し安心した巧はベンチにもたれかかった。

 

『それより練習試合には巧さんは来るんですの?』

 

「審判員としていくつもりだけど」

 

『それでは練習試合後に茶会でもいかがですか?』

 

「いいよ」

 

『ありがとうございますわ』

 

「気にしないでいいよ。それよりももう電話切ってもいいかな?」

 

『いいですわ。最後に巧さんに言っておきますわ。イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない。覚えておいてくださいね?』

 

ダージリンの言葉にも千代と同様の覇気を感じた。

 

巧は電話を終えて空を見上げた。

 

そして巧は一言つぶやいた。

 

「僕もあの海鳥たちみたいに自由に・・・」

 

巧の心は誰も気づかないうちに壊れてきているのだった・・・




どうでしたか?

大洗女子学園の戦車道履修者の個人的な絡みは後にありますのでご心配なく!

聖グロリアーナ女学院の生徒も練習試合後に絡みを作りますので今回はすくなめにしました。

今回のメインはみほちゃんなので他のキャラはできるだけ抑えました。

次回は大学選抜に行きます!

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