巧は車で大学選抜専用の演習場に来ていた。
かつて大学選抜に在籍中の時によく来ていたので、顔パスで演習場には入れた。
広い草原をメインにした演習場で森と川もあるのであらゆる面での戦闘に対応できる。
広大な敷地を誇り、国内でも有数の演習場だ。
巧は車では移動せずに徒歩で演習場を歩いて移動していた。
巧は広い演習場でも直に歩いてみて回るのが好きなのだ。
この場合、後輩たちにあらゆるパターンでの対応力をつけてもらうために歩きながら見て回り考えているのだ。
そのうちに見晴らしのいい丘に着いていた。
丘の上からは練習をしている大学生の姿が見えていた。
島田流家元の千代には事前に伝えていたが、大学選抜のメンバーには伝えていなかったため、巧が今日来るのは誰も知らないはずだ。
巧は指導者として今している練習を観察して、欠点を見つけていた。
これもかつて在籍していた大学選抜チームの今後の発展と将来の日本代表チームのメンバーの為の仕事なのだ。
砲撃の音と着弾の音が入り乱れている。
だがその音が段々と止んできた。
巧は練習の終了を確認して大学選抜チームの元に歩み寄っていくのだ。
パーシングとチャーフィーが数両に隊長車のセンチュリオンが一両だけ停車しているのだ。
「各員整列しなさい」
巧が停車している戦車の集団に近づいて言った。
各々が声を上げていた。
「コーチ!?今日来るなんて聞いてないですよ!」
「そうです!言ってくれれば迎えに行きましたのに!」
「それよりも私達の練習見ていたのですか?」
声を上げたのは巧が高校時代から目を掛けていた三人。
現在は大学選抜チームの中隊長を務めているバミューダ三姉妹こと、アズミ、メグミ、ルミだ。
この三人は高校時代に別々の高校で活躍していたが、巧がその実力なら戦車道で進学できると巧が大学選抜に勧誘したのだ。
そして今現在のバミューダ三姉妹としての必殺技のバミューダアタックを提案して指導して実用化させたのが巧なのだ。
「みんな久しぶり。愛里寿ちゃんはどこに居るかな?」
大学選抜チームの隊長を務めている島田愛里寿。
島田流家元の一人娘で飛び級で大学に入学した13歳の天才少女なのだ。
変幻自在の忍者戦法で、敵を翻弄して圧倒的火力と一糸乱れぬ統制で敵を殲滅する西住流とはまた違う流派なのだ。
その愛里寿も大学選抜に在籍中の若い日の巧とはみほとまほと同様に幼き日を過ごしたのだ。
愛里寿はみほと同様にボコられグマのボコのファンで巧はみほのおかげでボコの事を熟知していたので愛里寿とはすぐに仲良くなった。
だけど愛里寿は初めて父親とは違う男性と接したことと友達もいなかったので初めて親しくなった人間が巧だったのだ。
最初は家族のような感情だった愛里寿の感情は深い愛へと変わってしまった。
「隊長は家元に呼ばれて現在は居ないです」
「ありがとう。それじゃあ指導を始めるからよく聞いてね」
巧は先の大学選抜チームの練習を見ての反省点を言い始めた。
それは事細かく丁寧な口調でだ。
大学選抜のメンバーは呆気に取られていた。
一応、大学選抜は高校時代に戦車道で活躍した名選手が多いはずなのだが、巧から見るとやはりまだまだひよっこのようだ。
それに十人十色と言う言葉の通り各員の性格もバラバラで連携をうまく取れていないので、素人から見ると強い欠点がないチームに思えるが、戦車道関係者から見る反省点が多い。
このチームをうまくまとめるのは、やはり隊長としての素質が必要になる。
愛里寿は飛び級できるほどの天才少女とはいえ、あまり他人とは接したこともなかったので人の感情を読み取るのが下手だ。
そうなると大学選抜チームをまとめるとなると難しい話になる。
だからこそ各員がしっかりと連携を取れるようになっておくと隊長である愛里寿の負担が少なくなり、大学選抜としての実力が上がるのだ。
かつて大学選抜に在籍していた巧もチームをまとめるのに苦労したのだ。
「一応はこれくらいかな?」
「私達ってまだまだなのね・・・」
「コーチからこんなにズバズバ言われるほど私たちってダメなのか・・・」
「コーチ私たち才能ないのですか?」
バミューダ三姉妹を筆頭に大学選抜の各メンバーが自分の不甲斐なさに落ち込み始めた。
落胆としており、状況が悪化していた。
「そんなに落ち込まない。君たちが日本代表となって欲しいから厳しく言っているんだよ?」
「日本代表チーム・・・」
大学選抜チームの一人がそうつぶやいた。
「世界のまだ見ぬ敵は強敵だよ。そんな実力では日本の恥になる。そうならない為にも僕は君たちに厳しく接するよ」
巧は直に体験していたのだ世界大会で見た景色と世界の実力を・・・
そして直に感じた威圧を・・・
巧は22歳と言う異例の若さで日本代表チームに選ばれた。
だがしかし、その若さと経験不足で上位に入賞するも敗退した。
世間は巧のリベンジに期待をかけたが、巧にはその選択はできなかった。
しほとの約束で大学卒業後は日本戦車道連盟の強化員として働くことが約束されたのだから。
巧は世界大会でもっと戦いたかったが、それは叶わぬ夢となった。
その夢を若い世代に託そうと日本代表チームの総監督になるために強化員として、若い人材育成に努めるようになったのだ。
だからこそ巧の信念として熱意のある事細かく丁寧で分かりやすい指導になっているのだ。
「だけどたまには息抜きも必要だから今日はここまでにしよう。君たちの活躍を期待しているからね」
『はい!』
さっきとは打って変わって元気と気合を取り戻した返事をした。
巧の期待していると言う言葉によほど元気づけられたようだ。
各自に解散して行く中、バミューダ三姉妹だけは残った。
そして巧に歩み寄っていた。
「コーチこの後お暇ですか?」
「私達も暇なので」
「お茶しませんか?」
「すまないけど、この後は千代さんと仕事の話をしなければいけないから、また後の機会にお願いするよ」
バミューダ三姉妹は残念そうな顔をした。
だがバミューダ三姉妹の一人のアズミが巧に近寄って正面から抱き着いた。
アズミ以外この場の全員が驚いた。
アズミの大きな二つに実った胸が巧の体に押し付けられていた。
「コーチ。普段は高校生の貧相な小娘の体ばかりで辛いと思います。たまには女子大生の魅力ある体に欲情してもいいんですよ?」
「アズミ君そういうのは・・・」
巧は拒否しようとしているが、ルミとメグミが何か理解した顔をしていた。
「行くわよルミ!」
「いつも通りのバミューダアタック!」
メグミは巧の左腕に抱き着いた。
メグミもアズミに負けず劣らない大きく実った果実の谷間に巧の腕を挟んだ。
ルミは反対の右腕を掴んで腰とお尻の方に手をまわさせた。
ルミはメグミやアズミのような女の武器はないが、スレンダーな体型に引き締まったお尻が女の武器なのだ。
「これが私達の!」
「いつも通りの!」
「バミューダアタック!」
これは三人連携の巧を落す為の必殺技のバミューダアタックなのだ。
巧は抵抗も出来ずにこの状態から動くことも出来なくなってしまった。
「コーチこの後、私たち暇ですから」
「近くにホテルもありますから」
「行きませんか?」
三人からの強烈な誘惑に屈しずに耐えているが巧の理性も三人同時攻撃だと崩壊しそうになっている。
だがこの場にいる全員は気づいていなかったが、とてつもない威圧を放っている少女が近くに居ることを・・・
「三人とも何をしている・・・」
そこにいたのは大学選抜チームの隊長である島田愛里寿だ。
普通の人間にはない覇気を放っており、バミューダ三姉妹は後退りしていた。
「た、隊長これには・・・」
「深い訳と言うか・・・」
「理由がありまして・・・」
バミューダ三姉妹は巧から離れて巧の後ろの方に隠れながら言った。
「久しぶりだね愛里寿ちゃん」
「巧さんお久しぶりです。それよりもどいてください。その三人を殺せません」
愛里寿の瞳から光が消えてどこから取り出したかわからないハサミを持って構えていた。
巧を盾にしているバミューダ三姉妹は怯えて震えていた。
「まぁまぁ落ち着いて。僕の癒してくれただけで今回は不問と言う事でいいでしょ?」
「巧さんが言うなら・・・三人とも巧さんに免じて今回は許します。早く帰って」
『は、はい!』
三人は急ぎ足でこの場を去って行った。
それを確認した愛里寿は巧に近寄った。
「行こ。お母様が待っているから」
巧の手を小さな手で力強く手を握っていた。
「(巧さんが私以外の女に目移りしないように私がしっかりしないと・・・)」
巧が知らなうちに愛里寿は日々愛の大きさ変わっているのだった・・・
「わかったよ。行こうか愛里寿ちゃん」
愛里寿は巧の手を引いて演習場を歩いていくのだ。
「巧さん。お母様から婚約の件は聞きました」
「あ、愛里寿ちゃん。検討させてもらうだけで確約ではないんだよ?」
「知ってます。だけど私と結婚した方が幸せになりますよ?」
「幸せ?」
巧は疑問に思ってしまった。
「最年少で戦車道日本代表チームの隊長に選ばれた島田愛里寿が伝説名選手の伊藤巧が電撃結婚って戦車道界では無敵の夫婦になります。それで一躍有名人です。仕事も安定しますし、現役復帰だってできますよ?」
「現役復帰か・・・」
巧の一番困らせると言ってもいい言葉なのが『現役復帰』と言う言葉だ。
一番楽しかったあの時代をもう一度蘇らせることが出来るが、それは社会人チームに上がったかつての仲間への侮辱ではないのか?と思っている。
見捨てるようにしてチームを去り、連盟の強化員として働いてはいるが、本当にチームメイトに戻れるのか?
それなら選手ではなく、仕事の通りの監督として仕事をする方が昔の仲間たちも許してくれだろうか?っと思っている。
だけど欲を言うならもう一度あの舞台で戦いとは思っているが現状は答えが出ずにいる。
「大丈夫ですか?」
「心配してくれてありがとう。僕は大丈夫だから」
巧は作り笑いで愛里寿の心配をなくそうとした。
巧は今回の事を一度胸の中にしまって置いた。
だが愛里寿がこのように婚約や結婚と言う言葉を口にするようになったのか?
巧はいつからかと考え始めた。
初めて会ったときは4歳で人見知りだから千代の後ろから巧に話していたのだ。
『始めまして・・・島田愛里寿です・・・』
完全に巧の事を怖がっていたが、ボコの事で話が盛り上がって普通に接するようになった。
『お兄ちゃん!一緒にボコのビデオ見よ!』
巧と愛里寿は仲のいい兄妹のようだった。
だが巧が大学を卒業をするときは・・・
『お兄ちゃん!どこに行くの!愛里寿を置いていかないで!』
愛里寿は泣き叫び巧を止めようとしていた。
それ以降からだろうか愛里寿が変わったのは・・・
『お久しぶりです。巧さん。私と結婚して永遠に一緒に居ましょう』
巧を独占しようとするようになっていたのだ・・・
「巧さん着きましたよ」
大学選抜の専用施設に到着した。
ここの施設は大学選抜専用で色々な設備が存在しているのだ。
この施設内の応接室に島田流家元が居るのだ。
「ここにお母様居るの」
巧と愛里寿は施設内の客室前にもう既に到着していた。
「ありがとう。愛里寿ちゃん」
巧は一息ついて心を落ち着かせてドアをノックした。
『どうぞ。お入りください』
千代の声が部屋の中から聞こえた。
「失礼します」
巧と愛里寿は応接室に入室した。
そこにはソファの二つを挟んで机があり、片方にはもう千代が座っていた。
「巧さんも愛里寿ちゃんも座ってちょうだい」
千代が座っている正面のソファに巧と愛里寿を誘導した。
巧がソファに座って愛里寿が座れる分を空けたが、愛里寿は巧の座っている膝の上に座った。
「仲睦まじいのね!お義母さんうれしいわ!」
「当たり前ですお母様。私と巧さんは運命の赤い糸で結ばれているんです」
巧は色々な事に疑問を持ちながらも口にはしなかった。
「早速ですが、今年度よりの試合中断条件の基準を下げる件についての会議に出席をお願いしたいのですが」
「もちろん出席はさせてもらうわ。どうせしほも来るのでしょ?」
「ええ。高校戦車道連盟の理事長として今年度の全国高校戦車道大会から改正の反映をお願いしたいので」
千代が悪巧みを考えている顔になっていた。
「それならいいわ。巧さんがどっちの流派にふさわしいかしほと直接戦ってやるわ」
「ち、千代さんあまりこの時期に騒ぎを起こされると大会運営に影響が・・・」
「お母様!」
見かねた愛里寿が声を上げた。
普段はおとなしく声を荒げない愛里寿が声を上げたので巧は少しビックリした。
「絶対に西住流に勝ってください!」
「ええ!愛里寿ちゃんあの忌まわしい西住流を潰してみせるわ!」
島田親子で話が盛り上がり過ぎて巧の存在が薄くなっていた。
だけど千代が話をやめて腕時計で時刻を確認した。
「ごめんなさいね。そろそろ仕事の方に戻らせてもらうわ」
「すいません千代さん。貴重な時間をもらって」
「いいわよ。愛里寿ちゃんは巧さんをお見送りして」
「はいお母様」
巧と愛里寿は応接室から出て千代と別れた。
また手を繋いで演習場の出口まで一緒に向かった。
その間は大した会話もなく少し寂しい感じだった。
気付いたら出口に到着していた。
「それじゃあ愛里寿ちゃんまたね」
「巧さんこれを」
愛里寿が来ている大学選抜のパンツァージャケットのポケットから小さめのボコのぬいぐるみが出てきた。
「くれるの?」
「うん。巧さんに近寄る悪い事の身代わりになってくれるボコなんだ。だから肌身離さず持ってて」
巧はお守りと思ってそのボコを受け取った。
「ありがとう。大事にするよ」
巧は受け取って日本戦車道連盟のジャケットのポケットにしまった。
「それじゃあまたね」
「巧さん。またね」
巧が連盟の車に乗ってその場から離れて行った。
愛里寿はその場に立ったままだ。
暗い瞳でたった一言つぶやいた。
「悪い女は全て・・・」
あのボコはただのボコではないのだ。
愛里寿が小型の盗聴器を仕込んである特殊ボコなのだ。
「巧さん・・・今度は一人にしないでね?」
愛里寿は去ろうとしたが、途中で立ち止まった。
「違った・・・巧さんが私を一人ぼっちにしてない・・・悪い女に盗られたんだ・・・今度は盗られないようにしないと・・・」
愛里寿の心の傷は大きく変化して違った方向に成長していたのだ・・・
どうでしたか?
次回は修羅場と化した会議です!