巧は日本戦車道連盟の会議室に居た。
会議まで一時間以上あるが、会議の主催者として資料の用意をしていた。
日本戦車道連盟理事長の児玉七郎を筆頭に高校戦車道連盟理事長の西住しほと大学戦車道連盟理事長の島田千代の重役たちが一挙に集うのだ。
それだけはない。
巧が押している審判員三人を会議に参加させているのだ。
優秀な審判員の意見も取り入れつつルール改正に反映させたいのだ。
その三人は篠川香音、高島レミ、稲富ひびきの三名だ。
バミューダ三姉妹とは同級生で高校時代は優秀な選手だったが、家庭の事情で就職を余儀なくされた時に巧が給料の良い日本戦車道連盟の職員と審判員として就職をさせたのだ。
そして巧の部下として審判員としての実力を上げて今では若手の中で一番の審判員だ。
判断力の高さと厳しい判定は巧譲りだ。
ちなみにこの三人は巧の事を尊敬もしているし好意もあるがいたってノーマルだ。
だからよく三人と飲みに行く時は気持ちが楽になるらしい。
こうしているうちにも巧は制作していた資料を机に並べたり、パソコンとスクリーンを繋いで映像を流せるようにできる準備をしていた。
これも巧の戦車道に対する熱意と安全にプレーして欲しいという優しさから起こった事なのだ。
これも巧自身の責任感の強さと戦車道への思いが動力源だろう。
だがこの会議が地獄の修羅場に化する事は巧本人もその他の人間にも予期できなかった。
「巧さん。昨日ぶりですね」
まだ会議には一時間近く時間があるというのに大学戦車道連盟の理事長ならびに島田流家元の島田千代が会議室に一番乗りで来た。
「御早いですね千代さん」
「仕事の方が思ったより早く終わったので来させてもらいましたわ」
千代は会議室の指定されている席に移動して座った。
「巧さんもお忙しいのね」
「いえ。千代さんの方が忙しいはずです」
「気遣いありがとう。そういうところも愛里寿ちゃんのお婿さんとしてのいい点よ」
巧は苦笑しながら頬を少し掻いた。
「前にも言いましたけど、検討するだけですからね千代さん」
「あら残念ね。もうお義母さんって呼んでもいいわよ?」
「まだ早いと思いますけど・・・」
巧は少し諦め気味の顔で言った。
「それよりも西住しほさんは時間にルーズなのかしら?」
「それを言うなら島田千代は時間が余るほど暇なのかしら?」
会議室の扉が開いてそこから現れたのは高校戦車道連盟の理事長、西住流の師範の西住しほだった。
千代の言った事に対して同じ言葉の意味を持つ言葉で返した。
しほと千代は目を合わせて火花を散らせていた。
「あら?しほの巧さんに対する気持ちはそんなものなの?私は巧さんに対する愛情が大きいから仕事をいつもより早く終わらせてきたのよ。その程度なら島田流に巧さんが来ても問題ないわよね?それに島田流には愛里寿ちゃんみたいな優秀な子もいるわ。あら?西住流の子は優秀じゃないわよね?特に二番目」
千代は皮肉のように言ったが、しほはまるで表情を変えてなかった。
「西住流にはまほがいます。それにそちらのお子さんはまだ13歳で貧相な体で巧さんの子供が出来るはずないわ。それに比べてまほは引き締まった体で大きな胸を持っているわ。これこそ巧さんにふさわしい体よ。それとみほに関しては近々に勘当します」
巧はみほの勘当の話を聞いて周りからはわからないが焦っていた。
だが巧はもしもみほが勘当されることがあれば自分の実家に匿う予定でいるのだ。
「いいえ、愛里寿ちゃんは大器晩成型よ。将来は私みたいな体型になるわ。それに巧さんは若い子の方が好きなはずよ」
巧は心の中で『それでは僕がロリコンみたいじゃ・・・』と思ったがこの争いに口出ししたらそれこそ争いが激化すると思ったのであえて何も言わなかった。
「待っていては遅すぎる。まほはもう既に結婚できる年齢だから今すぐにでも結婚できるわ。それにまほは国際強化選手よ。夫婦で二人三脚で世界一を目指すのよ」
「それなら愛里寿ちゃんは大学に飛び級できるほどの天才よ」
「所詮は親の七光りで飛び級しただけだわ」
お互いに引かずに言い争っているが、すっかり巧の存在を忘れかけているのだ。
「それでも巧さんは愛里寿ちゃんとの婚約を検討してくれると言ってくれたわ」
「あくまで検討。本心は西住流の師範として次期家元のまほを支える事を巧さんは望んでいるわ」
巧はいつになったら終わるのかとずっと思っている。
だがこの空気を換えてくれそうな人物が現れる。
「し、失礼ですが御二人そこまでに・・・」
そこに現れたのは日本戦車道連盟理事長の児玉七郎である。
二人の間に割って入って仲裁をして止めていた。
二人は離れて言い争いを一旦やめた。
「三人とも入りなさい」
七郎の声で篠川香音、高島レミ、稲富ひびきの三人が入ってきた。
三人はしほと千代の言い争いをしている中に入る勇気が出なくて七郎がそこに居合わせたので七郎本人が入って止めたのだ。
「それでは全員揃ったので少し早いですが会議を始めたいと思います」
こうして波乱な状態で会議が始まった。
ちなみに巧と七郎はとても仲が良いのだ。
巧の高校時代から注目をしていて入社時には巧と二人で話し込んで意気投合し、一緒に飲みに行ったのが始まりだった。
巧は社交性が高くてすぐに人と仲良くできるのも巧の長所なのだ。
そのおかげで各学園艦の学園長や理事長とも仲が良く政界にも友達が居るレベルだ。
外国にも友達が居るのも巧の自慢の一つだ。
ロシアにはノヴォシビルスクにいる軍で中佐やっている人間とも知り合いだ。
巧は全世界の戦車道界ではかなりの有名人なのだ。
だから巧がその気になれば日本戦車道連盟をやめても普通に生活ができるのだ。
だけどその戦車道界には巧に関する一つの噂がある。
それは巧の高校時代の噂で対戦校の乗員と彼の乗っていたティーガーの乗員だけしか知らない話なのだが、巧は戦車に乗ると性格が反対になり、鬼神の如く敵戦車を殲滅していたと。
当時の対戦校の人間は恐怖を覚えるもので、同じ黒森峰のメンバーでさえなれるのに時間がかかるレベルだ。
西住や島田の人間でさえ見たことがない巧の本性は一体どうなのだろうか?
あくまで噂なので真実かどうかは知る者は少ない。
ちなみに巧のこの噂を各校の隊長はかなり調べているようだが、いまだに真実にたどり着けていないので、各校の隊長は作り話と認識している。
これほどまでに巧は愛されているのになぜ巧は誰とも付き合わないのか?
これもまた誰もが思う疑問の一つだ。
巧は異性に関しては興味はさほどないようで、みほやまほ、愛里寿はあくまで家族的に好きなので異性としてはあまり見ていないようだ。
恋と言う感情を埋める為に巧は戦車道やっていたようなものだ。
彼の心を満たすのは戦車道のみなのだろう。
だけど彼も男だ。
戦車道から身を引いてから数年。
彼も異性を少しは意識し始めたようで、最近は少しドキドキはするようになった。
だけど巧も学生時代は女子に囲まれていたので少しは耐性があるようだ。
だから各校の隊長や教え子に欲情しないようだ。
だけど巧本人も来年で30歳になるのでそろそろ結婚を考えないと苦しいと思い始めており、だから婚約の話はこれまで断ってきたが検討するようになったのだ。
だから最近は少し結婚を意識して生活をしているようだ。
だけど巧は異性の好みのタイプが存在しなければ初恋もないので恋の経験も少ないので巧自身もあまりわかってはいないようだ。
だからこそ巧は無意識に異性にモテるのだろうか?
結果は既に出ているが・・・
「以上で今回の議論については終わらせてもらいます」
巧を中心に会議は終了していた。
今回の議論であるルール改正は無事に通り、審判員の審議についても基準を下げることに成功しているので、巧については思い通りになる結果になった。
しほと千代は会議の間はおとなしくしており、言い争いはなかった。
「巧君は今度の高校戦車道大会の抽選会の時にルール改正の発表をお願いするよ」
「わかりました」
七郎の言った高校戦車道大会の言葉に巧以外にもう一人反応している人物が居る。
「今年の高校戦車道大会は去年の黒森峰みたいな事にならないといいですね」
「嫌味のつもり?」
さっきまで鎮火していた争いの火がまた再燃焼したのだ。
しほと千代はまた火花を散らし始めており、七郎と篠川香音、高島レミ、稲富ひびきは急いで逃げており、巧だけが残された。
「別に嫌味のつもりではないのですよ?私は去年の事故が無くなればいいと思って言っただけです」
「どうだか」
「ふふっ。西住流も大変ですね。去年の事で」
「やはり千代!貴女は去年の事を馬鹿にする気なの!」
「いいえ、立派な事だとは思いますよ。ですが勝利至上主義の元、いかなる犠牲を払ってても勝利するのが西住流なのではないのですか?それとも貴女は自分の流派でさえ娘に教育が出来ないのかしら?」
千代の容赦のない言葉による攻撃にしほは対抗できずにいた。
「やはり島田流こそが巧さんにふさわしい流派だと思いますが、どうですか?巧さん」
遂に巧も二人の言い争いに巻き込まれる事になってしまった。
「僕は去年の事は西住流でも黒森峰の問題でもないと思います。去年の事は我々の日本戦車道連盟の恥とも言える問題です」
「巧さん・・・」
「お優しいのね」
しほは巧に救われたようだ。
巧は去年の事をずっと引きずっているようだ。
この巧の言葉により、言い争いが鎮火してきた。
「ありがとう巧さん。少し付き合ってくれるかしら?」
「しほ!抜け駆けは許さないわ!」
またしほと千代の言い争いが始まってしまった。
「抜け駆け?貴方こそ巧さんを大学に勧誘したでしょ!?」
「いいえ!巧さんは自らの意思で大学選抜に来たのよ!」
言い争いが激化して来たところで巧は会議室から消えるように出て行った。
日本戦車道連盟の廊下を歩いて呼び止められる声が聞こえた気がしたので振り向いた。
「ハァーイ!ダーリン!」
そこにはサンダース大付属高校の隊長であるケイが居た。
「ケイ君その呼び方は・・・」
巧はこの呼び方に抵抗があり、周りの人間に変な目で見られるからだ。
特に仕事場では特にそうである。
「良いでしょ?」
「良くはありませんけど・・・ケイ君はどうして連盟に?」
巧の隣に立って腕を組み一緒に歩きながら話し始めた。
「文科省がカール自走臼砲の申請をあやふやにしているから連盟側から問い合わせをお願いしに来たのよ」
「カールはオープントップだからね。でも考え方次第では戦車道でも使えるからね。判断が難しくて審議が長引いているんだよ。でも僕から辻局長に聞いておくよ」
「サンキュー!流石。私のダーリンね!」
ケイはさっきより強く巧の腕に抱き着いた。
ケイの大学生にも負けない胸に巧の腕が挟まれており、巧も少し意識している。
だけど巧は一つ気になることがあった。
「そういえばケイ君。今日は付き添いは居ないのかい?」
「平日だから私だけしか公欠を取れなかったの」
「帰りはどうするんだい?」
「近くの飛行場に迎えがいるからノープロブレムよ!」
「女子高生一人では危ないので車で飛行場まで僕が送ります」
「いいの!サンキュー!」
巧とケイは連盟の玄関を抜けて車に乗った。
「(誰も連れてこなくて正解ね!誰にも邪魔されなくて助かったわ!)」
巧はケイを乗せて車を走らせた。
車内ではあまり会話が無くて巧はある事に気づいた。
「ケイ君。もうお昼だけど何か食べたい物はあるかい?」
「そうね~。たまには陸のファーストフードを食べたいわね!」
「近くのハンバーガーショップによるから好きな物を頼むといいよ」
「サンキュー!」
ケイは巧との二人きりの食事を期待したが、その期待は裏切られた。
「ドライブスルーだから食べたい物を教えて」
ケイは逆に車内で二人きりで食べられるから逆にうれしかったのだ。
巧がケイの要望を聞いて自分の食べたい物を注文してそれを定員から受け取り、ケイに渡した。
「先に食べていいよ」
「それなら私がダーリンに食べさせてあげるわ!」
ケイは運転している巧の口にハンバーガーを持っていき食べさせた。
巧の食べたハンバーガーを次はケイが食べた。
「(間接キス・・・刺激が足りないわね)」
ジュースのストローやハンバーガーで間接キスをしているが巧は気にしていない。
ケイは間接キスにあまり満足してはいなくてもっと刺激的な事を望んでいた。
だけどケイは車内での食事はまるでカップルのようなので機嫌がよかった。
「着いたよ」
だけどその幸せの時間は長続きしない。
ケイを乗せた巧の運転する車が飛行場に着いてしまったのだ。
ケイは惜しんだが、最後に刺激的な事をした。
それは単純で決定的な事だ。
巧の頬にキスをしたのだ。
巧の思考は停止して錯乱状態と化した。
戦車道の試合でこうなった事は以来の出来事で久しぶりの感覚だった。
ケイは少し微笑んで手を振って巧の車を後にした。
「・・・年頃の女の子はわからないなぁ」
巧は誰も居ない車内で一言そう呟いた。
どうでしたか?
ケイはサンダース大付属高校に行くので今回は控えめにしました!
次回!紅茶の園の住人と軍神が激突する!