とある空想の能力活劇(改) 作:SD
結論から言えば、キリがないと思ったので、投稿し始めた次第です。
如何に文章を書くかで悪戦苦闘しております。
匿名での投稿となりますが、どうぞご容赦ください。
日も沈み始め、溶岩を彷彿させる、赤く粘着質な光が行き渡っていた空も群青に染まって来た頃。街のあちらこちらで電灯が都会らしい無機質な光をチカチカと発し始めた、その頃。学園都市の中でも特に学生寮の多い第十七学区でさえ、もう辺りに出歩いている学生は見られない。その為、その学区のある通りで明らかな犯罪行為が行われていたとしても、それを咎める者は居なかった。いや、もしも居たとしても恐らくは咎めはしなかっただろう。
「………えーっと、学生さーん 」
「もう一度言うけど、今俺たち困っててさー」
「ちょーっとばかし、金貸してくれねーか? ああ、もちろんいつかは返すからな、いつかは」
「だから、今言った事を取り消そう、な?」
(………何せ、そんなことすれば、腕っぷしのある脳筋不良達に返り打ちに逢うに決まってるからなぁ......)
今現在、全くもって不愉快な馬鹿笑いを浴びせられ、なけなしの所持金を奪われそうになっている女子高校生、
格好の獲物を見つけた獣のような笑みを貼り付け、自分と後ろで立ち竦む青年を囲む小悪党達を、彼女はどこか他人事のように苦笑いしながら、事の発端に思いを巡らしていた。
全ての始まりはもう夕日が半分ほど沈んできていた時間帯に遡る。 井鶴が青春の華の女子高校生になってから一ヶ月程度経った五月の初め。夏休みを期待するにはまだ早過ぎて、日が沈むのもまだまだ遅い時期のある日。高校生になったからといって、生活のスタイルが劇的に変わるわけでもなく、教育の水準が世界最高の学園都市であろうが、そこまで特別な日常は井鶴の前に存在していなかった。
その日、ひょんなことから問題児の友人の起こした事件の巻き添えを受けていた。てんやかんやあったのち、教師からの説教を長いこと聞き、ついでに反省文を日暮れまで書くこととなり、井鶴はすっかり疲れてしまっていた。
そんなときに限って、不良との予期せぬ遭遇は起こった。
突然だが、簡単に説明すると、井鶴の住処から高校までは基本的に、レトロな団地を彷彿させる学生寮群を縫っていく、やや複雑な形で通学路が展開されている。学生が住む場所を集中させた地区の為、学生寮の周りは、学生寮が集中しているのであり、八百屋や精肉店、 定食屋やファストフード店は愚か、ちょっとしたドラッグストアすら無い。正直なところ、井鶴は区画整備を行った昔の学園都市の人々の正気を疑っている。そして、最後の希望であった学校付近のスーパーのタイムセールは、見事な藍色を帯び始めた空模様に鑑みれば、とっくに終わってしまっているだろうことは、容易く想像できた。
どうしようかな、と歩きながら金欠少女である井鶴は策を練ろうとしつつも、どうやらこの晩と次の朝は割高のコンビニを利用しなければならないと悟り、とぼとぼ肩を落として歩いていた。『
話を戻そう。井鶴が歩むこのルートは、学生寮ばかりでまともな店が無いという事は先ほど述べたが、一応それでは殺風景なのだと誰かが思ったのか、学生寮が密集した辺りを暫く進むと、噴水やら何やらがある広場に出る。朝はジョギングとかしたりする学生もいるが、夜はてんで人気がない。まあ、開発だのなんだのやってれば疲れるから、朝はいても夜は居ないのだろう、と言う人がいるだろうが、それは違う。
井鶴がを抜けていこうとした時、ふと歩いていた通りの端、丁度広場と道路の境から、唐突に怒号が聞こえてきた。証明によってきらきらと輝く石畳と、鈍く光を跳ね返すアスファルトが、明瞭にその分かれ目を主張しているその上で、何人かの青年達ががなり立てている。
反射的に頭をそちらへと向け、井鶴は目にした。
「………おいおい、学生さん何でこれしか持ってないんだよ。万札どころか千円札すらロクにねーじゃねーか!」
「ちょっとした慈善活動のつもりでさ、金にも能力にも恵まれない俺達の為にちゃーんと出してくれよー」
「お前、ナガテンの生徒だろ! んで、そんな奴が金持ってねー訳ねーだろ!? ちょっとそこで跳んでみろよ!!」
────余りにも露骨過ぎるそのカツアゲの現場を。
そう、この人気のない広場は、夜になるとしばしば不良達の屯する場となるのだ。まあ、人の目が極端に少なくなるから、当然のこととも言える。生憎、今日はこの集団以外にはうろついている不良達は居ないようだが。
井鶴は歩みを止めた。不良と思わしき数人の男達に、細縁の眼鏡を掛けた、細い体躯の青年が数人の不良に囲まれているのが見えた。彼の身長は井鶴と同じ位だが、制服の襟にあるローマ数字の「III」の文字から察するに、中学三年、ないし高校三年辺りなのだろう。さっき不良の一人が言っていたナガテンという言葉から、名門の長点上機学園に通っているのかもしれない。彼らに対抗する為の能力、或いは武器を持ち合わせていないからか、彼は反抗するようなそぶりを見せず、顔を引きつらせている。
「
そう井鶴は推し量った。自らの能力に対する失望や、能力の強度の低さ故の周囲からの差別、過激な競争意識による仲間との軋轢などによって、学校から逸脱した存在。そう一般的には言われているが、実際の所それなりの能力を持っている人間も中には居る。その為、完全な無能力者の集まりでないものも少なくはなく、所謂チンピラの代名詞として、学園都市の人々の間で使われている。彼らの所業の数々により、年がら年中警備員達が疲弊させられているのは、周知の事実である。
井鶴には見逃すという選択肢はある。ぐったりしている今の状態では、助けに入った所でまともに状況が変化するとも考えられない。だが、助けない訳にはいかなかった。それが、上方井鶴の短い人生の生み出した性分を基にした、学園都市の学生がするには非合理的な判断であったとしても。
「やめなよ、君たち」
そして、取り敢えず井鶴はその間に割って入ったのだった。
あん、と濁りのある声を荒げ、一斉に不良たちが井鶴の方を向く。怒気に当てられて、一瞬ひるむも、井鶴は言葉を継げる。
「彼、嫌がってるみたいだけど」
数人の不良のうち、一人の男は舌打ちをし、一人の男は溜息をつき、一人の男は顔を歪めた。
「……舐めてんじゃねーぞこのアマ……って言いたいとこだが丁度いい。アンタ、俺らに寄付してくれねーか。この野郎、ロクに金を持ってなくてな。それ次第で考えてやるよ」
井鶴の言葉に大した反応をする事もなく、不良は苦々しげに言葉を吐き捨てた。
「一に、有り金全て渡して立ち去る。二に、無駄に対抗した挙句有り金を奪われていいようにされる。三に有り金全部奪われて楽しいコトをする、なんつってな」
続いて少し軽い感じの不良が、ふざけた調子で言葉を発した。巻き起こる下卑た笑いに眉を僅かに潜め、ロクでもないことを言った不良を始め、井鶴には徒党を組んだ不良達が優越に浸っているのが理解できた。
「………私がどう動こうが、君らは応じる気が無いって事?」
少し声の調子を落として井鶴は尋ねる。
「うーん、ちょっと違う。詰まる所、俺らの気に触るような事をする前ににどっかいけって事さ」
一人の飄々とした感じの男は苦笑いをしながらそう言った。
「つってもまあ、なんかあったら即、第二、第三の選択肢だけどさ。お前、よく見ると女にしてはまあイケる方じゃないか」
また誰かがそれに乗って何かをほざいているが、聞いていても不愉快極まりないだけなので、井鶴は言葉を流しつつ、チラリと細縁眼鏡の青年の方見た。あちらの方は視線に気づいたのか、目を合わせてきて、小さく首を横に振った。それが逃げろという意味なのか、見捨てるなという意味なのかは井鶴には分からなかったが、井鶴の中でやる事は決まっていた。最初は物々しい態度に当てられて、多少の恐怖が渦巻いていた井鶴だったが、話の通じそうにない相手の対応により、単純な苛立ちが沸々と湧いてきていた。最早まともに言葉を交わす必要もなく。
「………君達の言うことに従うつもりは、毛頭無いね」
きっぱりと、不良達を前に井鶴は言った。
そして、暫しの膠着状態を経て、今に至る。不良達は逆上しかけているようで、顔を引きつらせながら一歩、井鶴の方へ距離を詰めた。平和的に会話する程度の余裕は残っていたようで、再び井鶴に話しかけた。
「………へえ、そいつはいい考えだな。で、どうするんだい」
だが、そんな雰囲気も、井鶴の次の言葉で消えることとなる。
「私が君達に支払うべき物なんて何一つない。そして、それはそこの彼も同じ。だから、私が彼を連れて何処に行こうが、そこに何ら問題はないね」
彼らの中から漏れていた、あからさまな不遜な態度が消え、そして怒気混じりの嫌な雰囲気が、じわりと体に纏わりつくのを感じた。
ようやく彼らの中ではっきりしたのだ、軟弱な女学生一人に、ある程度荒事に長けている自分達が、格下扱いされていると。
「………ま、待ってください。この人には手を出さないで下さい。僕をサンドバッグにしようが好きにして良いですから 」
井鶴と不良の間に流れて始めた張り詰めた雰囲気を破って、細縁眼鏡の青年が井鶴の前に立った。不良達からは目を逸らし、歯切れ悪くもそう言った。この場でそれをするという事に、意味は無く、寧ろ不良の怒りに触れる可能性のある、明白な自殺行為であるのにも関わらず、彼は言った。ここまで何もやってこなかった青年の思わぬ行動に井鶴は少なからず驚いた。ただの意気地なしでは無かったのか、それとも見栄を張ったのか。その彼なりに覚悟を決めているのか、不良達に向けられた力のこもった形相からは、少なくとも後者は考えられにくいと、井鶴は思った。
不良の中でも肩幅のしっかりとした、体格の良い男が青筋を浮かべ、細縁眼鏡の青年の襟首を掴んだ。
「俺達は、金が欲しいだけで、お前を殴るとかそういったことは、正直どうでもいいんだよ」
そう凄味を効かせて、男は呟く。
「じゃあ、こんな下らないことなんかやらずに、バイトするなり何なりして、堅実に金稼ぎしたらどうなんだよ。なんで僕と彼女みたいな部外者がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」
青年の叫びを聞いたが早いか、男は憤怒の念の一切を拳に蓄えたようで、無表情で右の拳をゆっくりと振りかぶり、細縁眼鏡の青年に渾身の力で殴りかかろうとした。
不良達は、これで忌々しい茶番が終わる、とばかり思い、また青年は、すぐにも飛来する痛みを覚悟した。 男の放った拳は彼を盛大に吹っ飛ばし、一連の騒動は終わるかと思われた。
しかし、その拳は途中で止まった。いや、止まってしまった。ピタリと、今までの勢いが嘘だったかのように、細縁眼鏡の青年の眼前で静止している。それは常識を考えれば存在し得ない現象だった。
「………えっ」
細い体躯の青年の口から、驚愕の響きを持った声が飛び出した。
男の腕を静止させていたのは、紛れもなく井鶴の手だった。その太い腕の肩に近いところを、井鶴は横から掴んでいた。力を全く感じられない、ほっそりとした彼女の腕が、ガタイの良い男の腕の動きを止めたのだ。不良達の息を呑んだ音が、はっきりと聞こえたくらい、周りはしんと静まりかえっていた。得体の知れない何かに遭遇したかのように、殴りかかった男は悲鳴すら上げる事無く、目を見開いて井鶴の横顔を眺めていた。純粋な戸惑い、恐れが心を支配し、次の一撃を繰り出すという事すら、彼の頭から消し去っていた。井鶴が腕から手を離すととに、派手な尻餅をついて男は体勢を崩し、膝から地面に着いた。
不良達は信じられなかった、まさかただの女学生、しかも喧嘩慣れしていなさそうな部類の者、に後手を取るなど。しかし、ともすれば彼らは一つの結論に至った。
「テメェ………まさか………」
「………気づくのが遅いよ。私の能力は
その言葉を聞き、不良たちの間で緊張が走った。大能力者。しかも、攻撃に特化した能力持ちの。それは言うまでもなく、大した能力を持たない不良たちに、井鶴は到底敵わない存在である事を意味する。
「下手に出たら調子に乗って………、さぁ、どう料理してくれようか」
そう言いつつ、井鶴は不良達のかたまっている方向へ、一歩、静かに踏み出した。
「……全治一週間、一ヶ月、一年、それとも…………君達はどうされたいのかな」
あっけらかんとした響きを持った言葉だった。その言葉は、数秒とかからず不良達の間にある二つの感情を伝染させていった。高位の能力者への畏怖を、抗う気力すら奪う恐怖を。そして一人の不良の情けない悲鳴を。また、違う不良の後ずさる足音を。その他の些細な事を皮切りに、一気に彼らの逃走本能に一気に火が放たれた。それからはまるで映画を早回しで見ていくかの様に、あっという間に全てが終わった。不良達は当初の獲物だった細縁眼鏡の青年には目もくれずに逃げていき、その場には精神的にも肉体的にも疲労した井鶴と、呆然とした顔の青年の二人だけが残された。
「本っっっ当に、ありがとうございましたっ!」
「うーん、まあ私も君もラッキーで助かって良かった、ってだけだからなぁ.........」
その後、井鶴は細縁眼鏡の青年から何十回と頭を下げられていた。井鶴が止めるように言って、ようやく顔を上げて、恥ずかしそうに頭を掻いているその姿からは、彼が生真面目だが冴えない、一般人である事がひしひしと伝わってきた。
不良達になぜ絡まれていたのか尋ねた所、本当に偶々通りかかって、制服であっさり所属校を悟られてしまい、便利な金蔓と見られてしまったからだという。まあ、そういった理由を抜きにしても、学園都市の進学校の生徒は特に僻まれるから、青年が特に何か考えていた訳ではなくても、不良達から勝手な嫉妬混じりの嫌がらせを受けたのだろう、と井鶴はぼんやりと曇ってきた頭の中で思った。
井鶴が疲れてため息をついたところで、青年が口を開いた。
「えっと僕、
「堅苦しいのはよしなよ。私は上方井鶴、パッとしない高校に通う学生だよ。俗にいう『至って普通な高校生』、だね」
肩を竦めながら言うと、金原は笑いながらこう返してきた。
「いやだなぁ、普通だなんて。さっきバシッと不良達の前で言ってたじゃないですか、大能力者の『
うん、残念ながら違うんだと思いつつ、井鶴は苦笑いを抑えながら言った。
「あー、それなんだけど………、ハッタリなんだ」
「…………へ?」
途端、状況は一転し、雰囲気が固まった。金原が金魚の様に口を開いては閉じている。
仕方がない、上方井鶴には『
「詳しくは言えないけど、私の能力は精神系統の物なんだ。だから、そのことがバレていたら、きっと彼らをごまかすことは無理だったに違いない」
元より腕力の弱い女子高生が、まともな能力も無しに真っ向から不良達と戦って、勝てる見込みなど存在する筈もない。
「…………じゃあ、どうやってあの動きを…………」
「サッカーでいうインターセプトの様なものだよ。ボールがどの位置に来るか予測出来ればカット出来るのと同じ様なものだ」
今さっきの状況で当てはめてみよう。金原が一人の不良を逆上させたことにより、金原自身が攻撃の対象となった。ここで、不良は金原の胸ぐらを掴んでいたため、実質的に不良が狙う場所は顔面だけだといえた。そして、不良の男は、大きく振りかぶって金原を殴ろうとしていたので、その長い間にどのようにして拳が繰り出されるのかは、ある程度予測はできた。あとは、あまり動かない、動きの支点となる肩をそれとなく触れ、動きを止めた後に、ぐっと周りからもよく見えるように掴めば、あたかも井鶴が腕力で彼のパンチを抑えたかのように、周りからは見える事となる。
「触れた時点で、多少のラグはあっても、私は必ず止められた。あとはそれっぽい強化系の能力名を出せば良かったんだ」
井鶴にとっては今更の事実だが、金原にとってはかなりの衝撃だったらしい。ポカン、と金原は口を開けた状態のまま呆然と突っ立っていた。
「何だ、タネがわかってしまうと興醒めかい?」
間隔は相当空くと考えられますが、もし読み続けるのであれば、「あっ、またコイツ投稿してやんの」って具合にゆるーく見ていって下さい。