とある空想の能力活劇(改) 作:SD
描きたいことはあっても、上手くいかないものですね。
「なんだ、上方。結構遅かったじゃんよ」
そろりと、物音を立てないようにして戸を引いた井鶴に、教師、
「今日もまた寝坊かー、上方」
「どうせ、今回もアレが理由だろ、アレが」
「二重の意味で感心すべきなのかしら、これは」
好きに能天気なことを喋る同級生達に、井鶴は感謝している。相も変わらず接してくれる人がいるのは、日常の平穏を感じられて、悪くない。そう、井鶴はしばしば思うのだ。だが、それでも一抹の、こう、なんと言えばいいのだろうか。締まりがなくてみっともないというか、そういった陰りのある感情が井鶴の心の底から湧いてくるのもまた事実で。
小難しく悶々と考えてはいるが、詰まる所、うら若き青年、上方井鶴は恥ずかしかったのだ。だが、そんな思いはおくびにも出さず、乙に澄ました調子で井鶴は口を開く。
「ご明察。本日も寝坊による遅刻です」
「して、理由は?」
教室のどこかから知りたがり屋の声が飛んできたが、
「あー、それは先生の方で確認しているから、取り敢えず授業を再開するじゃん」
その一言で、また止まっていた時が流れ出したかのように、急速に教室が喧騒に満たされた。いつまでもモタモタしていると、授業の波に取り残されてしまう事は自明の理だったので、素早く荷物を取り出して、その流れに上手いこと乗ろうと、使い慣れたノートの上に鉛筆を滑らせた。が、ものの数秒でその手は動きを止める。板書が癖のあるもので、写すのが非常に困難だったからだ。
そこで左隣の席から、ふと声がかかった。
「相も変わらず遅いな、上方」
「……おはよう、
隣人、
「……これを」
整然と、夥しい数の文字がすらりと罫線上に並ぶ、そのノートを彼はこちらを見ずに差し出していた。
「あの先生の板書の乱雑さは学園都市一だ」
ぶっきらぼうな物言いの中にも多少の気遣いが感じられような、そんな気がするのだ。
「あとは今日習ったことについての復習と、少々の補足説明を入れるだけだから、俺は適当にメモをとる。好きに使ってくれ」
「いつもありがとう」
返事はなく、余韻すら教室の騒ぎがかき消す。
「うらー、そこ! もうちっと静かにするじゃんよ」
唐突に宙を舞ったのは、擦り切れた短いチョーク。飛来した石灰の礫は彼らの悲鳴と共に、眉間に吸い込まれていった。流石に音は聞こえなかったが、それでもかなり痛かったらしく頭を抱える生徒がちらほらと視界に映った。
「ひでーぞ、この体罰教師!」
「ちょっと酷すぎやしませんかね……」
「やかましいじゃんよ! 御託を並べてる暇があったら、今さっきやった所の内容をもう一度自分の口で言ってみるじゃん」
ウッと周りの息が詰まったのが分かる。
黄泉川が教えていたのは、筋肉の成長のメカニズムについてだ。分野的には、保健科よりの体育科とでもいえる。学園都市の学生にとっては、暗記系統のことは「なんでもござれ」だ。が、しかしながら、高度な論理的思考力、計算力、発想力等のことを要求されると、途端に大半が外の学生と同程度のレベルに落ちるのだ。万人に効を奏す開発のカリキュラムが未だに作られていないのだから、学生たちが不完全であるのは自然なことだ。
中学校の時まではやらなかったような、複雑怪奇な化学式や色とりどりのモデル、図を散りばめた学問を前に、高校に入ったばかりの生徒達は苦悶していた。
「とは言っても、まー、難しいのは当然のことじゃん」
頭に出席簿を当てて、しばし思案したのち。
「よーしお前たち、気分を変えてマラソンでもするか」
「それはない」
黄泉川が極度の脳筋要素を含むその言葉を紡いだ瞬間、全生徒たちの心は一つとなった。
ワーワーと、生き生きと、快活に騒ぐ周囲を見て、井鶴は溜息をつき、そしてふと自分が微かに笑っていることに気がついた。口を開き、ぽつりと一言漏らす。
「平和だなあ」
授業が全くもって進まず、宿題の割合が大きく増える事となるのを、井鶴はまだ知らない。
が、しかし、彼女はこれはこれでその時を満喫しているのだ。だから、問題は無いはずだ。
………多分。
これが、学校での上方の日常である。
原作の魅力的な登場人物をもっと出して、それからどんぱち能力を使った戦いをしたいんですけど、展開が遅いのはじれったいですね。頑張りたいところです。
オリキャラは今回までに出した三人に抑えて、次回には原作の群像劇的なところも加えられるよう努力します。
上条や黄泉川先生の口調、設定とか、何か違和感があれば、感想の方までお願いします。