魔法少女まどか☆マギカ異編 <proof of humanity>   作:石清水テラ

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開幕 「なんて、絶望的な夢」

真っ暗な道を、走っていた。

 

どことも知れぬ薄暗い建物の廊下を、ただひたすらに走っていた。

 

まるで何かを探すように。

 

何を探しているのか?

 

わからない。

必死に考えてみたが、何も思い出せない。

だからあらゆる思考を振り捨ててただ走り続けた。

  

自分一人分の足音が、廊下に虚しく響いている。

真っ暗な道には、どうやら自分以外誰もいないらしい。

 

一人ぼっちだった。

だから、こんなにも走っているのだろうか。

 

誰かを、探し求めているのだろうか…?

 

記憶の中に、解は無かった。

 

ただ、走る。

暗闇の中で、ひたすらに。

 

 

ふと、遠くの方にぼんやりと光が見えた。

 

暖かな緑色の光。

この建物の非常灯らしい。

 

訳も分からぬまま、そこに手を伸ばす。

 

伸ばした手が、非常口の扉を押し、

 

 

外の世界への道が、開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"―ッ!!_ッッ!!!___ッッ!!!ッッ!!"

 

 

 

 

 

 

 

 

笑い声が、聞こえる。

 

激しい風音と共に。

 

 

「なんだこれ…」

 

外の世界には、地獄があった。

 

そこは、元々どこにでもある都会の街だったのだろう。

だが今は、街全体が嵐に包まれ、夥しい破壊の跡を晒していた。

 

街から人が消え、明かりが消えていた。

ビルが崩れ、アスファルトが刔り取られ、家が潰されていた。

 

それですら、遠くに見える更なる惨状に比べれば、マシな被害なのだろう。

そこでは、土地全体が削り取られ、溢れ返った水の中に没していた。

 

空も暗雲に飲まれ、風が絶え間無く吹き荒れ続けている。

この世の終わり、とでも言うべき光景が目の前に広がっていた。

だが、それでも破壊はあくまでただの破壊でしかない。

 

最たる異常は自分の頭上、この街のはるか上空にある。

 

 

「_ッッッ!!!____ッッ!!_____ッッッッ!!!!」

 

 

空には、狂ったように笑い続ける巨大な人型があった。

 

一見するとそれは、白い縁取りの青いドレスを纏ったような女性の姿に見える。 

 

だが頭部は上半分が切り取られたように存在せず、そこから2本の角か帽子のようなモノが生えている。

そしてスカートの下で足の代わりに蠢く巨大な歯車が、ソレの非人間性を何より物語っていた。

 

「___ッ!!__ッッッ!___ッッッッッ!!!!」

 

それが笑い声を上げる度、嵐が吹き荒れビルが宙に舞う。

こいつが、この地獄の中心であることは明らかだった。

 

圧倒的な力を振るい、世界に災厄を撒き散らす魔物。

人間とは余りに掛け離れているが、怪獣と呼ぶにはいささか人間味があり過ぎる存在。

 

魔女…とでも呼ぶのが相応しいだろうか。

 

その威容を前にして、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

(…!?)

 

その時、崩壊したビルの谷間から、何かが飛び立つのが見えた。

上空の魔女に比べれば、蝿程度の小さな影だ。

 

(…子供…?)

 

人間の、少女だった。

 

長く伸ばした黒髪、まだ未成熟である事を感じさせる華奢な体駆。

 

どう見ても自分とそう変わらない年の女の子。

 

だが、その実彼女は常人離れした脚力で跳躍している。

人の形こそしているが、彼女もまた超常の存在である事は明らかだった。

 

「_ッッ!!_ッッッッッ!!!!」

 

魔女が笑う。

するとその声を合図にしたように、魔女の周囲から燃え盛る火球が放たれた。

 

「な…!?」

 

炎は一直線に少女の方へと向かっていく。

直撃コース。空中にいる少女に回避する術はない。

 

炎は彼女に直撃し、その姿を凄惨な消し炭へと変えるかに思われた。

 

「…っ!!」

 

弾着の瞬間、激しい衝撃音が鳴り響いた。

それと共に、火炎があらぬ方向へと飛び散る。

 

放たれた火球が何かにぶつかり、弾きとばされていた。

 

爆炎を抜けた少女が、再び魔女に肉薄する。

その左腕には、先の攻撃を受け止めたらしい大型の円盤があった。

 

(盾…か?)

 

紫の燐光を放つ円形の盾。

 

それは少女が片腕で保持できるサイズでありながら、直径の何十倍とある火球を防ぎきり、それでいて傷一つ付いていなかった。

 

「_ッッ!!!!__ッッッ!!!!!!」

 

魔女の笑いが絶え間無く響いている。

その猛威はいっそう激しさを増して少女を襲った。

 

嵐が吠え、火が暴れ、瓦礫が飛ぶ。

 

その全てを少女は紙一重で回避し、避け切れぬものを盾で防ぎながら必死に魔女に迫ろうとしている。

 

(戦って…いるのか?)

 

正確には、"戦おうとしている"というのが正しいか。

 

暴虐の限りを尽くす魔女と、それを追跡する少女。

それは、戦いと呼ぶには余りに一方的過ぎる。

 

魔女はこれほどの破壊を行いながら、まだ一度もその歩みを止めていない。

対して少女は攻撃の回避に手間取るばかりで魔女との距離を詰められてはいない。

何より肉薄できたとして、あの巨大な敵を滅ぼし得るだけの力があの小さな影にあるのかどうか。

 

戦力差は絶望的。

 

だというのに少女は無意味な追跡を続けている。

 

まるで何かにせき立てられているかのように、何度も何度も繰り返し続ける。

 

見ていて息苦しくなるような戦いだった。

 

 

少女は愚かしくも諦めない。

だがそれもいずれ限界が訪れる。

 

「_____ッッッッッッ!!!!!!」

 

魔女の笑いが一際高く響く。

 

すると魔女の周囲を浮遊していた高層ビルの残骸が、その身を巨大な砲弾と化して少女に突撃していった。

 

「…っ!?」

 

突如として押し寄せた巨大質量の大群に少女は回避も防御もできず、そのまま叩き付けられた。

射出されたビルは少女を巻き込んだまま頭から地表に突っ込み、激しい破壊音を街に轟かせる。

 

土煙が舞い、地表を嘗めるように滑ってくるのが見えた。

 

「…ごぇふっ…ぐっ…!?」

 

爆風と煙をまともに浴びて、つい呻いてしまう。

それはつまり、それだけ自分の近くに少女が落下した事を意味している。

 

(…)

 

おそらく、即死だろう。

 

あれだけの質量をまともに喰らったのだ。彼女がどれだけ超人的であっても生きているとは考え難い。

 

頭では、そう理解している。

 

「くそっ…!」

 

だというのに、何故だか自分はビルの落下した方へと駆け出してしまっていた。

 

訳も分からぬまま、ただ走る。

何かを探し求めて。

 

 

「____ッッ!_____ッッッ!!_ッッッッッ!!!」

 

魔女の笑いを頭上に感じながら、崩壊した街を駆け抜けた。

 

通り過ぎる景色はどこも魔女の猛威により、破壊の跡を刻みこまれている。

 

「なんだよこれ…」

 

なんなんだ。

この世界はなんなんだ。

 

走りながら、すれ違う廃墟を見て一人毒づいた。

 

街が壊れ、人が消え、魔女が嗤い、少女が死ぬのを見た。

現実というのは、こんなにも残酷なものだったか?

 

まるで生き地獄じゃないのか。

 

ひどく理不尽なモノを見せつけられいる、と感じた。

 

こんなのは、絶対におかしい。

強く、そう思う。

 

 

 

「むっ…」

 

周囲の土煙が濃くなってきたのを感じて息を潜める。

 

目の前に逆さで突き刺さった高層ビルが、その破片と瓦礫をぶちまけているのが見えた。

 

少女の落下地点はこの辺りの筈だ。

 

だが、この様子では…。

 

「…おいっ!誰か…!」

 

瓦礫の山を踏み越えながら、周囲に呼びかけてみる。

放った叫びは虚しく響くだけで、応える者は見当たらない。

 

「誰か…いないのかっ!?」

 

闇雲に瓦礫をひっくり返し、少女の姿を探す。

 

やはり、こんな大破壊の真っ只中で生きていられる訳はないのか。

 

「おいっ!…誰かいな…」

 

最悪の想像が頭を過ぎったその時、

轟音と共に、瓦礫の山が崩れ、何かが大地から飛び出した。

 

なびく黒髪、モノトーンの衣装。

 

身体の節々に傷を負い、その可憐な服を泥と血で汚しながらも、少女は生きてそこに在った。

 

その手にした盾も猛攻の前に少しばかり傷付き欠けていたが、変わらず鈍い輝きを放ち続けている。

 

「あっ…」

 

衝撃から覚め、彼女に何か呼び掛けようとした時にはもう遅かった。

少女は自分には目もくれず、再び魔女の元へと駆けて行く。

きっと、俺が此処にいた事すら気付いていまい。

 

恐らく彼女はまたあの猛威に立ち向かうつもりだ。

 

傷付き、ズタボロにされても諦めず、敵わない事がわかっている相手に、尚挑み続けるのだろう。

 

 

そんな愚かしく無駄な抵抗を続ける彼女の姿が、

 

俺の目には何故か、とても尊いもののように映った。

 

 

 

「__ッッ!!!!__ッッッッ!!_ッ!!!」

 

魔女が笑いを再開する。

それが攻撃の合図なのだろう。

宙に巻き上げられたビルが猛烈な加速を受けて再び突撃を始めた。

  

「うわっ…!」

 

自分の周囲で立て続けに爆発が起きた。

当然と言えば当然だ。

 

頭上の魔女は少女を標的と定めているのだから、その少女に近付けばその攻撃に巻き込まれる事は必至だろう。

 

完全なる自業自得。笑い話にもなりはしない。

 

「…マズっ…!?」

  

視界の端、こちらに向かって一直線に射出されるビルが見えた。

 

どう見ても直撃必至。今からどれだけ走ろうとも、その破壊から逃れる事は不可能だろう。

 

あっ、死んだな…。

 

そう思った時にはもう、自分の身体は降り注ぐ破片と暴風に叩き潰され、塵芥の如く吹き飛んでいた。

 

耳の奥で破裂音が木霊する。

 

瓦礫の山にその身を打ち付けられ、言葉通り身を裂くような激痛に悲鳴すら上げられない。

 

「…ぁ…っ!…がっ…!…」

 

視界が明滅し、音が弾ける。

身体が焼ける様に熱い。いや、段々冷えて来ている?

魔女の笑いがやかましい。

流れる血が止まらず、ひしゃげた肉体が痛みの信号を断続的に送り続けている。

 

「…ぁ…ぐっ…!…」

 

…死ぬ?

 

身体から生命が零れ落ちるのを感じながら、ぼんやりとした意識で呟いた。

 

本当に、こんな所で終わるのか?

まだ何もしていないのに?

 

自分が何かすら分かっていないのに?

 

ああ、それはなんて、絶望…。

 

「__ッ!___ッッ!!__ッッッッ!!!_ッッッ!!!」

 

意識が遠のき、身体の感覚が失われる中、魔女の叫びだけが耳にこびりついて離れない。

その笑い声を最後の感覚として、意識が断絶し、ゆっくりと絶望の海へと落ちていく。

 

そうして俺は、どこの誰にもなれないまま終わりを迎えた。

 

そうなる筈だった。

 

 

「____だれか、そこにいるの!?」

 

 

張り裂けそうな、誰かの悲痛な叫びが聞こえた。

 

「…ぁ…ぇ…っ…?」

 

その声に途切れかけた意識が呼び覚まされ、身体の感覚をわずかながら取り戻される。

 

激痛に顔をしかめながら頭を上げると、ぼやけた視界の中、小柄な人影が瓦礫山の向こうに見えた。

 

その子は何事か叫びながら、おぼつかない足取りで瓦礫を乗り越えこちらに向かってくる。

 

女…の子?

 

さっきの黒い少女とは違う女の子。

あの少女と同じくらいに見えるが、彼女と違って、その子は髪を二つ結びにしている。

 

身長も少し低めだろうか。

霞んだ視界では細部まで確認できないが、黒い少女のような特殊な衣装や装備は持っていないらしい。

 

着ているのはどこかの学生服のようだ。

 

あれ、どこか見覚えがあるような…?

 

「__の人…!_丈夫!?_ま助け_!」

 

何を言っているのか、うまく聞き取れない。

 

中途半端に再接続された聴覚はノイズだらけで、聞こえてくる音も途切れ途切れだ。

 

少女が自分の目の前までたどり着く。

 

「…っ!_んな…__酷い…っ!」

 

彼女が息を呑んだのが分かる。

 

今の自分の無惨な有様を直視したのだろう。

無理も無い。

 

全身をボロ雑巾のように引き裂かれ。足や腕が轢かれた蛙のように潰れている状態なのだ。

これを見て顔をしかめない方がどうかしている。

 

「_い変…_やく病院に…!」

 

少女は今にも泣きだしそうな声で俺の事を心配し、必死に助けようとしてくれている。

 

ああ、この子は良い奴だ。と見ていて思った。

 

もう手遅れな事ぐらい見れば分かるだろうに、彼女はこの地獄の中でも逃げ出さず、こんな見ず知らずの人間を救い出そうとしているのだ。

 

だからこそ、これ以上は巻き込めない。

 

魔女の進行方向がこちらに向いている以上、ここに留まれば少女もその攻撃に晒される事は間違いない。

 

「…も…い…っ…に、げ…っ!」

 

発した言葉は声にならず、少女の耳には届かない。

 

潰れた腕で彼女を押しのけようともしたが、ぺしゃんこの腕はどれほど力を込めても数センチずつしか動かなかった。

 

「__べえ!_の人を助_る方法は無いの!?」

 

不意に、少女が何かに対して話しかけた。

 

誰か他に人がいる?

 

けれど、見渡す限り自分と彼女以外に人は見えず、先程の黒い少女も遠く離れ過ぎて確認できない。

 

一体誰と、と思った矢先に耳元で何かが応えた。

 

 

「_理だろうね。この様_ではあと_分と持たないだろう」

 

 

異常なほどに澄んだ声だった。

同じ人間が発しているとは思えないくらいに。

 

声がした方に視線を動かす。

すると、乱れる視界に何か白い物体が映っているのに気付いた。

 

(白い…小動物?)

 

四足歩行の体駆に、眩しいくらいに白い肌。

フォルムもサイズも猫に良く似ていている。

が、その尾は猫というより犬のように太く長く伸びており、耳も猫のそれとは違い、腕と見紛う程に長い。

 

何より、人の言語を操る猫がいるものか。

 

こいつは…なんだ?

あれ、これもどこかで…?

 

「_んな…、あ_まりだよっ…こ__のってないよ…!」

 

「仕方_いさ。これだけの傷を負って_だ息が続いている事__が奇跡だ。今の僕らに出来る事はせ_ぜい、この__がどれ_け保つか見守る事ぐらいじゃないかな」

 

白い獣は淡々と事実だけを述べていた。

その言葉には一切の熱が篭らず、ただ冷たさだけが満ちている。

ともすれば少女の必死さを嘲笑っている様にも取れる程、無機質が過ぎる声だった。

 

「_れど、もし君がどうしてもこの__を救いたいと思うのなら、」

 

獣の語る声が、少しばかり色を変えた。

 

「心の底からそう願うなら、叶える事はできるよ」

 

ふと、その獣がこちらには見向きもしていない事に気付く。

獣は、傍らの少女にだけその視線を注いでいた。

 

「_れだけ_ない。君が望むなら、あの_ル___スの_を打ち倒す事だって可能だ。この街も_美__らも救う事ができる」

 

獣は少女へ訴え掛けるように言葉を続ける。

まるでどこかへ導こうとするかの如く、少女に何かしらの決断を迫っているようだ。

 

 

「_みなら運命を変えられる。避けようのな_滅びも、嘆きも、すべ_君が覆せばいい」

「そのための力が君_は備わっているんだから」

 

視界が乱れ、音声が歪む。

少女と獣の声が段々遠くなり、次第に光も失われていく。

 

「…ぁ…」

 

ま ずい、意 識が…

 

遠退いていく自我を引き止めようと、闇雲に手を伸ばす。

だが目に映る景色は遠退くばかりで何にも届かない。

 

「_当なの…?」

 

「私なんかで__本当に何かでき_の?こんな_末を変えられる_?」

 

まっ て… くれ…

 

その時、必死に伸ばした手が何か硬いものに触れた。

 

「…ぇ…?」

 

コンクリートやガラス片とは違う、滑らかな感触。

 

触れて見ると、指に鋭い痛みが走った。

どうやら少し尖った形をしているらしい。

 

小さな欠片…何の…?

 

「もちろんさ。だから_」

 

爆音で、獣の声が遮られる。

魔女の嗤いが再び木霊し、街の破壊が一層激しくなるのを感じた。

 

視界にはもう何も写っていない。

身体の実感も殆ど残されていない。

 

僅かに感覚の残る指先に力を込め、必死に欠片を手繰り寄せる。

 

 

"__ッッ!!_ッ!__ッッッ!!___ッッッッッ!!!"

 

 

自分が、世界から落ちていく。

 

あらゆる感覚を失い、最後に残された聴覚だけが周囲の情報を拾い続けている。

 

薄れゆく意識の中、獣の声が一際高く響いた。

 

 

「_僕と契約して、____になってよ!」 

 

 

その時、獣が何と言ったのか。

 

それに少女がどう応えたのか。

 

自分にはもう、知るよしもない。

身体の全ての感覚が途切れ、肉体の実感が失われたからだ。

 

もはやこの身に痛みは無く。

 

苦しみも無く。

悲しみもなく。

 

一切の嘆きも、絶望も無い。

 

そんな優しい虚無へ、溶けていく。

 

 

「…ぁぁ…」

 

 

そうして俺の意識は、今度こそ完全にフェードアウトしていった。

 

 

 

 

全てが闇に消える、その刹那。

 

 

歯車の回る音が、聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

ふと気付くと、目の前に見知った天井があった。

 

「…あれ?」

 

激しい違和感を感じて、周りの景色を確認する。

 

見慣れた白い壁、花瓶に刺さった枯れかけの花、壁に掛けられたカレンダー…。

 

「…うーん?」

 

自分の格好と現在位置を確認する。

 

…ベッドの上、寝巻き姿。

 

もう一度周囲を見渡してみる。

…周りには瓦礫の一欠片も無く、そもそも屋外ですら無い。

窓の外は清々しい快晴で、差し込む陽射しが憎らしいほどに暖かかった。

 

「…」

 

ゆっくりと、ベッドから身体を起こす。

 

この時点で自分の身体にどこも外傷が無いのは気付いていた。

血は足りてるし、腕もふっくら。視界だって瞼がやや重いぐらいしか異常はない。

全くの無傷。健康体。

 

とどのつまり、今までのは…

 

「…全部夢オチっすか…」

 

思わずため息が出てきた。

 

「なんて、絶望的な夢見てるんだ…」

 

終末思想も、破滅願望も持っていた覚えは無い。

どうせなら、もっとファニーで愉快な夢を見たかった。

 

だというのに、なんだってあんな大震災の疑似体験みたいな夢を見なきゃならんのか、と頭を抱える。

 

「…痛づっ」

 

その時、何かの刺さるような痛みを覚え、頭を抱えていた手を下ろす。

 

そこでやっと、自分の右手が何かを握りしめているのに気付いた。

 

「…」

 

手を開いてみると何か小さな硬いものが掌の上で転がっていた。

 

「…何かの…破片…?」

 

手に収まるサイズの小さな欠片だ。

 

色はやや明るめの灰色。

表面は滑らかで、薄く光沢を放っている。

 

その鈍い光を、どこかで見たような気がしたが、うまく思い出せない。

 

こんなもの、いつから持っていたんだっけか…?

 

「…まぁ、良いか」

 

考えても良くわからないので、欠片についての疑問は放置する事にした。

何か珍しそうなので、欠片はとりあえずポケットに入れておく。

 

「にしても変なことばかり起こるもんだねぇ…」

 

怪物の悪夢に、身に覚えの無い欠片ときた。

もうすぐ転校を控える身だというのに、縁起でも無い。

 

ベッドから飛び降り、身体をうんと伸ばして朝日を浴びる。

悪夢なんて思い出しても気が暗くなるだけだ。

 

気分を入れ替え、新しい一日を始めよう。

 

「…よしっ」

 

 

 

 

暦海テツヤ 、14歳の中学二年生。

 

見滝原中学校への転校を数日後に控えた、ある日の朝の出来事だった。

 

 

 

 

 

 









いかがだったでしょうか。
原作第一話の冒頭に丸々一話分使ってしまったけれど、こんなペースで大丈夫かと今から不安であります。

さっきも言った通り、今回の話はTV版第一話冒頭部分のオリ主視点となっております。
原作とはかなり違った描写になっていると思いますが、その辺も後の展開に影響してく予定です。

初投稿で稚拙な文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
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