気が付けばカルデアに 作:K.
目の前に立つ、目に見えぬ聖剣を正眼に構えて此方を鋭く睨みつける少女。
見た目こそ華奢で可憐な容姿をしているが、英霊は見た目に騙されてはいけない。
あの細腕から放たれる一撃は此方の剣を軽くへし折り、諸共消し飛ばす程の威力はあるのだから。
それが刀であるのならば尚更だろう。刀と言う武器が極限にまで切れ味を追求した結果、衝撃に大しては脆く攻撃を受けるのには向いていないというのは刀に詳しくない俺でも分かる。故に真正面から受けるのではなく、右から切られるのであれば左に、左から切られるのであれば右にと受け流すようにして戦っていた。
それにも関わらず腕は痺れ、危うく得物を取り落とすのではないかという場面もあったほどだ。彼女の筋力のステータスもそうだが、魔力放出でかっとぶ化物というのは本当に的を得ていると思う。
「さぁ、最後の一撃と行きましょう」
「……ああ」
彼女からの問いかけに短く答えて、居合いの構えを取る。
腰を深く落として、今か今かとタイミングを計る。彼女の一挙一動に注目し、少しでも素早く動けるように身体の力を抜く。
タイミングを間違えれば待っているのは敗北だ。
と、ここで彼女の腕がピクリと動いたのを感じ取った。
此処だ、此処でやるしかない。
「――やあぁッ!」
「――ッ!」
動いたのはほぼ同時、得物は此方の方が長い。
これは勝った――!
■
「私の勝ちですね。お疲れ様でした」
知ってた。知っていたとも。
彼女はブリテンの王として戦い続けた熟練の騎士であり、此方はあくまで刀を握って数日のド素人。万が一にも勝てるわけが無かった。
因みに敗因は彼女の聖剣に纏われる風による風圧で此方の勢いを消された事にある。今まで見えていなかった聖剣が見えるようになった事で纏わせていた風を自由に扱えるのをすっかりと忘れていたのが致命的だった。
「やっぱり勝てないな。流石だ」
第一特異点の座標特定にスタッフ達が精を出している間、カルデアの戦力であるサーヴァント達は各々が自由に過ごしていた。
とはいっても、現時点で戦力として召喚されたサーヴァントはエミヤと騎士王である彼女、アルトリア・ペンドラゴンとケルトの青いランサー、クー・フーリンの三人のみだ。
エミヤは食堂を仕切るおばちゃんと化しているし、クー・フーリンに至っては種火と呼ばれる霊基を強化する素材を集めにたまにレイシフトする以外は見かけていない。マスターである藤丸とはあの衝撃の自己紹介以来あまり会っていないし、マシュは藤丸にべったりだ。
だから少しでも戦闘に慣れておこうと模擬戦に誘うのは必然的に暇を持て余していたアルトリアになる訳だ。連日連敗で黒星を重ねているが何か。
「いえ、今回は少し危なかったですよ。成長を感じられます」
「……そうか?」
今回は何故か、少年漫画よろしく"これで最後にしようぜ!"などとお互いに悪ノリしたためにいいところまでいけただけだと思うが。
まともにやっていれば開始一分、いや、三十秒もすれば完膚なきまでに叩きのめされていたのではないだろうか。
それほどまでに彼女との差はあるだろうし、実際最初の数日は三十秒も掛かっていなかった。多少刀の扱いに慣れた今なら三十秒は何とか持ちこたえられるだろうが、所詮は誤差の範囲でしかない。
「そう卑下なさらないように。あなたは飲み込みがいい。これからも共に頑張りましょう」
共に、とはこれからも模擬戦をしようということだろうか。いや、別に構いやしないのだが、何れ本気の彼女を相手取る事になると思うと少し憂鬱だ。悲惨な未来しか見えないのだけれども。
「……やはり、私との模擬戦は辛いのでしょうか」
「はい?」
悲惨な未来を想像してげんなりしている表情を見てか、彼女は少し寂しそうに笑いながら呟いた。
その言葉に思わず素っ頓狂な声が出た。彼女は一体何を言っているのだろうか。
彼女との打ち合いは確かに苛烈を極めるものだ。だが、彼女のその真っ直ぐすぎると言われるまである性格が滲み出るかのように、一切の迷いが無く、相手を侮る事をしないその太刀筋は受けている身としても気持ちが良いとすら思える。
それに、戦いを重ねれば重ねる程に、霊基の強化によるステータスの向上ではない経験の積み重ねによる強さが日に日に身に付いていくのが分かるし、何より――
「確かに辛い。辛いが、それでこそ戦いだろう? 逆にお礼を言わなきゃならない位だ。俺のような半人前にも満たない素人に真面目に付き合ってくれてさ。これ以上に嬉しい事はない」
――いつものように打ちのめされた後、戦いを振り返り微笑む君を見るとそんな疲れも吹き飛ぶ、というのは聊かクサすぎるので口に出さず、当たり障りの無い言葉を並べておく。
エミヤ辺りならこのようなクサい台詞も涼しい顔で言ってのけるのだろうが、俺にそんな度量はない。ましてや彼程の戦士であるならば兎も角、俺のような新米のペーペーが言っても寒いだけだ。
咄嗟に並べた言葉だが、別に嘘と言うわけでもない。寧ろ紛れもない本心と言える。
仮にも此方から模擬戦をしようと誘っている身だ。文句などあるはずも無い。というよりも、文句があったりやりたくないと感じたのならば連日誘っていない。
此方から誘っているという事実が頭から抜け落ちている彼女に少し微笑ましい気持ちになった。
「まあ、何だ。だからそんな寂しそうな顔をしなくてもいいと思う」
「――なっ!?」
クサい台詞を態々自重したというのにこの有様だ、と内心やってしまったと後悔した。
微笑ましい気持ちになって気が緩んだのか、何も考えず彼女の表情をそのまま口に出してしまった。騎士であり、王である彼女としては屈辱もいい所だろう。此処は誠意を込めて謝罪しなければならない。
「いや、あの。その……すみませんでしたぁっ!!」
「あ、あの……いえ。いいのです。ええ。何もありませんでしたとも。少し寂しいな、なんて思ったりしていません」
――あれ? 思っていた反応と少し違う。
やらかしてしまった此方としては何をされても文句は言えないので、一体自分はどうなってしまうのだという気持ちで一杯だったのだが、返ってきた反応がこれだ。
頬を赤く染め、此方から目線を外しそっぽを向く。何とも可愛らしい反応だが、予想外にも程があった。
これまでの彼女と会話をした経験から、王として立派な、いつも凛とした小柄な女性という印象を彼女に抱いていた為にこのような少女のような反応をされるとは思っても見なかった。
「――無銘のセイバー」
「は、はい」
「お互い、この事は忘れましょう。いいですね」
「了解デス」
彼女も此方が抱いていた印象を分かっていたのか、あくまでそうであろうとする姿に苦笑していると有無を言わさない態度で王命は下された。
忘れろ、か。――うん、無理だな。
「で、では失礼」
「あ、ああ。……また、頼むよ」
こほん、と態とらしく堰をしながら彼女は足早に去っていった。
何かスキルでも使用しているのか、その速度は歩いているというよりは走っていると言ったほうが適切であると言えたが。
「……これは気まずいな」
ボソリと独り呟く。
彼女と次顔を合わせるとき、どのような顔をすればいいのだろう。お互いに顔を合わせてしまったとして、どのように話せばいいのだろう。
考えても仕方のない事ではあるが、そのような考えが俺の頭に暫く残り続けていた。
「全く。表情に出やすい彼女も彼女だが、彼は彼で気遣いは出来るくせに変な所でボロを出す。……難儀な事だよ、本当に」
そろそろ昼食にでもしよう、と声を掛けに来たエミヤが物陰に潜み、二人を遠目に見てそう呟いたのは二人とも知らない事だ。