気が付けばカルデアに   作:K.

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正面突破

 邪竜ファヴニールに狂化の施されたサーヴァント達、それに雑兵と呼ぶには少し強力なワイバーン。それらが黒い聖女――ジャンヌ・オルタの居城へと進もうとする俺達を阻んでいる。

 いよいよフランスにおける旅も最終局面に来た、と言った所か。

 此方の戦力にはかつてあの邪竜を打ち倒した大英雄、ジークフリートも居るし、これまでの旅の中で仲間になった者達も居る。

 オルタの勢力はフランスを制圧しつつあるものの、実質的な戦力――サーヴァントはじわりじわりと数を減らしつつある。戦力的にも、精神的な意味でも、今が最大で最後の好機だ。攻めるのであれば今しかない。

 

 とはいえ、仲間達は増えるだけではなく、旅半ばで還って行った者だって居た。

 フランスを愛し、フランスに愛された彼女は俺達を逃がすために散っていったのだ。――アマデウスとの別れの挨拶代わりに、生前に叶う事の無かった約束を交わして。

 彼女の為にも、フランスへの蹂躙を一刻も早く止め、正常な歴史に修正しなければならない。

 俺達の中で、そのような思いが強まるのは自然な事だった。

 

「それじゃ……行こうか」

 

 そんな中、存外に落ち着いた様子の藤丸が静かにそう言った

 気が抜けている訳でもなく、また気を張りすぎている訳でもない。藤丸立香はいつも通りに前を向いていた。

 

「はい。コレがフランスにおける最終決戦。負けるわけには行きません」

 

 それはキリエライトも同じだった。

 決して肝が据わっている訳ではない。ただ、特異点を修復し、フランスを救うという思いが彼らをそのようにさせていた。

 

「俺も敵の大将のところまで乗り込みたかったんだが……まあ、今回は足止め役で我慢してやるとするかね!」

 

 自慢の朱槍を手に獰猛な笑みを浮かべ、クー・フーリンは此方を一瞥した。その視線は"今回はアンタに譲ってやる"とでも言いたげだ。

 

「今回は私達の命どころか人類の未来が懸かっているからな。適材適所という奴だ。……ところでマスター」

「どうしたの?」

「――足止めするのは良いが、別にアレらを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 エミヤは不適に笑い、自信ありげにそう告げた。何故かは分からないが死亡する気がしてならない。所謂死亡フラグというモノが今、彼に盛大に立っている気がした。

 

「……盛り上がっている所だが、すまない。どうやら奴らはもう臨戦態勢のようだ。……空気が読めなくて本当にすまない」

「ジークフリート……」

 

 悲しきかな、彼はこんな状況でも腰がとても低かった。一体彼の何がそうさせるのだろう。

 かの邪竜はジークフリートにしか倒せない幻想種だ。要はこの作戦における最重要な人物とも言える。そんな彼が宝具を放つまでを護衛し、かつオルタ陣営の本拠地に乗り込む本隊である俺達の道を切り開く。

 少しでも賢く見せようとすればこのような作戦となる訳だが、実際の所はただの正面突破、サーヴァントという至高の戦力による力のごり押しだ。

 この局面においてはこれが最善策であるというのは紛れもない事実だが、策も何も関係のないこの作戦に、改めてサーヴァントという存在の力の強さをつくづく実感させられる。

 

「では、私達は敵を引き付けますので、その間にファヴニールをお願いします」

「任せてくれ」

 

 アルトリアが短く言葉をかけて、眼前を悠然と飛び回っているワイバーンへと飛びかかっていく。

 

「よっしゃあッ! 戦いの始まりだ!」

投影開始(トレース・オン)

 

 クー・フーリンが槍を、エミヤが弓を手にそれぞれ戦場へとその身を投じていく。

 

「この戦いはあくまで前哨戦に過ぎない。……が、此処が正念場だな」

「ああ。それに俺は数多の敗北の中から一欠片の勝利を手繰り寄せたに過ぎない」

 

 此処を突破できれば、あるいは直ぐに方が付く。ファヴニールさえ何とかしてしまえば、後に控えているのはサーヴァントだけなのだから。

 そういった考えの元、呟いた言葉に、ジークフリートが反応した。

 それはつまり、かつて倒したからといって今回も倒せるかは分からない、ということだった。

 不安に駆られるような言葉を零した彼に、何か不安でもあるのかと思いその顔を見やれば、考えとは裏腹にその表情に曇りは無かった。

 

「だが、今回はマスター達のような頼れる仲間が居る。――この剣に懸けて、二度だろうと三度だろうと奴を倒して見せよう」

 

 いつに無く力強く言い切った彼は、少し前までの腰の低い英雄らしからぬ人間といった彼のイメージを払拭させる。言うなれば、正しく大英雄だろうか。

 邪竜ファヴニールを倒したジークフリートという英雄が正に此処に立っていると意識せざるを得ない程の雰囲気を彼は身に纏っていた。

 

 ――これが、英雄か。

 普段から英雄達と過ごしてはいるが、彼らはこれほどの覚悟と信念を表に出す事は未だに無かった。それを今、目の前にし、思わずごくりと喉を鳴らす。前へと進んでいく彼の背中を見て、ただただ圧倒された。

 

「マスター」

「うん?」

「英雄ってのは、凄いな」

「……うん。そうだね」

 

 半ば無意識に会話をしたところで、ふと我に返る。

 俺の仕事は、藤丸を守りつつ、切り開いた道を先導する事。心此処に在らずといった状態ではいけない。ある意味で一番重要といってもいい仕事なのだ、気合を入れなければ。

 

「――走ってください、セイバーさん!」

「ああ、任された。後ろは任せる」

「はい!」

 

 ジークフリートの準備が整ったのか、キリエライトが叫ぶ。それと共に駆け出す。

 何も心配する必要は無い。俺達は藤丸への被害を抑えつつ、ただ前へと突き進むだけでいい。

 進んでいく間に襲い掛かられるものの、それは心強い仲間達が抑えてくれるのだから。

 

「二度目だな、ファヴニール」

 

 前方へと進んでいたジークフリートは静かに言葉を紡ぐ。

 戦闘や絶叫による騒音の中であるにも関わらずそれは少し離れた此方にも聞こえる。

 

「正直な話、俺が此処に居る時点でお前が居るのだろうとは思っていた」

 

 かつて自分を倒した人物を目の前にしたファヴニールはあらん限りの咆哮をあげる。それは他の者には目もくれず、ただ一人の己が宿敵へと向けられていた。

 それを彼は一瞥して、剣を構えた。ジークフリートが魔力を高め、彼にとっての至高の一撃を放つ、そのために。

 

「今回も墜とさせてもらうぞ。……邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 彼が宝具を解き放ち、その剣戟がファヴニールへと迫るのを俺達は追いかけるようにして彼を追い抜いた。

 かつてあの邪竜を打ち倒したあの一撃が、此度もあの邪竜を屠ったのだと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白と黒。

 対となる者達が今、目の前で対峙している。

 白は黒い自分の犯した過ちを正し、フランスを救う為に。

 黒は白い自分の愚かさを嘆き、裏切りへの復讐を成す為に

 

「ファヴニールも、配下のサーヴァント達もやられましたか。……ま、良く此処まで来た、と褒めてあげましょうか」

「随分と余裕な態度ですね、ジャンヌ()

「其方に居るのは愚かなジャンヌ()とひよっこサーヴァントモドキが二人、そしてそのマスター。勝ち目があると思っているのならとんだお笑いよ」

 

 キリエライトも俺も、未だに戦闘に慣れきっていないひよっこであるのは自覚している。その為に彼女の言葉に思う事は特に無い。聖杯からのバックアップを受けているだろう彼女にとって、俺達は砂塵に等しい存在だ。

 それよりも、オルタの背後に目の飛び出た怪しげな魔術師らしき男が見えるが、彼は一体何者なのだろうか。気配からしてサーヴァントであるのは間違いないが。

 

「……旅の中で考えて。それから面と向かってみて、改めて思いました。本当にあなたは私なのですか?」

「はぁ? 何を今更」

 

 ジャンヌの物言いに、背後の男がピクリと反応した。

 

「あなたが私の側面であるというのなら、フランスの民達は襲わない。共に戦った彼らを憎むだなんてありえません」

 

 確かに、言われてみればそうだ。

 オルタ――別の側面(オルタナティブ)とは、正しくその字の如く。別の存在であるからと言って、その本質は変わらない。

 つまり、オルタの行動はおかしいのだ。復讐者として召喚されたのであれば、自らを裏切り、殺した祭司達への復讐心だけが彼女を渦巻くはずなのだ。そこに共に戦い、辛さも、喜びも分かち合ったフランス国民達を巻き込むような事はしてはならないし、まずそうはならないはずなのだ。

 そんな彼女の行動にジャンヌは違和感を覚えていたのだ。本当に彼女は自分の側面であるのか、と。

 

「だから――あなたは、私ではない」

「う、るさい……! 何度言えば分かる!? 貴様は私の搾りカスのようなものだと、何度言えば!!」

 

 オルタの叫びは、まるで小さな子供が混乱し、喚いているように見えた。

 

「もう、いい。問答も全て無意味です。全て消え去ってしまえ……! 『吼え立てよ、我が憤怒』(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)ッ!」

 

 彼女が、宝具を放つ。かつて自らを焼いた、あの火刑を思わせるような、そんな宝具を。

 ただ、憎しみしか込められていないその炎。それを見ていると、何故だか無性に悲しくなった。

 

「……終わらせましょう、この特異点を。私が彼女の宝具を抑えます」

 

 ジャンヌがその身の魔力を高めていく。宝具を使うであろう彼女の瞳は、少しばかり悲しみを帯びていた。

 

「主の御業を此処に! 我が旗よ、我が同胞を守りたまえ――『我が神はここにありて』(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

 

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