気が付けばカルデアに   作:K.

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記憶の欠片と非情(?)な現実

 結果的に言えば、勝利をその手に収めたのは白いジャンヌ・ダルクだった。

 戦い始めは互角、お互いに譲らない戦いを繰り広げていた。見る限りでは均衡状態が長引くだろうと全員が予測した。しかしそれとは裏腹に、次第にジャンヌがオルタを追い詰め始めたのだ。

 同じ裁定者のサーヴァントであり、尚且つジャンヌは本来よりも弱体化している。それにも関わらず彼女が勝利を収めたのだから出来うる限りの賞賛を贈る他ない。

 

 しかし、何故あのオルタに勝利できたのか。

 白いジャンヌが言うには、彼女には経験が足りなさすぎるとのことだ。

 オルタが本当にジャンヌ・ダルクの別側面であったのなら、勝利をもぎ取る事も難しかったと彼女は言っていた。

 ジャンヌ・ダルクが戦って、戦って、戦って。そして悲惨な最期を迎えるその瞬間までの経験。

 ジャンヌ・ダルクの側面としてはあり得ない存在の彼女は、ありとあらゆる経験が足りなかった。当てはめるのだとしたら、まだ成長途中でしかない子供のようなものか。

 

『消えたくない……消えてたまるものですか……!』

 

 ふと、ジャンヌに負けて消え去るその際にオルタが零した言葉が頭に過ぎり、心にずっしりと圧し掛かる。

 歴史に名を残すような人物には、何かしらの大きな執着のようなものがあったと俺は考えている。それは地位や名誉、恋人、復讐、強さ。他にも様々なものがある。それこそ、挙げていけばキリがない。人によって執着するものには違いがある。

 今回敵対することになったオルタは、復讐か。

 ……あれほどまでに、全てを懸けてまで執着するものが俺にはあっただろうか。

 

「……さて。そろそろ現実逃避もやめておかないとな」

 

 彼女は消えていった。もうジャンヌ・ダルク・オルタは存在しないのだ。

 あぁ、冷酷で無慈悲ではあった。この目で彼女が引き起こした悲劇を、蹂躙を目の当たりにした。それでも何故かそこまで悪い存在でもないと思えてしまうのは、構築元がジャンヌ・ダルクであるからなのだろうか。

 ……いや、この話はもう止めにしよう。この世界が気まぐれに奇跡でも起こしてカルデアに召喚されれば別ではあるが、それは希望的観測が過ぎるというものだ。

 

 思考に一旦区切りをつけて、周囲を見渡す。自分の息遣いと、布擦れの音以外は聞こえない自分だけが存在する空間。

 空間は限りなく何処までも続いているようにも見え、薄暗い。

 地面は存在するのかと足元を見れば、幾何学的なエフェクトが水面を揺らしているかのように蠢いている。

 

「一体何なんだ、ここは」

 

 少なくとも現実世界ではないのだろう。あってないような知識の中にある地面は決してこのようなバーチャルな空間には存在していない。

 

「……うん?」

 

 少し離れた場所に何かがあるのが見えた。相も変わらず回りは電子的な空間のままで、先程までは何も存在していなかったはずの、その場所に。

 

 ――あれは……剣、なのか。

 

 距離があるために少しばかり見難い。しかし、その剣には形容しがたい、興味を引く何かがあった。

 気が付けばその剣に向かって歩みを進める自分に、特に武器を集めたりする趣味は無いが、と内心苦笑する。

 

「……綺麗な剣だな」

 

 どこからか当たっている光を反射し、真紅に輝いているようにも見える剣に思わずそう呟く。

 曲線の多いシルエットに、リーチの長く見た目扱い難そうな、見る者に薔薇を想起させるような真紅の剣。

 それ見て頭に過ぎったものはと言えば、"俺のものではないもの""何故これがここに""彼女がここに居たのか"というものだった。

 不思議な感覚だ。記憶が存在していない故に、俺はこの剣を初めて見た。しかし、"オレ"はこの剣をよく目にしていて、尚且つその所有者と面識がある。

 

 とても、不思議な感覚だ。

 

 少し手に取ってみようか。

 そう思って、まるでガラス細工でも扱うかの様にそっと柄に触れ――

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

「あ、れ……?」

「……何をしてんだ、おまえさんは」

 

 瞬きをした瞬間、カルデアの一室に風景ががらりと入れ替わっていた。

 ……本当に訳が分からないな。

 

「……何でもない。逆に聞くが、アンタは何で此処にいるんだよ?」

 

 俺が立ち尽くしているカルデアの一室は、私物が殆ど存在していない殺風景で生活感の無い部屋。つまりは俺の自室だった。

 クー・フーリンとは今まで殆ど交友が無かったため、俺が呼び出さない限りは彼が此処に訪れる理由は無い筈だが。

 

「あ? 初めての実戦で精神的に疲れでもしたのか? 帰ってきて直ぐにマスターがサーヴァントを召喚するって言って聞かなかったろ」

「は? ……あー。そういえばそんな事もあったな」

 

 ややおぼろげになった記憶を探れば、確かに藤丸がそう言っていたのを思い出す。

 やけに張り切っていたが、一体何をやらかすつもりなのだろうか。彼が張り切っていてやると言っている以上、マスターの意思を尊重する名目で召喚は執り行われるのだろう。

 仲間が増えるのは心強いし、此方に被害があるようなことをしなければ一向に構わないが。

 ……ああ、クー・フーリンが言おうとしている事は何となく分かる。分かるが、面倒なのでしらばっくれよう。別に俺が居なくても構わないだろうに。

 

「で、それが?」

「いや、察しろよ……」

 

 察してはいる。

 察しているからこその言動だ。アンタこそ察してくれと声を大にして言いたい。言わないが。

 

「考えてみろ、面倒なサーヴァントが召喚されたらどうするんだ。俺はカルデアでまで命を懸けて鬼ごっこをするつもりはないぞ」

「……ああ。そうだな」

 

 思い当たる節があるのか、クー・フーリンは真っ白な天上を仰いで死んだ表情をしていた。一体彼に何があったのだろうか。彼程のサーヴァントであれば、大抵はどうとでもなると思うのだが。

 

「特にあの清姫とエリザベート。酷いことになりそうだ」

 

 フランスで出会ったあの二人のサーヴァントを思い返す。

 片割れは少しでも嘘を吐けば焼かれるし、片割れはアマデウスが素で字に記すのも憚れる罵倒をする程に酷い音痴だ。

 実害で言えばエリザベートの方が上ではあるが、清姫も侮れない。別にやましい事などないが、それでもうっかり嘘など吐いてしまえば大変な事になるに違いない。

 

「おう、そんなセイバーに朗報だ。……その清姫なんだが、既にカルデアに居るぜ?」

「……は?」

 

 空気が凍ったとはこの事を言うのだろう。互いに視線を交わした後、大きく溜息を吐いて天上を見上げた。眩しい。

 いや、しかしまさかあの少女が安珍――もとい、それに見えている藤丸を追って自力でカルデアにやってくるとは思ってもいなかった。カルデアのセキュリティがザルすぎやしないだろうか。

 

 ……是非とも彼には強く生きて欲しいものである。

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