※性的描写があります。
1
私には好きなことが三つある。
食う――山盛りのごはんをおなかいっぱい食べる。なんて気持ちいいんだろう。
殺す――わらわらと湧いてくる敵を爆撃で木っ端みじんにする。なんて気持ちいいんだろう。
自らを慰める――どうして付いているのか分からない股のあいだにある器官を、ときに優しく、ときに激しく、自らの指でグニグニと刺激する。指を中まで出し入れすると簡単に果ててしまう。ああ、本当になんて気持ちいいんだろう……
絶頂を迎えたあとのまどろみの中、ふと気づいた。ひとりでこんなに気持ちいいんだから誰かとすればもっと気持ちいいんじゃないだろうか。
夜、鎮守府の廊下を歩いている提督を見つけた。無言で彼を引きずり、提督室の奥、彼の仮眠用のベッドへと連れこむ。
殺風景で無骨な部屋。私の部屋とたいして変わらない。暴れる提督を押さえこみ馬乗りになる。服をはぎ取ると彼の股間の器官は著しく大きくなっていた。私の凹と彼の凸。まるで最初からそうなるのが自然だったかのようにぴたりとはまった。はじめのうち提督は抵抗するそぶりを見せたが本気を出した私たち艦娘にヒトが敵うはずもない。犯す。ただ犯す。途中から提督は抗うことなく泣いていた。ただ泣いていた。
提督が射精したと同時に私も達した。いままでで最高に気持ちよかった。
自ら慰めるのではなく犯すことが私の好きな三つ目のこととなった。私はたびたび提督を犯した。提督はもう泣いてなかった。
ある日も提督の上にまたがり無心で腰を動かしていた。提督のモノが私を貫き、私を絶頂へと導く。そんな気持ちいい日々。
「赤城……」
提督が私の乳房へと手を伸ばす。私は快楽をむさぼるのを邪魔されるのが嫌で提督の手をひねりつぶした。
「あああぁぁぁぁーっ!」
提督の叫び声が夜の鎮守府に響く。彼のそんな声は初めて聞いた。体がゾクゾクした。
2
訓練は退屈なものだ。名前も覚えていない駆逐艦たち――みんな似たような顔をしているのがいけない――とともに行うならなおさらだ。
私は自分に何ができるか知っている。空母の仕事は敵より早く相手を察知し、安全な位置から攻撃すること。上手くいけば他のものの出番はない。この訓練は上手くいかなかったときのためにある。
よく晴れた昼下がり。鎮守府正面のおだやかな海上で駆逐艦たちが私を取り囲むように陣形を組む。彼女たちは私を守る盾だ。いざというとき敵の攻撃を受ける弾除けとなる。彼女たちの命は私を守るためにある。経験を積めば他の仕事もあるが、いまはまだ盾でしかない。
相手の動きを想定し、それに応じた陣形の組み換えを練習する。相手がいる模擬戦でもなく、ただ海を進みながら自分たちの並びを変えるだけなのに駆逐艦たちの動きは滑らかとは程遠いものだった。何度も失敗を繰り返す。私はいつまでも付き合った。
波止場まで戻ってきた私たちを加賀さんが出迎えた。
「みなさん、お疲れさま」
加賀さんの表情は乏しく声にも感情が出にくいが行動で示すタイプだ。今日だって仕事でもないのにこうしてわざわざ飲み物を持ってきてくれた。実力と心配りの両面でみんなの心をつかんでいる。
もらった燃料を全員で飲み干し、一息ついたところで駆逐艦のひとりが声を上げた。
「あの、すみませんでした!」
声の主を見るが名前が出てこない。彼女は誰だったか――
「どうしました、吹雪さん」
私が黙っていると加賀さんがかわりに答えてくれた。さすが付き合いが長いだけはある。いいところで助け舟を出してくれる。そうか、この子は吹雪さんというのか。
「私たちみたいな未熟者のために赤城さんにお付き合いいただいて、それなのに失敗ばかりですみませんでした!」
吹雪さんは勢いよく頭を下げた。他の駆逐艦たちもそれに釣られて礼をする。私は彼女の顔を上げさせ、両手で手を取り優しく包み込む。彼女の顔はこわばり、その手は固く握られていた。
「日々の訓練は自らを高めるものであり、また仲間を助けるためのものでもあります。本番で動けるように、いまのうちにたくさん失敗しておきなさい。私でよければいくらでもお付き合いいたします。おたがい精進していきましょう」
相手の眼を見て、にこりと微笑む。彼女の顔がぱあっと明るくなり口元がほころんだ。
「ありがとうございます! 吹雪、がんばります!」
他の子たちも緊張が解けたのか場が明るくなった。彼女たちはわいわいと嬉しそうにはしゃいでいる。私の言葉でやる気を出してくれたのならお安いものだ。
日が暮れはじめ、駆逐艦たちが先に帰っていく。あとには私と加賀さんのふたりが残された。
「あの子たちには優しいんですね」
加賀さんがぽつりとつぶやいた。薄暗くて彼女の顔はよく見えない。
「ああ言っておけば、いざというとき気持ちよく私たちの盾となってくれるでしょう?」
「そんなことをしなくとも赤城さんは慕われてますよ」
「そうでしょうか。自分ではよく分かりません」
「みんな赤城さんのことを大切な仲間だと思っています。だからあの人にももうすこし優しくしてあげても……」
ふたりのあいだに沈黙が訪れる。私は加賀さんを残し、その場をそっと離れた。彼女の最後の言葉は聞かなかったことにした。
3
簡単な仕事のはずだった。
警戒網に引っかかった敵を排除する。何度も繰り返された日常的なルーチンワーク。だが私たちが押さえているエリアの端で、ふらふらと逃げる敵をまだ不慣れで熱くなった駆逐艦が深追いした。敵は無事倒したが、そのときにはエリアの外に出ていた。偵察機が告げていた。伏せていた敵に囲まれていると。
敵は何度も何度もちょっかいをかけ、捨て駒を餌にマヌケが引っかかるのを待っていた。つまりは釣られたのだ。
「やられましたね」
荒れはじめた海の上、加賀さんが隣でつぶやく。メンバーは私と加賀さんに駆逐艦が数名。警戒するには十分だが敵の囲いを突破する力はない。
「全力で爆撃しつつ退路を切り開き、連絡が取れる場所まで戻りましょう」
この場所では我らが鎮守府にも連絡が付かない。加賀さんの提案は実に合理的で無駄がなかった。私から見れば憧れるしかない実力を持ちながら堅実な思考をするのが彼女らしい。
「吹雪さん、ご友人は動けそうですか?」
私は隣で青い顔をしている吹雪さんに尋ねた。同行する駆逐艦たちは以前いっしょに訓練した彼女とその友人であり、その友人が今回の深追いの原因だった。
「全速では無理そうです……」
吹雪さんの声が弱々しい。彼女の友人は敵を倒す際に機関に損傷を受けている。それを聞いて加賀さんの顔が暗くなった。撤退戦では動きに制限のあるその友人を犠牲にせざるをえない。
「そうですか。では失礼――」
私はスッと前へ進み出る。
「赤城さん、待って!」
加賀さんの声を聞きながら速度を上げる。やがて彼女の声が遠くなっていく。加賀さんや他の子たち――いつか私の盾となり散っていくはずの子たち――を置き去りに、私は単騎で敵へ向かっていく。
いまこそ盾となる駆逐艦たちの使いどころではないか。私と加賀さんだけでも帰り着けばそれでいいじゃないか。
そのはずだった。
だが私はむかむかしていた。私たちのようなマヌケを釣りだすために何度も何度も仲間を捨て駒にする敵のクソ野郎に。
偵察機たちが伝えてきた情報のまま、敵の姿が遠くに浮かび上がってくる。
ひい、ふう、みい、たくさん。図体がでかいだけのただのデクが何匹も並んでいる。
「バカメ!血迷ッタカ!」
デクでもさすがに気付いたか。ヌメヌメと光る敵――なんとか姫? 名前すら覚えていない――が耳障りな声を上げる。なんて醜い生き物。
敵が集中砲火を私へ浴びせる。遅い。するりと避ける。まるで当たる気がしない。
手の届く位置まで敵の雑魚が近づく。ひとつ、全力で殴る。ふたつ、殴る。みっつ、殴る。私がこぶしをぶつけるだけで雑魚どもは青黒い血をまき散らしながら死んでいく。背すじにしびれるほどの快感が走る。
「コノ、バケモノメ!」
最後に残ったデカブツが何か言っていた。化け物はお前のほうだ。
艦載機の妖精さんたちに出番がないのもかわいそうだ。私は無言で弓を構える。ほら、ただのデクだ。逃げようともしない。
「ワタシヲ倒ソウトモ仲間タチガ!」
仲間を捨て駒にしてきたお前が言うセリフじゃないだろう。私は鼻で笑う。だが矢を放とうとしたときに死角から飛び出てくるものがいた。死にぞこないの敵の雑魚が射線をふさぐ。
このままではあのデカブツを倒せない。私が躊躇したとき、敵が庇ってくれた雑魚もろともこちらを吹き飛ばそうと砲を構えるのが見えた。
「ヨクヤッタ!」
仲間を犠牲にすることをためらわないこんなクソ野郎でも最後に守ってくれるやつがいる。まったく、なんて世界だ。私はため息をつく。だがこれも悪くない終わり方だろう。いつも力づくで犯していた彼の姿が目に浮かぶ。私も結構なクソ野郎だから。でもすこしは役に立てただろうか……
「赤城さん、危ない!」
立ち尽くす私のうしろから姿をあらわすものがいた。この声は……吹雪さん!
吹雪さんは全速で敵へと向かっていく。私を守る盾ではなく、槍となって突撃する。この選択は力あるものにとってはベストである。敵に肉薄し、一撃で屠る、これこそまさに駆逐艦の真骨頂と言えよう。だがまだ未熟な彼女では力が足りない。デカブツの体勢を崩すにとどまる。
「ジャマヲスルナ!」
デカブツが腕を払い吹雪さんを跳ね飛ばす。その短い時間で十分だ。再び私にチャンスがめぐってきた。敵の雑魚は力尽き、さえぎるものはもう何もなかった。私は万全の体勢で弓を構え、敵はバランスを失っていた。
「さよなら。二度と会うことはないでしょう」
私は構えた弓から矢を放った。
「さ、帰りましょう」
私は振り返って吹雪さんに声をかける。敵の雑魚がひしめく海域を抜けてきた彼女は全身傷だらけで、焼きついた機関が異臭を放っていた。限界を超えてブン回し、追いついたのだろう。
「吹雪さん。お見事です」
「ありがとうございます! お力になれて嬉しいです!」
吹雪さんが元気よく答える。
「でもあの距離まで敵に近づいたなら、そのまま倒してくれないと」
「えーっ! 無理ですよ、あんな大きいのー!」
私たちは笑いながら他の仲間たちが追い付いてくるのを待っていた。もう空は晴れ上がり、波もおだやかになっていた。
4
母港へと帰る私たちを連絡を受けていた仲間たちが出迎える。まだ陸まで距離はあるが手を振っているのが見えた。
「ほら、赤城さん、こんなに慕われてるじゃないですか」
加賀さんが普段見られないような柔らかい表情で言った。
「その言葉、いまなら受け入れられそうです」
私の口から自分でも意外な言葉がするりと流れ出た。加賀さんの顔がさらに優しくなる。私は急に照れくさくなった。
思えば答えはいつも目の前にあった。
快楽を得るためなら交わる相手は誰でもいいはずなのに、どうして私は真っ先に提督の元へ向かったのだろうか。
駆逐艦を自分の身を守る盾だと考えているなら、どうしてひとりで敵に向かったのだろうか。
私は欲しいものを真っ先に手に入れようとしただけで、大切なものを守ろうとしただけ。いつだって自然に体が動いた。実に簡単なことだった。ただ私が気付かないフリをしていただけ。認めてしまえば気が楽になった。そんな私を仲間が受け入れてくれるのなら、これほど嬉しいことはない。
加賀さんは相変わらず横で楽しくて仕方ないといった顔をしている。そんな彼女にすこしだけ仕返しがしたくなった。
「加賀さんが提督に懸想しているのは知っています」
「!?」
加賀さんの表情が一変する。目をそらし、小刻みに体を動かして落ち着かない様子だ。
「手を出したら加賀さんといえども容赦はしませんよ」
意地悪く付け加える。このくらいはしてもいいだろう。
陸を見ると片手を布で吊った提督の姿が目に入った。私が手を潰してからまだ治りきっていない。謝ろう。あの人は許してくれるだろうか、私を本当に受け入れてくれるのだろうか。すこし不安はありつつも陸に近づくほど期待は大きくなっていった。