沈め掻臥せ戦禍の沼に   作:皇我リキ
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巨戟龍

 圧倒的な熱。

 

 

 流れる溶岩が弾け、装備を少し焦がす。

 装備の主の頬から垂れた汗は、地面に落ちた瞬間一瞬で蒸発した。

 

 活火山内の洞窟。足場に溶岩の流れるこの危険な場所で、二人の狩人(ハンター)が大地を蹴る。

 

 

 対するは巨大な身体を持つ化物(モンスター)

 一対の巨大な翼を広げ、岩のような外殻を持った竜───グラビモス。

 

 鎧竜の異名を持つその竜の外殻は見た目通り重厚なのだが、腹部の外殻は無残にも剥がれ肉が丸出しになっていた。

 

 

 

「もう少しだ、一気に叩き込む!」

「気を抜くなよ、ジャン」

「分かってらぁ!」

 砂色の装備を着込んだ若い茶髪の青年が、グラビモスの懐に潜り込む。

 

 人とモンスターの体格差は桁違いだ。

 脚だけで人と同じ大きさを持つモンスターだって少なくない。

 

 

 グラビモスもその内の一種であり、ジャンと呼ばれた青年が腹下に潜り込める程には巨大な身体の持ち主である。

 そこに、身の丈程の大太刀を叩き付けるジャン。甲殻と血肉を切り飛ばし、地面に弾けた鮮血は一瞬で蒸発した。

 

 

 グラビモスの咆哮が洞窟内に広がり渡る。

 

 

 痛みへの叫びか、怒りの声か。

 ただそんな事は気にせずに、青年はグラビモスの腹下で太刀を左右に振り回した。

 

 

「だぁぁらぁぁ!」

「ジャン、離れろ!!」

 猛攻を仕掛ける青年に声を掛けたのは、重厚な盾を構え槍を片手に持つ黒髪の青年である。

 彼の声にジャンは焦った様子で身を投げ出すように地面を転がった。

 

 

 数瞬。

 

 ジャンが居たグラビモスの懐にガスが充満したかと思えば、それは燃え上がって周囲に爆炎として広がる。

 爆風の煽りを受けて地面を転がるジャン。グラビモスはそんな彼に頭を向けて、それを一度大きく振り上げた。

 

 

「やべ、ブレスか?!」

 転がりながらそれを見たジャンは、身体を捻って起き上がる。

 もう一度横に飛ぶか、転がるか。そんな選択肢を頭の中で描いていると、視界は突然閉ざされた。

 

 

「屈め、ジャン!」

 脚を広げ、自分の身体よりも大きな盾を構えるもう一人の狩人。

 重厚な盾が眼前に広がったジャンは、一つの安心感と共に「マジかよ」と内心苦笑いを浮かべる。

 

 次の瞬間、グラビモスの口から光が放たれた。

 

 空気をも燃やす熱の塊。一直線にジャン達の居る場所へ放たれた熱線は、地面を溶かしながら二人を包み込む。

 

 

「……っ。……ぉぉおお!」

 青年は前のめりに構えてその衝撃と対峙した。

 

 盾を燃やす熱線の熱を受けながらも、完全に熱を遮断する。

 一直線に伸びる熱線が、その盾のある場所だけを避けて背後の岩を溶かしていた。

 

 ジャンは苦笑いを崩しながらも、その間に体勢を整える。

 盾が解かれる心配などない。それは彼が一番知っている事だ。

 

 

 

「───行け、ジャン!」

「あいよぉ! 毎度毎度無茶しやがって……っ!」

 グラビモスから放たれる熱線が途切れた瞬間、ジャンは太刀を構えたまま地面を蹴る。

 

 今の攻撃で仕留めたと思っていたのか、グラビモスはそんな彼に反応するのが少し遅れた。

 

 

 

「───終わりだぁああ!!」

 巨大な竜の断末魔の叫びが洞窟内に広がる。

 

 

 倒れるだけで地面を揺らす程の巨体。しかし、彼等は生物であり命ある者だ。

 どれだけ巨大なモンスターだとしても、こうして討伐する事は可能である。彼等が生物である限り。

 

 

 しかし、モンスターはその強大な力故に人間が普通に戦って倒せる相手ではなかった。

 

 

 では、人間はどう彼等と対峙したのか?

 

 

 それは至極簡単で、しかし途方もない方法である。

 

 

 

 ただ、己の信じる得物を構え。

 

 

 

 ただ、己の知恵と勇気を絞り。

 

 

 

 ただ、己の信じる仲間を背に。

 

 

 

 彼等はその身一つで果敢にもモンスターに挑んだ。

 

 人は彼等をこう呼ぶ───

 

 

 

「さぁ、一狩り行こうぜ!」

 ───モンスターハンター、と。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「いやぁ〜……デカイな。滅茶苦茶デカイな!」

 倒れたグラビモスの甲殻を剥ぎ取りながら、青年──ジャン──は声を上げる。

 

 

「これで装備が作れる。……ありがとな、ジャン」

「何言ってんだ、俺達の中だろイアン! いや、イアン兄さん!」

 イアンと呼ばれた青年は苦笑いを浮かべながら「兄さんはよせ」とジャンの肩を叩いた。

 

「ジャンが居なきゃ俺は此処には居ない。……だから、あんな無茶はあまりしないでくれよ」

「いや、いやいや。無茶苦茶してたのはイアンだからな?」

 呆れた声でそう返すジャンに、イアンは豆鉄砲を食らったような表情で固まる。

 

 

「あんなぁ、普通グラビモスのブレスをガードしようなんてしないの。分かる?」

 まるで自覚がないといったそんな表情に、ジャンは呆れ顔を崩さずにこう口を開いた。

 

「そんな事言っても。ジャンが怪我でもしたらシータが悲しむだろ」

「お前が怪我してもシータは悲しむだろうよ」

 即答でそう返すジャンは「お、良い甲殻」と素材をポーチに入れる。

 

 

 後はギルドに任せようと、二人はグラビモスの死体を置いてベースキャンプに戻った。

 飛行船で待っていた獣人族にクエストの成功と、ドンドルマに帰る旨を伝えると飛行船は大空へと浮上する。

 

 

 

 青い空が広がり、広大な自然が視界を覆った。

 

 

 

 そんな風景を見ていると、自分はこの世界でちっぽけな存在なんだと感じてしまう。

 盾の整備をしながら、イアンはそんな事を考えていた。

 

 

「さっきの話の続きなんだけど」

「だーかーらー、悪かったって。グラビモスを良く観察せずに懐に潜り込んだ事だろ? でも俺はイアンを信じてるから、そのくらいの危険はすぐ知らせてくれるし。本当に危なかったら助けてくれる。そうだろ?」

 饒舌にそう語るジャンは、両手を広げて自分は無実だと眉を寄せる。

 

 ため息を吐くイアンは「いやそうだけど、信用し過ぎじゃないか?」と自らの相棒を指差した。

 

 

「俺は死なねーよ、イアンとその盾がある限りはな。なーんにも怖くないね」

 その指を片手で下ろしながら、彼は笑いながらそう言う。

 

 もはやため息も枯れたイアンは、今回の狩りでボロボロになってしまった盾を眺めながら小さく笑った。

 

 

「もう無いけどな」

「新しいの作らないとなぁ。グラビモスの素材余るか? つーか、やっぱりアイツのブレスをガードするって選択肢はおかしいって」

「俺はそれしか知らないんだよ。ガードするか、攻撃するか、そんな物だろう?」

「お前って俺より単純だよな」

 逆に両手を広げるイアンに苦笑いを浮かべるジャン。彼のガードへの拘りには困ったものである。

 

 普通に考えたら盾で防ぎ切れないような攻撃も、彼はその盾で防ぎきってしまうのだ。

 相方をしていて、彼に何度も命を救われた思い出があるがその度にヒヤヒヤするのは言うまでもない。

 

 

 

「……なんだ? あれ」

 ジャンがそんな事を考えていると、イアンはジャンの背後を指差しながら眉をひそめる。

 そんな彼に釣られて振り向くジャンだが、彼も同様に眉をひそめた。

 

 

 

「……巨大な槍が、歩いてる?」

「まさか」

 そうは言うが、ジャン自身もそれがなんだが分からない。

 

 視界に映る光景を強いて語るのなら、何か巨大な長い角のような物が森から生えていて、それが一定の間隔で動いている。そんな光景だった。

 

 

「良く見えないな。イアン、双眼鏡あるか?」

「船に着いてる筈」

 そう言ってイアンが向かった先には、飛行船に備え付けられた双眼鏡。

 イアンは双眼鏡を、森を歩く槍に向ける。

 

 

「よーし、何か当てよう。当たったら今晩の飯奢りな。俺は超巨大ダイミョウザザミだと思うね」

「俺は巨木を持ったラージャンで」

「そんな訳あるかよ!」

 笑うジャンに「いやダイミョウザザミもないだろ」と言いながら、イアンは双眼鏡を覗き込んだ。

 

 そこに映るのは、やはりとても巨大な槍に見える。どう見ても巨木などではないし、むしろ角のような自然物にも見えない。

 

 

「……翼?」

「お、なんだ? 巨大モノブロスだったか? それだと俺半分当たりだよな?」

「森のど真ん中にモノブロスが居るわけないだろう」

 言いながらもイアンは双眼鏡のレンズを調整して、遠目に見える()を観察する。

 

 やはり一定間隔で動くソレの近くに、翼のような物が一瞬映ったのは気のせいだろうか?

 もし気のせいでなかったのなら、グラビモスすら比べ物にならない超巨大生物という事になるが───

 

 

「くそ、日が沈んできて見にくい」

「おいおい、俺にも見せろよ」

 眉を寄せるイアンの横からジャンが双眼鏡を覗き込んだ。

 退いたイアンは腕を組んで「アレは一体……」と呟くが、途端にジャンが倒れ込んだのを見て驚いて彼に手を伸ばす。

 

 

「お、おいどうした?」

「龍だ……アレ。おいイアン、双眼鏡覗いてみろよ! 早く!」

「な、なんだよ」

 言われるがままに双眼鏡を覗き込むイアン。

 

 次の瞬間は食い入るように双眼鏡に頭を付けて、震える両手で双眼鏡を掴んだ。

 

 

 

「なんだ……アレ」

 脚が四本、さらに背中から伸びる翼の様なシルエット。

 日は殆ど沈みかけて全体像が見えないが、彼等が見ていた槍のようなものは頭ではなく背中から生えている。

 

「角じゃない……?」

 一度瞬きをすると、そのシルエットは闇に消えて見えなくなった。

 

 

 アレは一体……?

 そんな疑問を乗せた船は夜の森林の上を進む。

 

 

 

「……報告、した方が良いよな? ギルドに」

「そ、そうだな」

「そういうの面倒だから、頼んだ」

「俺がかよ」

 一抹の不安を覚えながら帰路を進む二人だが、結局一晩考えてもその日見た存在が何者なのか思い付く事すらなかった。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

「大長老! 至急、お伝えしたい事が!」

 ドンドルマ──大老殿──にて、街の守護兵が慌てた様子で声を上げる。

 

 

「……うむ、その様子だと急な案件か」

 閉じた瞳の内片方を少しだけ開くのは、とても巨大な竜人族だ。

 ドンドルマを収める彼──大長老──は、そんな守護兵に頭を向けて話の続きを促す。

 

「はい。先日より報告の上がっていた火薬の盗難、及び粘液の犯人の正体が掴めたのです。───そして、初代撃龍槍の所在も同時に掴めました」

「ムゥ……? 一体それはどういう事だ?」

「それが、火山方面に狩りに出ていたハンターからの報告や付近住民の目撃情報によりますと───」

 守護兵の話に、大長老は眉をひそめた。

 

 

「───との事で」

「むぅ……」

 まさかこのドンドルマを長くの間守り続けていた槍が、今その切っ先をドンドルマに向けているとは誰が思っただろうか。

 

 

「その、初代撃龍槍を背負った龍。名は決まっておるのか?」

「はい。ギルドの方で、既に対策と調査に進んでいます。龍の名は───」

 以前よりドンドルマ周辺にて、広範囲に及び火薬盗難被害が相次いでいる。

 

 厳重な倉庫に保管されていた火薬も、その倉庫を破壊して盗まれていた。

 しかし、盗まれたのは火薬のみで他の物には手がつけられていない。さらに現場には謎の黒い液体が残されている。

 

 そんな不可解な事件が後を絶たなかった。

 

 

 その事件の犯人がまさかモンスターだとは、そしてその龍の名は───

 

 

 

 

 

 

 ───巨戟龍ゴグマジオス。




性懲りもなくまたモンハン作品です。
はじめましての人ははじめまして。またかよの人は「そうだ、私だ」。


今回は巨戟龍ゴグマジオスとの戦いを描く事になりました。戦闘描写は自信がありませんが、頑張って書いていこうと思います。
それでは、皇我リキワールドでのゴグマジオスとの戦いをご堪能下さい。また次回もお会いしましょう。二、三日以内に更新いたします。







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