ショウグンギザミはベースキャンプに留まっていた。
まるでそこが元から寝ぐらだったかのように、身体を小さく丸めている。
それは寝ているようにも見えて、ベースキャンプの残骸の脇で眠るショウグンギザミなんて光景に狩人達は唖然としていた。
「我が物顔だね……」
「まぁ、モンスターが入ってこれないような場所が選ばれて作られるのがベースキャンプだしな。……安全といえば安全なんだろう」
イアンが気になっていたのは、ショウグンギザミの体力である。
戦いが始まって直ぐにショウグンギザミは弱ったようにも感じた。
いや、元から弱っていたのかもしれない。
ゴグマジオスの影響で周りのモンスターが活性化したり凶暴化したりで、ショウグンギザミはそのモンスター達から逃げてここまで来た───そんな所だろう。
しかし、ショウグンギザミの事情を飲む訳にもいかない。彼等は狩人だから。
「寝ている間にニーツの武器を取るか……?」
「そもそもアレが寝てるのかどーか分かんねーよな、甲殻種ってさ。鼻提灯でも作ってくれれば分かりやすいのに」
悪態を吐くジャンだが、視線は真剣な表情だった。
狩場の状況を見極めようとするその瞳は、まさしく狩人のものである。
「竜車は……無事だな。アプトノスは逃げたままだけど」
「出来るだけ竜車付近では戦わないようにしよう。……出来るだけ」
それが出来たら苦労しないのだが。
「さて、作戦はどうする?」
「まずイアン。お前が先陣をきってショウグンギザミの前に出ろ」
イアンに聞いたつもりのジャンの言葉に、ニーツがそう返した。
ジャンは「お前が指揮するのかよ」とツッコミを入れるが、ニーツは無視して言葉を繋げる。
「ショウグンギザミが起きてようが起きてまいが、どのみち反応して対処しなきゃならねぇ。……そういうのは得意だろ?」
「あ、あぁ……」
これで先陣を切るのがジャンやレイラだった場合、守りに転じるのに時間が掛かって多少の危険が生じる事をニーツは理解していた。
イアン達より高々数年、それでも狩人としての判断力はニーツの方が高い。
「お前ら二人がイアンの後ろから着いて、攻撃に回るなら攻撃に回れ。守るなら一旦下がる。……俺はその間に武器を回収して、ショウグンギザミの死角から攻撃する」
チャージアックスの斧での攻撃はこの四人の中では一番威力が高く、奇襲にも向いている。
そこまで考え、作戦を立てたニーツはしかし不敵に笑いながら最後にこう言った。
「───後は好きにやれ。俺も好きにやる。お前らの戦い方なんてしらないからな」
だが、と続ける彼は何やら楽しげである。
「だから、お前らに合わせてやる。上手くやれよ」
そう言ってニーツは自分が落とした武器を拾うために、隠れながら前進した。
レイラも「あたしも、合わせるよ」と武器を構える。
「───行こう」
大きく頷いて、イアンもランスを構えて前に進む。
ジャンとレイラがその後ろを歩いて、ニーツの合図で三人は一斉に走った。
足音か。防具の擦れ合う音か。
それとも初めから起きていたのか。
ショウグンギザミは三人が間合いに入った所で、突然鋏を持ち上げ振り回す。
「防御!!」
「分かってる!!」
イアンはそれに対して盾を突き上げ、ショウグンギザミの攻撃を正面から受け止めた。
足がぬかるみに滑って、伝わってきた衝撃に表情を歪ませる。
それでも彼は足に力を入れて、落ち潰されそうになる身体を持ち上げた。
同時に背後にいた二人が得物を構えて前に出る。当然、ショウグンギザミは反応してその二人に意識を合わせた。
「でかいの行くぞぉ!!」
そんな中でショウグンギザミの背後に回り込んだニーツは、拾った盾に剣を突き刺し大声を上げる。
反応したショウグンギザミが振り向くと同時に、合体したチャージアックスから高温の熱が長大なブレード状になって放出された。
放出までに時間が掛かったが、視界からの一撃である。反応して鋏を振り上げた時にはもう遅い。
光の刃はショウグンギザミの右の鋏を根本から切り飛ばした。
煙を上げながら剣を外された盾に、大量の黒い体液が付着する。
自身の身体の一部を切り飛ばされたショウグンギザミは、一瞬何が起きたのか分かずにその場に固まっていた。
切り飛ばされた鋏が地面に突き刺さって、ソレと自分の身体を見比べてようやく事態を把握する。
悲鳴のような声。口から黒い泡を漏れる程吹き出しながら、ショウグンギザミはその場で暴れまわった。
「───っと、あぶねぇ!」
「うぉ?!」
無作為な攻撃をニーツとイアンは盾で受け止める。ただ無意味に振り回される鋏だけなら、耐えるのも容易い。
「おら、お膳立てしてやったんだ!! 好きに動け!!」
「なんだ今の……。くそ、格好良いじゃねーか。俺だってなぁ!!」
イアンが鋏を受け止めたのを確認してから、ジャンは暴れ回るショウグンギザミの懐に潜り込んだ。
引き戻されて横に振られる鋏を屈んで交わし、身体を持ち上げながら太刀を振り上げる。
続いて上から振り下ろされる鋏を後ろに飛んで交わしたジャンは、その足をバネにして再び前に───
「───くらえ!!」
───ショウグンギザミの懐に潜り込むと同時に、身体を捻って回転させ、太刀は彼の周りを迅速で切り裂いた。
血飛沫が上がる。
怒りに任せて振り下ろされた鋏はただ外れ、隙を晒したショウグンギザミの脚にレイラは双剣を連続で叩きつけた。
体力を失ったショウグンギザミは背負った頭蓋すら重く感じるのか、しかしそれを引きずりながらでもこの場所から逃げようとする。
背中を向けるショウグンギザミを「逃すかよ!」と追い掛けるジャンだが、何か違和感を感じたイアンは走って彼の前に出た。
「イアン?!」
「来る……ッ!!」
イアンが盾を構えた瞬間、ショウグンギザミの背負ったグラビモスの頭蓋はまるで口を開けるように上下に開く。
刹那。頭蓋の中から高圧の水流が放たれ、イアンはそれを盾で受けとめた。
「……つぅ」
「助かる……っ!」
どこにそんな体力が残っていたのか。冷や汗を拭いながら一度退がるジャンの視界に、振り向いて鋏を持ち上げ威嚇行動を取るショウグンギザミが映る。
どうやら逃げるつもりはないらしい。いや、逃げられないのだ。
ゴグマジオスの動きの影響で付近の生態系が崩壊し、ショウグンギザミは縄張りを追われて今に至る。
あの忌々しい小型モンスターの群れに縄張りを奪われ、あまつさえ手に入れた安息の地に今度は狩人が現れたのだ。
鋏を片方失おうが、自分には帰る場所もないのである。
逃げるという選択肢など存在していなかった。
ショウグンギザミはその身体を回転させ、近寄ろうとしていたレイラとニーツを振り払う。
しかし追撃に入る事はせず、待ちの姿勢で狩場は硬直した。
こうなると狩人達は動くのが難しい。
「んなろぉ、守りに入ってやがる。ダイミョウザザミかよ」
「どうする? 左右から挟み込む?」
悪態を吐くジャンにレイラが提案するが、どちらかが危険に晒されるような作戦にイアンは賛成しかねる。
「俺に考えがあるぜ」
ジリジリとした空気の狩場で、ニーツは不敵に笑いながらそう言った。
いくらショウグンギザミがあっちから襲ってこなくなったとしてもソレを放置する事は出来ない。
策があるというニーツの言葉に、三人はショウグンギザミから目を離さずに耳を傾ける。
「まず俺が突っ込んで上手く吹き飛ばされて、あの攻撃を誘う」
あの攻撃とは、ニーツに痛手を負わせた飛び込み攻撃の事だった。
一人が明確な隙を作れば、ショウグンギザミもトドメを刺そうと大技を繰り出して来るだろう。
ニーツの作戦は、その隙に一斉攻撃するというものだった。
「そ、そんな事したらまたニーツが危ないじゃないか……っ!」
「言ってる場合か? あの分だとショウグンギザミの体力が回復しちまうぜ?」
モンスターの回復力は人間の比ではない。
ショウグンギザミは大幅に削られた体力を少しでも回復させる為に動かずにいるのだろう。
どちらにせよこのままショウグンギザミを放置するのは悪手だった。
「バカ、お前を信じてんだよ。上手くやれ」
不安げな顔を見せるイアンの肩を叩いて、ニーツは不敵に笑う。
そんな彼の表情を見て、イアンは負けじと「しくじらないてくれよ」と笑った。
「お前がな!!」
言いながらニーツは駆け出して、盾の窪みに剣を突き刺して柄を捻る。
合体した盾は回転しながら内蔵されている刃を開いてその姿を斧へと変えた。
「おぉぉらぁぁあああ!!!」
怒号と共に振り下ろされる戦斧。しかしショウグンギザミはそれを正面から鋏で受け止めて弾き返す。
浮きそうになる身体をなんとか留めて、ニーツは仰け反りながら再び斧の柄を捻った。
刃が収納され、斧は回転しながら盾となり片手剣と分離する。
リーチが短くなり小回りが良くなった武器を持って、ニーツはショウグンギザミの懐に転がって潜り込んだ。
そのまま一閃。足元を片手剣で斬り付ける。真上から振り下ろされる鋏をバックステップで避けると、斧だった盾を前に構える。
同時に振り上げながら横に振り払われた鋏にニーツは吹き飛ばされた。
地面を転がるニーツだが、しっかりと受け身を取りながら不敵に笑う。
「───こい」
受け身を取りはしたが、ニーツの隙は明らかだった。
深傷を負っているショウグンギザミにとってはまたとないチャンスである。これを逃す手はない。
片方しかない鋏を展開し、構えながら脚に力を入れた。飛び込んでこの鎌を叩き付ける。
巨体が浮いた。
「イアン!!!」
叫ぶニーツの前に、走ってきたイアンが滑るようにして盾を構える。
突然視界の端から狩人が現れたが、ショウグンギザミにとってそんな事は関係なかった。
この鎌で二匹とも真っ二つにする。それ以外の事は考えない。
泥を巻き上げるほどの衝撃を立ててショウグンギザミの巨体が地面に降った。
振り下ろされる鎌は鋭い音を立ててロストバベルの盾を叩く。
ぬかるんだ地面に盾が沈み、バランスを崩しそうになるイアン。
ここで自分が押し負ければ、自分の命も後ろにいるニーツの命もなかった。
足を滑らせながら、イアンは必死に身体を前に押す。
ジャンプの衝撃も落ち着き、ここからは力勝負だ。
ショウグンギザミがその鎌を引き戻せざるおえなくなるのが先か、イアンが押し潰されるのが先か、それとも───
「───良くやった!!!」
イアンの背後で立ち上がったニーツは声を大にして叫ぶ。
ショウグンギザミが鎌を引き戻せざるおえない状況。
それは他の狩人からの攻撃だ。
───そして気が付いた時にはもう遅い。
「沈めぇぇえええ!!!」
剣と合体した盾から放たれる高温の熱エネルギー。光の剣が、一直線に振り回される。
イアンを押し潰そうとしていたショウグンギザミは無くなった筈の片方の鋏でそれを防ごうとして、その動きを止めた。
何を考えていたのだろう。狩人達には分からない。
光の刃がショウグンギザミの頭を切り裂く。
黒い体液が大量に吹き出した。
それでもまだ生きている。
ショウグンギザミは最後の力を振り絞って鎌を振り上げた。
しかしその鎌は振り下ろされる事はなく、ジャンの太刀に切り飛ばされる。
同時に地面を蹴って跳躍したレイラはショウグンギザミの頭の目の前で身体を捻って回転。両手の剣を空中で何度も叩き付けた。
巨体が沈む。
レイラが着地すると同時に、ショウグンギザミはその身体を地面に落とし息を引き取った。
「……倒した、か───うぉ?!」
間の抜けたような声を漏らすイアンを、ニーツが後ろから羽交い締めにする。イアンには見えていないが、彼の表情は満面の笑みだった。
「やったぞ!! ハッハッ、やったぞぉ!! やるじゃねーかイアン!!」
大声で笑いながらイアンに抱き付いて彼を称えるニーツ。あまりのテンションにジャンは表情を痙攣らせる。
ショウグンギザミの絶命を確認したレイラは、そんな二人を見てクスリと笑った。
「俺はずっと勘違いしてたんだな……。俺が欲しかったのは金でも女でも、ましてや英雄と呼ばれ称えられる事でもねぇ。……ただ、信頼しあえる仲間だったんだ」
イアンを無理矢理正面に向けて更に抱き締めるニーツ。
ただ兄に着いて狩人になっただけ。
彼には兄以外何もなくて、だから自分が進みたい道に気が付かなかったのだろう。
「ハッハッ、ようやく目が覚めたぜ!!」
「お、おう?! 分かったから落ち着いてくれ?! 離してくれ苦しい!!」
「嫌だねぇ!!」
いい歳の癖に抱き合う二人を見て若干困っていたレイラが目をそらすと、逃げた筈のアプトノスが戻ってくるのが視界に入った。
竜車も無事で、安堵するレイラの視線の端で二人の狩人は未だに抱き合っている。
「これは目が覚めたっていうか、目覚めたの間違いだろ。イアン、ケツには気をつけろよ」
「見てないで助けてくれ!!」
「ハッハッハッハッ」
「楽しそうだね」
「そう見えるの……」
何はともあれ、クエストクリアだ。
三人が使った攻撃ですがモンスターハンターXXの狩技だったりします。エネルギーブレードは格好良いですよね。
さて、ショウグンギザミ編完結です。次回よりドスイーオス連。この作品いつになったらゴグマジオスと戦うんだ?!