熱気。
火薬の爆発もさる事ながら、ゴグマジオスの放つソレこそかの龍の力の壮大さを物語っていた。
身体中から漏れ出す重油は、地面に付着してから自らの熱で自然に発火していく。
その龍が歩けば地面は燃え、建物は瓦礫に変わった。
「……っ。こ、これ以上進行させるな!!」
焦った声でサリオクが走る。ゴグマジオスの正面に立った彼は、矢を構えて目を見開いた。
まだ人から見れば避難所まではかなりの距離がある。しかし、この巨大な龍からすれば避難所は目と鼻の先だ。
これ以上前に進ませるわけには、この先に行かせるわけにはいかない。
「止まれってんだよぉ!!」
サリオクに続いて、ニーツがゴグマジオスの懐に飛び込む。チャージアックスから放たれた光───エネルギーブレイドが腹部を切り裂くが、ゴグマジオスはビクともせずにニーツを踏み潰しにかかった。
「───ぉおお?!」
「馬鹿突っ込みすぎだ!!」
それ一つで大型モンスターの胴体ほどもある脚がニーツを踏み潰す寸前、間に割って入ったジャンがニーツを突き飛ばしながら太刀で脚を切り裂く。
これも大したダメージを与えられる事なく、次にジャンを狙ったゴグマジオスは彼を掴まんと脚を捻った。
「おわぁ?!」
「アンタも突っ込み過ぎ!!」
その間に入ってゴグマジオスの脚を切り裂くレイラ。血飛沫が上がり、なんとか追撃を阻止する。
他の狩人達も必死にゴグマジオスを止めようとするが、焦った行動から命を落とす者が続出した。
このままではまずい。誰が見てもそう思える状況で、ゴグマジオスは再び立ち上がる。
そして周りを見渡すやいなや、下を見下ろす龍の口からは光が漏れ始めた。
上からのブレス。
「来るぞぉ!!」
誰かが叫ぶが、そんな事は全員が分かっている。これをどう避けるかが問題だ。
防ぐには間に合わない。どこに放たれるかも分からない。もしかしたらそのブレスが避難所に向けられるかもしれない。
絶望的な状態の中、その光は放たれる。ゴグマジオスの真下。龍を取り囲む狩人達の元へと。
「避けろ!!」
誰かが言った。しかしそう言った狩人は真っ先に光に包まれて一瞬にして灰となる。
地表を薙ぎ払ったブレスは地面を燃やし、そこにいた狩人は武具も身体も燃えた地面と同化して本当にそこにいたのかすら分からなくなった。
それでも狩人達は戦い続ける。
「二発目?!」
「させるか……っ!!」
さらにブレスを吐き出そうとするゴグマジオスの背後で、ガンナー達が己の武器を持ち上げた。
これ以上の損失は出させない。真っ先にラルクが通常弾を放ち、数人のガンナー達がそれに続く。
最後に引き金を引いたエルディアのヘビィボウガンから放たれた狙撃竜弾はゴグマジオスの頭部を削り、爆殺と共に血飛沫を上げたがゴグマジオスは止まらなかった。
放たれる光は地面の一点を燃やして岩盤をも溶かして蒸発させる。
直撃しなかった狩人達も、その熱を吸って喉や肺を焼かれてしまった。背後にいたガンナー達以外全員が火傷を負い、何人かはその場に崩れ落ちる。
「馬鹿野郎!! 止まるんじゃねぇ!!」
ヘビィボウガンを構えながらそう言ったダービアの前で、地面に倒れた狩人がゴグマジオスに踏み潰された。
姿勢を戻したゴグマジオスは動けない狩人達を翼脚や脚で踏み潰す。
しかしそれを防ごうとしたガンナー達の攻撃に苛立ったのか、ゴグマジオスは振り向いてその大口を開いた。
距離を離していたガンナー達からすれば、もしブレスを薙ぎ払われでもすれば避ける事も出来ない。全員が息を飲む。
「───させない!!」
そんなゴグマジオスの正面で、操虫棍を使って跳び上がる一人の狩人。
エドナリアは今にもブレスを放たんとするゴグマジオスの頭の上に立って、その操虫棍を眼球付近に叩き付けた。
攻撃は瞼に弾かれたが、一瞬ゴグマジオスが気を逸らされた所で一斉に狩人達が頭に攻撃をしてブレスを止める。
ガンナー部隊は数も少ないがこの作戦には必要な存在だ。攻撃させるわけにはいかない。
「……ったく、無茶しやがってよぉ」
再び接近する狩人達とゴグマジオスの戦いが始まる。
背後からはガンナー達が意識を向けさせるために砲撃を続け、前方にはこれ以上前に進ませまいと狩人達が集まっていた。
依然として弱っている様子を見せないゴグマジオスだが、なんとか進行を抑える事は出来ている。
しかし、押し返す事は出来ずに戦いの場は変わらないまま───少しずつ犠牲者が増えていくだけだった。
「無理に戦わないで! ダメージを負った者は一旦引いて回復してください!!」
大声でそう言うエドナリアだが、そんな暇はないと言う事は自分でも分かっている。
今少しでも攻撃の手を緩めれば、ゴグマジオスが前進する猶予が出来てしまう状況だ。何より戦力が少ない。
このままではジリ貧。いずれは───
「ジャン、後ろだ!!」
「な───」
イアンの声を聞いて振り向いたジャンの視界に映ったのは、自らに迫り来る翼脚。
反応が間に合わず、背中を弾かれた彼は血飛沫を上げながら地面を転がる。
「───ガハァッ」
「馬鹿野郎……っ!!」
ゴグマジオスの眼光が光り、その視線がジャンを射抜いた。次はお前だと、そう言われているようで恐怖により動けなくなる。
そんな彼の背後から、ゴグマジオスの尻尾が向かってきた。ゴグマジオスを見ていたジャンはそれに気が付けなかったが、すんでのところでニーツが剣モードにしたチャージアックスの盾を持って割って入る。
しかし、いくら頑丈な盾を持っていてもその巨体が持つ尻尾を弾き返す事など出来ない。衝撃は和らいだが、二人は何度も身体を地面に叩きつけられながら吹き飛ばされた。
「ニーツ!!」
「イアン、来るよ!!」
二人を吹き飛ばしたゴグマジオスは、次に足を止めていたイアンを睨む。
こうやって少しずつでも数を減らせば、行く手を阻む者はいなくなるのだ。
それを理解しているかのように、一人ずつに狙いを定めたゴグマジオスはその大口を開き光りを漏らす。
「───っ、ブレス?!」
避けようにも、逃す気はないとでもいうようにゴグマジオスはイアンに頭を向けた。
自分が狙われているなら、下手に動けば仲間に被害が加わる。イアンは意を決して動きを止め、盾を構えた。
「レイラ、俺から離れろ!!」
「い、イアン!!」
脳裏にブレスに焼かれ灰になったガンランス使いの狩人の姿が映る。
少しでも気を緩めれば───いや、どうしたってあのブレスの直撃をガードしきれる自信がない。
でも、これしかないのは事実だった。
考える間もなく、一瞬重油が放たれた後光が漏れる。ゴグマジオスが放ったブレスはロストバベルの盾に直撃して火花を散らした。
「───っ、ぅ……ぁぁああっ!」
腰を落として、足と手の動きに全神経を集中させる。盾を持つ手が熱い。全身が熱い。地面が溶けて、足が滑りそうだ。
「イアン……っ!! ───っ、なら!!」
だが、イアンは耐えている。しかし、ゴグマジオスのブレスはまだ続いていた。
レイラは唇を噛みながら、イアンに背を向けて走る。
向かう先はゴグマジオスの頭部。熱源故に近付くだけで火傷するのではないかとすら感じるが、そんな事を気にしている暇はなかった。
「私が止める!!」
ブレスに集中しているゴグマジオスの頭向けて、彼女は地面を蹴って身体を回転させる。
両手の剣が回転する身体に合わせて何度もゴグマジオスを切り裂いた。血飛沫が上がり、痛みに怯んだゴグマジオスはブレスを吐き出すのをやめる。
「───やった?!」
直ぐに切り返して視線を背後に向けるレイラ。その視線の先には、倒れているイアンの姿があった。
「イアン!!」
視界に映ったのは防具のあちこちが熱で変形し、大火傷を負っている彼の姿。
もう少しブレスを止めるのが遅ければ、彼の命はなかっただろう。それでも、もう少し早ければと彼女は後悔して彼に駆け寄ろうと走った。
「……だ、めだ! レイ……ラ……っ!!」
そんな彼女を見て、イアンは火傷による激痛に表情を歪ませながらも声をあげる。
「ぇ、しま───ガッ?!」
彼女の背後からゴグマジオスの脚が迫っていた。その事を伝える事が出来ずに、彼女は軽く小突かれただけで地面を転がる。
少しずつ、戦況は悪化していた。
倒れていく狩人。ゴグマジオスは再びゆっくりとその脚を進めていく。
これ以上は───そうヤケになった狩人達が再び傷を負い、命を落とし、さらに状況は悪化の一歩を辿った。
「ぼ、僕達も前に……っ!」
「ガンナーが前にでて……誰が援護するんだ、えぇ?」
今にも走り出そうとするラルクをダービアが止める。
しかしそうも言っていられない光景が広がって、ダービアは舌を鳴らして唾を吐いた。
「腹くくるしかねーかぁ。……町を守った英雄になるか、それとも───」
言っている間に、ラルクは飛び出してしまう。頭を掻くダービアだが、ゴグマジオスの標的が少年に向くのが見えて目を見開いた。
「おいガキ! 来るぞぉ!!」
しかしそんな声は喧騒にまみれて聞こえずに、ラルクは一目散にエドナリアの元へ向かっていく。
「エドナリアさん……っ! 後ろ!!」
「ラルク?! こんな前に出ては───っ?!」
背後からの熱気。
地面に垂れた重油が爆発するが、ラルクの声でなんとか飛び退いて避ける事が出来た。
しかし、同時にゴグマジオスの大顎が開いて光が放たれる。
持ち上げられた頭をゆっくりと左右に振り、熱線は周囲を焼き払った。
ゴグマジオスに近付いていたラルクをエドナリアは押し倒して交わそうとするが、直撃は免れたものも地面をも溶かす熱が二人を襲う。
二人だけではなく、その攻撃で残っていた狩人達も全て倒れた。命を失った者、そうでなくても肺を焼かれ動けなくなった者。
離れていたガンナー達以外、もう戦える者は残っていなかった。
「……おわったなぁ、こりゃ」
溜息を吐くダービアは、ヘビィボウガンを地面に置いて頭を掻く。
さて、英雄になるか。なんて事を呟いた矢先、周りにいたガンナー達は逃げ出す訳でもなく固まっていた。
「どうした、お前ら……」
「あれ……」
一人の狩人がゴグマジオスの進行方向を指差す。
そこに立っていたのは一人の狩人だった。
「我が名は!! サリオク・シュタイナー!! シュタイナー家次期当主、ギルドナイトの!! サリオク・シュタイナーである!!」
ボロボロになった弓を構え、脚を引きずりながらも立ち上がった一人の狩人はゴグマジオスの正面で大声で叫ぶ。
サリオク以外は誰も立っていない。サリオク自身も、立っていられるのが不思議な程の傷を負っていた。
しかし、ここで自分が立たなければ誰が立つのか。もとよりこの命は賭けてある。
ギルドナイトとして、シュタイナー家として、そしてなにより狩人として。この龍に敗北する訳にはいかなかった。
「この命、貰い受けよぉぉおおお!!!」
力強く矢を引くと同時に、ゴグマジオスはブレスを吐き出すために口を開く。
サリオクの狙いはその口の中だった。
どんな硬い甲殻に覆われていようが、そこならば直截ダメージを通す事が出来る。
たとえ相打ちになろうとも───
「……エドナリア、我が家系を頼む」
「サリオク……っ!!」
光が漏れた。
放たれた矢は、ブレスよりも早くゴグマジオスの口内を穿つ。激痛に頭部を捩らせるゴグマジオスだったが、ブレスを止める事はせずに───
「───シュタイナー家に、栄光あれぇぇえええ!!!」
───光は眼前を焼き払い、炎に染めた。
燃え上がる町の中で、狩人の弓が散る。