沈め掻き臥せ戦禍の沼に【完結】   作:皇我リキ

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百人の英雄

 空気が揺れる。

 

 

 狩人達の怒号と、龍の咆哮が重なった。

 炎が上がり、血飛沫が弾け、龍は大地を穿つ。

 

 ここには百人の狩人が居た。

 今は居なくても、これまで戦って来た仲間やこれから戦う仲間が居る。

 

 

 そんな百人の想いを乗せ、数十人の狩人はそれぞれの想いをそこに足して戦った。

 

 

「レイラ!!」

 ゴグマジオスの脚を切り裂くレイラに向け振り下ろされる翼脚。

 そんな彼女との間に割って入ったイアンはロストバベルの盾を前に突き出して、しっかりと脚を地面に縫い付ける。

 

 今度は防いで見せると、迫り来る翼脚を睨んだ刹那。

 盾から全身に伝わる衝撃に表情を歪めながら、イアンは歯を食いしばって姿勢を落とした。

 

 

「イアン?!」

「……っ、ぉおおお!!」

 骨が軋む。今にも押し潰されてしまいそうだ。

 

 だけど、まだ死ぬわけにはいかない。まだ、俺は戦う理由を確かめられていない。

 

 

「───よく止めた……っ!!」

 イアンが翼脚を止めている間に近くまで走って来たケイドは、左手一本で大剣を振り回す。

 血飛沫と炎が上がり、イアンを押し潰そうとしていた翼脚は弾き飛ばされて地面を踏んだ。

 

「か、片手で……」

「私のお父さんってやっぱり凄い……」

「何立ち止まってる。来るぞ」

 唖然とする二人の前で堂々と大剣を構えるケイド。これがたった一人の英雄と呼ばれていた男の力である。

 

 

 

「エドナリアさん! 左です!」

「……っと。助かりました!」

 一方逆側の翼脚からの攻撃を避けたエドナリアは、注意をしてくれたラルクに片手を上げてお礼を言った。

 

 彼がよく注意をしてくれるので少し派手に動けるが、それを見ているラルクは冷や汗が止まってくれない。

 しかし彼女の期待に応えようと、少年は殆ど新品のライトボウガンに弾を込める。

 

 成り行きで来てしまった初めてのクエスト。だけど、ここから一歩ずつ進めば良い。

 

 

 今はただ、前に───

 

 

 

「おいおい、へばってんじゃねーのか?」

「はぁ? バカ言うなよ。お前こそ息が荒いぜ?」

 横並びにゴグマジオスの正面に立つジャンとニーツは、お互いに軽口を漏らしながら眼前の龍を睨んだ。

 

 四足歩行でいても見上げる程の巨大な身体。

 周りを囲まれて四肢を切り刻まれようが、それでも倒れることはなく咆哮をあげる。

 

 

 左右の翼脚で己の懐に潜り込む狩人達を退け、それでも近寄る者には牙を向けた。

 しかしその数を減らす事が出来ない。煩わしい小さな生き物達は、強大な龍に立ち向かい続ける。

 

 

 痺れを切らしたのか、ゴグマジオスは翼脚を支えに後脚で再び立ち上がった。

 そしてその大口を開く。漏れる光に狩人達は冷や汗を流した。

 

 

 これまで何度も仲間を焼いて来た光。

 その正体たるは身体を巡る重油で、これが発火性故にゴグマジオスは火に弱い。

 

 

 

「───そうなんども同じ手が通用する程、人間様ぁな……バカじゃない」

 口角を釣り上げながら、ダービアは空高く───見上げる程高い位置に持ち上げられたゴグマジオスの頭にヘビィボウガンを向ける。

 

「一人ばかりに見せ場をやるのは気にくわねぇなぁ……そうだろ?」

 そう言いながら引き金を引くと、ヘビィボウガンはまるで竜がブレスを吐き出す直前のようにその銃口から空気を漏らし始めた。

 

 刹那、爆発音と共にボウガンと持ち主の身体が弾き飛ばされる。

 そんな威力で放たれた弾丸はゴグマジオスの喉元に着弾後、凄まじい爆炎でかの龍の頭部を包み込んだ。

 

 

 ゴグマジオスは悲鳴をあげながら仰け反り、放とうとしていたブレスは空に向け明後日の方角に放たれる。

 そのまま姿勢を崩したゴグマジオスは大きく倒れ込んで、狩人達に死に体を晒した。

 

 

 槌は甲殻を割り、剣は肉を裂く。弩や槍がその身体を突いた。

 龍の周りを取り囲み、その身体に得物を叩き付ける狩人達。

 

 砦に追い込むその前に倒してしまう事も出来るのではないだろうか。そんな事を誰かが思った矢先、ゴグマジオスは咆哮を上げながら翼脚で周りを薙ぎ払う。

 

 

 何人かの狩人が巻き込まれ、血飛沫が舞った。

 運良く弾き飛ばされて地面を転がった狩人が見たのは、血と肉の塊になった仲間の姿。

 

 そして立ち上がるゴグマジオスは、再び周りの狩人に攻撃を仕掛け始まる。

 これだけの攻撃を与えてもなお弱ったような素振りを見せないのか。

 

 しかし、周りを見渡せば明らかに変わった光景があった。それは仲間の数。戦い始めた時は五十人以上居た筈の仲間達が、今は何人残っているだろう。

 

 

 それでも狩人達はゴグマジオスにその視線を向けた。弾き飛ばされたその狩人もまた、回復薬を喉に流し込んで立ち上がる。

 

 

 

 沈め。

 時に悲鳴が上がった。体の一部を踏み潰され、激痛に地面を転がった狩人の身体を龍が踏み千切る。

 

 

 

 掻き臥せ。

 それでも、幾度倒れようとも狩人達は立ち上がった。己の全身全霊をかけて、強大な龍に自らの牙を叩き付ける。

 

 

 

 戦禍の沼に。

 何度倒れただろうか。何人倒れただろうか。

 

 

 

 その地は龍と狩人の血肉で染まり、いつしか日は沈んでいた。どれだけの時間が経ったのか感覚が鈍くなって行く。

 星達が照らす狩場は黒と赤に包まれていた。

 

 

 

 

「ニーツ!!」

 膝をついた仲間の名前をイアンが叫ぶ。そんな彼にゴグマジオスの前脚が振り下ろされた。

 

「───っ?!」

 回避は間に合わない。チャージアックスの盾で受け止めるにも、この姿勢からでは潰されてしまうのがオチだろう。

 反射的に盾を構えたニーツだったが、半ば「ここまでか」と歯を食いしばった。

 

 脳裏に兄の姿が映る。胸を張って会いに行けるだろうか。

 

 

「貸し借り一だこの野郎ぉぉおおお!!!」

 そんな事を考えた矢先、怒号と共に轟音が耳を貫いた。

 

 響く金属音。

 ジャンの太刀が、ゴグマジオスの前脚をイナシて受け流す。

 目を開いたニーツの視界に映ったのはそんな光景だった。

 

 

 血飛沫が舞う。

 ジャンの太刀は半分に割れて、ゴグマジオスの甲殻に引っ掛けられた彼の左腕は力なく地面に向けて垂れた。

 

 

「───っ、ぐぅ」

「注意を引く!! 二人は下がれ!!」

 イアンが悲痛の声を漏らすジャンの前に出て、槍と盾を構える。

 

 ニーツは反射的にジャンの肩を抱いて武器も捨ててその場から離れた。

 

 

 

「何やってやがる……俺なんかを助けるなんて。お前には嫁さんも居るだろうが馬鹿か」

「ハッ、馬鹿はテメェだ。俺はシータのために戦ってんだよ」

「だから、だったら───」

「悔しいけどお前の方が経験も実力も上だからな。ここで俺が戦線離脱するより、アンタが居なくなる方がクエスト的に痛手だって思っただけだよ……っ」

 表情を歪めながら、ジャンはゴグマジオスを睨んでそう言う。

 

 

「もうどれだけ戦ったか分かんなくなったけど……まだ倒れるのは早いだろ? クエストは終わってないんだ。そんなに兄貴に会いたいのか?」

「……生意気言うじゃねーか」

 確かに、倒れるには早い。

 

 

 まだ両親と兄の墓に、今回の土産話をしてないじゃないか。父親や兄に文句を言っていない。両親に自分の答えをやっと見つけたと謝れてもいない。

 

 

 

 なにより若干後輩の仲間にこんな生意気な事を言われて黙っていられるほど、ニーツのプライドは薄くなかった。

 

 

 

「ハッ、貸し借りなしだと? 俺が今からアイツをぶっ倒してお前の嫁さんを助けてやるぜ。そしたら一回くらい抱かせろ!」

「ざけんな死ね!! 今すぐ殺されちまえ!!」

 ジャンの文句に高笑いをしながら、ニーツは己の得物を拾いに走る。

 

 

「直ぐに戻るから死ぬんじゃねーぞ!」

「ずっとそこで俺の活躍を見てても良いんだぜ! 勿論嫁さんの穴は頂くがなぁ!!」

「今すぐ治療してテメェを殺しに行くから待ってろクズ野郎!!!」

 軽口を叩きながら、ジャンは傷口の手当てをして回復薬を喉に流し込んだ。

 

 

 

 ふと周りを見渡す。

 確実にゴグマジオスは後退していた。しかし、それでもここまでに掛かった時間と労力を考えると気が遠くなる。

 

 

 

 狩人達は明らかに疲弊していた。

 少しずつ小さなミスが増えていって、倒れる者も増えていく。

 

 まだ日は登らない。

 

 

 

「う、うわぁ?!」

「ラルク!!」

 少年を襲うゴグマジオスの翼脚。しかし悲鳴をあげるラルクを、サリオクが押し倒して危機から救った。

 

「モタモタするな。お前が死んだら誰がお前の大切な人を守るというのだ!」

「は、はい……っ!」

 強く返事をするラルクだが、止まっている二人に再び持ち上げられた翼脚が迫る。

 それを止めようと走るエドナリアだが、彼女の背後からゴグマジオスが前脚を伸ばした。

 

 豪腕がエドナリアを掴む寸前、ラルクは振り下ろされる翼脚には目もくれずにライトボウガンの引き金を引く。

 放たれた弾丸はゴグマジオスの前脚に着弾後爆発し、エドナリアを掴めずに弾かれた。

 

 しかし翼脚は前脚のダメージなど御構い無しに二人を潰そうと振り下ろされる。

 エドナリアが手を伸ばすが間に合わず、二人の姿は砂埃の中に消えた。

 

 

「ラルク……サリオク…………そんな」

 崩れ落ちる。

 

 

 しかし、ゴグマジオスは───

 

 

 

「ギルドナイトを舐めるなぁ!!」

 ───怒号が響いた。

 

 二人を潰した筈の翼脚が弾き飛ばされる。怒号の主は何本にも束ねられた矢を片手に、ラルクを抱き上げながら立ち上がった。

 

 

 武器も持っていなかったサリオクだが、すんでの所で直撃を交わして矢で反撃したのである。勿論ラルクの攻撃も加えてやっと翼脚を弾いたのだが本人は自らの力でゴグマジオスの攻撃を退けたのだと自慢気だった。

 

 

「一本では心もとない弓矢だがそれを何本もまとまれば力強くなるのだ。これぞ狩人の底力。見よ、今の攻撃でゴグマジオスは怯んだ!! 我々に勝機はある!!」

 その場にいた殆どの狩人が苦笑する雑な演説。

 

 

 しかし、彼の言っている事が半分正しい事だとその場に居合わせた狩人達は気付く。

 

 

 ゴグマジオスは突然後退りをして、眼前の狩人達を睨みながら咆哮を上げた。地面が揺れて空気が震える。しかし、それはつい先刻まで見せていた狩人達への圧倒的な力には程遠い。

 

 まるで弱ったそぶりを見せなかった龍が見せた小さな隙。

 そして弓矢ではなく矢による攻撃だけでゴグマジオスが怯んだ事実。

 

 

 それは確実にかの龍の体力を削っているという証拠だった。

 

 

 

 今が攻め時だと。狩人達は猛進する。大地が揺れた。

 

 

 

「待て───」

 ケイドが手を伸ばす。

 

 しかし、龍は吠えた。

 鼓膜を突き破られそうな圧倒的な力で空気を振動させて、翼脚を使ってゴグマジオスは再び身体を持ち上げる。

 

 頭部が一瞬光を漏らしたと狩人達が認知した時には既に遅かった。

 

 

 

 

 

 火柱が立ち昇る。

 

 

 

 

 放たれた高熱の光は大地を焼いた。直撃せずとも炎に焼かれた空気を吸った肺は爛れて狩人達は倒れていく。

 足の速い武器を持った狩人の殆どが一時戦闘不能になった。そのままゴグマジオスに潰されてもおかしくなかったが、龍はそんな狩人達を無視して前進する。

 

 

 

 まるで何かを求めるように。前に。前に。

 

 

 

 

「……行かせるかよ」

 龍の前に一人の狩人が立ち塞がった。

 片腕で大剣を持ち上げるケイドは、赤く光る瞳でゴグマジオスを睨み付ける。

 

 たしかにこの龍は弱っている筈だ。しかし、古龍という存在がそんな簡単な物ではないという事を彼はこの場に居る狩人の中で一番良く知っている。

 

 

 

「仲間の命を無駄にさせるか。……お前をこの先にだけは絶対に行かせない」

 この先には町の人々の避難所があった。

 

 ゴグマジオスがそれを知っているのかどうかは分からない。しかしどうしても、この龍はその先に進みたいらしい。

 唸り声を上げるゴグマジオスに剣を向ける。姿勢を低くして、地面を蹴った。

 

 

「お父……さん……っ」

 レイラは飲み干した回復薬の瓶を投げ捨てた手を父親に向ける。

 回復薬を飲んだからといって直ぐに動ける訳ではない。しかし、モンスターがそれを待ってくれる道理はなかった。

 

 ゴグマジオスは全身から重油を垂れ流しながらその脚を前に出す。

 地面に垂れた重油は発火し、狩人の足場を制限していった。

 

 そんな懐に潜り込むケイド。片手で大剣を振り回し、その甲殻を叩き割る。

 

 

 

 浅い。

 

 

 

 もっとだ。

 

 

 

 仲間が立ち上がる為の時間を───

 

 

 

 焦ったのか。

 

 

 

「しま───ガァッ?!」

 無造作に振られたゴグマジオスの頭部に引っ掛けられて、ケイドは地面を転がった。

 運が良かったのか悪かったのか、避難所の方角に飛ばされた為にゴグマジオスはまだケイドを敵としてみなして動かない。

 

 しかし彼もまた動かない。いや、動けない。

 身体は傷だらけで、無くした右腕から血を流し過ぎている。

 

 

 もうとっくの昔に限界だった。

 

 

 ここまでか。

 

 

 

 

 

 赤い。

 

 一対の翼と四本の脚。大地は血に塗れ、巨大な龍が狩人を睨む。

 龍が歩く度に流れ落ちる重油が発火して燃える視界の中で、ケイドは揺れる視界に手を伸ばした。

 

 

 何か、懐かしい物が見える。

 

 

 

「この先には行かせない……っ!!」

 ケイドの前に立ったのは、大きな金色の盾を持った一人の青年だった。

 大口を開く巨大な龍を前に、イアンは盾を構えたまま振り返る。

 

 

 

「少しだけで良いから耐えろよイアン!!」

「お父さん、イアン……っ!!」

 ゴグマジオスの背後から、回復した仲間の声が聞こえた。

 

 

 距離にして数十メートル。彼らがここまで来るで数秒もかからないだろう。

 だから、その数秒を持ち堪えれば良いのだ。

 

 

 

「俺は───」

 姿勢を低く構える。対するゴグマジオスはその大口を開いて黒い液体を漏らし始めた。

 重油を口内から吐き出し、ソレを発火させる事で放つゴグマジオスのブレス。

 

 この攻撃に何人もの仲間が倒れた事を思い出す。

 

 

「……っ、ブレスだ。来るぞ。逃げろ!」

「今逃げたら貴方も、もしかしたら避難所も危ない!」

 焦った声を漏らすケイドに、イアンはそう返事をした。

 

 この直線上に妹達が避難している場所がある。

 なにより、今守らなければいけない人が背後にいる。

 

 

 

 ──ケイド、テオ・テスカトルは私達が抑えるからこの子供達をお願い!──

 いつか、誰かはそう言って同じ盾を構えていた。

 

 

 絶対に無茶はするなよ。そんな言葉に彼女は「大丈夫、皆は私が守るわ」なんて答える。

 

 

 

 その背中に憧れた。

 

 

 その背中に託した。

 

 

 

 あの日の事を思い出す。

 

 

 

 

 十八年前、ドンドルマに一匹の古龍が襲来した。

 

 

 多数の仲間が死んだが、その仲間達の力で一般人に死者が一人も出なかったと聞いている。

 ドンドルマ防衛戦に参加したハンターは総勢百人を超えていた。

 

 その中で生き残ったのは、たったの一人だったという。

 

 

 

「お前はどうして戦うんだ」

 その一人は、今世の英雄にそう問いかけた。

 

 

 

「ずっと見てきました。考えてきました」

 青年は覚悟を決めて、言葉を漏らす。

 

 

 

「皆がなんで戦ってるのか。沢山の狩人の目を見て、背中を見て……やっと思い出したんです」

 いつの日か相棒に「どうしてお前はハンターをやってるんだ?」なんて聞かれた事を思い出した。

 

 

 その時はいつか幼い自分を助けてくれた英雄に憧れたからだと話したっけか。

 ならそれが答えなのかと言われると、何か違う気がする。

 

 どうして憧れた。

 

 

 憧れてどうなりたい。

 

 

 

 沢山の狩人を見て、それぞれの想いを背中に感じる。

 

 

 

 自分の為に戦う者。誰かの為に戦う者。

 

 勝ちたい。負けたくない。守りたい。挑戦したい。答えを探したい。

 

 

 人それぞれの想いがあって、それぞれの答えがあった。

 

 

 

 

 初めは憧れで、狩人は今その先を再確認する。

 

 

「俺は英雄(狩人)になりたかったんだ」

 理由とか根拠じゃない。ただ、一人の狩人になりたかった。

 

 

 後の世の者は、かの荒々しくも眩しかった数世紀を振り返りこう語ったという。

 

 大地が、空が、そして何よりもそこに住まう人々が、最も生きる力に満ち溢れていた時代だったと。

 

 世界は、今よりもはるかに単純にできていた。

 すなわち、狩るか、狩られるか。

 

 明日の糧をえるため、己の力量を試すため。

 

 またあるいは富と名声を手にするため。

 

 人々はこの地に集う。

 

 彼らの一様に熱っぽい、そしていくばくかの憧憬を孕んだ視線の先にあるのは。

 

 決して手の届かぬ紺碧の空を自由に駆け巡る

 力と生命の象徴───飛竜達。

 

 鋼鉄の剣の擦れる音、大砲に篭められた火薬のにおいに包まれながら、彼らはいつものように命を賭した戦いの場へと赴く。

 

 

 

 そんな世界で唯一の一人じゃなくて、ただ世界に存在する一人の狩人───モンスターハンターに。

 

 

 

「……いい答えだ。必ず果たせ」

 力なく倒れるケイドは、迫り来る光を気にせずにポーチから回復薬を取り出して喉に流し込んだ。

 

 

 

 

 

 燃える。

 

 

 

 

 空気が燃えた。放たれた光はイアン達を包み込んで、大地を赤く染める。

 肺が空気に焼かれて息も出来なくなった。

 

 それでも、ロストバベルの盾はブレスを受け止め弾く。

 

 

 火花が散り、あまりの威力にイアンの身体は地面を滑った。

 

 

 

「───っぃぁぁあああ!!」

 強く歯を噛んで食い縛る。高温で溶けた地面に足を取られないようにしっかりと地面を踏んで、吸った息を思いっきり吐き出した。

 

 

 意識が遠くなる。

 

 

 

 あの日───

 

 

「もう大丈夫よ!」

 一人の狩人の背中に憧れた。

 

 いや、一人じゃない。その日龍と戦った勇敢な狩人達全てに憧れる。

 彼等は一人を残して命を落とし、後に英雄と呼ばれるようになった。

 

 

 どうして彼等は戦えたのだろう。色々な理由があった筈だ。一人一人の答えがあったのだろう。

 その全てに共通する事。彼等は皆───狩人だった。

 

 

 

 その背中に憧れたんだ。

 

 

 

 ───だから、あの日のように。

 

 

「……もう、大丈夫だ」

 誰に言ったのか。

 

 

 両手足の感覚がない。全身重度の火傷で、まるで身体が灰になったように動かなくなる。

 しかし、熱で溶けて手と溶融したロストバベルの盾は真っ直ぐに立っていた。

 

 

 日差しが登る。

 

 

 振り向けば、陽に照らされた避難所があって。

 

 

 視線を戻した先で、仲間達がブレスを放ち終えたゴグマジオスに肉迫していた。

 

 

 

 

「……よくやった。あとは任せろ」

 倒れるイアンの身体を抱き抱えたケイドは、彼をゆっくりと地面に寝かせて立ち上がる。

 

 

 

「行くぞ馬鹿野郎共ぉ!!!」

 狩人達は走った。

 

 

 

 

 弩が、棍が槌が、剣が───狩人達は己の誇りをゴグマジオスにぶつけて行く。

 

 

 

 

 

 彼等がどうして戦えるのか。

 

 

 

 

 彼等がどうして戦えたのか。

 

 

 

 

 

 それはきっと彼等が───

 

 

 

 

「……勝った、のか」

「うん。……きっと、勝ったんだよ。私達」

 ───英雄(狩人)だったからだ。




次回、エピローグにて完結です。ここまでお付き合いありがとうございました。
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