変境で育てられた自称常識人   作:レイジャック

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やっと書けたぁぁぁぁァァァァァァァッ!!!!!!


めちゃくちゃ長い時間を費やしたけどこれで週一投稿のノルマは達成だぜ!!!



……駄文なのは許してくれ……


チェンジ!!

ここ特別希少金属利用研究所にて、現在1人の人物が世界記録更新の為全神経を集中していた。

 

「動かざること山の如し……」

 

ここに来る前に誘惑に負けて、色々な店を遊び歩いた後に来たので外はすっかり夕焼け色の空になっていた。その時間は仕事終わりに近づいている事もあるのか人の出入りが少ない。そんな中でバランスゲームを始めてから早くも9分経過し、常に集中していた俺は少し疲れてきていた。

 

「朝早くから出たのに到着したのが夕方になるとは……だから人がいないのかな?そんな事はどうでもいい、今は集中しろ俺!せめて10分は超えてやる!……何があっても動じないぞ」

 

10分まで残り10秒となりカウントダウンを始めた。

 

「カウント10、9、8、7、6、5『ヴーーーーー!!』ふぁ!?……しまったぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」

 

突然のアラーム音に動じてしまった俺は思わず御刀を地面に落とした。

 

「俺の記録更新があと5秒だったのに……誰だアラームを鳴らした奴は!!俺が成敗してくれる!!八つ当たりじゃぁぁぁぁぁ!!」

 

アラームを鳴り響かせた者に邪魔をされて怒りが湧き、無断で建物内を走り回る。

 

________________________________________________

 

「……全然見つからない……それどころか来た道が何処だったか分からなくなった……俺は何をしてんだよ!はぁぁぁ。取り敢えず人を探すか……」

 

ここに来るのはこれで2度目であるが、1度目の訪問ではフリードマンに案内されて着いて歩いただけなので覚えていない為、闇雲に走り回り迷子になった。こうなれば美人科学者どころの問題ではないのでここの職員に怒られるのを覚悟で人探しを始めた。

 

「いつまでアラーム鳴らしてんだろ?……まあ今の俺にはどうでも良い事だ。それより早く人を見つけなくては……」

 

長い通路で周りがよく見えなく十字路しかない場所を歩いていたら、近くで人の声が聞こえた。俺は声の聞こえた方に走り出し、曲がり角から顔を覗かせた。

 

「すみませーん、少し聞きたい事……が!?」

 

気軽な感じで声を掛けようと顔を出した先で俺が見たものは、倒れているドレス姿の少女と黒フードを着た者が刀を振り上げている光景だった。思わず声が上ずって驚いていると、黒フードが刀を振り下ろしたので思わず反射的に2人の間に入り御刀を鞘から抜いて受け止める。

 

「流石にこれ以上はまずいだろ……大丈夫かお嬢さん?」

 

「え?は、はいデス」

 

「そうか。それなら良かった」

 

「なんだ貴様は?」

 

「えーと、人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのがマナーだぞ?」

 

受け止めた状態のまま礼儀を親切に教えていると、それが気に障ったのか無言になりながら斬りかかってきた。痛いのは嫌なので左手に持つ御刀で全て防ぎ、隙を見てフェイントとして突きを放つと黒フードの人物は後方に瞬時に下がって避けた。だがそこにはもう1人の少女がいた……

 

「やあっ!!」

 

その少女は見た目とは裏腹に度胸があり、怯みもせず黒フードの人物に背中から斬りかかる。

 

「……フン」

 

「きゃっ!」

 

だが、まるで背中に目があるかのように少女の刀を後ろを見ず、黒フードの人物は自身の刀で弾く。あまりの勢いのある斬撃に耐えきれず、少女は刀を手放して体制を崩し、尻もちをついた。その隙を見逃さず黒フードの人物は追撃を入れ、上段から刀を振り下ろした。

 

「あっ……」

 

少女は攻撃を防ごうにも刀を手の届かない場所に手放してしまった為、目の前の光景をただ見つめる事しか出来ずにいた……そして、少女に刃が近づき反射的に目を閉じる。しかし、ここで予想と違って自身に迫り来る刃が何かとぶつかる音が聞こえてきた……

 

「え?」

 

「もう1人のお嬢さん、大丈夫か?」

 

「は、はい!」

 

「あはは、そんなに元気なら大丈夫そうだね」

 

「ほう、我の攻撃を全て防ぐか。面白い、貴様は何者だ?」

 

「何者かと聞かれれば答えてあげるが世の情け……じゃなくて、俺は何処にでもいるような一市民だよ」

 

質問には一応答えてみるもやはりまた無言になって斬りかかってきたので、今度は防戦一方ではなくこちらからも攻撃を仕掛けてみようと何度目かの斬撃を弾いた後に、防がれるとは分かっていながらも横一閃に御刀を振るう……だが、予想とは裏腹に黒フードの胴体を少しだけ斬ってしまった。

 

「あ……悪い……」

 

「ふっ……少し分が悪いか……」

 

斬られたことに特に怒りもせずに黒フードはこの場から一瞬で遠ざかっていく。

 

「エレンちゃん!」

 

「大丈夫です。追って下さい!」

 

「でも……」

 

何が起きてるのかわからないながらも、非常事態なのは制服を着ている少女を見ていて何となく分かったのでこの場にいるドレス少女ぐらいは任せてもらうように提案する。

 

「あー、その、なんだ……彼女の事は俺に任せてくれてもいいぞ?」

 

「えっと……すみませんが、少しだけエレンちゃんの事をよろしくお願いします」

 

「了解だ」

 

俺の返事と同時に制服少女が黒フードを追う為一瞬で目の前から移動していく。そして、残された俺はドレス少女の事を任されたので御刀を鞘にしまい、まずは怪我がないかの確認をする事にした。

 

「怪我はないか?」

 

「はい、大丈夫デス……えっと、貴方は?」

 

「……そういえば自己紹介してなかったな。俺は神条零次だ、よろしく」

 

「よろしくデス。私はエレン、古波蔵エレンと言いマース」

 

「そうか……その、いきなりで悪いんだけど古波蔵さんは何が起きているのか知っているか?」

 

「それは……さっきの黒フードの人にノロを奪われてしまいました……」

 

「ノロを?何の為に?」

 

「それは分からないデス」

 

「そうだよね、理由なんて分からないよね……ごめん古波蔵さん、変なこと聞いて」

 

「構いまセン。それと私の事はエレンでいいデース」

 

「へ?いやいや、初対面で名前呼びは流石にハードル高過ぎるよ古波蔵さ「エレン」……古波「エ・レ・ン」……エレンさ「エレンちゃんと呼んでくだサーイ」……エレンちゃん」

 

「ハイ!」

 

「……エレンちゃんとさっきの子は刀使なのか?」

 

「そうデス!私とマイマイは刀使デース!」

 

「ま、マイマイ?それって……」

 

「あ!マイマイ!」

 

エレンちゃんとの会話に夢中で戻ってきている事に気がつかなかった俺は、後ろにいる人物の方を向く……いたのか……

 

「エレンちゃん……ごめん、逃げられた」

 

「そうデスか……でもマイマイが無事で良かったデス!」

 

「エレンちゃん……」

 

「なあエレンちゃん、やっぱりこの子がマイマイなの?」

 

「え?マイマイ?」

 

「そうデース!」

 

「そうなんだ……マイマイさんの名前がマイマイなのか?」

 

「違います!」

 

「すまん!今のは冗談だ!」

 

俺は少女に大声で否定された事に対して反射的に謝罪する。

 

「あ、いえ……こちらこそすみません、大声を出してしまって」

 

「あ、ああ……俺が悪いんだから謝らないでくれ……えーっと、マイマイさん?」

 

「……舞衣です。私の名前は柳瀬舞衣です」

 

「……それじゃあ、柳瀬さん?」

 

「舞衣でいいですよ……先程は危ない所を助けて頂きありがとうございました」

 

「そういえば私もまだお礼を言ってませんでしたネ!さっきはありがとうございマース!」

 

「お、おう……別に必要なかったと思うけどな」

 

「そんな事ありまセン!あのままだったら私は……本当にありがとうございマス!」

 

「貴方がいなければ私も怪我どころでは済まなかったと思います……本当にありがとうございます」

 

「そ、そうか……どういたしまして?」

 

俺は正直なところ手助けというより邪魔をしたと思っていたので、素直に感謝を受け取る事が出来ないでいた。その事もあり少しの間この場に沈黙が流れていると、少女が口を開く。

 

「……あ、あの!」

 

「ん?どうしたの舞衣ちゃん?」

 

「ま、舞衣ちゃん!?」

 

「あー悪い、嫌だったか?」

 

「い、いえ!そんな事ありません!」

 

「マイマイ、少し落ち着いてくだサイ」

 

「……//、すみませんお恥ずかしいところを見せてしまって……」

 

顔を赤らめたままお辞儀をする少女はとても可愛かったので、俺は正直に感想を述べた。

 

「……大丈夫だ、とっても可愛かった……ぜ!」

 

「か、可愛い……//」

 

「ワォ!零次は大胆デスネ!!」

 

「何の事だ?」

 

「ワォ……零次は鈍感なんですネー」

 

「鈍感?……なるほどそういう事か!ごめん舞衣ちゃん、自己紹介がまだだったね。俺は神条零次だ、よろしく」

 

「可愛い……えへへ」

 

「エレンちゃん、何で舞衣ちゃんはあんなに幸せそうな笑顔を浮かべているの?」

 

「……零次はもう一度人生をやり直した方が良いと思いマース」

 

「何で!?」

 

「はっ!?……私は一体……」

 

「あ、戻った……舞衣ちゃん大丈夫か?」

 

「え?あ、はい、大丈夫……です」

 

「それなら良いけど……それで?何か俺に聞きたい事があったよね?」

 

「はい……貴方は何故ここに?」

 

「零次でいいよ舞衣ちゃん……ここに来た理由はこれについて聞きたい事があってね」

 

そう言って御刀を見せる。

 

「それは御刀!?」

 

「どうしてそれを持っているのデスカ!?」

 

「え?いやぁ、それは何と言いますか……色々あってな……」

 

「色々?」

 

「それについては聞かないでくれ……それよりも、2人はこの事を誰かに報告しなくていいのか?」

 

「あ!」

 

「忘れていまシタ……」

 

「そうなの?それなら早く行った方が良いんじゃないかな?」

 

「そうデスね。それじゃマイマイ行きましょうか……くっ!」

 

「エレンちゃん!」

 

「すみませんマイマイ、もう少しだけ休ませてくだサイ……」

 

「エレンちゃん、やっぱり怪我してたんじゃないか……ちょいと失礼するよ」

 

まだ動けなさそうな状態なので、御刀を竹刀袋に入れて肩に掛けてから少女の肩に右手を添え、膝裏に左手を滑らせて抱きかかえ上げて立ち上がる。

 

「What`s!?」

 

「まあ、これなら大丈夫だろ」

 

「あ、あの!?これは!?」

 

「これも何かの縁だ、送るよ」

 

「そんな悪いデス!私なら大丈夫ですから!それにこんな姿は……恥ずかしいデス」

 

「大丈夫じゃないだろ?いいから気にしないで、俺がやりたくてやってる事だから」

 

「デスが……」

 

「遠慮しないでくれ。それに、エレンちゃんと舞衣ちゃんの事を心配してる人が待ってるなら早く会いにいった方が良いだろ?」

 

「それはそうデスが……ご迷惑じゃありませんカ?」

 

「そんな事ないよ。さあ行こう!舞衣ちゃん!道案内よろしく!」

 

「え?は、はい!分かりました」

 

このままじゃ埒があかない気がしたので、強行手段として話を中断し、舞衣ちゃんに道案内してもらい2人を送り届けた。

______________________________________________

 

舞衣ちゃんの後をエレンちゃんを抱えながらついて歩き、数十分もかからない内に目的地に到着した。

 

「零次さん、この先です」

 

「意外と時間がかからなかったな……」

 

「零次!もうここまでで大丈夫デス!」

 

「ん?そうか?もう歩けるのか?」

 

「ハイ!コンディションはバッチリデース!」

 

「オーケイ、それじゃあ下ろすよ」

 

ゆっくりと足の方から地面に下ろし足取りもフラついていない事を確認してから、肩から右手を離していく。

 

「うん、大丈夫みたいだね」

 

「むー!だから大丈夫だと言ったじゃないですカー!」

 

「ごめんごめん、また無理してるのかと思ってね……さあ、二人共早く行ってきなよ。待っているんでしょ?」

 

「そうですけど……零次さんはこの後どうするんですか?」

 

「え?俺?俺はセクし……ごほんっ!節句でも考えながら家に帰る予定だよ」

 

「今言い直しませんでしたカ?」

 

「気のせい気のせい!ほら、俺の事はいいから行ってきなよ」

 

出来るだけ平静を装いながら苦し紛れの受け答えをする俺は、内心ビクビクしながらも2人の顔色を伺った。

 

「そうデース!それなら零次も一緒に行きましょう!!」

 

「……どうしてそうなった?」

 

「ホラホラ!早く行きましょう!!」

 

「ちょ、ちょっと待って!?服を引っ張らないで!?」

 

「どうしたんですカ?」

 

「いや俺は、その、あれだ……セク……じゃなくて、俺がいると邪魔になるだろ?」

 

「そんな事はありまセン!ね!マイマイ!」

 

「うん。邪魔だなんて思いませんよ」

 

「いやそれでも、悪い気が……」

 

「零次の事を紹介したいのデスが……嫌でしたか?」

 

「あー、嫌というわけではないけど……俺がいない方が話しやすい事があるだろ?一応部外者だからな」

 

「そんな事は!」

 

「ない、とは言えないだろ?」

 

「それは……」

 

「……零次、どうしても駄目なのですか?」

 

舞衣ちゃんもエレンちゃんも落ち込んでしまい、虫の居所が悪くなる。そんな2人を見ていられなくなり妥協案を提示した。

 

「……それじゃあさ、話が終わったら呼んでくれ。それまでここで待っているから」

 

「零次!ありがとうございマース!!」

 

「零次さん!ありがとうございます!」

 

「別にお礼は要らないよ。ほら、早く待っている人の所へ行ってきなよ」

 

「はい!それではまたあとで」

 

「零次ー!後で呼ぶので必ず来てくださいネー!」

 

「了解……行ったか」

 

舞衣ちゃんはお辞儀をし、エレンちゃんは手を振りながら遠ざかっていき、この場に残った俺は1人になった。

 

 

________________________________________

 

エレンちゃんと舞衣ちゃんと別れてから1人じゃんけんをしながら暇を潰していた俺は、早々に飽きて悪いとは思いながらも盗み聞きをする為耳を澄ませてみる。

 

「……あれ……声が……遅れて……聞こえるよ……反響してるだけか」

 

聞こえてきた声からして、家族内での感動的な場面な気がした俺は即座にやめて、THE・いっ◯く堂の真似を全然再現できないままやっていた。

 

「口閉じて声を出すとか無理だろ。鼻から牛乳を出す方が簡単だ……駄目だ、自分が何を言っているのか分からなくなってきた!あぁぁぁ、早く美人科学者に会ってハグされたい!!」

 

心の底から湧き出てくる本音を抑えきれずに口に出してしまい、慌てて口を両手で抑え周囲を警戒するも聞いている者がいないのを思い出して何故だかため息が出てしまった。

 

「はぁぁぁ。1人は暇だな〜……スマホさえあればこんな事にならなかったのに、何故忘れたんだよ俺……エレンちゃんと舞衣ちゃんには悪いけど帰るか?それとも、美人科学者探しをしようか……悩むな」

 

2つを天秤にかけて1人悩み続けながら天井を見上げてみると、突然俺の頭の中にセクシーダイナマイトという単語が思い浮かんだ。

 

「エレンちゃんも舞衣ちゃんも見事な発育っぷりだったな。以前会った時は少ししか話さなくてあまり見てなかったけど、2人共異常なまでに発育が良すぎるよな……特に目を惹かれたのは男なら誰でも見てしまうあの……って、俺は何を考えているんだ!?正気に戻れ!!」

 

思考が段々と乱れていく中、額を壁にぶつける事により何とか正常な判断ができるまでに回復させた。それと同時にエレンちゃんが先ほどの場所からこちらへ駆け寄ってきていたので慌てて姿勢を正して何事もなかったかのように背中を壁に預けて両手を組み佇む。

 

「零次〜!!」

 

「あれ?エレンちゃんどうしたの?俺がずっとこのままの状態で待ってからそんなに経ってないよ?」

 

「どうしたのじゃありまセーン!後で呼びに行くと言ったじゃないデスカ!」

 

「どうやらエレンちゃんは見ていないようだな……」

 

「何の事デスか?」

 

「いや、何でもない……話は終わったのかい?」

 

「ハイ!ママにもパパにもグランパにも報告してきまシタ!」

 

「そうか……」

 

この時の俺は少しだけ盗み聞きした事に罪悪感を感じて心の中で謝罪した……

 

「それでデスね、零次の事を話したら、是非にも会って話がしてみたいから連れてきて欲しいと言われたので、迎えに来ましタ!」

 

「え?紹介だけじゃなかったの?」

 

「細かい事は気にしないで下サーイ!!さあ、早く行くデース!」

 

「ちょっ!?待って!腕を引っ張らないで!?当たってるから!?すごく柔らかいの当たってるから!?」

 

「タイムイズマネー!時間はお金以上に貴重デスよ零次!」

 

「分かった分かった!分かったから離してくれ!ちゃんと一緒に行くから!?」

 

「お断りシマース!さっきのお返しデス!」

 

「何の事を言っているの?」

 

「……絶対に離しませんから覚悟するデス」

 

「あれ?何か怒ってない?」

 

「フン!知りませン!バカ零次!」

 

「何で!?」

 

俺は腕を掴まれて脱出不可能な状態のまま、エレンちゃんに引っ張られて行った。

 

「もうやめてぇぇぇぇぇl!!理性が崩壊しちゃうぅぅぅぅ!!」

 

 

 

 

___________________________________

 

素数を数えながら理性を保っていた俺は、理性が崩壊しかける寸前になってようやく解放された。

 

「51……はぁ、はぁ。あ、危なかった……」

 

「ママ、パパ、グランパ!零次を連れてきましタ!!!」

 

エレンちゃんの声がすぐ隣から聞こえて、俺は今いるこの場所が先程までいた場所ではない事に今になってようやく気がついた。

 

「……本当に危なかったな」

 

「君がエレンの言っていた零次君だね」

 

「え?」

 

「エレンを助けてくれてありがとう」

 

俺は突然話しかけられた事に動揺しながらもその人物に正直に答えた。

 

「いやいや、当然のことをしただけだから気にしないでください……えーっと、すみませんが貴方は?」

 

「あぁ、失礼。僕はここの研究主任をやっている古波蔵公威と言います」

 

「妻のジャクリーンよ」

 

目の前には一目見て研究員とわかる服装の2人の人物が自己紹介してきた。

 

「古波蔵?エレンちゃんのご両親ですか?」

 

「ハーイ!エレンのパパさんとママさんデース」

 

「もしかして達夫が言っていたのはこの人の事か?……確かに聞いた通りだな……」

 

「どうしたんデス零次?」

 

「いや、何でもない。こっちの話だ……それよりも、エレンちゃんのご両親はここの研究員だったのか」

 

「イエス!パパとママとグランパは今はここで働いているんデス!驚きましたカ?」

 

「ああ、かなり驚いているよ……それでエレンちゃん、グランパと言うのは間違いなくあの爺さんだよね?」

 

俺の指差す方によく知っている人物が立っていてかなり動揺した。

 

「ハハハ!爺さんと言われたのは初めてだよ」

 

「……駄目でしたかね?」

 

「いや、僕は構わないよ。初めまして、僕はフリードマン。孫娘達を助けてくれてありがとう零次君」

 

「……初めまして、神条零次です。特に大した事はしていないのでお礼は要りませんよ……」

 

「どうしたんデス零次?元気ないデスね」

 

「エレンちゃん、これが俺のいつも通りだ……気にしないでくれ」

 

「元気がないのがデスカ?変わった人デスネー」

 

「……あぁ、何故だろう。目から汗が……」

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「ああ、何とか……これぐらい日常茶飯事だから慣れているからな」

 

すぐ近くまで心配してくれた少女にそう言いながらも、俺は涙が出ていないのにも関わらずメガネを退けて目元を拭った……

 

「心配してくれてありがとう舞衣ちゃん」

 

「えーっと、どういたしまして?」

 

「何故に疑問系?」

 

心配してくれた少女の答えに疑問を感じるも、その少女の近くにいる男性から話しかけられて考えるのをやめた。

 

「少しいいかな?」

 

「あ、はい。構いませんが……貴方は?」

 

「これは失礼した。私は柳瀬孝則、舞衣の父親だ」

 

「は、はぁどうも。神条零次です。あの、俺に何か用ですか?」

 

「舞衣から話は聞いている。君にはお礼が言いたかったんだ。舞衣を、娘を助けてくれてありがとう」

 

「ちょ!?お礼を言われるような事はしてませんから!?頭を上げてください!」

 

「いや、君がいなければ娘は怪我をしていただろう」

 

「そんな事ないですって!とにかく頭を上げて下さい!このままじゃ、俺の豆腐並みのメンタルが崩れますから!?」

 

「そ、そうか……」

 

何とか理解してくれたのか、舞衣ちゃんの父親は素直に頭を上げてくれた事により、俺のメンタルは穴が空く程度のダメージだけで済んだ。

 

「君は謙虚なんだな零次君」

 

「いえいえ、謙虚なわけじゃなくて事実を言ったまでですよ」

 

「そうなのか?」

 

「そうなんです。だからお礼は要りませんよ」

 

「だがそれでは……」

 

「柳瀬さん、それ以上言っても彼が困るだけですよ」

 

「フリードマンさん」

 

「ここは素直に彼の言葉を受け取りましょう」

 

「……分かりました。すまない零次君」

 

「気にしないでください。俺の方こそなんかすみません」

 

「……君は変わっているな」

 

「あはは、そうかもしれませんね……まあ、そこは俺だからという事で納得して下さい」

 

「あぁ、そうしておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

何故だか舞衣ちゃんの父親との間に沈黙が訪れ少し気まずい状況になり、どうにかこの空気を変える為天に祈りを捧げる……どうかこの状況を打破して下さい……その願いが届いたのか、1人の人物によって現状が一変した。

 

「そういえば零次君、君に聞きたい事があるんだけどいいかい?」

 

「何ですか?爺さんが聞きたいような事はないと思いますけど?」

 

「そうでもないさ。先程から僕は気になっていたことがあるんだ」

 

「気になっている事?」

 

「零次君、君はどうして孫娘達の場所にいたんだい?」

 

「あ……そ、それは何とも伝えずらいと言いますか、説明しづらいと言いますか……」

 

「説明してもらえないだろうか?」

 

「……分かりました。エレンちゃんと舞衣ちゃんには言ったけど、今日はこれについて教えてもらう為ここに来たんです」

 

肩にかけた竹刀袋から御刀を取り出してその場にいる全員に見せながら説明すると、予想通り2人を除き皆驚いていた。

 

「それは御刀かい!?」

 

「どうして君がそれを!?」

 

「少し事情がありましてね……詳しくは言えませんがとある人物から託されたんです」

 

「とある人物?」

 

「すみません、プライバシーに関わる事なのでお答えする事は出来ません……そしてある時、その人物からこれを託されたんです。これを引き取ってくれと……」

 

「……なるほどそういう事か。それは君にとって大切な物なのだな」

 

「え?」

 

「いいんだ。言わなくても分かっている……少しデリカシーがなかったみたいだ、すまなかった」

 

「え?え?え?」

 

「柳瀬さん、彼が困ってますよ。それに、彼はそんな事気にしませんよ?ね?」

 

「いや、別に気にしませんけど……どうなってるのこれ?」

 

どういう訳か周りが暗い雰囲気になってしまい困惑する。そんな俺の心事を知らずにも話が続いた。

 

「ほら柳瀬さん、彼があんなにも心配させないように気を遣ってくれているんですよ?」

 

「……そうだな……すまない零次君、続きを聞かせてくれ」

 

何故か俺が気を遣っているという認識を持たれたのだが、もう考えるのをやめて話を続ける……

 

「あ、はい……それでですね、この御刀なんですがどういう事か刃の所だけ錆びているんですよ」

 

「錆びている?」

 

「そうです。いくら研いでも錆びたままで完全にお手上げ状態になったので、もしかしたらここの人に聞けば分かるんじゃないかと思いましてね」

 

「それじゃあ今日ここに来たのはその御刀について聞く為に?」

 

「そうです。夕方あたりにここに来たんですけど入り口付近に誰もいなかったので少し時間を潰していたんですよ。そしたら急にアラームが鳴ったので何が起きたのか聞こうと慌てて人を探し回っていたらエレンちゃんと舞衣ちゃんを見つけたんですよ」

 

少し嘘を混じりながら答える事に罪悪感を感じるも、全てが嘘ではないので大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。

 

「そうだったんデスか……」

 

「まあ、2人を見つけたのは偶然だけどね。後はエレンちゃんと舞衣ちゃんも知っての通りだよ」

 

「……零次君、君はあの者が怖くなかったのかい?」

 

「……あれ以上に怖い存在を目の当たりにした事があるので特には」

 

「そんな者がいるのかい?」

 

「えぇ、残念ながらいますよ……今はどこで何をしているか知りませんけどね」

 

「それは……人なのか?」

 

「その筈です……俺にはそう思えませんけどね。それに、2度と会いたくもないし思い出したくもありません……とにかく、ここに来たのはこの御刀について聞く為です」

 

「そうだったのか……少しそれを見せてくれないかな?」

 

「いいですよ。はいどうぞ」

 

特に躊躇もせずに御刀を鞘に入れてあるまま鞘ごとフリードマンに渡した。それを受け取ったフリードマンはゆっくりと鞘から刀を抜くと、じっくりと刃を眺めたり素手で刃の背や腹の部分を撫でてから1人納得し、刀を鞘に収めて返却した。

 

「どうです?何か分かりましたか?」

 

「ああ……とても信じずらい事なんだけど、その御刀は錆びているように見えるだけみたいだ」

 

「錆びているように見えるだけ?……じゃあ、錆びてないんですか!?」

 

「僕の予想だけど、元々の色が錆びたように見えたんじゃないかな?素手で触れて見ても錆び特有の汚れもなかったからね」

 

「マジですか……それじゃあこれは御刀として機能していたんですね」

 

「そういう事になるね」

 

「……そうですか」

 

引き取ってからも毎日欠かさず研いでも色が変わる事のない御刀が、元々この色だったという衝撃の事実を知って落ち込んだ。

 

「そ、そういえば零次さんってどこかの門下生何ですか?」

 

「いや、そんな事はないけど……急にどうしたの?」

 

「それは、その……失礼かもしれませんが、零次さんの動きが普通じゃなかったので……」

 

「普通じゃない……だと……!?」

 

「確かにマイマイの言う通りデスネー」

 

「エレンちゃんまで!?」

 

「だって、普通の人はあの場から逃げてますヨ?それに零次は刀使じゃありまセーン。どうして助けてくれたんデスカ?」

 

「いやだって、女性だけを置いて逃げるのは男として出来ないだろ?それが美少女なら尚更ね」

 

そんな事を言うと2人とも顔を赤らめて俯いてしまった……まさか!?社会の窓が開いていたのか!?

 

「いや大丈夫だな……じゃあ、何が原因だ?」

 

「ハハハハハ!!零次君は色男だね」

 

「どうしたですか爺さん?」

 

「まさか零次君、君は気づいてないのかい?」

 

「何がですか?孝則さん、俺は何か粗相でもしたんでしょうか?」

 

「……零次君は鈍感なのか」

 

「これじゃエレン達が可愛そうデース」

 

「え!?俺が悪いのこれ!?」

 

「あははは、零次君。僕も流石にこれはエレン達が可愛そうだと思うよ」

 

「公威さん!?何で!?」

 

「私も父親としては複雑な心境だ」

 

「孝則さんまで!?」

 

「まあまあ、皆彼をからかうのもそこまでにしようじゃないか」

 

「何だ、からかっていただけか。良かった……いや良くはないな」

 

「まあ、確かに彼は普通ではないと僕も思っているよ」

 

「爺さん、からかうのはやめてください」

 

「別にからかっていないさ。事実を言っただけだよ」

 

「……どういう事ですか?」

 

「だって刀使でもないのに傷1つついてないどころか、例の黒フードの人物を退けたじゃないか……君は一体何者なんだい?」

 

「何者も何も、俺はただの美濃関学院に通う高校2年生ですよ?」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

「うわぁ!ビックリした……どうしたの舞衣ちゃん?」

 

「私と一緒の学校だったんですか!?」

 

「舞衣ちゃんって美濃関学院の生徒だったの?」

 

「そうですよ!ほら!この制服に見覚えありませんか?」

 

「制服?そういえば学校で見た時があるようなないような……」

 

「覚えてないんですか!?」

 

「毎日が野郎どもと一緒に授業を受けるだけだったからね……」

 

「零次はなんだか可愛そうな人デスネー……それよりも、私より1つ年上だったんですね!」

 

「エレンちゃんは高1なの?」

 

「イエス!長船女学園高等部1年デース!」

 

「それじゃあ、舞衣ちゃんも?」

 

「いえ、私は中等部2年です」

 

「あれ?一緒じゃないんだ?仲が良いから2人とも同い年だと思ってたよ」

 

「確かに私とマイマイは大の仲良しさんですが、歳なんて関係ありまセーン!」

 

「みたいだね。2人を見てるとそう思えるよ……羨ましいな」

 

「零次は友達がいないのデスカ?」

 

「エレンちゃん!?」

 

「あははは、直球だね……今まで色々あったからね、2人のように仲が良い友達はいない、かな?」

 

「そう何デスカ?」

 

「そうなんです。まあ、気長にこれから頑張りますよ……っと、すみません爺さん、話の途中でしたね」

 

「別に構わないよ。それに、孫娘達と仲良さそうに話しているみたいだからね。それを邪魔するような無粋な真似はしないさ」

 

「そうかな?これぐらい普通ですよ?」

 

「君にとってはそうかもしれないが、僕にとっては違うんだよ」

 

「……変な爺さんですね」

 

「それはお互い様だよ零次君……さて、話の続きだがもう一度聞くよ。君は一体何者なんだい?」

 

「爺さん、何回聞いても答えは同じですよ」

 

「そうか……それが君の答えなんだね」

 

「はい」

 

「……よし分かった!それじゃあ零次君、そんな君に1つ頼みたい事がある」

 

「え?頼み?」

 

「そうだ、詳しい事は他の場所で2人で話したいんだが時間はあるかな?」

 

「時間ならあるけど、ここじゃ駄目なんですか?」

 

「ああ、少し確認したい事もあるからね……それでどうかな?」

 

「……話だけなら良いですよ」

 

「ありがとう零次君!早速で悪いけど着いてきてくれたまえ」

 

「いきなり過ぎでしょ!?ちょっと!?聞いてる!?……聞いてないなあの爺さん……」

 

わざとなのかは知らないがフリードマンは1人この場から離れて行くので、仕方なく後について行くことにした。

 

「そういう事で、悪いけど俺はここで失礼するよ」

 

「え〜、もっと零次とお話ししたかったデス!」

 

「文句ならエレンちゃんのグランパに言ってくれ……それじゃあまたね、エレンちゃん、舞衣ちゃん」

 

「はい。またお会いしましょう零次さん」

 

「仕方ありませんネ〜、今回は見逃してあげマース」

 

「何故にエレンちゃんは偉そうなの?……公威さん、ジャクリーンさん、孝則さん。すみませんがこれで失礼します」

 

「ああ、またいつでもここに来てくれ。僕達は君を歓迎するよ」

 

「いつでも遊びに来てクダサイネー零次」

 

「零次君、本当にありがとう。次に会えた時には是非お礼をさせてほしい」

 

「だから、お礼は要りませんよ孝則さん。公威さんとジャクリーンさん。また訪れる機会があればその時はよろしくお願いします……それでは失礼します」

 

「またね〜零次〜」

 

「お元気で、零次さん」

 

その場にいる人達から好意的な言葉を背に、今もなお1人歩き去って行く爺さんの後を追った……

 

 

 

_____________________________________________

 

エレンちゃんや舞衣ちゃん達と別れた後、フリードマンと共にとある一室に来ていた。

 

「さあ、座りたまえ零次君」

 

「はい。失礼します」

 

フリードマンから座るように促されたので、ここが何処かわからないまま向かいの椅子に腰掛ける。

 

「あの〜、ここは?」

 

「ああ、ここは僕の部屋みたいなものだ遠慮はしなくていい」

 

「研究機材があるここが爺さんの部屋なんですか?」

 

「僕にとってはね。だからと言ってここで寝て過ごす事はほとんどないけどね。」

 

「少しはあるんですね……それで、早速ですみませんが話を聞かせてもらえませんか?」

 

「ああ、構わないよ。でもその前に1つ確認したい事があるんだけどいいかな?」

 

「俺に答えられる事なら……」

 

「ありがとう……こほんっ、零次君。もしかして、君はゼロなんじゃないかな?」

 

「……ゼロとは噂の終焉のゼロの事ですか?」

 

「そうだね。そのゼロだ……安心してくれ、ここでの会話は誰にも聞かれていないから」

 

「その心配はしていませんよ……爺さん、残念ながら俺は噂の終焉のゼロなんかじゃありませんよ」

 

「……そうか。悪いね変な事を聞いて」

 

「別に気にしていませんよ。でもどうして俺がゼロだと?」

 

「それはだね、君の雰囲気が似ていたんだよ」

 

「……そうなんですか?」

 

「僕は以前に1度だけ彼に会った事があるんだ。その時少しだけ話たんだけど、何故だか零次君と話している時と彼の雰囲気が同じように感じたんだ」

 

「き、気のせいですよきっと!俺なんかと比べたらゼロ……さんに失礼ですよ?」

 

「ハハハハハ!確かに。彼に怒られてしまうかもしれないね」

 

「それ位では怒らないですよ」

 

「そうだといいね……さて、本題に入ろうか」

 

「お願いします」

 

「詳しい事を話すと長くなるかもしれないので、単刀直入に言おう……零次君、孫娘達に力を貸してくれないだろうか?」

 

「なるほど、そう言うお話でしたか……えぇ!?」

 

「君がさっき相手をした襲撃犯なんだが、知っての通り各地を回ってノロを集めているんだよ」

 

「……そんな話は初めて聞きましたよ」

 

「おや?聞いていると思っていたんだがまだだったんだね?」

 

「ノロを奪われた事は聞きましたけど、各地を回って集めているとは聞いていませんね……それで、どうして俺に力を貸して欲しいなんて言ったんですか?」

 

「それは君が今回襲撃犯を退けてくれたからだよ。今回は運良く君が居てくれたお陰で孫娘達が無事だったが、次はどうなるか分からない……零次君、僕はね心配なんだ。もしかしたら愛しの孫娘が命を落とすかもしれない……そう考えると夜も眠れないんだ」

 

「いや寝なよ、爺さんが命を落とすぞ……孫バカなのは十分理解しました。確かに次も無事とは限りませんね……ですが、それなら尚更俺じゃなくてもっと適任者がいるのでは?」

 

「いや、君以外にいないさ」

 

「どうしてです?」

 

「それは……今から話す事は誰にも言わないと約束してほしい」

 

「は、はぁ?」

 

「実は、つい先日にも移送中に襲撃があってノロを奪われているんだ。しかも、護衛に刀使を付けたにも関わらずにだ」

 

「えーっと、爺さんは何が言いたいんですか?」

 

「分からないかい?護衛の刀使でも敵わなかったんだよ?それなのに、その襲撃犯を君は退けた。だからこそ君の腕を見込んで頼みたいんだ」

 

「……今回は運が良かっただけかもしれませんよ?」

 

「それでも構わないよ」

 

「……本気ですか?」

 

「僕は本気だよ。それに、君が居れば多くの刀使達も命を落とさないで済むような気がするんだ」

 

「……学校があるんですけど、それはどうするんですか?」

 

「引き受けてくれるのかい!」

 

「俺にできる範囲でなら……無理な要求はしないで下さいよ?」

 

「ありがとう零次君!」

 

「まあ、俺も刀使達のお手伝いがしたかったので丁度良かったですし。それに、エレンちゃん達とは知らない仲じゃありませんからね。放っては置けないですよ」

 

「零次君……本当に君は彼に似ているね」

 

「そ、そんな事ないですよぉ!?それよりも学校はどうすればいいんですかね!」

 

「それは僕がなんとかするように手を回すよ」

 

「それじゃあお願いします!」

 

「任せてくれたまえ。そうだ、連絡先を交換しておこうか」

 

「……すみません、スマホ忘れてきたので手元に無いんです」

 

「そうなのかい?それは困ったなぁ……あ、そう言えばまだスペアが1つあったはずだ」

 

突然席を立ち、部屋の中を探し回るフリードマンを眺めながら現状を整理してみる。

 

「俺、再び雇われる……あれ?報酬はいいとして何をするのか具体的に聞いてなくね?」

 

重要な事を聞き忘れていた俺は、ようやく戻ってきたフリードマンに具体的な内容を聞くことにした。

 

「爺さん、具体的に俺は何をすればいいんですかね?」

 

「ん?それは……僕の管轄外だから答えられない、かな?」

 

「え?じゃあ誰に聞けば?住み込みで働くにしても部屋は?テントは必要ですか?他にも食事や服の用意に……」

 

「落ち着いてくれ零次君、その他諸々の事は頼んだ手前こちらが用意するから大丈夫だよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ……そして、連絡手段としてコレを使ってくれ」

 

「スマホ?しかも……黒!?」

 

「それはとある人物の為に用意した時にスペアとして保管していたんだ。少し使いづらいかもしれないけど、普通のスマホと同じようにメールやネットも閲覧出来るから安心してくれ」

 

「そうですか……それはいいとして、何故にスペクトラムファインダーまであるの?」

 

「すまない零次君、以前の状態のままなんだ。特に使う事はないと思うから気にしないでくれ」

 

「そう……ですよね。まさか荒魂討伐をやらされるわけでもないんだから、気にしなくていいですよね」

 

「そのはずだよ……たぶん」

 

「たぶん!?」

 

「それより君には明日、とある場所に行ってほしい」

 

「ねぇスルーですか?」

 

「しばらくは襲撃犯も姿を見せないと思うから、その間に色々話を聞いておいた方が良いだろう」

 

「絶対聞こえてるよね!?」

 

「……すまない、少し電話したいんだがいいかな?」

 

「もういいっすよ……」

 

何故か話を逸らされた気がするが、聞く耳を持たないようなので俺は諦めて静かにスマホをいじる事にした。その間、爺さんは誰かと電話中だったがしばらくパ◯ドラをやっていたらようやく終わったようで、こちらに話しかけてきた。

 

「零次君、明日にまたここに来てくれるかな?」

 

「ええ、構いませんよ。必要な物があれば持ってきますが何かありますか?」

 

「そうだねぇ、今日と同じで良いと思うよ」

 

「御刀もですか?」

 

「それと今渡したスマホも忘れないでくれ。それさえあれば十分だ」

 

「分かりました……あのぉ、そろそろ日が暮れるので帰りたいんですけど?」

 

「ん?もうそんな時間か……悪いね遅くまで引き留めてしまって」

 

「いえいえ、今日は平日なので特に問題ないですよ」

 

「それはどうかと思うけど……それに今日は週末じゃないか」

 

「え?今日は月曜日ですよ?」

 

「何を言っているんだ君は?」

 

「それはこっちのセリフですよ。ほら、スマホにも今日は平日と……あれ!?このスマホ壊れてる!」

 

「零次君……現実を見ようか」

 

「いやそんな、今日は学校を休んだ筈……俺は知らぬ間にタイムリープしたのか?」

 

「……零次君はいつもカレンダーを確認しないのかい?」

 

「以前までの生活の癖で確認していませんね……確認しても意味がなかったもので」

 

「そ、そうか。まあ、その、ドンマイ」

 

「……本当に週末なんですか?」

 

「そうだよ」

 

「そうですか……つまり、俺は昨日と一昨日学校を無断で休んだという事か……ふっ、どうやら俺は疲れているようだな」

 

「そうみたいだね。それにその口調……ゼロに似ているよ。やはり君は……」

 

「ちゃいまんねん。俺は疲れてると口調がおかしくなるだけやで」

 

「さすがにそれは変わりすぎじゃないかい?」

 

「……俺もそう思います……はぁぁ。また説教されるのかぁ、嫌だなぁ」

 

「頑張りたまえ少年よ。今日はもう帰って休んだ方が良いんじゃないかね?」

 

「そうですね。今日はもう帰って寝ます。それじゃあ俺はこれで」

 

「ああ、今日は本当にありがとう零次君」

 

「どういたしまして……それでは失礼しますね」

 

「そうだ、明日なんだが午前中には来てくれ」

 

「了解です。ではまた明日」

 

衝撃の事実を突きつけられた俺は、詳しい話もあまり聞かずにフリードマンと別れる。建物を出た後、帰りのタクシーを電話で依頼してから少し外の空気を吸いながら時間を潰した。

 

「はぁぁぁぁぁぁ。今日は休日だったのかよ……今の内に言い訳でも考えておこう……」

 

今まで1度も聞き入れてもらえた試しがないにも関わらずにタクシーが来てからも、自宅に着くまで考え続けた……

 

「駄目だ、全然思いつかない……絶対に先生聞いてくれないし、明日遅刻しないようにもう今日は寝よう!」

 

どうしても言い訳が思いつかなくなった事に俺の中で何かが弾け、今日は非常食の鯖缶を食べてから風呂に入り、歯を磨いてから寝床についた。

 

「明日は明日の風が吹く……強く生きろよ明日の俺……グッナイ!」

 

電気を消して明日の自分にエールを送り、俺は眠りについた……

 

 

 

そして、翌日から日常が崩壊していく……彼はまだそれを知らずに眠る……

 

 

 

 

 

 




いやぁ、時間がかかりましたね〜。まさかこんなに長くなるとは予想外ですよー

今回後半部分に時間をかけたので遅くなりましたがお許し下さい!!!


どうやって他のメンバーと接触させようか1番悩みましたが、やはりフリードマン経由で行こうと思います!!

さすがマッドサイエンティスト!!!……え?それは違う人物だって?……気にすんな!気にしたら負けだよ!

次回もお楽しみに!!

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