変境で育てられた自称常識人   作:レイジャック

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セーーーーーーーーーフ!!!!!!!!!!!



どうにか今週中に書けたぜだんなぁ……


暑い中でも書けたが内容は熱くないから気をつけてくれよ!!!!


姿が変わった者と変わらない者の再会……

 徹夜明け、一睡もせずに仕事を終わらせた俺は寝るという事はせずにそれ以上の癒しを求めて昨日足を運んだある一室に訪れていた。

 

「結芽ちゃん、起きてる?」

 

「あ!零兄!今日も来てくれて嬉しい!!」

 

そう、寝るなんて今の俺には時間の無駄だ。それよりもこうして彼女、結芽ちゃんを一目見るだけで疲労も嘘のように消えていくのだ!これこそが俺にとっての最強エステ、老人が温泉で体の疲れを癒すように、また、現代の人々が女遊びやらギャンブルでストレスを発散するように……そんな感じで、俺も彼女に会いに来ることで癒されながらもストレス発散もしているのだ……マジグッジョブ!

 

「まあね、出来るだけ会いに行くって約束したからね……迷惑じゃなかったか?」

 

「ううん、そんな事ないよ!私はすっごく嬉しい!!」

 

最高の笑顔を見せながらそんなことを言われたら、俺は……

 

「〜〜〜〜〜!!!」

 

つい、惚れてまうやろ〜!!と、声に出しそうになった俺は、口を手で抑えながら何とか堪える。そんな今の俺の姿を見て流石の結芽ちゃんも……

 

「大丈夫零兄?体調でも悪いの?」

 

俺の体の具合を心配してくれた……かなりの罪悪感に苛まれながらも心配をさせないように結芽ちゃんに笑いかける。

 

「大丈夫だよ結芽ちゃん、少し感動してただけだ」

 

「感動してた?」

 

「ああ。こうしてまた結芽ちゃんに会える事が嬉しくてね」

 

「零兄……うん、私も零兄と同じ気持ちだよ」

 

「ははっ、そうか。それは良かった」

 

……これ以上語る事がない程に目の前の少女が文句なしの美少女に成長した事に思わず涙が流れそうになった。それに比べて俺は堕落の一途を辿って年ばかり取っていることにも涙が出かけたが、上を向いて必死に堪える。

 

「零兄?何で上を向いているの?」

 

「いや、少し……というかあまりにも結芽ちゃんが綺麗になっていて直視出来ないだけだ。気にするな」

 

「ふぇ!?」

 

「ふぅぅぅ……よしっ!もう大丈夫だ」

 

大きく息を吐いて心を落ち着かせてから再び結芽ちゃんを見ると、彼女は下を向きながら体に掛けていたタオルを握りしめて黙り込んでいた。よく見ると耳も少し赤いような気がして心配になり、まさか症状が悪化したのかと思って扉前にいた俺はすぐに結芽ちゃんの元までかけ寄り声をかける。

 

「大丈夫か結芽ちゃん!どこか具合でも悪いのか!救急車を呼ぶか?」

 

「だ、大丈夫だから!何でもないから!」

 

「そうなのか?……本当に大丈夫なんだな?」

 

「 うん……ちょっとビックリしただけ……」

 

「そ、そうか……」

 

結芽ちゃん本人から大丈夫と言われてはこれ以上は問い詰めずに素直に瞬時にポケットから取り出したスマホを、そっとしまう。見た感じは確かに大丈夫のようだが、いざという時の為に気を引き締める。

 

「……零兄って意外と心配性なんだね」

 

「そ、そんな事は……あるな。でも、結芽ちゃんに何かあると思ったら居ても立っても居られなくて……」

 

「そうなんだ……ふふっ、ありがとう零兄」

 

「結芽ちゃん……もしも、結芽ちゃんに何かあったら俺は……切腹する!!」

 

「零兄!?ちょっと落ち着いて!」

 

「何を言っているんだ結芽ちゃん?俺は冷静だよ?」

 

「それなら切腹するなんて言わないよ!」

 

「そ、それは、あれだ……俺にとって結芽ちゃんはそれ程大切な存在なんだよ?」

 

「えっ!?……それって……」

 

「ああ。俺にとって結芽ちゃんは……妹みたいなものだからね」

 

「……か……」

 

「え?何か言った?」

 

「零兄の……馬鹿ぁぁぁぁぁl!!」

 

「グヴォ……」

 

結芽ちゃんからの渾身の一撃である右ストレートが俺の鳩尾にクリティカルヒットし、俺はその場で腹を抱えた格好のまま床に膝をついていた。

 

「ぅぅぅ……正確に……鳩尾に当てるとは……流石結芽ちゃんだ……」

 

未だに痛みがひかない場所を抑えながらも顔だけは結芽ちゃんに向けて、彼女の恐るべき実力を賞賛する。だが、彼女はそっぽを向いていてとてもご立腹のようだ……

 

「……ふぅ、まだ痛むな……あの〜結芽さん?どうしてそんなに機嫌が悪いのでしょうか?」

 

「……ふん!知らない!自分の胸に聞いてみればいいよ!」

 

そう言いながらもやはりこちらを向かない彼女に言われた通り、俺は今一度だいぶ楽になった体でその場から立ち上がり、自分の胸に手を当てて考えてみる……

 

「……駄目だ。何も分からない……えーっと、何か粗相でもしましたか?」

 

「......零兄の鈍感......」

 

「ごめん聞こえなかったからもう一回お願いします」

 

「はぁ......ケーキ、今度ケーキ持ってきたら許してあげる」

 

「ケーキ?それなら明日......は少し用事があるから明後日には用意して来るよ」

 

「本当!それなら許してあげるよ」

 

「ありがとう結芽ちゃん」

 

原因が分からない俺は彼女にケーキを買ってくることを約束して何とか許してもらう事が出来た。しかし、プレゼントをして許してもらうという行為をするとは......俺はまたマダオに一歩近づいてしまった。

 

その後、自分が堕落していくことから目を逸らすために、俺は今まで気になっていた話題を出してみる。

 

「ねぇ結芽ちゃん、気になっている事があるんだけど聞いていいかな?」

 

「ん?別にいいけど?」

 

「今は元気みたいだけど、何か薬を服用しているのか?」

 

「ううん、今は点滴してるだけだよ」

 

「そうか......特に副作用のある薬を飲んでるわけじゃないなら安心だ」

 

「もう、零兄心配しすぎ~......でもありがとう、心配してくれて」

 

「ははは、これぐらい当然だよ」

 

「......ゼロおにーさんには感謝しないとね」

 

「ゼロおにーさん?」

 

何故にですか?そこでその名前が?聞きたいけど聞けない......でも聞きたいので怪しまれないように探りをいれてみよう。

 

「結芽ちゃん、どうしてゼロおにーさん?に感謝しないとなの?」

 

「それはね~、私の命の恩人だからだよ!」

 

「へ?命の恩人?」

 

「うん!あのねあのね、ゼロおにーさんが私を助けてくれたって寿々花おねーさんが言ってたの!」

 

「んん?寿々花おねーさんってもしかして此花さんの事かな?」

 

「そうだよー。あれ?何で零兄が知ってるの?」

 

「え?それはあの、あれだよ!親衛隊の人だから俺だって聞いたことぐらいあるからね……あはははは」

 

「それもそっか」

 

「そ、そうなんだよ。有名だからね、親衛隊の人は……そんな事よりも、それはいつ聞いたんだい?」

 

「う〜ん、いつだったか覚えてないや」

 

「覚えてない?」

 

「私その時意識がはっきりしてなかったからあまり覚えてないんだー……でもね、寿々花おねーさんが何か言ってたのは覚えているんだ」

 

「……その時のすず……此花さんは何て言ってたんだ?」

 

「うーんとね、確か……『ゼロには今度、結芽を助けてくれた礼をしなくてはなりませんね……』って言ってたと思う」

 

「そ、そうなんだ……」

 

一瞬寿々花が俺のした事を暴露したのかと内心ヒヤヒヤしていたが杞憂だったようだ。もしも俺のやった事を暴露された暁には絶対に俺は刺される……特に結芽ちゃんと真希に!

 

「大丈夫零兄?顔色悪いよ?」

 

「大丈夫、大丈夫。こんなのいつもの事だよ」

 

「それ大丈夫じゃないよね!?」

 

「いやいや本当に大丈夫だから」

 

「本当に?」

 

「本当だよ」

 

「……零兄がそう言うなら信じるけど、あまり無理はしないでね?何かあったら私が助けてあげる!」

 

「結芽ちゃん……ああ。その時はよろしく」

 

目の前にいるのは天使だ!そうに違いない!!……まったく、これだから少……じゃなくて、中学生は最高だぜ!!!

 

「さてさて、結芽ちゃんの元気な姿も見れた事だし俺は帰るとしますか」

 

「えー、もう帰るのー」

 

「あはははは、少し前から看護師の方が外で待っているみたいだからね」

 

「え?そうなの?」

 

「ああ、何となくだけど気配を感じるよ」

 

「凄い零兄!そんな事も出来るんだ!なんかゼロおにーさんみたい!」

 

「は、はははは。俺がゼロなわけないじゃないかー、ははははは」

 

「零兄凄い汗出てるよ?」

 

「そ、それはだね……おっと!今日は真庭本部長から仕事を頼まれていたんだった!それじゃまたね!結芽ちゃん!」

 

徹夜のせいか言い訳がすぐに思い浮かばず、嫌な汗をかきながらそのまま俺は結芽ちゃんに挨拶をしてからこの場を離脱した。

 

「待ってよ零兄!……行っちゃった。あ〜あ、もっとたくさんお話したかったな〜。まあ、明後日来てくれるって約束してくれたから今日は我慢しよ〜」

 

 

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離脱後、扉を出るとすぐ目の前に看護師がカルテか何かを持ちながら佇んでいた。だが、俺はラッキースケベ的展開には持ち込まずに体勢を低くしてヘッドスライディングで回避して通り抜け、勢いを殺さずに両手を床につけて思いっきり力を入れて体を浮かせて一回転してから地に足をつけて廊下を走り続ける。ヘッドスライディングした時に横を通り抜けたのだが、上を向いて入ればそこには男のロマンが見えたかもしれないが俺はそんな事はしていない。俺は紳士だからな!!!

 

 

それからも、本部にある部屋までは安心は出来ないのでずっと走り続けていたのだが……それが仇となった。本部の廊下を走っている途中、真庭本部長と出くわしてしまい、俺を見逃してくれるはずもなく呼び止められる。そして、軽く拳骨を一撃頭に貰った後に夕方前には出発するから今すぐ準備しておけと言われたのが正午……すぐに部屋に戻って準備しようとはせずにまだ時間はあると余裕をこいてベッドにダイブしたのが正午から少し経った位のはず……それで、いつのまにか寝ていて起きたのが今現在……そう、集合時間の5分前だ……

 

「いっけな〜い、遅刻遅刻〜……ってふざけてる場合か!!やべぇ!まじで俺の人生に終止符が打たれてしまう!早く行かなきゃ!」

 

今来ている服を脱ぎ捨てて、前回同様にスーツを着用し、いつものように無意味な変装の伊達メガネを装着してからスマホだけを持って部屋から出て行く。

 

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何とかギリギリ集合時間に間に合った俺は、特に叱られる事もなく……とはいかず、姫和ちゃんからたるんでいるぞとご褒……げふんげふん、お小言を言われて反省してから高級車に乗って船がある港まで移動した。車内では、朱音様の座る席は変わらず、朱音様の両隣に可奈美ちゃんと姫和ちゃんが座り、対面側には姫和ちゃんの前には俺、朱音様の前には真希、可奈美ちゃんの前には寿々花が座った。移動中は他愛ない話を俺が振って、それに朱音様と可奈美ちゃんが話し相手になってくれたりして穏やかな雰囲気のまま港まで移動……出来たら良かったなぁ。

 

「……あの〜、皆さんどうしてそんなに静かなんですかね?正直言って怖いんですけど……特に、姫和ちゃんが」

 

「はぁ!?何故私なんだ!」

 

「いやいやいや、さっきから殺気に満ちた顔をしてるぞ?……と言うギャグをここで一発言ってみたり……」

 

「……おい、全然面白くないぞ」

 

「あははは、零次さん。今のはちょっと……」

 

「神条さん、今のは私もどうかと……」

 

「……すまないが、今のキミのギャグは笑えない」

 

「私も真希さんと同感ですわ……」

 

あら不思議、先程までギスギスしていた空気は一変して今では俺のギャグに対する批判で皆が一致団結したではありませんか!……俺以外だけど……

 

「……すまん、今のは俺が悪い……と言うかあんた達実は仲良いだろ!皆で俺1人を批判して楽しいのか!」

 

「あぁ、楽しいぞ」

 

「まさかの姫和ちゃんのカミングアウトに俺の涙腺が崩壊寸前だ!!チクショーーーーー!!!!」

 

この殺伐とした空気を変えるために努力をしたのに、結果は俺1人が心に傷を負う事だけだった……俺は頭を抱えながら1人だけ嘆いていると、その姿がその場にいる全員にとって面白かったのか皆が一斉に笑い出した。

 

「ねぇ知ってる?それイジメって言うんだよ?」

 

「ははははは!ごめんごめん、零次さんが面白くてつい」

 

「俺としては割と本気で泣きそうだったんだが……というか、お二人はかなり笑いすぎじゃないか?」

 

「ははははは!す、すまない、でも、可笑しくて、ははははは!」

 

「ふふふ。ま、真希さん。あまり笑っていては失礼ですよ……ふふっ」

 

「いやあなたも人の事言えませんからね!?……もういいですけど……」

 

「はははは!……ふぅ、本当にすまない。悪気はないんだ」

 

「ふふっ、ええそうですわ。悪気があったわけではありませんのよ?」

 

「あーはいはい。そう言う事でいいですよー」

 

「あははは、これは困ったな。どうやら怒らせてしまったようだね。本当にすまない」

 

「……はぁ、別にいいですよ。気にしてませんからね」

 

「ありがとう、恩にきるよ……えっと、そういえばキミの名前を聞いてなかったね」

 

「今頃かよ!?……はぁ、俺は神条零次だ。今は……まぁ、真庭本部長の部下として色々とこき使われている一職員みたいなものだ」

 

「職員というと、本部で働いているのかい?」

 

「まぁ、いろいろ事情があってね。あまり深くは聞かないでくれると助かる」

 

「そ、そうか……次はこちらが名乗らせてもらうよ。ボクは獅堂真希……元、親衛隊だ」

 

「はいはい、知ってるからそんな暗い顔しなくていいよ……それよりお隣さんに自己紹介してもらいたいんだが?」

 

「案外キミは冷たいんだな……」

 

「そうか?別に冷たくしたわけじゃなくてそんな顔をして欲しくないだけなんだがな」

 

「……キミは変わってるな」

 

「はいはい、どうせ俺は変人ですよー」

 

「いや、そういうつもりで言ったわけではないんだけどね」

 

「分かってるって、今のは冗談だ……それよりもそろそろ笑うのはやめて自己紹介してくれないかな?というか笑いすぎだろ!」

 

「ふふふ、すみません……ふぅ、それでは改めて自己紹介させてもらいますわ。私は此花寿々花と申します。真希さんと同じで元、親衛隊ですわ」

 

「うん、だいたい分かってるというか、2人とも有名だから別に親衛隊の事は言わなくていいからね?名前だけ聞きたいだけだからね?」

 

「そうなんですの?」

 

「そうそう、だから無理に元親衛隊とか言って暗い顔しなくていいよ……ほら、俺ってシリアスが苦手じゃん?」

 

「いや、そんな事は初対面であるボク達は知らないんだけど……」

 

「……ふっ、これからよろしくな獅堂さん、此花さん」

 

「今絶対誤魔化しましたわね」

 

「ああ、絶対誤魔化したね」

 

「はいそこ!いちいち茶々を入れない!」

 

本気ではないが少し怒って2人に注意すると、何故か注意された2人は笑っていた……解せぬ……だが、先程までの暗い表情が消えていたので今は我慢してそれ以上は言わずに2人を見守るだけにした。

 

 

その後からは若干かもしれないが車内の空気も軽くなり、姫和ちゃんの表情も呆れ顔に変わって先程のような殺伐とした空気はいつの間にか消えていた……その代わり俺が笑われるという異様な状況に陥ったが、今はただ目を瞑って我慢する……ようやく俺を笑うものが居なくなった頃には港に到着し、車から降りて今度は船に乗ってもうしばしの間少し揺れる船に乗って移動する。

 

 

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本部を発ってからかなり時間が経っていたようで、外はすっかり薄暗くなっていた。船に乗ってからは各々が同じ場所に留まる事もなく、姫和ちゃんと可奈美ちゃんは甲板に出て行き、真希と寿々花……今は獅堂と此花と呼んんでいる2人は一室に2人仲良く昔話にでも花を咲かせているだろう。艦内を歩いている時に2人のいる部屋からは此花の少し大きな声が聞こえていたので、俺はその部屋に入ろうとしていたのをやめて素通りした……そして、朱音様もまた別の場所でゆっくりしているのか先程から姿を見ないが大丈夫だと信じて1人艦内を彷徨い続ける……酔い止めの薬を求めて……

 

「き、気持ち悪い……せ、せめてトイレだけでも見つけ出さなければ……うっ」

 

揺れはそこまで激しくないが運悪く気持ち悪くなった俺は、口元を手で抑えながら未だ見つける事の出来ない場所を探し続ける……船の揺れがより一層弱くなった頃になってようやく目的の場所を探し当てる事が出来た頃、俺は小さくガッツポーズを取ってから楽園への扉を開けようと取手に手を掛けた。

 

「ようやくだ……これで俺も楽になれる……俺、頑張ったよ結芽ちゃん……もう我慢しなくていいよね?」

 

今頃はもうベッドの上で寝ている頃だろう少女に懺悔の言葉を漏らしていると、少し奥の通路の曲がり角から見知った人が現れた。

 

「あ!零次さん、やっと見つけた」

 

「可奈美ちゃん?どうしてここに?」

 

「えーっと、目的の場所に到着したから全員集合するように少し前に連絡があったんだけど……零次さんが全然来ないから探していたんだ」

 

「え?」

 

可奈美ちゃんの言葉に耳を疑い、楽園の扉から手を離して急いでスマホを取り出して確認すると、非常時の為に連絡が取れるように登録していた朱音様からの着信履歴が数件ディスプレイに映し出されていた。

 

「本当だ……全然気がつかなかった」

 

「あははは……零次さんで最後だから早く行こう」

 

「お、おう……でもその前にちょっとだけ ……」

 

「駄目だよ零次さん、遅れると姫和ちゃんにまた何か言われるよ?」

 

「ふん、上等だ。むしろウェルカムだよ可奈美ちゃん……俺は逃げも隠れもしない!」

 

「えぇぇ……と、とりあえず早く行かないと!」

 

俺が動くそぶりを見せなかったのが悪かったのか、可奈美ちゃんは俺の手を取り皆の元まで引っ張りながら歩き出す。当然、手を掴まれている俺も同様に歩かなくてはならない……

 

「か、可奈美ちゃん。本当にちょっとだけでいいから……ね?」

 

「もう!駄目だよ零次さん。ほら、早く行こう!」

 

「あ、ちょ ……お、俺の楽園が離れていくーーーー!!!!」

 

先程よりも手を掴む力が増して逃げられなくなった俺は、そのまま楽園から遠ざかり可奈美ちゃんに強引に引かれるがままその場から去っていった……未だ酔いが治らないままの俺は、この時にはもう……全てを諦め後ろを振り向かずに前というより、吐かないように上だけを見て歩き続ける……

 

可奈美ちゃんのいった通り最後だったようで、他の面々は既に甲板で待機していた。そんな中俺は一線を越えてしまったのか麻痺してしまったのか、気持ち悪いという概念そのものを忘れてしまい、顔面蒼白のまま皆の前に悟った顔で登場した。しかし、外は暗くて顔色までは見えないのか、誰も俺の容態については一切触れずに船の隣から浮上している潜水艦へと移動を始めた。

 

 

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潜水艦へと移動してから中に入ると外とは違い、照明が点いており各々の姿がくっきり見えるようになる。そこでやっと俺の顔色の悪さに気がついてくれた。最初に気づいたのが今まで行動を共にしていなかった女性であり、その女性から一声かけてくれたおかげでようやく俺は朱音様達から許可を貰って女性の案内の元別室にある医療施設がある部屋へと赴いた。

 

「ちょっと待っててね……たしかこの辺に……あったあった。はいこれ、酔い止めの薬」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ああ、ごめんごめん。水だよね」

 

「すみません……お願いします……」

 

「はいはーい」

 

俺の生意気な態度に何も言わずにその女性は近くにあったペットボトルの水を持ってきてくれた。

 

「はい、これでぐぐっと飲んじゃって」

 

「はい……」

 

ご丁寧にフタまで開けてくれたペットボトルを受け取り、既に取り出して手のひらに乗せていた酔い止めの薬を口に入れ水で流し込む。

 

「ゴクッゴクッゴクッ……プハー」

 

「おお、いい飲みっぷりだねー君」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「少しすれば薬も効いてくるから、それまではそこら辺に適当に座ってて」

 

女性に座るように促されたのはいいが、どこに座ればいいのかよく分からなかったので一番無難なベッドに腰かけた。

 

「……本当に何から何まですみません」

 

「いいのいいの、気にしないでー。あ、そう言えば自己紹介がまだだったね。私の名前は恩田累。気軽に累って呼んでね」

 

「は、はぁ……俺は神条零次です。俺も気軽に零次って呼んでください累さん」

 

「りょうかーい。零次君だね……それにしても船酔いするなんて災難だったねー。零次君ってもしかして船に乗るといつもそうなるの?」

 

「あはは、どうなんでしょうね?船にはそんなに乗る機会がないのでよくわかりません」

 

「それもそっか。まあ、この潜水艦は船よりは揺れも少ないと思うから安心してね」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

そうそう、長い時間乗っている私が言うから間違いない!……ところで、零次君はどうしてここに?」

 

「えーっと、実は今回ここに来たのは朱音様の護衛として同伴してきたんですよ」

 

「そうなの?零次君ってエージェントか何かなの?」

 

「いえいえ、そんな大層な者ではありませんよ……ちょっと上司が理不尽な人で、いつの間にかこうなったんです……」

 

「そ、そうなんだ……えっと、生きていればいいことあるよ少年!」

 

「ははっ、そうだといいですね……そうだ、累さん。皆の所に戻らなくていいんですか?」

 

「そうは言ってもねー、零次君を残して戻るのは流石に悪い気がするからねー」

 

「累さん……それじゃあ俺も戻りますよ」

 

「え、いいの?体の調子は大丈夫?」

 

「バッチリとは言えませんが、さっきよりは大分楽になったので問題ありません」

 

「薬が効いてきたみたいね」

 

「ええ、なので大丈夫ですから戻りましょう」

 

「うーん……よしっ!分かったわ。その代わり、気分が悪くなったらすぐに言ってちょーだい」

 

「分かりました。それでは行きましょう累さん」

 

「オッケー。それじゃあ着いてきて」

 

顔色もさっきよりかなり良くなった俺は、累さんを先導に皆の元へ向かった。

 

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皆の元に戻ってくると、既に朱音様が席に座っていてその対面には5ヶ月ぶりに姿を拝見する紫様の姿があった。その他はそれぞれ座らずに座っている人物のどちらかの後ろで直立していた。まだ何も話が始まっていなかったのか、朱音様が俺の身を案じてくれたがあまり心配はさせたくないのでもう完治したと言う。累さんが何か言いたそうにしていたが、目配せして黙っていてもらうように人差し指を口元で立てて伝えると、やれやれといった感じに首を振るだけに留まってくれた。そして、たぶん全員が集合したようで、朱音様達の雰囲気が変わり話し合いが始まろうとしていた……が、最初に口を開いたのは座っている2人ではなく朱音様の近くで直立していた俺の隣にいる少女、姫和ちゃんだった。

 

「病院で療養中の筈の局長が、武装した潜水艦の中とは……」

 

怖っ!凄い威圧を放ってるんですけど!?何か因縁があるのか事情は知らないけどもう少し穏便にしようよ……少しちびりそうになっちまった……

 

「医療施設を完備してますから、嘘というわけでも無いんですよ」

 

ナイスフォロー朱音様!俺はあんたを尊敬するよ!これぞまさしく出来る女!!自分、一生ついていきます!!

 

「紫様はもう、荒魂じゃないんですよね?」

 

うぉい!可奈美ちゃん!?せっかくの朱音様のフォローが台無しになったじゃないか!?もしかして君も姫和ちゃん同様エアーブレイカーの称号を持っているの?……いや、本当勘弁してくださいお二人さん……せっかく気持ち悪いのが治ったのに今度は胃が痛くなってきたじゃんか……

 

「衛藤さん!?」

 

「お前!?」

 

ほら見てみなさい可奈美ちゃん、獅堂さんも此花さんも俺と同じ反応してるじゃないか!それにそんな直球に聞いたって紫様が答えるはずがないよ?

 

「ああ」

 

……答えちゃったよ。これはもしかして俺が非常識なのか?……それならば大人しくしていよう。

 

「何度も検査しましたが、局長の体からは荒魂は検知されませんでした。肉体年齢は17歳で止まったままですが」

 

「獅堂さんや此花さんからは、未だ荒魂を除去できていないのに……ごめんなさい」

 

「……いいえ」

 

敢えて一言だけ言わせていただきたい……此花さんの表情はとても母性溢れていてふつくしい……そうか、女神様だったんだな……思わず変な声を上げてしまうほどだ。

 

「おうふ……」

 

「零次君?どうしたの?」

 

「はっ!?いやっ、何でもないです。気にしないで下さい。いつもの事なので」

 

「えっ、いつもの事?……まあ、深くは聞かないで置くわ」

 

そう言って俺から顔を逸らした累さんは俺と顔を合わせない為か、紫様をじっと見つめたままこちらを向かなくなった。どのような理由でそういった行動を取っているのかは大方分かってはいるが、今では俺もこの扱いに慣れてきたのでそっとして置く……目から海水が流れそうだぜ!

 

「どうやって克服を?」

 

「克服したのではない。捨てられたのだ、荒魂に」

 

「捨てられた?」

 

「こほん。タギツヒメが自らの意思で局長を排斥したのではないのかと」

 

「あの夜、ですか?」

 

「タギツヒメとの間に何が起こった?」

 

「十条!言葉を……」

 

獅堂さんが姫和ちゃんの言葉遣いに異を唱えようとするが、紫様がそれを片手を上げて静止する。獅堂さんは納得出来てはいない表情のままそれ以上言わずに黙った……今の紫様の姿を見て、俺もあんな風に出来たらと想像してみたが、俺の場合はただ単にM店の教祖様の真似事にしか見えないと思い断念する……どうせ俺には出来ないのは分かっていたが、せめて想像の中だけでもカッコ良いイメージが思い浮かんで欲しかった……

 

「あの夜、タギツヒメと同化していた私はお前達に討たれた。諸共滅びる寸前だったが、奴はこの肉体を捨て隠世へと逃れた。荒魂を撒き散らしたのはその後の追跡を撹乱する為だ」

 

「トカゲの尻尾切りですね」

 

「「あ……」」

 

「可奈美ちゃん、もうちょっと言葉を……ね?」

 

「そうだよ可奈美ちゃん、タギツヒメはトカゲじゃなくて荒魂だよ?」

 

「いや零次君、重要なのはそこじゃないからね?」

 

「ふふっ、そうだな。私は切り捨てられた尻尾だ。だが、そうも言ってられない事態となった」

 

「三女神でしょうか?」

 

「かつてタギツヒメだったものが3つに分裂した」

 

「各地でノロを奪取していたタギツヒメ、防衛省の手にあるタキリヒメ。残りのもう一体は……」

 

「イチキシマヒメ。宗像三女神ですわね……荒魂が神を名乗るだなんて」

 

「タギツヒメはタキリヒメを狙っていました。何故同じ1つだった者同士が争いあっているのですか?」

 

「それを説明する為にお前達をここに呼んだのだ」

 

「そして、あなた達に会わせたい者が」

 

「あっ!残りの3体目、イチキシマヒメがここに居るのですね」

 

姫和ちゃんの言った事が本当であるみたいで、朱音様は首を縦に振って肯定した。その瞬間、俺はとてつもない程に鼓動が早くなっていく。

 

「左様ですか……累さん累さん、俺、ここから無事に生き延びる事が出来たら怠惰に過ごすんだ……」

 

「どうしたの零次君?」

 

「どうしたのじゃありませんよ?命の危機なんですよ?どうして累さんはそんなに冷静なんですか?ただの荒魂ならまだ分かりますが、相手は元とは言え紫様と同化していた荒魂何ですよね?」

 

「ええ、そうね」

 

「……累さんって実はかなり凄く強い刀使か何か何ですか?」

 

「私?私はただの社会人よ。御刀も返納したからね」

 

「なら何でそんなに余裕何ですか!?もしかして思考回路が麻痺してるんですか?」

 

「ちょっと落ち着いて零次君、大丈夫だから……ね?」

 

「いやいやどこにも大丈夫な要素がないんですけど!?」

 

「あー。百聞は一見にしかずって言うし、見てもらった方が早いかも」

 

「累さん?それフラグですよね?出会って数秒後にこの世からおさらばするとか笑えませんからね?」

 

「大丈夫大丈夫。彼女はそんなに危険じゃないから」

 

「全然信用できねー……本当に大丈夫なんですね?」

 

「もちろん!私を信じてちょーだい」

 

「……分かりました。会って間もないですが、累さんが悪い人ではない事ぐらい理解していますからね……その代わり、先ずは累さんから姿を晒して下さいね?」

 

「零次君……それ信用してないよね?」

 

「はっはっは。そんな事ないですよー。これはその……保険です!」

 

「あはははは、零次君って意外と非人道的な側面もあるのね……分かったわ、それで零次君の気がすむならやってやろうじゃないの」

 

「おお〜、流石累さん。社会人をやってるだけの事はありますね〜」

 

「うん。それ社会人関係ないよね?」

 

まだ死にたくない俺は必死に累さんに訴えかけて、ようやく少しばかりの安全を保障してもらえるようになった。別にタギツヒメがかなり好戦的だった光景がフラッシュバックしてビビった訳ではない……筈だ。その時の俺はとにかく必死だったので、周りの目も気にせずに累さんと喋っていたので気がつかなかったが、どうやら周囲から注目を集めていたらしい。そのせいで、特段関わりのない筈の紫様が俺について朱音様に問いかけていた。

 

「朱音、先程から気になっていたのだがその者は一体誰だ?」

 

「そういえば紹介がまだでしたね。姉様、こちらは今回私の護衛をして下さっている神条零次さんです。神条さん、こちらはご存知かもしれませんが私の姉の折神紫です」

 

「あっ、はい。どうもです……」

 

紫様の事なら以前から知っていたので挨拶が適当になってしまい、より一層周囲からの視線が集まって少しだけ縮こま……る事などなく軽く会釈した後、沈黙した。

 

「ほう、私に対して物怖じしないとは……ふふっ、面白い奴だ」

 

「おい、神条。紫様に対してその態度は無礼だぞ」

 

「ええ、全くですわ」

 

「そう言われても、人の事を笑っていた人達にとやかく言われる筋合いはない!」

 

「「なっ!?」」

 

「おやおや?どうしたんですか獅堂さんと此花さんは?もしかして心当たりがあったんですかね?ん?ほらほらお嬢さん達、さっさと白状しちゃいなYOー!」

 

「貴様ぁ……」

 

「うざいですわ、とてつもなくうざいですわ」

 

少々どころではなく、ここに来るまでに辿った道のりで様々な要因が重なった俺は理性が少しだけ崩壊して、普段とは違った態度を取ってしまった。だが、睡眠時間も3時間以内しか取っておらず、船で気持ち悪くなったのを薬を飲んで無理矢理治し、挙げ句の果てには危険な者とこれから会わなくてはならないという事が重なれば誰だって理性が崩壊する。そのせいで、今こうして獅堂さんと此花さんからは物凄く睨まれているという状況に陥っているが、俺はそれすら気にしていない。むしろ喜怒哀楽の表情が豊かな2人の姿が見れて余は満足じゃ!

 

俺と俺を睨んでいる獅堂さんと此花さんの間には沈黙が流れ、一触即発の一歩手前の状態になってから程なくして均衡はある人物によって崩された。

 

「ふふっ、やはり面白い……少しだけ奴に似ているな」

 

「紫様?」

 

「いや、何でもない。真希、寿々花。私は構わないから彼を許してやってくれ」

 

「ですが!?」

 

「いいと言っている」

 

「……分かりました」

 

「すまなかったな神条」

 

「……いえ、謝るのはこちらの方です。自分も悪ふざけが過ぎました……獅堂さん、此花さん。先程は失礼いたしました」

 

「「え?」」

 

「その、お恥ずかしながら、先程の自分は少し気が動転していたみたいです。本当に申し訳ございませんでした」

 

「あ、あぁ……ボクもさっきは少しキツく当たりすぎた。すまなかった」

 

「……私も少々言い過ぎましたわ。すみません」

 

「いえいえ、自分に非があるのですからお気になさらず……それにしても、お二人がこれ程感情を表に出して怒るとは、紫様は大変素晴らしいお方なんですね」

 

「ふん、そんな事はない」

 

「ご謙遜を。こうして今でもお二人から慕われているのですからやはり素晴らしい御方ですよ、紫様は。それに、朱音様の姉なのですから」

 

「何故朱音が関係あるのだ?」

 

「それはですね、自分の様な者にまでご配慮してくださる素敵なお人だからですよ。もしも朱音様が居なければ……真庭本部長と直接対決していましたよ」

 

「神条さん!?駄目ですよそんな事は!?」

 

「ははっ、冗談ですよ朱音様」

 

「そ、そうですか……それならば良いのですが」

 

「ふふふ、朱音は良い人材を見つけたな」

 

「姉様……はい、とても愉快な方が来てくださって私としても嬉しいです」

 

「恐悦至極にございます朱音様」

 

「……少し話しすぎたな。神条、これからよろしく頼むぞ」

 

「俺に出来る限りの事であれば」

 

「それでいい。さて、そろそろ移動するか」

 

ひと通り会話を交えて満足したのか、紫様は席を立つ。それに連れ朱音様も席を立つと、隣にいた累さんが先導して歩き始めた。

 

「それでは私が案内しますので、皆さんついて来てください」

 

 

________________________________________________________

 

累さんの案内の元、潜水艦内の厳重に管理されている部屋の前まで来た。一番後ろに着いて歩いていた俺は、先頭にいる累さん達の会話には参加せずに辺りを見回していた。

 

「最後尾なら安全だよな?……それにしても、赤い照明とか不気味だな。全員の姿も赤くなるから怖いんだけど……B級ホラーのワンシーンを思い出す」

 

数年前に見た映画を思い出し、あの頃は平穏な日々を過ごしていた事を懐かしく感じていたら、突然ドアが開いた。少し身構えてしまったが、どうやら累さんが開けたみたいで俺は安堵して構えを解く。

 

「誰も見てないよな?もしも見られていたら……慰めてもらおう、結芽ちゃんに……なんてな。そんな姿を結芽ちゃんに見せられる訳ないか……」

 

見てはいないとは思うが、最悪な結末を想定してどう対応するか1人悩んでいると前方から聞きなれない声が聞こえてきた。一体誰の声なのか分からず少し考えていると、皆が既に部屋の中に入っていて誰の姿もないことにようやく気づき、慌てて俺も部屋の中に入室した。

 

「あっ、零次君。やっと来た」

 

「累さんすみません。ちょっと考え事をしてたらつい……それよりも、あそこにいるのは誰ですか?」

 

「あそこに居るのはイチキシマヒメよ」

 

「……全然危険人物には見えませんね」

 

「だから言ったでしょ。大丈夫だって」

 

「うっ……すみません累さん」

 

「分かればよろしい」

 

累さんのサッパリとした性格に苦笑いしていると、イチキシマヒメ達と話をしていた朱音様が累さんに説明を求め、累さんがイチキシマヒメの近くへ移動する。

 

「……途中から入室したからなのか話がよく分からない」

 

皆が真剣に話をしている中、俺だけは事情などが分からず会話に混じる事が出来ないでいた。手持ち無沙汰になった俺は、話を聞かずに1人だけイチキシマヒメを観察していた。

 

「ふむ、タキリヒメ以外はこうして目にする事が出来たが……タギツヒメの性格はともかく容姿は美しかったな。そして、ここにいるイチキシマヒメも発言に難があるがタギツヒメ同様美しいな。そうなると、タキリヒメも美しいのか?……この目で確かめなくてはいけないな」

 

べ、別に興味なんてない……訳がない!流石は三女神の名を名乗るだけの容姿をしているので、少なからず俺の好奇心に火がついた。丁度来週テストの為休暇をもらっているので 、その間にこっそり市ヶ谷へ行って覗きをすることをここに誓いを立てる。

 

「なあ紫。1つ質問があるのだが」

 

「どうした?」

 

「あそこにいる男は誰だ?」

 

「あぁ、お前は知らないのだったな。彼は朱音の護衛をしている神条だ」

 

「……神条か。」

 

「彼がどうしたのだ?」

 

「……少しゼロに似ていると思ってな」

 

「ゼロだと?」

 

「ああ、だが私の勘違いだろう……」

 

「そうか……まあ確かに似ている所はあるかもしれないな」

 

「紫もそう思うのか?」

 

「ああ、初対面の私に物怖じしない奴などほとんどいないからな……だが、性格はゼロと大違いだから別人だと思う」

 

「紫がそう言うならそうなのだろう……紫、少し彼と話がしたいのだがいいか?」

 

「悪いが私の判断だけでは何とも言えない……朱音、少しだけ神条を借りていいか?」

 

「え?神条さんですか?」

 

「ああ、イチキシマヒメが少し話をしたいらしい」

 

「イチキシマヒメが……分かりました」

 

今何やら俺の知らない間に不穏な会話が聞こえてきた気がしたが、タキリヒメの姿を一目見る為の計画を練ることで忙しい俺は気にしない事にした。

 

「イチキシマヒメ、悪いが私達は戻らせてもらう」

 

「ああ、別に構わない」

 

「それでは全員部屋から退出してくれ。それと、神条はもうしばらくここに居てくれ」

 

「ん?……おかしいな、紫様は冗談を言うような人には見えなかったんだが」

 

「神条、今のは冗談ではない。言っておくが、朱音から許可は貰っている」

 

「え!?」

 

「すみません神条さん」

 

「な、なん……だと……!?」

 

「悪いな神条。イチキシマヒメがお前と話をしてみたいようなんだ」

 

俺は断然話したいとは……いや待てよ?タキリヒメの容姿についてイチキシマヒメは知っているんじゃないか?

 

「……はぁ、まあいいですよ。俺としても話をしたいとは……少しだけ思っていたので」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、さっきから1人だけ蚊帳の外でしたから。色々聞きそびれた事を教えて貰ういい機会なので俺は構いませんよ」

 

「そうか、それなら問題ないな。それでは神条以外は退出するぞ」

 

可奈美ちゃん達4人は驚愕の顔になるも、累さんがそれを窘めて渋々部屋から出て行く。朱音様はドアの前で一度立ち止まりこちらを見て軽く一礼してから出て行き、紫様は部屋から出る直前に不敵に笑ってから出て行く。去り際に後で累さんが迎えに来ると紫様から言われた俺は、強制的にそれまでここで待つしかないという事に気づくが時既に遅し。扉は閉められ、外側からロックを掛けられてしまい、腹を括るしかなくなった……累さん、お願いだから早く来て下さい!

 

「おい、どうかしたのか?」

 

「……いえ、何でもありません。イチキシマヒメさんに聞きたい事があるのですが、その前に自己紹介しておきますね。俺は神条零次、現在は訳あって刀剣類管理局の真庭本部長の部下をやっています。今回は朱音様の護衛でここに来ました」

 

「そうか。私は……名乗らなくてもいいか」

 

「そうですね……それで、話がしたいという事でしたが何か聞きたいことでもありましたか?」

 

「ああ。神条は以前ゼロと名乗っている人物と会ったことはあるか?」

 

「……どうしてそのような事を?」

 

「単に興味本位だ」

 

「そうですか……残念ですがお会いした事はありませんね」

 

「……」

 

「あの、どうしてそんなに俺を凝視してるんですか?」

 

「……お前がゼロなのではないか?」

 

「俺が?まさか、そんな訳ないじゃないですか。俺はただの一般人ですよ」

 

「その一般人がここにいるのはおかしいと思うが?」

 

「……それは累さんだって同じじゃないですか」

 

「ふむ、それもそうだな。やはりわたしの勘違いか」

 

「何を勘違いしたのか分かりませんが人違いですよ……俺も1つ聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

 

「ああ、別に構わないぞ」

 

「ありがとうございます。イチキシマヒメさんは他の2人のことをよくご存知のようですが、お会いした事があるのですよね?」

 

「会ったというより元々同じ存在だっただけだがな。それがどうした?」

 

「えーっとですね?その……タギツヒメの姿は見た事あるのですがタキリヒメの姿は見た事がないので教えて頂こうかと……決して変な意味ではなくてどのような姿か知っておかなければ危ないといいますか……ね?」

 

「確かに他の奴らは私よりは危険な存在だな。だが、姿などに意味はないと思うが?」

 

「で、ですよねー。あはははは……はぁ、自分の目で確かめる事にします」

 

「あ、ああ……そういえば先程からお前は顔色1つ変えていなかったが、お前は十条姫和や獅堂真希のように何か思う事は無かったのか?」

 

「え?……あ、ああ!さっきの話ですか……そう言われても興味ありませんでしたからね」

 

「興味がない?」

 

「だってそうじゃないですか。色々言ったりしたところでそれをどう捉えるかはその人次第ですからね。価値観なんて人それぞれですよ」

 

単に話を理解できなかっただけだが……それは言わなくてもいいだろう。

 

「……そうか」

 

「はい。それに人間誰しも己の信念を貫いて生きてる者がほとんどですからね。イチキシマヒメさんが何をしようと否定するつもりはありませんよ……俺に関わる事であれば話は別ですけど」

 

「神条……お前は他の者とは変わっているな」

 

「あははは、よく言われます。まあ、大事なのは本人の意志ですからね。同意の上であればいいんじゃないですか?」

 

「はははは!そうかもしれないな。それでは神条、私側につく気はないか?」

 

「あー。すみませんが遠慮しておきます。今いる所で精一杯なので」

 

「そうか、それは残念だ。もしも気が変わったらいつでも歓迎しているぞ」

 

「あはは、無いとは思いますけどね……」

 

タキリヒメの容姿について情報を得られなかったが、イチキシマヒメが感情豊かな事が分かったので少しだけ得をした気分だ。もしかしたらタキリヒメもイチキシマヒメの様に感情豊かなのかもしれないと思い、より一層タキリヒメの元へ行く決心が強くなる。

 

その後、イチキシマヒメから少しでも情報を得ようと画策していると迎えが来た。累さんがドアを開けて俺の迎えに来たと言われたので、惜しみながらもイチキシマヒメにお礼を言った後に部屋を退出する。部屋を出てから累さんと共に皆の所へ行くと、当初の目的を終えていたようで紫様と累さんを潜水艦に残し、船と車を乗り継ぎ本部へと帰還した。もちろん、俺はすぐに部屋へ戻って寝床につく。明日は久しぶりに家に戻るので朝早くから帰ろうと思っていたから早く寝たが、誰も俺を責めるものはいないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT……

 

 

 




よっしゃーーーーー!!!!!!これでノルマ達成だ!!


長かったです……いや、ほんとマジで……


これで連休はゲーム三昧だ!!それじゃ!ちょっとハゲ頭で暗殺してくる!!!


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