変境で育てられた自称常識人   作:レイジャック

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出会いがあれば別れがあるのは必然、どんな者にも訪れる……


だが、それは悲しむだけのものだけではない。嬉しい別れというのもこの世にはあるのだから……



立ちはだかる壁を前にしても、どんな事があろうとも零次は歩み続ける事をやめない。例え己が運命が過酷なものになろうとも……


常識人?零次の物語、今、開幕せよ!!


別れ、そして別れ……

俺がとある小屋から刀だけを無断で一生拝借し、我が家に帰還した次の日……奴が現れた。

 

「師匠……」

 

その者こそ俺の師にして究極の天敵、己の人生の大半を狂わせた災厄をもたらす憎むべき存在……だが、少し様子がおかしい。いつもはここで修行をするように促す筈だが今日の師匠は何も言わず、リビングでまったりとコーヒーを飲んでいる俺とは反対側の椅子に座った。

 

「……」

 

「……」

 

お互いに会話という会話が今まで修行以外なかったので必然的に無言になる。しばらくの間そのままの時が流れ、我慢が出来なくなった俺は口を開こうとすると師匠が先に話しかけてきた。

 

「零次、お前も小学6年だ……」

 

「えっと、いきなりどうしたんですか?ボケですか?病院行きますか?」

 

「人が真面目な話をしようとしている時に茶化すな」

 

「えぇ〜〜そんなん分からんですわ……」

 

「まあいい。お前も小学6年だ」

 

「そこから始めるのかよ!」

 

「いいから黙って聞け」

 

「……はい」

 

無茶苦茶怖い、あんなに死ぬかもしれない決闘をした事もあるのに今が1番覇気があるんだが……もしかして、あれはわざと負けたのか?……この人の底が見えないぞ……

 

「小学6年にもなれば人により受験をする奴もいる。お前はこの先どうするつもりだ?」

 

「え?普通に近くの中学に進学するつもりだけど?」

 

「そうか……実はお前の両親からはしばらく帰れないから面倒見てやってくれと頼まれている」

 

「しばらく帰れない?あの人達は何処で何をやっているんだよ……」

 

「今はここの反対側でバカンスを楽しんでいると言っていたぞ」

 

日本の反対側って……ブラジルか!?あの人達は息子を置いて何処まで行くんだよ!俺も綺麗なチャンネーとバカンスしたいぞこの野郎!!

 

「どうやらお前の両親は世界の国々を全て巡るみたいだぞ」

 

「191カ国をか!?」

 

「いや、正確にはその数ではないが……そんなことはどうでもいい」

 

「あの、俺にとってはどうでも良くないんですけど……」

 

「……とにかく、今後もお前の面倒は俺に一任されている。つまり、お前の進路についてもだ」

 

「いやいや、だから言ったよね?普通に近くの中学に進学するつもりだって」

 

「ああ、昨日までの俺も同じ考えだった」

 

「昨日まで?」

 

「そうだ……だが、昨日の模擬戦でお前の実力を見せてもらって考えが変わった」

 

あれ模擬戦だったの!?初耳なんですけど!?絶対実戦だよね!?何なのこの人、あれが模擬戦って……これ以上考えるのはやめよう、師匠は師匠、それでいいじゃない……だって、人間だもの……

 

「そこでだ、お前には近くの中学校ではなく他の学校に進学してもらう」

 

「他の学校?それは一体……」

 

「名前はお前も耳にしているだろう……美濃関学院だ」

 

「な、何だってーー!!……ごめん、知らないや」

 

「零次、お前は少し勉強が足らないぞ」

 

それをあなたが言いますか!日頃から家事と修行しかやらせなかったくせに!!……とは言えず、だんまりを決め込む。仕方ないじゃないか、両親に加えて師匠も非常識人なんだから……あれ?俺って意外と非常識人に育ってるのか?……いや、そんな事はない!あれだ、反面教師を間近に見て育ったから常識人なはずだ、うん。

 

「だが、昨日お前と殺り合う前に約束した事もある。だから、俺1人の判断で勝手に決める事は出来ない……あとはお前が決めろ」

 

「師匠……でも、今更遅くないか?」

 

「安心しろ、受験の申し込みは年明けいっぱいまでなら可能だ。今は年を越す前だから十分間に合う、勉強についてもしっかりサポートするから心配するな」

 

「絶対勉強もスパルタになるよね!?」

 

「今はそんな些細な事は考えるな、行くか行かないかだけを考えろ」

 

「そんな事急に言われても、まだ申し込みまで時間があるし今度でよくない?」

 

「甘いな……その慢心が命取りになるぞ?」

 

「そんな大げさな事じゃないだろ」

 

「さあ、今この場で決めろ。異論は認めん」

 

「横暴だ!……でも受験嫌だしな〜……ちなみにメリットは何かあるの?」

 

「そうだな……中高一貫校だから高校受験は受けなくてもいいぐらいだな」

 

「高校受験を受けなくていいだと!?つまり、今のレベルの学力で受験すれば高校のレベルの受験をしなくていい……つまり、他の人が高校受験を受けている時にのんびり出来ると言う事!!行きます!いえ、行かせてください!師匠!」

 

「変わり身早いなお前……まあいい、受験すると言う事でいいんだな?」

 

「はい!!」

 

「今までで1番威勢が良くないか?」

 

「そんな事ありません!さあ師匠!すぐに申し込みに行きましょう!!戦士に休息はありませんよ!!」

 

「いや、申し込みはハガキで送るんだが」

 

「……では、すぐに書きましょう!書いてポストに投函しましょう!!郵便配達員は待ってはくれませんよ!」

 

「はぁ。分かった分かった、少し落ち着け。一応お前の両親に連絡して承諾を得なくてはならないからな」

 

「大丈夫ですよ師匠!だって、俺の両親ですよ!絶対OK出してくれますよ!」

 

「仮にそうだとしてもだ。礼儀として確認は取らないといけない」

 

「礼儀ですか……では、仕方ありませんね」

 

「分かればいい……お前は何か書くものを用意しておけ」

 

「了解!!」

 

「……はぁ」

 

何故だかため息を吐いていたが理由が分からない、きっと疲れているんだ。今日の夕飯は肉料理にしよう。

 

 

言われた通りにボールペンを用意して待っていると、連絡を終えた師匠が戻ってきた。どうやら了承は貰えたらしくハガキと学校のパンフレットを持って椅子に座り、テーブルにハガキを自分の手前に置きパンフレットは俺に渡してきた。

 

「師匠これは?」

 

「それは美濃関学院のパンフレットだ、そこではいろいろな課があるみたいだから俺が書いている間に見ておけ」

 

そう言うと師匠はボールペンを持ちハガキに必要事項を書いていく。中高一貫校という事以外興味はないが一応パンフレットを読み始める。

 

「へぇ、刀匠課程は細分化されているんだ〜。てっきり一本の刀を完成させるまでの技術を学ぶだけかと思った。まったく、この学校の学長は一体どんな人なのかな?何処かに書かれてると思うんだけど……こ、これは!?」

 

学長の写真!しかも美人ではないか!これはもう俺が受験するのはここに確定だな……美人学長がいる学校……excellent!!!!

 

「どうした?」

 

「いや!ちょっと興味あるのがあっただけだよ!」

 

「お前の目を惹く程のものか……興味深い、見せてみろ」

 

「ふぁ!?えっと……そう!この研師っていうのが凄く気に入ったんだ!」

 

嘘だ……興味なんて微塵も感じない……だが本当の事を師匠に言えば最悪受験させてくれないかもしれない……そんな事になれば美人学長とイチャイチャ楽しく授業を教えてもらうという俺の夢が叶わなくなってしまう!絶対に阻止せねば!

 

「研師か……」

 

「そうそう!研師っていうけどコンピュータもいじるんだって!まさにアナログとデジタルを使いこなすハイブリットヒューマン!イエス!ハイブリットヒューマン!ワンダフォー!!」

 

「そ、そうか……では、ここの課でいいんだな?」

 

「イエス!オフコース!」

 

「……よしこれで全て書き終えたな。では投函してくるか」

 

「え?」

 

おいおいおいおい、やばいやばいぞ!このままではマジで研師コースになるじゃないか!仕方ない、どこか途中で師匠から気づかれないように奪い取って捨てよう。そうすればまた書き直しになるからその時にやっぱり他のが良いと言えば変えられる!パンフレットに載ってた他の課には美少女が写っていたのがあるからそれにしたいしな!……研師は野郎ばかりしか写ってなかったから……

 

「お前には留守を頼んだぞ」

 

「ま、待って!俺も行くよ!」

 

「気にするな1人で十分だ、それに少し他に用事が出来たからな……行ってくる」

 

「いやちょっと……行ってしまった……ジーザス!!師匠いつも鍵を持ち歩くから鍵掛けられない……鍵をかけてないから誰かが留守番しないといけない……今この家にいるのは俺だけ……俺の輝かしい未来がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!鍵だけ置いていけよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

家の中には俺の悲痛な叫びが木霊して、叫ぶ事に気力を使い果たした俺はテーブルに突っ伏し目を閉じながら泣いた……俺は美少女とのラブコメディ展開に憧れていたのに……

 

 

この日を境に夜の修行が無くなり、代わりにスパルタな勉強が始まる事になったのだが……小学6年の勉強なんて楽勝な俺にとって1教科を除きスパルタ授業を受ける事はなかった……その1教科とは……そう、歴史である……これだけはどうしようもない、俺の知る世界と違うのだから……

 

「お前は人が教えている時に考え事か?」

 

「ちゃうねん!これはあれや!首が疲れたからちょっとそのコリをほぐそうと思い出そうとしただけや!」

 

「真面目に聞け!」

 

「すんませんした!!」

 

 

「まったく、いいか零次。問題だ、特別祭祀機動隊はどこの所属だ?」

 

「折神紫様……だろ?」

 

「お前は馬鹿か……いや、馬鹿だったな」

 

「酷い!じゃあ正解は何だよ!?」

 

「特別刀剣類管理局だ」

 

「それってあれだろ?局長が折神紫様のやつ……やっぱり正解じゃん」

 

「それは屁理屈だ、明日からは勉強時間を増やすか」

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

完全に専門外な勉強をスパルタにやらされる事が度々ありながらも時間は黙々と過ぎていき……受験当日になった。

 

 

「おい零次、ハンカチは持ったか?」

 

「あんたは俺の母親か!ちゃんと持ったよ!!」

 

「そうか……筆記用具は持ったか?」

 

「当たり前だ!そんなに心配しなくても大丈夫だから!」

 

「そう言われてもな、お前は、その、なんだ……馬鹿だから」

 

「おい!ここで言わなくてもいいだろ!地味に傷つくんだぞ!!間違ってないけど……」

 

「そうなのか……よしっ!行ってこい!」

 

「急だな!もういい、行ってきます」

 

「カンニングはするなよ」

 

「しないよ!」

 

いつも以上にしつこい師匠を振り切り家を出て受験場所まで行き、今、開始のチャイムが鳴る。

 

「こ、これは……」

 

流石は俺の師匠、歴史の問題は俺が1人でやっていたら勉強してないとこばかりが問題になっている。しかし、俺の勉強の指導者が師匠であったので問題は容易に解け、最難関の歴史が終わると後はスラスラとペンが走り、やがて受験終了のチャイムが鳴り、無事に終了した俺は1人歩いて帰宅した。

 

帰宅後、師匠からカンニングしていないか聞かれてきたのにはイラッときたが、師匠の助力があったからこそ問題が解けたのでしてないとだけ伝えて部屋に戻りベットに寝転んだ。勉強に頭を使い過ぎて疲れていた俺はそのまま安らかな眠りにつき、起きた時にはすでに朝日が真上に登る頃になった。

 

 

受験日から数週間後、受験結果の日になると意識はしてないが不思議と緊張している。まるでお見合い相手に会う前のようだ……お見合いした事ないけど……

 

「なんだ零次、緊張してるのか?」

 

「べ、別に緊張なんてしてないんだからね!」

 

「すまん、零次……今のは流石に気持ち悪くなった」

 

「……ごめん」

 

「さて、覚悟はいいか?」

 

「お、おう!どんとこいや!」

 

「よし、では受験結果のページを開くぞ」

 

「ゴクっ……」

 

思わず喉が鳴る。そういえば思い出すなぁ、あの日も唾を無意識に飲み込んでいたっけ……まあ、唾じゃなくてゼリーを飲み込んでポックリ逝ったけど……もうあれから長い時間過ぎたなぁ……俺は何を思いふけっているんだろう?

 

「これは!?」

 

「どうしたオ○コン!」

 

「お前がどうした零次、というかそいつは誰だ?」

 

「いや今のは何でもないから気にしないで」

 

「あぁ……それよりこれを見ろ」

 

「んん?……んん?んんんんんんんんんんんんんんんんん!?」

 

「零次、その反応はおかしいぞ」

 

「いやだって、これ……俺の番号だよね?つまり受かったという事なんだよね?ね?」

 

「まあ。イタズラではなければそう「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」……喚くな」

 

「だが断る!待ってろよ!俺のキャン○スライフゥゥゥゥゥ!!!」

 

「いや待て、お前が通うのは大学じゃないぞ」

 

師匠が何か言ってるが俺は気にしない、俺は俺のやりたいようにやるだけだ!もう今の俺ならル○ンダイブで火の海に飛び込むことも出来る気がする!!

 

 

しばらくの間喜んで騒いでいた俺は、我慢の限界に達した師匠に締められ意識を失い。後日目が覚めるとベットの上にいた……やり過ぎたとは思うが後悔はしていない!!

 

 

見事受験に合格した俺は入学までの間、寝る時と食事以外は常に刀を振り続けながら入学までの間を過ごす。だが、あと2週間もない時に残酷な宣告を師匠から告げられた。

 

「引っ越す?誰が……」

 

「お前だ馬鹿」

 

「ねぇ師匠、知ってる?俺の名前は零次だよ?馬鹿が名前じゃないんだよ?」

 

「それがどうした?」

 

「どうしたじゃないだろ!最近俺を呼ぶときはいつも馬鹿って呼んでるよね!」

 

 

「それの何が悪い」

 

「悪いから!あんたって人は……ふぅ。今は我慢しよう……それで、何故に俺は引っ越すのですか?」

 

「学校から遠いと何かと不便だろ?だから 近くに家を用意した、俺からの入学祝いとでも思ってくれ。礼はいらない」

 

「はっ!?家を用意したって何さらっととんでもないこと言ってるの!?」

 

「安心しろ、お前の両親から預かっている中身から出しているから遠慮はいらない」

 

「ふぁ!?俺の両親は師匠にどんだけ預けたんだよ!馬鹿なの!?」

 

「聞かない方がいいぞ……あと、俺もそれに関しては同じ考えだ……まさか、息子1人にこれ程までの資金を預けるとは……流石は俺を探し出しただけあって変わった奴らだ」

 

「今凄い発言を聞いたんだけど……」

 

「気にするな」

 

「うん、聞かなかった事にするよ……それでどこにその家があるの?この家はどうするの?」

 

「新しい家は岐阜にある。それと、たまに帰ることもあるからこの家はそのままにしておいてくれと言っていた」

 

「……もう驚かないぞ、俺の両親は凄い……それでいいんだ……」

 

「そうしておけ……それでだ、早くても来週あたりには引っ越してあっちで不便にならないように土地勘を身につけろ」

 

「来週だと!?早くない?」

 

「仕方ないだろ、これからお前は1人で暮らすんだからな」

 

「あれ?師匠は?」

 

「俺はそろそろ帰らないといけないからな、あいつらが帰ってこいとうるさいんだ」

 

「師匠が帰る……いよっし、んん!そうなのかー、師匠にもプライベートがあるから仕方ないかー」

 

「今喜んでなかったか?……まあいいか、俺は明後日にここを発つ。引越しの荷物があるなら明日までに言えば手伝うがその後は自分で何とかしろ。それと……これをお前に渡しておく」

 

「通帳と印鑑?それに防弾グローブ……最後のこれは要らないだろ」

 

「念の為だ、通帳にはお前の両親から預かっていた資金が残ってるがあまり無駄遣いするとすぐになくなるぞ」

 

「すぐに無くなるって一体どれだけ……ん?俺は今夢でも見ているのか?」

 

「現実だ馬鹿」

 

「いやだって、え?これがすぐに無くなる?Why?」

 

「さっきのは釘を刺しただけだ……それともお前は非常識な人間になりたいのか?」

 

「そんな者に、私はなりたくありませ〜ん!!」

 

「それなら無駄遣いしないようにしろよ」

 

「イエッサーボス!」

 

「 お前、本当に俺の正体を知らないんだろうな……はぁ、別れの挨拶をする奴がいるなら早めにしておけよ」

 

「そんな相手俺にいるわけ……あ!大天使様」

 

「誰だそいつは?」

 

「大天使様は俺の大天使様です!この世に2人と存在しない凄い御方です!」

 

「いやそんな事俺に力説されても……なら、さっさと挨拶してこい。忘れると後で面倒になるぞ」

 

「じゃあ明後日行ってきます!」

 

「そうか、それじゃ伝えたいことは伝えたから俺は出かけてくるぞ」

 

「また用事が出来たのか?」

 

「いいや、今日はただの散歩だ。行ってくる」

 

「いってら〜……って、また鍵を持って行きやがった!はぁ、おとなしく留守番してるか」

 

1人残された俺は引越しの荷物を選定する作業をしなくてはならないので自室に戻り、持っていくものだけ床に並べ始めた。

 

 

「これで最後っと……案外少ないな、何があって何がないかも分からないからとりあえずは着替えさえあれば大丈夫のはず……後は暇になるから刀と……他に持ち物がない!?……あっちに行ったら何か趣味でも探そう……それよりも、結芽ちゃんに気軽に会えなくなるのか……死活問題じゃね?というか結芽ちゃんに何て言おう……ちょっと練習するか」

 

あった時に何を言えば分からないという恥ずかしい姿を見せたくないので、刀を壁に立て掛けそれを結芽ちゃんに見立ててイメージトレーニングを始める。

 

「えー、本日は御日柄もよく大変にお別れ日和となりましたね……お別れにいい日があるわけないだろ!ボツだな……やあ。今日も可愛いね結芽ちゃん!実は今日君に伝えなくちゃいけない事があるんだ、実は俺……引越しします!……ないな、それに結芽ちゃんが可愛いのはいつもの事だからいつも言っていると嫌われるかもしれない……俺、神条零次は……引越しします!引越しはしても、神条零次の事は嫌いにならないでください!!……おぇぇぇぇぇ……駄目だ気持ち悪くなる……へーいそこの彼女〜、俺とお茶でもしな〜い?俺引っ越すからさ〜。な?いいだろ?……何がいいかさっぱり分からん!チャラいな!……あった時の気分で変わる事もあるし、その時に思った事を言えばいいよな?」

 

結局イメージが定まらないので、考えるのをやめてベットに寝転び枕に顔を埋めた。どう考えてもイメージがわかないまま、気がつかないうちに眠りにつく。次の日、引越しの荷物を運んでもらう為師匠に頼み、師匠がどこかに連絡してから数時間後の昼過ぎあたりにトラックが家の前に止まっいた。

 

荷物を運ぶのは業者に頼んだ方が早いという事でトラックの後ろに荷物を入れてもらい、トラック運転手と師匠と俺は運転席側に乗り新たな家に向かって出発した。その後、まだ眠かった俺は運転手と師匠の間の席で1人だけ眠っていて、到着した時に師匠に起こされた。

 

「おい起きろ。荷物を運ぶぞ」

 

「うい〜す」

 

寝起きで少しだけだるい体を動かす。トラックから降りてトラックに乗せていた荷物を持って新たな家とご対面する。

 

「ここが新たな我が家……凄く……大きいという訳ではなくて安心です……」

 

「当たり前だ、ほら、さっさと終わらせるぞ」

 

「おいっす」

 

早く荷物を片付ける為、きびきびと動き家の中に荷物を運ぶ。次々と荷物を運び、全て運び終えた後に今度は自分の荷物を二階の一室に持っていって片付ける。部屋には既に必要なベットやらクローゼットが置いてあり、これなら住むのには困らない。色々と持ってきた着替えと、不思議な刀を片付け、部屋を出ると師匠が文句を言わずにリビングで待っていてくれた。終わった事を告げる。

 

「では帰るぞ」

 

「帰るのはいいけど、何で帰るの?」

 

「そうだな……いい機会だから電車を乗り継いで帰ってみるか」

 

「嘘だろ……乗り遅れないように走ったりとかしないよね?」

 

「そうだな、今日は乗り遅れてもいいか」

 

「よしっ!じゃあ帰りますか」

 

「ああ、行くか」

 

家を出て鍵を閉めた後、駅に向かい駅を乗り継いで家に帰宅し、今日は帰りに買ったコンビニ弁当を食べ、食事の後は風呂に入り明日が早い師匠に合わせて俺も寝た。

 

 

 

次の日の朝、起きると既に師匠は居なくなっていた。別れの挨拶ぐらいさせてほしかったがこれでよかったのかもしれない……もしかしたら泣いてしまうかも……絶対にないな、天地がひっくり返ってもあり得ない……

 

「そんな事は問題じゃない、それよりも今日は挨拶に行く日だった……何で昨日寝ちまったんだよ!やべぇ、結局なんて言おうか考えてねぇ……とりあえず行くか……いざとなったら今度スイーツを提供する約束をすれば納得してくれるはず!よし!それじゃ行くぞ!」

 

気合いを入れてから家を出て大天使様の家へ向かい走り出す。走りながらも無駄とは分かりながらも考えて考えて考えてみたが、やっぱり無理でした。もう目の前には大天使様の住む建物がある。

 

「すぅ〜はぁ〜俺はやれば出来る……よしっ!押すぞ!」

 

インターホンを震える指で押すと直ぐに結芽ちゃんが出てきた。

 

「零兄!」

 

「やあ結芽ちゃん久しぶ……グホッ!!」

 

「零兄!会いたかった!」

 

「ゴホゴホっ、いきなり抱きつくのは危ないからやめた方がいいよって前も言った気がするんだが」

 

「大丈夫だよっ!だって零兄が受け止めてくれるもんっ!ね!」

 

「ええと、それはそうだけどさ……」

 

「もしかして零兄は私に抱きつかれるの嫌だった?」

 

「そんなわけない!結芽ちゃんならいつでもウェルカムさ!」

 

「本当!それじゃあこれからも抱きついていいの?」

 

「ふっ!愚問だな……もちろんOKさ!」

 

「やったぁ!」

 

いいか、よく聞け!美少女の頼み事はNOとは答えない、それが……常識ってもんよ!

 

「ふっ、決まった……」

 

「何が決まったの?」

 

「え?あー、そのあれだ、引越しが決まったって事だ、うん」

 

「ええっ!?零兄引っ越しちゃうの!?」

 

「あっ……今のは違……わないけど……そうは言っても引っ越すのは来週だよ?」

 

「来週なの?」

 

「しまった!?それは……そうなんだけど……」

 

「そうなんだ……」

 

「結芽ちゃん……ごめん」

 

「ううん、零兄は悪くないよ!でも、寂しいなぁ……」

 

「本当にごめん、しばらくは来れないかも知れない……でも、いつか絶対会いにくるから!」

 

「本当に?また私と遊んでくれるの?」

 

「ああもちろんだ!」

 

「うん、分かった……じゃあじゃあ、今日はいっぱい遊ぼうね!」

 

「了解だ!何して遊ぶ?」

 

「今日は刀を使って模擬戦したい!」

 

「へ?刀?何故に?」

 

「あのねあのね!私御刀に選ばれたんだよ!凄いでしょ!」

 

「へ、へぇ〜そうなのか。凄いな結芽ちゃんは」

 

「えへへ〜」

 

刀使の事については最近の勉強で学んだが、はっきり言って何がどう凄いのかよく分からないまま俺は結芽ちゃんの頭を撫でる……

 

「それと模擬戦はどういった関係があるんだい?」

 

「せっかくだから私の実力を見せようと思ったの!」

 

「ほう、結芽ちゃんの実力は確かに興味がある……が、俺はえんり「でしょ!じゃあ早速お庭でやろう!」ちょっ!待って!」

 

「?心配しなくても大丈夫!御刀も零兄の分の刀もあるから!」

 

「いやそこは別に心配してないんだが……そうじゃなくて「ほらほら、早く行こう!零兄!」あれ!?俺の話はまだなんだけど!?そんなに引っ張られるとこけるから!?」

 

「零兄との模擬戦楽しみだな〜」

 

「あの、結芽さん?少しでいいから話を聞いて……」

 

「♪〜♪♪」

 

駄目だ、これは俺がもっともよく知っている……俺の両親と同じく話が聞こえてないやつだ……こうなれば俺に残された選択肢は1つだけ……諦めるしかない……

 

 

 

 

結芽ちゃんに強引に手を引かれて広い庭へ行き、俺を残して刀を取りに行く結芽ちゃんを呆然と眺めながら1人寂しく庭で空を見上げながら立ち尽くしていた。

 

「どうしてこうなった……」

 

「どうしたの零兄?」

 

「いや何でもない……早かったね」

 

「うん!庭の近くに置いてたからね!はいこれ!零兄の分」

 

「あ、はい……真剣?」

 

「そうだよ〜、じゃあ私はあっちに行くね!」

 

「はい」

 

どうしてか、今の俺は切なくなっていた。いつの間に戦闘狂になったんだよ……あの頃のピュアピュアな結芽ちゃんが遠い場所へ行ってしまうような気がした。

 

「そう言えば結芽ちゃん、真剣使うのは危なくない?怪我するよ?」

 

「うーん……じゃあ私は寸止めするよ!」

 

「私は?俺もじゃない?」

 

「それは大丈夫……ほら!」

 

「それは……たしか写しだったかな?」

 

「せいか〜い!だから寸止めしなくても零兄はいいよ〜」

 

いや良くないだろ……写しとは御刀の力を使って斬られても実体へのダメージはないと勉強したが、痛みは感じるはずだ。たとえこの身が斬り裂かれようとも絶対に斬らない事を心の中で誓う……

 

「どうしたの零兄?何だか難しい顔してたよ」

 

「ははっ、まさか。少し気合いを入れてただけだよ、せめて少しでも結芽ちゃんに楽しんでもらう?ために……」

 

楽しませてどうするんだよ俺!!マジでこれじゃ結芽ちゃんが戦闘狂になっちゃうじゃないか!そんな結芽ちゃん俺は

……いや、意外とありだな……

 

「そうなんだ!それじゃ早く始めよう!」

 

「ああ、俺はもう(心の)準備出来てるよ」

 

「よーしっ!それじゃあいっくよー!!」

 

そう言うと今もなお少し体が光ってる結芽ちゃんが消え……てはいない。日頃の修行の成果か、こちらに向かってきている姿が目に見えていた。横薙ぎしてきた刀を焦らずに俺の手にある刀で防ぐ。

 

「おっと……」

 

「嘘っ!?」

 

「はい隙あり」

 

動揺して隙が出来た拍子に刀の柄部分で頭を軽く小突く。

 

「あっ……」

 

「俺の勝ちだな結芽ちゃん」

 

「〜〜!!!ずる〜い!!」

 

「いや何もズルしてないんだけど」

 

「もう一回やろ!ね!」

 

「もう一回やるの?」

 

「まだ私の実力見せてないもんっ!だからやろうよ〜」

 

「分かった分かったから!?刀を振り回さないで!?」

 

「やったぁ!!次は負けないから!」

 

「あはは……いつまで続くことになるんだろう……」

 

少し苦笑いした後、再び位置についたので構え直して警戒する……

 

 

 

 

 

模擬戦を始めてから時間が経ち、刀を鞘に収めた頃、空はオレンジ色になっていた。あれからずっと模擬戦だけをやって、毎回結芽ちゃんが負けるともう一度と言ってきたので仕方なく付き合っていたが、どうやら俺も夢中になっていたみたいだ。師匠以外とは今まで模擬戦をやった事がなくてつい嬉しくなったのは秘密だ……

 

 

「もう帰らないとな」

 

「そんなぁ……零兄にまだ勝ててないのに!」

 

「元気だね結芽ちゃん……じゃあ、今度会うときまた模擬戦をやろうか」

 

「いいの!絶対だよ!」

 

「ああ、約束する。その時は俺を負かしてくれよ?」

 

「うん!任せて!その時は零兄の事叩き斬るよ!」

 

「物凄い物騒な発言だね!?……さてと、それじゃ帰るか」

 

「次は絶対勝つからね!」

 

「楽しみにしてるよ、またね」

 

「またね〜」

 

 

こうして無事に引越しの事を告げ、おまけに模擬戦をして遊んだ後、俺は自宅に帰った……

 

 

 

それから数日後には今まで住んでいた家を離れて新しい家に引越し、師匠に言われたように土地勘を身につける為数日かけて家の周りや少し遠い場所を散歩して覚えた。

 

 

そして、今日入学の日を迎えた。

 

 

「身だしなみも整えて鍵もしたな、よしっ!それじゃ、行ってきます!」

 

新しい制服に身を包み新たに通い始める学校へ歩き出す……

 

 

 

俺は今日、中学生になりこの世界についてあまり知らないながらも学校生活を懸命に過ごした。

 

 

それから1年後、この学校で2度目の春を迎え知識も身につき、この世界の情勢に多少の疑問を持ちはじめた頃……

 

 

この時を境に、俺の中の運命の歯車が動き出す……

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!ゆっかり〜ん登場!


「存在感薄いやつだとでも言いたいのか?……斬るぞ?」


……次回もまた見てね!
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