パパは新卒社会人   作:拙作製造機

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感想で要望のあった八幡達と子供達との話です。時期としては小町の話よりも後。まさかこれが一応の完結を迎えてからも、ちょこちょこと新しい方達に読んで頂けるとは嬉しい限りです。本当にありがとうございます。


愛を+ワン

 比企谷家に三人の天使が生まれて既に六年を迎えようとしていた。雪美達は小学校入学が見えてきた事もあり、新しい生活への期待に胸を膨らませて真新しいランドセルを背負って遊んだり、ある時は帽子を被ってはしゃぎ回ったりしていた。そんな様子を八幡達は微笑ましく見つめていた。広かったはずの一軒家がすっかり狭く感じる程の成長を遂げた子供達に、何とも言えない感慨深いものを覚えながら。

 

「パパ、ママ、見て見て。かんぜんそうび!」

「うん、よく似合ってるよ結花」

「ああ、可愛いぞ」

「えへへ」

 

 結衣の娘である結花は母親譲りの愛くるしい笑みを見せる。そんな彼女の前に出るように現れる亜麻色髪の少女。

 

「お父さん、お母さん、まいこはまいこは?」

「勿論よく似合ってるよ。ね、八幡さん」

「当然だ。まいこは可愛いに決まってる」

「だよね!」

 

 いろはの娘であるまいこも母親譲りの愛嬌をふりまく。今はわざとではないが、いつかこれが意識的にやるようになるのかと思って、八幡は複雑な気持ちを抱く。

 

「あの、私はどうでしょうか。父様、母様」

「心配しなくても可愛いわ。雪美、自信を持ちなさい」

「そうだぞ。雪乃に似て綺麗になってきた」

「そ、そうですか」

 

 両親に褒められ照れ笑いを浮かべる雪美。彼女も母親譲りの気品のようなものを見に付けつつあった。ただ、その性格は棘の丸い雪乃と八幡が評する程柔らかいという違いはあったが。

 

 こうして子供達はしっかりと成長していた。そして、もう一つ比企谷家にある大きな変化が訪れようとしているのだ。

 

「それにしても、大きくなってきましたね。母様達のお腹……」

 

 そう、妻達三人揃って妊娠していたのだ。それも、同じ日に身籠ったとしか思えない計算である。その事に小町は気付いて苦笑いを浮かべながら兄へ言ったのだ。

 

―――感謝してよ? 小町やお父さん達が三人の面倒見た日だよね? まったく、するとは思ってたけど、まさか二人目を同時にとか……どじいちゃんなんだから。

 

 そこで呼ばれた新しい呼び方には、以前とは違う親愛が込められていた。その事もあって、八幡は照れ笑いを返すしか出来なかった。比企谷兄妹にも、あの学生の頃とは違う距離感が出来上がっていたのだ。

 

「ねぇ、赤ちゃんはいつ出てくるの?」

「まいこ、早く一緒に遊んであげたい」

「あー、一応出てくるのは春になるかな」

「「「春……」」」

「そう。だからまいこも、結花も、雪美もそれまでお母さん達を助けてね?」

「「はーい」」

「はい」

 

 結衣といろはの言葉に同じ表情を見せる三人の子供達に八幡達も笑顔が浮かぶ。この六年間、どれだけ疲れていてもその存在に癒されてきたのだ。父親である八幡はおろか、母親である雪乃達でさえも例外なく。

 実の母でなくても幼い命は関係なく慕ってくれる。元々仲が良い相手の子だった事もあって、彼女達は分け隔てなく育てようと思っていたが、そんな事を決意する必要などないぐらい、三人の天使は愛おしくなっていったのだ。

 

 しっかり者だがどこか抜けている時がある雪美。ドジだけれど優しく穏やかな結花。愛想は良いのにこうと決めると譲らないまいこ。母親の要素を強く持ちつつ、どこか違うところを見せるその姿に、八幡達は日々の活力をもらっていた。

 

 ……勿論余計疲れてしまう事もあったが。

 

「もう寝たぞ」

 

 二階にある子供部屋。そこの様子を確認して八幡は階段を下りてリビングへと戻った。そこでは、三人の妻達が大きなお腹を嬉しそうに撫でていた。実は、彼らは計画的に子を設けていた。何せ三人の妻である。それが一人産めば家計的に三つ子が生まれるのと同じ計算だ。なので、しっかりと家族計画を立てて子作りもしてきた。子供達が小学生となる上、八幡も会社でそれなりの地位に就いた事を受けて、やっと二人目を産んでもいいとなったのだった。

 

「そう。いつもありがとう」

「いや、身重な嫁に階段の上り下りを何度もさせられるか」

「うんうん。あたし達の代わりにヒッキーが色々してくれてるし。マジ感謝だよ」

「ま、普段はそっちにやってもらってるからな。こういう時ぐらいは」

「ふふっ、何だかあの子達がここにいた時を思い出しますね」

「……だな」

 

 ソファに座っている三人の妊婦を見つめてから、八幡はポツリと呟いた。

 

「やっぱ、引っ越し考えないとな」

「ですねぇ。この子達が産まれたら絶対手狭です」

「だけど、ここより広い家で今と同じ環境は難しいよ」

「そうね。いっそ中古の家でも買う?」

「簡単に言うな。それと、どうせなら自分達で色々考えたいだろ、持ち家なら」

 

 八幡の意見に賛成なのか結衣といろはも頷いていた。雪乃も本音はそうだったのだろう。苦笑しながら彼らの顔を見回していく。

 

「分かっているわ。でも、現状ではそれは厳しいの。結衣さん、どう?」

「う~ん……たしかにあたし達が仕事に戻っても子供が六人でしょ? それでかかる費用を大雑把に考えても……」

「余裕で難しいですよ。それならここで後数年頑張って、この子達が今のまいこ達と同い年になる辺りで……」

「それもどうかしら。現状では子供部屋が一つで済むけど、今後は最低二つに分けなければいけないし、雪美達が大きくなれば個人個人で部屋をと言い出すわ」

 

 その言葉にいろはも小さく息を吐いた。実際彼女も小学生の中学年辺りで自室を欲しがったのだ。いくら我が子達が仲良しと言っても、それはそれこれはこれとなるに決まっている。ならば、確かに今の状況では部屋が足りない。だが、それを彼も考えていたのだろう。やや気恥ずかしそうに口を開いた。

 

「なら、俺達の寝室を一つにすればいい。それなら部屋が一気に二つ空く」

「……それって」

「ひ、ヒッキーといつも一緒に寝るって事?」

「そうなるな。まぁ、さすがにベッドじゃなくて布団へ変える事になるが……」

「その方がいいかもしれないわ。この際だから古いベッドは捨ててしまうべきね。その、色々とあるでしょ?」

「あー、そうですね。思えば、あのベッドで私達って愛し合ってきましたし」

 

 噛み締めるようないろはの声に、雪乃も結衣も、そして八幡も懐かしむ顔をした。結婚して六年になるが、その前の生活を含めれば十年近い付き合いではある。大人の男女として歩き始めたあのワンルームでの出来事。それから既にもうそれだけの年月が経過していたのだ。

 

「ゆいこも小学校だ。色々と考える時なんだろうな」

「そうだねぇ。ここに来てからもう八年?」

「それぐらいね。そうだわ。新居の件、いっそ父に相談してみる?」

「いいかもしれませんね。どこも孫にはダダ甘ですし、多少は援助してくれるかも」

「おい、ただでさえランドセルとか買ってもらってるんだ。これ以上搾り取ろうとするな」

「いいじゃないですかぁ。それに、あれは向こうが勝手にまいこ達へ買ってるだけです」

「お前なぁ……」

 

 世の祖父母が孫に甘い事をいい事に、いろはは娘達に合った甘え方とねだり方を伝授。それを使って三人の子供達は見事に高価な買い物を成功させていた。無論、八幡の両親も例外ではない。今や四家の親達は血の繋がりなど度外視で、愛らしい孫を愛でる存在となっていたのだ。

 

 更に小町や陽乃といった叔母に伯母も姪っ子をいたく可愛がっている。それらを見て八幡達は思ったのだ。大事なのは血の繋がりではないのだろうと。自分達のように、何かもっと強い繋がりが存在する事で他人は結ばれるのだと、そう改めて感じたのだ。

 

「あはは、なら雪乃のとこでお家をお願いして、いろはのとこで寝具。で、うちで衣服なんてどうかな?」

「随分雪ノ下家の負担がでかいな」

「いいのよ。そもそもは土建屋だったのだし、住居関係はお手の物でしょう」

「うちも大丈夫だと思いますよ。古いベビーベッドってもう全部なかったですよね?」

「そうだね。たしかベビーベッドってさいちゃんとこと優美子のとこへ譲って、残り一つも小町ちゃんへ去年あげたから」

「……そうだったな」

 

 八幡の妹の小町は去年結婚した。子供はまだだが、出来るだけ節約したいとの希望で兄夫妻の家からベビーベッドを譲り受けていたのだ。今、彼女達は絶賛妊活中である。ゆいこに負けないぐらいの可愛い子を産んでみせると意気込んでいたのだから。

 

「それにしても、葉山君には驚いたわ。まさか最初で最後の反抗が優美子さんとの結婚だったなんて」

 

 雪ノ下家との繋がりもあって、そことの縁故をより強くするためにと両家から結婚を望まれていた隼人と陽乃であったが、八幡達が結婚するのと前後してその話は無くなっていた。理由は一つ。隼人が両親へ優美子を紹介し、彼女を妻にすると告げたためであった。

 そして、陽乃もそれに賛同。雪ノ下家の跡継ぎは雪乃が産んでくれると言い除け、自分は独り身で構わないと言い放ったのである。ちなみに、その隼人の行動を陽乃は面白い男になったと評したとか。

 

「それよりも驚きなのは、あの二人が大学時代から付き合ってたって事ですよ。結衣さん、気付いてなかったんですよね?」

「うん。連絡は取り合ってはいたけどね」

「それぐらい密かに温め続けてたんだろ。だからこそ葉山を動かした三浦の一途さと、それに応えて男を見せたあいつの成果だ。子供も早かったしな」

「あら、早かったのはアナタでしょ。向こうよりも遅れて始めたのに、出来たのはこちらが先だったのだし」

 

 その言葉で八幡が少しではあるが照れた。実際彼もどうかと思う程の回数、彼女達と愛し合ったのだ。だが、それも仕方ない。何せ長年ギリギリまで我慢していた部分を一気に解放したのだ。それも、高校生の頃からたまに考えていた妄想を超える状況で。

 

「……悪いか。初体験が4Pとか想像もしなかったんだぞ。その後もこれだけ美人を三人、好きに求めていいと言われりゃ誰だって張り切る」

「ですよね。それに、時々なんて夜通しでしたし」

「そうだったねぇ。この子もそうやって作られちゃった」

「あの日のアナタ、まさしく獣だったものね」

 

 楽しげに、だけど苦笑しながら告げる三人へ八幡は少し息を吐いて真剣な目を向けた。

 

「何なら今少しそうなってやってもいいんだぞ?」

「「「っ!?」」」

 

 今や立派な男となった八幡の顔と声に、三人は思わず息を呑む。最初の子作りはどこか互いにぎこちなさが残ったままだった。だが、二度目は違った。それまでの積み重ねと年齢、それらがいい具合に合わさった結果、三人はしっかりと良さを教えられてしまったのだ。愛される喜びと女に生まれた事の幸せを。

 

「……ま、半分冗談だ。お腹の子に障るし、何よりゆいこが起きかねない」

「半分、ですか?」

「ああ。そりゃ俺だって全力で愛する妻達を抱けてないんだ。色々と思う事や溜まる事だってある」

「だ、だから時々してるじゃん。胸とかで」

「結衣さん? それは私に対する嫌味?」

「ち、違うよ。てか、雪乃だって出来るってヒッキー言ってたし」

「それ、多分寄せさせて無理矢理だと思います」

「ストップだ。この事は無事その子達を産んで落ち着いた後にしよう。その、また預かってもらって……な」

 

 含みを持たせた言い方で三人も少し頬を赤めて頷く。その後、一人ずつベッドへ八幡が運び、彼女達は眠りに就いた。ちなみに、八幡は最初の妊娠の際から妻達をいざとなった時運べるようにと地道にトレーニングをしており、今は階段の上り下りも朝と夜だけは彼が運んでトレーニング代わりにしている。

 

「引っ越し、か。本気であいつらの親父さん達から話を聞いてみるか」

 

 一人そう呟いて彼もベッドへ横になる。そしてそこから彼は動き出す。まず、実家の両親に話を聞くための日程を調整。家を建てる事の苦労などを実体験しているためだ。次に職場の社長夫妻。彼らもまた同じ事を経験している。雪ノ下家へは雪乃から連絡してもらって面会の約束を取り付けてもらい、由比ヶ浜家や一色家にも同様に面会の約束を入れてもらったのだ。

 持ち家と借家。どちらがいいのか、またはどんな利点と欠点があるかを実生活で知っている者達からしっかり聞き出そうとしていたのである。全ては、愛する妻達と子供達のために。

 

 そのために、八幡は休日前の夜と休日のほとんどをそれらで使うようになった。すると、当然ながら子供達との触れ合いが減る。そして……

 

「父様」

「パパ」

「お父さん」

「何だ?」

「「「最近遊んでくれないのはどうして?」」」

 

 こうなる。仕事で遅くなり、疲れて帰ってきた彼を珍しく出迎えたのはパジャマ姿の娘達。それで癒されるはずが、告げられたのはどこか寂しそうな声の訴えである。これが家族愛に溢れる八幡には堪えた。がっくりと崩れ落ちるかのように項垂れたのだ。

 

「……引っ越しを考えてるのは教えたよな」

「「「はい(うん)」」」

「それで、今父さんはお祖父ちゃん達から色々話を聞いてるんだ。家を建てた方がいいのか、今のように誰かから家を借りた方がいいのかってな。母さん達にしてもらってもいいけど、母さん達はお腹がおっきいだろ? だから父さんが聞きに行ってるんだ」

 

 何とか気持ちを立て直し、出来る限り分かり易く優しい口調で説明する八幡。それで少しは理解出来たのだろう。三人はふんふんと首を縦に動かしていた。

 

「じゃ、パパもお勉強してるの?」

「そうだな。ずっと勉強中だ」

「お父さんなのに?」

「そうだぞ。むしろお父さんになったから勉強し続けないといけない」

「父様だから?」

「ああ」

 

 そう答えて八幡は三人をそっと抱き寄せる。その温もりに笑みを浮かべ、腕の中の幼い命達を愛おしく思う彼。それが伝わるのだろう。三人もそれぞれに嬉しそうに笑みを見せ、父へと顔をすり寄せる。

 

「大事なお前達と、母さん達、そして生まれてくる子供達のために、父さんは勉強し続けるんだ。少しでも立派で強い父さんであるために」

「父様は今でも十分立派です」

「うん、それにつよくてやさしいよ?」

「そうだよ。じまんのお父さんだもん」

「雪美、結花、まいこ……」

 

 こみ上げてきそうになるものを何とか押し留め、八幡はその代わりに娘達を少しだけ強めに抱き締める。それで楽しげな声を出す三人と、感極まりそうな彼を三人の妻達が見つめていた。

 

「比企谷のお義父様と同じ道、辿りそうね」

「いえ、もうとっくに辿ってるかと」

「だよねぇ。小町ちゃんも呆れてたもん。あれだけ文句言ってたのに同じようになるとかって」

「比企谷のお義母さんも言ってました。蛙の子は蛙って」

「ヒッキーパパ、あたし達には優しいもんね」

「娘、という存在に弱いのかしら?」

「ただ単に、同性に厳しいだけじゃないですか? それも、自分の家族へ近寄る相手に」

「肉親でも?」

「肉親でもです」

 

 そんないろはの締め括りに雪乃と結衣が笑う。それに気付いて八幡達が顔をそちらへ向けた。

 

「ママ達が笑ってる~」

「何か面白い事でもあったかしら?」

「お父さんの顔?」

「まいこ、それ地味に傷付くから。たしかに未だに目付きは腐ってるとか社長達にも言われるけど」

 

 八幡お得意の自虐のような言葉に娘達も笑い、そして揃ってこう返すのだ。それでも自分達はその目が好きだと。それが妻達と同じで、また彼は言葉を失う。泣きこそしなかったが、何度もそうなりそうだった事で彼も理解するのだ。歳を取ったな、と。

 

 それから数か月後、比企谷家に待望の男児が生まれる。幸か不幸かクセ毛を受け継ぎ、見事に父親の遺伝子を見せつけた三人の息子達は、三人の姉に可愛がられて成長していく。

 それから数年後、八幡はマイホームを建てる事に決める。四家からそれぞれの形で援助を受けながら、彼は必死に働いた。ここで彼が恵まれていたのは、かつての自分のような悲劇を回避出来る要素が多かった事だろう。そう、頼れる存在が大勢いた事だ。

 

「ママ、いつもありがとう」

「いいのよ~。こっちも可愛い孫達と触れ合えるし」

 

 息子達を預かってくれる由比ヶ浜婦人は、子守りをしながら家事を行えるという、結衣から見れば雲の上の存在である。微笑みながら手を振る母親へ結衣は一人を背負い、二人をベビーカーへ乗せて帰宅の途に就く。これも、いつもの事であった。

 

「じゃあ、後は温めて食べて頂戴。それとお洗濯したのは畳んであるから」

「うん、分かった。お母さん、本当にいつも感謝してるからね」

 

 定期的に家事をしてくれる一色婦人も、いろはからすれば頭の上がらない相手である。娘達の相手もしてくれる時があるので、ある意味で一番懐かれているお祖母ちゃんでもあった。それを他家の婦人達が若干羨んでいる事を彼女は知っている。何せ、今や四家は親戚であり、そこの妻達は孫や娘を話題に時折茶会を開く仲となっているのだから。

 

「それで、ここなどいいと思うのです。中高一貫教育で、望めば系列の大学へも」

「お母さん、気持ちは嬉しいけれど、そういうのは雪美達自身に考えてもらいたいの」

 

 色々と世話を焼きたがる雪ノ下婦人へ雪乃は呆れ声を返す。かつては家第一の考えで雪乃や陽乃を動かそうとしていた彼女も、孫相手にはやや甘いようだ。何せ、事ある毎に比企谷家を訪れては今のような話をするのだから。そこに母の本質を見た気がして、雪乃は恨みが薄れたと姉へ漏らしたとか。

 

「いやぁ、うちの娘は可愛いけど、男の子は元気でいいよね。私ももう一人産んじゃおうかな?」

「……旦那と相談しろ。あと、たまには俺にも小雪を会わせてくれよ」

 

 そして、たまに顔を出してくれる比企谷家の代表である小町。今や一児の母となった彼女は、トレードマークのクセ毛を揺らしながら、甥っ子達の相手をしていた。ちなみに彼女の夫はどこか八幡に似ていると雪乃達から評されており、本気で兄を想っていたのではと八幡へからかった程である。

 

 それと、小雪は小町の娘の名であり、その由来は彼女自身の名から一字取って、生まれた時期が冬であった事から雪の字を付けたもの。だが、後に八幡は知る事となる。小町はこの後も二人の子を産むのだが、二人目には結の字を、三人目にはろの字を使った名前を付けるのだ。

 そう、兄を大人へ成長させた三人の義姉の名から一字ずつもらっていると。それに気付いた時、小町は悪戯っぽく笑ってこう告げるのだ。初恋の人が選んだ人達へ敬意を表したんだ、と。

 

 そんな周囲の助けを受けつつ、遂に彼らの自宅が完成する。その前で撮られた記念写真。それを撮影したのは陽乃であった。

 

「は~い、みんな笑って笑って。英人、表情硬いよ? 末博はもう少ししゃんとする。信也も欠伸しないの。お姉ちゃん達に後で怒られるよ~? ……よし、じゃあ……はい、チーズ!」

 

 そうやって撮られた一枚は綺麗な一軒家をバックに、八幡を中心としてその前に三人の息子達が並び、周囲を娘三人と母親達が寄り添っているものだった。英人、末博、信也。その名から分かる通り、母親達は息子の名に八の字を忍ばせた。勿論、名への願いや意味合いを込めつつだ。

 

「俺みたいに分かり易くしろよ」

「無理よ。だって、アナタは三つ使えてもこちらは一つだもの」

「そうそう。三人で考えたんだから。八って字をどう使おうって」

「私も最初は平仮名三文字にしようと思ったんですけど」

「そうだ。それで俺は中々確信が持てなかったんだ。何でいろはも漢字二文字にしたんだよ?」

 

 その問いかけにいろはは少しだけ照れくさそうに頬を掻いて八幡を見る。

 

「だって、本物の初恋の人も名前は漢字二文字でしたし」

「あっ、いろはズルい! そういうのヒッキー弱いんだから」

「そうね。それに、ある意味でいろはさんは漢字二文字の相手にしか恋をしてないじゃない」

「よし、ここまでだ。地味に今の雪乃のが俺の心に刺さったから」

 

 そんな風に会話を繰り広げる両親を眺め、子供達は心から想うのだ。いつまでも仲良くいてくださいと。だが、一部はこうも想っていた。でも、もう家族が増えるのは少し遠慮したいです、と。

 

「父様達、さすがにもうないわよね?」

「分からないぞ雪姉様。父様達、小町叔母様曰く万年新婚だそうだ」

 

 雪美と英人の姉弟は、やや諦め顔で両親を見つめていた。幸運にも英人は母親似らしく、その目付きも含めて父親の要素はクセ毛ぐらいしかない。だが、こう見えて彼は隠れプリキュアオタクである。その辺りは、やはり血は争えないという事だろう。

 

「英人にもそうやって言ってるんだ。小町叔母さんらしいなぁ」

「僕は、妹なら欲しいなぁ。あっ、でも弟でもいいかも」

 

 結花と末博の姉弟は、むしろ好意的に両親を見つめていた。末博も父親の要素は表向きクセ毛だけである。が、彼の場合は機嫌が悪い時や眠くなると目付きが父親そっくりになるという点があった。なのでそういう時が一発で分かってしまうという欠点となっている。

 

「俺は……大人しくて儚い感じの妹なら」

「うん、信也? 今の言った後、どうしてこっちを見ながらため息吐いたのかなぁ?」

「……言わなきゃ分からないのかよ?」

「よし、お説教」

 

 まいこと信也の姉弟は、見事に真逆の想いで両親を見つめていた。姉はこれ以上増えて欲しくないと思い、弟は増えてくれ(妹限定で)と思っていたのだ。そして、そんな信也だけがクセ毛も目付きも、そして考え方もどこか父親似であった。皮肉にも、小町に近いいろはの遺伝子が混ざった事で限りなく八幡に近付いたのだろう。

 

 逃げ出す信也を追い駆けるまいこ。それを止めようとする結花に笑って見てるだけの末博。額へ片手をやってため息を吐く雪美と、内心で信也に同意なのか無言で眺める英人。そんな子供達を見つめ、八幡達は苦笑するのだ。

 

「あの頃の俺達よりも大変だな」

「ええ、本当に」

「でも、何となくだけどさ。あたし達に中二とさいちゃんがいるみたい」

 

 その瞬間、一瞬だけ六人の姿がそれらに見えて、四人は思わず言葉を失う。あの頃、そう集まっていた事はなかったが、もしそうだとすれば今の見ている光景に近いものがあったのかもしれない。そんな風に思って彼らは笑みを浮かべた。

 

「さて、そろそろ飯にするか」

「うん。みんな~、ご飯にするから手伝って~」

「雪美と結花はご飯とかよそって。英人と末博は料理を運んでくれる?」

「分かりました」

「りょう~か~い」

「では、やるか」

「そうだね」

「まいこ、テーブルを拭きなさい。信也は片付け終わった後よ。いいわね?」

「「……はい」」

 

 こうして始まる家族全員での食事。一つのテーブルを囲んで料理を食べる。これまでも、そしてこれからも続く光景だが、いつか変わる時が来るのだろう。その時、子供達も想うのだ。当たり前だった日常を支えるのが、どれだけ大変かを。それを彼らが知る時こそ、親への階段を上り始めるのだろう。

 

 温かく微笑み、いつもお祭りのような賑やかさが絶えない家。そう、後年子供達は自分の子へ語るのだ。幸せの未来へ、その足で歩き続けながら……。




これにて完全終了。それなりに子供達との触れ合いやその後もイチャイチャが終わらない四人など描けて満足です。

ここまで読んでいただき本当に感謝。また機会があれば、何かでお会いしましょう。
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