変わらないもの。
最近とても変な夢を見るようになった。
でもはっきりとは思い出せない。何かがどこかへ行ってしまうような感じ。
大切なものがなくなってしまうような感じ、でもそれ以上のことは全く分からない。
深く考えるのをやめ、ふと携帯を見れば昨日変えた子猫の待ち受けといつもリサのくる時間の20分ほど前を示す時間。
変な夢を見た日は何故か起きるのが少し遅い。学校の支度と朝ごはんをさっさと済ませてしまおう。
少し遅れてしまったが、いつも通りリサが家の前で待っていた。
「おはよう、リサ。少し遅れたわね、ごめんなさい。」
「おはよーゆきな!大丈夫大丈夫、これくらい気にしないって!猫の出てるテレビでも見てたんでしょー?」
相変わらず朝から元気ね。最後の一言は余計だけれど。
「私がいつも猫を見てると思っていないでしょうね?」
「いやいや~、待ち受けが可愛い可愛いにゃんこちゃんに変わってるからもしかしたら、って思っただけだよ~」
と、私の手元の携帯を見てニヤニヤしながら言う。なぜ分かったのかと視線を下げると通知で画面が点灯していた。
「こっ、これは昨日たまたま見つけただけよ。たまたま。子猫が可愛いと思うのは人間として普通だと思うわ。」
全人類を巻き込む暴論でもあったがそこは流してくれた。
「あはは!分かった分かった☆」
朝からこんな調子じゃ一日持たないわよ...
こんなやり取りをしながら学校へ向かう。
学校に着けばクラスは別で、リサにお昼を誘われるまでお別れね。
「じゃ、またお昼休みにねー!授業中は子猫の事考えちゃダメだよ?」
最後までニヤニヤしながら引っ張ってくる。
「リサ、後で覚えておきなさいよ..」
「あはは、ごめんって~」
ウインクしながら全く反省の色を見せず教室へ行ってしまう。
子猫の事ではないが、少し考え事をしていたら午前の授業は終わった。
お昼の時間になるといつもの如くリサがお昼の誘いに来てくれる。
いつからかリサにお弁当を作ってもらうようになって、歌う時間として見ていた時間がリサといられる大事な時間になっていた。
言うまでもなくお弁当も楽しみである。
「はい、今日のお弁当!今日のは少し自信あるんだよ!」
「いつもおいしいのだけれど、今日はまた何か違うのかしら?」
「いいから開けてみてよ!」
ほらほらと急かすリサの言われるがままお弁当を開ける。
「.......っ」
「どう?どう!?上手にできてるでしょ!」
自信満々のリサには申し訳ないけれど、こんなものとても食べられたものではない。
「....リサ..こんなの食べれらるわけないじゃない....!!」
「えっ...ゆきな..?」
少し泣きそうになりながらお弁当を見ている。
そこには様々な猫型のおかずで彩られたおかずの数々。
上手に出来すぎていてとてもじゃないが手を付けられるものじゃない。
「リサ。」
「な、なに...?」
「こんな可愛い子たちを食べるなんて私には無理だわ!これを食べさせようなんてリサは鬼よ!」
リサは何が何だか分からないといった感じだった。
「えっ?な、なに?どういうこと?」
「この子たちを食べろなんて、可哀そうすぎて無理と言ってるのよ!」
突然笑い始めたリサは言う。
「ごめんごめん!ゆきながそこまで重傷だったなんて思わなかったよ~。猫の形で作れば喜ぶかなって思ったけど、ゆきなは想像のさらに上に行くね~。」
「もう知らないわ。リサのお弁当をもらうわよ!」
と奪い取ってあけたもののゴーヤチャンプルーが入っているなんて誤算だったわ...。
「にひひ~、自分で食べられないなら、こっちのおかずであーんしてあげよっか~?」
ここぞとばかりに、とっっっっってもいやらしい笑みで美味しそうな猫型のおかずをちらつかせてくる。空腹には勝てず、素直にお弁当を頂こうかと思ったら
「アタシのあーんで食べるか、そっちにするかどっちがいーい?」
さっきのいやらしい笑みのままほらほらと箸を動かしている。
今日はいつにも増して強気だ。なんだか負けたような気分だが、時間も過ぎて行くだけなので今は私から折れることにした。
「..っ!」
喋るのも恥ずかしいので、無言で目をつむり小さく口を開けた。
舌に何か当たった気がしたので口を動かそうとするとなにか唇に柔らかく温かいものが..
目を開けばどさくさに紛れて唇を重ねに来たリサが目の前に。
優しくてふわふわした安心できる匂いが香る。
「!?!?!?」
思わず飛び退いてしまう。
「り、リサ!いきなりどうしたのよ!?」
あきらかに声は上ずっていただろう。冷静でいられるような状況ではなかったから。
「あっ、いきなりごめんね!実はさ、最近...……ううん、なんでもない!今のは忘れて!」
どこか寂しそうな雰囲気だった。後半の言葉には引っかかることもある。
でも、自分勝手だと分かっていてもリサのキスは……それ以上に嬉しかった。
リサには伝えていないけれど私はリサの事が好き。
最初は音楽だけ、自分の声さえあればよかった。けれど、一人では小さくても大きくても壁にぶつかる時がある。
その時、乗り越えられたのは全部リサのおかげだった。相談に乗ってくれる度、リサも同じくらい大切なものになっていった。
立ち止まっている私の道を切り開いて手を引いてくれたリサが好き。私はリサを離したくない。伝えるならきっと今。
「忘れはしないわ、嬉しかったもの。私はリサの事が好きよ。」
「..!!ゆきな!もっかい言って!」
ものすごい食いつきようだ。だが、嬉しさ半面やはり恥ずかしい。
「い、いやよ恥ずかしい..」
「えー、一回くらいいいじゃーん!」
「もうお昼の時間ないんだからさっさと食べるわよ!」
「もー!さっきまでかわいそー、とか食べられないーとか言ってたくせに~」
ふてくされたような言葉だったが、顔は明らかに嬉しそうだった。
全然進んでいなかったお昼ご飯に手をつけはじめ、時間はぎりぎりだったものの何とか食べ終えた私たちは足早に教室へと向かう。
「ふざけていたら授業に遅れそうになるなんて...」
「まぁまぁ、少しくらいはいいんじゃないかな?」
「授業を真面目に受けないで放課後呼ばれることがあってはならないわ。最低限はやるべきよ。」
「ゆきなは真面目だな~、少しくらい力を抜かないと練習まで持たないぞ~。」
といいながら私の口に指をあてる。柔らかくて温かいリサの指。
「もう、またあとでね、リサ。」
「うん、またねー!」
午後の授業が始まって落ち着いてみれば、やはりお昼のリサの言葉が気になってしまう。
最近何があったのか、いつもより積極的だったのは最近の何かのせいなのか。
といっても、私もいきなり好きなんてどうかしてるかしら。
なんていろいろ考えていると午後の授業は短く感じた。
授業が終わり、放課後はバンドの練習へ向かう。練習するスタジオへはいつもリサと行っているが、今日は少し違った。
一緒に行くというのは変わらないのだが、今日は手を繋いでいる。
「なんで手を繋いでいるのかしら..」
「いーのいーの!それじゃあスタジオ行こっか!」
「もう、分かったわよ..」
最初は恥ずかしくて嫌だったが、それ以上の心地よさがある。守られているような安心感が。
私とずっと一緒にいて欲しい。
いつの間にか、そう強く願っていた。
するとーー
「ゆきなー?どうしたの、ずっと黙っちゃって。」
「あ、いえ、何でもないわ。」
何か、何かが頭の中に浮かんでくる。何かが遠ざかっていくような、まるで…
「夢...なのかしら...?」
「ゆきなってばどうしたのー?夢なんかじゃないよ。さっきからずっと変だよ??」
途端、力が入らなくなった。
「ゆきな!ゆきーーー」
リサの声が遠くに聞こえたような..そんな気がした。
とても暗い。でもその中に一つの光が見える。
近づけばとても温かく懐かしい感じ。どこか知っているような温もり。
触れていたい、そんな気持ちになる光に身体を寄せると光はふわふわと行ってしまう。
「...まって...」
決して早くはないはずなのに、追いかけてもどんどん離れていく。その光にふとリサの姿が映った気がした。
なんだか朝の夢のモヤはリサで、その夢がしっかりと映されたのが今なんじゃないかと思わずにはいられなかった。
無意識のうちに叫んでいた。
「まって、リサ!お願い行かないで!!...私と一緒に...いて......!!」
二度と追いつけない気がして、会えない気がして、私は泣きながら叫んでいた。
「リサ...リサ!......リサ!!行かないで...リ.......」
「ーーな!!ゆきな!しっかりしてよ!ゆきなぁ...!!」
気づくと見覚えのある部屋で私は寝かされていた。すぐ横には泣いているリサの姿。
「リ...リサ...?」
触れられる距離にリサがいることに私は安心した。もう会えないような、変な感覚がまとわりついていたせいで、泣いてしまいそうにすらなった。
リサは泣いたままの顔をあげ、私を見てはまた涙を流していた。
「よ、良かった!!起きたんだね...!」
あまり状況が飲み込めないけれど、私が何か迷惑をかけてしまったのは間違いなさそうね...。
「そんな大袈裟な反応されても…いいえ、まずは心配させてごめんなさい。それで、いきなりで悪いのだけれどなんで私がここで寝てるのか、説明してもらってもいいかしら?」
「う、うん。アタシ達放課後スタジオ練習行こうとしてたでしょ?」
「そうね」
「そうしたら、行く途中ゆきながずっと黙ったままで、話しかけたら...いきなり..倒れちゃって...っ!」
夢のようなものの内容はすごく鮮明に覚えているのに、それまでが全く思い出せない。
それにしても、突然私が倒れるなんて体調管理が甘かったようね...。
「そ、そう...迷惑をかけたわね...。」
「バンドの練習も、みんなには連絡して今日は自主練にしてもらった..。ゆきなの事みんな心配してたからね!」
「ごめんなさい...リサだけじゃなく、あこも、燐子も、紗夜も...みんなに迷惑をかけてしまって..。」
涙を拭ってリサが言う
「いいんだよ!ゆきなが無事なら!ゆきながいなかったらRoseliaじゃないんだから!!」
「..リサ、ありがとう。もう倒れたりはしないわ。」
「うん..無理はしないでね。」
「大丈夫よ。」
一呼吸ついてリサが声を出す。
「ゆきな…ひとついいかな?」
「いきなりどうしたの?リサ」
「アタシさ、つい最近変な夢を見たんだ。」
変な夢。私自身最近見ているし、さっきのも変な夢といっても差し支えないものだろう。
「変な夢…?」
もしかしたらあの…
「そう、その夢がね…」
「何かは分からないけど、遠くへ行ってしまうようなものかしら?」
確信は無かった。でも、同じ夢を見ているという気がしてならなかった。
「な、なんで分かったの!?」
「私も同じような夢を見たのよ。最近、ね。」
「ゆきなも同じ夢を...?」
「そうね。それにさっきも見てたわ。」
「そ、そうなんだ…」
「でも、さっきのは夜寝ている時に見たものとは違うものだった。いえ、正確に、かどうかは分からないけれど、はっきりとした夢、と言った方が正しいかしらね。」
「どんな…夢だったの?」
「…っ」
話そうとすると途端に涙がこみ上げてくる。リサが私にとってかけがえのない存在になってしまったからかしら…。
「む、無理して話さなくてもいいからね!!」
涙をこらえて話す。
「…いいえ…大丈夫よ。夢は簡単に言えばリサも見たよく分からない夢が鮮明になったようなものよ。」
「鮮明に…?」
「最初、私は暗い闇の中にいた。だけど、ひとつの光を見つけてそこまで行ったわ。光に触れればとても温かくて落ち着く感じだった。」
「…」
ただ無言で私の話を聞いているリサ。
「でも、その光は私から逃げるように去っていってしまったの。その光の中にはリサが見えた気がして…リサが私から…離れて行ってしまうような…っ!」
思い出しただけでもこんな気持ちに、ちゃんと目の前にいてもいつしか本当にいなくなってしまうような気がして、涙が止まらない。
「……追いかけてもっ…全然届かないような…ぁぁっ……!!」
「ゆきなぁ………っ!」
そばにいたいと思うほど
「遠くへ行ってしまうような…っ…」
行かないでと思う度
「…現実になってしまうような気がして…!!」
高揚する私の声を遮りリサが入る。
「ゆきなっ!大丈夫だよ…っ!!」
「……?」
「アタシはどこにも行かないから!今までそうだったように、ずっとゆきなのそばにいるから!!ゆきなの…そばに…いたいから…!!」
「…リサ……」
「アタシも夢を見た時、一体何だったのか分からなかった。でもね、ゆきながどこかへ行ってしまうような感覚だった…。アタシが…アタシじゃなくなっちゃうような感じで……すごく怖くなって…!!どうしてもゆきなを感じたくて無理やり近づいたりして……」
涙ながらに喋るリサの声は震えていた。
私はただ手を握った。
「!!……っゆきなの手、安心できる温かさで、すっごく好き…」
リサがぎゅっと握り返してくれる。
リサの手は何度握っても、私を連れて行ってくれるような温かさがある。
「リサがリサでなくなるなんて私にはよく分からないわ。けれど、貴女に何があろうと、貴女は私の大好きな『今井リサ』よ。それ以上でも未満でもない。」
「……っっ…」
「例えこの握る手が離れても、私達には終わらない絆がある。例えこの先目指す場所が変わってしまっても、きっとまた巡りあっていつもの変わらない景色があるわ。」
私に抱きついてきたリサはただただ泣いて、うんうん、と首を振るだけであった。
そっとリサを包み込むように手を回し
「なんて言ってはみたけれど、あなたの事、そう簡単には離さないわよ?貴女がいなくなったらRoseliaじゃなくなるのだから。」
「っっ…あははっ、離れないようにちゃんとアタシを連れて行ってよー?」
冗談混じりに言うリサの顔を上げる
まだうっすらと涙を浮かべているリサに
ーーーちゅっ……
「もちろん、離すつもりもないし、無理やり連れていくつもりよ?覚悟していなさい。」
指で唇をおさえながら、泣いていて赤くなった目を大きく開き驚いたようにこちらを見る。
しかしすぐにいつもの笑顔になったリサは言う。
「わー!ゆきなかっこいい〜!ねぇねぇ、今のもっかいやって!!」
さっきまで本当に泣いていたのかと思うくらい元気になっていた。
ふふ、リサはこうでなくてはね。
「も、もう暗くなったし夕飯でも作ろうかしら。」
誤魔化すように去ろうとするが、抱きついたままのリサを振りほどくことは出来なさそうだし、第一
「あれー?アタシがいなくてもご飯作れちゃうのー?ゆきなの手料理楽しみだな〜♪」
私は一人で料理などできない。悔しいが黙るしかなくなる。
「.....」
顔を赤くして黙ってる私の下から抱きついたままのリサが顔を寄せて
今度はリサから唇を重ねてきた。
「じゃー、一緒にご飯作ろっか!」
過ぎゆく時間の中、リサといつもと変わらない日々を過ごすことが幸せに感じる。
結局リサがリサでなくなるなんて分からなかったが、そんな日が来ようともきっとリサはリサに違いない。
確証はないが確信はある。
「もーゆきなー!ピーラーなのにどうして毎回こんなにちっちゃくなっちゃうの~!」
私が皮をむいたじゃがいもを見てリサが言う。
「私は言われたとおりにやっただけよ。文句を言われる筋合いはないわ。」
「ゆきなは少しくらい料理も練習してってば~!」
「しないわ、歌の練習時間が無くなっちゃうもの。」
「そんなんじゃお嫁さんにいけーー」
リサの言葉に重ねる。
「それに、私にはリサがいるもの。」
「..っ...ゆきな、反則!」
うるうるした瞳で返される。
「反則もなにも、私たちはずっと一緒でしょう?」
少し恥ずかしいセリフだったけれど、リサは笑顔で返してくれた。
「..そうだね!大好きだよ、ゆきな!」
私も笑顔で返す。
「私もよ、リサ。」
どんな事が起きても私たちは変わらずに歩み続ける。
二度と、愛は、滅びはしないわ。
この度は読んでくださりありがとうございます!
まだまだへたっぴですが、これから技術を磨いて良い作品を書けるように頑張ります!