ワンパンマンの世界って、神様による転生者ぐらい居てもいいよね。

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思いつきの、一発ネタです。
多分続きません。


神は死んだ

 A市における、とある高級ホテルの大広間。

 豪華な料理と酒が並べられたその場は、まさしくパーティ会場だった。

 しかし、その空間は異様としか言えない。

 何故ならそこにいる誰もがドレスコードもへったくれもない恰好をしていたのだから。

 服装に限れば、そこはコミケ会場よりも混沌とした場である。

 

「みなさん、こんにちは。本日は“第一回神様転生オリ主の会”にあつまって下さってありがとうございます」

 

 その中で特筆に値する、と言うほどではないが。

 やや目を引く程度の美少女が、そこにいる皆の注目を浴びていた。

 彼女は赤シャツに短パン、そして室内なのに何故か探検帽と大きめの背負い鞄を身に着けていた。

 

「ボクは司会進行役を務めさせていただきます、“かばん“と申します。今後ともよろしくお願いします」

 

 かばんと名乗った彼女がぺこり、と礼をすると周囲からまばらな拍手が送られる。

 彼女を見つめる視線は様々であるが、皆が話を聞こうとする姿勢だけは持っていた。

 

「さて、いきなりですが。人類の存続に関わる、重大なお知らせがあります」

 

 その言葉に対し、もしや核戦争か、と思う者は一人もいない。

 なぜならこの世界における脅威とは、“怪人”のことであるからだ。

 特撮や怪獣映画から飛び出してきたような災厄、それが怪人である。

 

「この世界は、ボクたちが居た世界の漫画、“ワンパンマン”に似た世界であると、皆さんはお気づきのことでしょうが」

 

 ここにいる彼らは、皆二度目の人生を送っている存在である。

 そして彼らは誰もが例外なく、とある国の時代の若者文化を持っている。

 “ワンパンマン”は彼らが大なり小なり知っていても可笑しくはない、そんな程度の娯楽漫画であった。

 

「この世界には、ワンパンマン。つまりは“ハゲマント“、サイタマと呼ばれる存在が居ないのです」

 

 その言葉に、あるものは顔を青ざめさせ。

 またある者は状況を理解していないのか、頭にハテナマークを浮かべた。

 

「つまりは、この世界に跋扈する災害。怪人たちに対する最大の対抗策が存在しないということになります」

 

 この世界における、唯一無二最強の存在の不在。

 それが、この世界においてどれ程の事実なのか。

 理解していない一部の者は、それでも軽薄な笑みを浮かべていた。

 

 だが、彼らもその重要さを後に知る事になるだろう。

 シートベルトの無い自動車運転が、彼らにとってどれほど致命的なのかを。

 

「でも、ボクは。だからといって、ボクたち転生者が何かする必要は全くないと思っています」

 

 彼女の発言に対して、多くの者は困惑した。

 彼らには皆、多かれ少なかれ選民思想というものがあった。

 彼らには、特殊な生まれと能力がある。

 つまり、自分たちこそが神に選ばれし英雄であるのだ、と。

 そう思うものは決して少なくはない。

 

「ボクたちは、神様から力を与えられているとはいえ、元はただの一般人です。それは今も変わらないと思っています」

 

 だが、それを彼女は否定する。

 自分たちを部外者だとすら言い切ってもいた。

 そしてそれは、この場の者にとって悪魔の誘惑でもある。

 

「この世界の事柄は、この世界の人たちが何とかするべきだと思います。この世界のヒーローは、そのためにいるのですから」

 

 仮に、災害に対して一般人が戦わなくても、それは咎められない。

 彼らにはその責任が無いし、彼らを責めるのは酷だからだ。

 軍隊や警察が戦わないのは問題だが、一般人にその縛りは無い。

 神に出会いし転生者と言えど、結局は力を持っている“だけ“である。

 例えるなら、ボクシングの選手が目の前の犯罪に立ち向かわなくても、法的には何も問題はないであろう、ということだ。

 そんな思いに、ある者はほっとした思いを浮かべた。

 

「ですけど。もし、それでも」

 

 しかし、犯罪に立ち向かわない選択しに問題があるとすれば。

 それは倫理的な問題であろう。

 つまりは力有る者の責務と言えるものだろうか。

 

「この世界を、より善い世界にしたいと思うのであれば。この世界の人に手を差し伸べて下さい」

 

 幸か不幸か、大なり小なり彼らは恵まれた力を持っている。

 明確な弱者と言う者はここには存在しない。

 彼らは皆、己の意思により世界を変えることのできる者たちではあるのだ。

 

「倒れている人を助けるだけでも。ほんの小さなことでもいいので。気が向いたらでいいので。手を差し伸べてやって下さい」

 

 彼らは全ての怪人を倒すことはできないかもしれない。

 でも、困った人を助けることはできる。

 敵を倒すことだけが、彼らの思い描いた“ヒーロー”の役目ではないのだから。

 

「それだけが、主催者であるボクの望みです」

 

**

 

 かばんの少女が皆にあいさつ回りをする中。

 二人の青年が、彼女に声をかけた。

 

「よ。かばんの嬢ちゃん。良かったぜ、さっきの演説」

「あ。ありがとうございます。そう言ってもらえると、ありがたいです」

「この世界のことは、この世界の人間が何とかするべき、か。それは私たちに対する皮肉かね?」

 

 その二人組は一見仲が悪そうであるが、それでも親しく奇妙な関係が築かれていた。

 片や褐色肌に白髪で赤いコートを纏ったニヒルな笑みを浮かべ、片や緑のマントを身に纏うイケメン。

 簡単に言うと、“Fateシリーズ“におけるエミヤとロビンフッドのコスプレさんである。

 

「い、いえ。そういうつもりで言ったのではないのですけど」

「いや、正しく賢者の言だと感心したよ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

 

 転生者は皆、好きな力を“神“と呼ばれる存在に与えられているのであるが。

 彼らは例外なく、容姿もそれに沿った者ばかりである。

 

「にしてもさー。オタクも神とやらに会ったんでしょ? どうしてそんな力を望んじゃったワケ? オレも人の事は言えないけどもさー。ぶっちゃけ、この世界に向いてないっしょ?」

 

 彼らは神と出会った際、己の力を選ぶ権利が与えられていた。

 そんな中において、かばんと呼ばれる少女の力はお世辞にも強いとは言えない。

 彼女はよっぽどの好き者か。

 彼らの中にも、そういった者がいない訳ではないだろうが、この世界でそういう選択をするのは致命的ではなかろうか。

 

「ボクはこの世界に望んで来た訳ではないので。けものフレンズの世界でフレンズになりたかったのに。それを無理やり、あの神様がこの世界に連れてきたんです」

 

 神様転生というものには、いくつか種類があるが。

 この場合、彼らが生まれる世界だけが確定していた。

 恐らく彼女はこの世界に生まれること自体を、一度拒否したのであろう。

 まあ無理はない、“ワンパンマン“の世界はそれほどに過酷な世界なのだから。

 神様転生に平穏を望むものがいても、それは何ら不思議なことでない。

 

「成程。神とやらも、何かしらの理由があるようだな」

「エミヤさんはどう思われます?」

 

 一言に神と言っても、色々あるだろう。

 それは一神教かもしれないし、閻魔大王様的な場合も考えられる。

 そんな彼女すら、力なき者を送った神とやらの思惑はいかに。

 

「恐らく、我々の使命は穴埋めだろう。それしか考えられん」

「まーそうでしょ。オレには過ぎた役目ですけど」

 

 居るはずの者が居なくて、居るはずの無い者がいる。

 となると、自分たちはその代役として用意されたのだろう。

 この場では、そうした考えが適切だと思われた。

 とはいえ、それでも色々腑に落ちないものはあるのだが。

 

「てか。紅茶(オタク)がいるなら、英雄王とかもいるんじゃないの? アレならハゲマントに比肩するぐらいだし、適任でしょ? 寧ろアレ級のがここに居ないのが不思議なくらいなんだけど?」

 

 英雄王、ギルガメッシュ。

 Fateシリーズの顔でもあり、最強の存在の一つ。

 その力を一言で言うのであれば、“ドラえもん“。

 そんな彼の力に惹かれ、彼の持つ能力を望んだ者が居ても何ら不思議ではない。

 というかそのくらい強力なものでないと、あの最強ハゲの代わりは務まらないと思われる。

 

「英雄王さんには、会ったことがあります。というか、ボクたちのスポンサーです」

 

 男二人の顔が引きつった。

 事実かばんたちの組織は、英雄王のポケットマネーによって運営されている。

 仮にも英雄王を名乗るだけの存在。

 彼にはそれだけの財力があった。

 

「マジで?」

「まあ、理解できなくはない、か?」

「一度、直接協力を頼んだのですけど。断られてしまって。実の所、“この世界のことは、この世界の人間が何とかするべき”は、英雄王さんの発言でして」

 

 ドラえもんに例えられるだけあって、英雄王の力はそれ相当のものである。

 怪人が跋扈するこの世界でも、その力は十分に通用することだろう。

 とはいえ、巨大な力を持つもののサガというべきか、その精神も普通とはかけ離れている。

 

「けっ。悪い意味で、原典(オリジナル)と同じような奴ってことか」

「そう言うものではない。本物の英雄王でもそうするだろうさ」

 

 力を持たされた人間が、それをどう活用するか。

 少なくとも、この世界の英雄王は傍観を選んだようである。

 理由はどうか知らないが、それもまた一人の人間の選択の結果である。

 

「何より、憧れの英雄(ヒーロー)の力を望んだ俺たちも、人のことを言えない存在だろう」

 

 結局のところ、彼らは皆なりきりである。

 誰かの力に憧れ、皆が個人の理由でなりきっている。

 なりきり自身がなりきりを良い悪いと断罪するなど、すごく恰好悪いのである。

 

「あいにく、こちとら元引きこもりのキモオタでね。女の子にモテて、隠れヒーローごっこができればそれで満足なんですよーだ」

「それでも十分素敵だと思います」

 

 ここにいるロビンフッドとかばんはその目的が似通っている。

 どちらも、身近でささやかな幸せを良しとしている。

 身分相当と言えるのだろうし、紛れもなく善性である。

 

「転生者の方でヒーロー活動を行う場合は、ボクの方にも申請をお願いします。資金面などで精一杯支援させていただきますので」

「ハイハイ。こんな御当地B級ヒーローでよければ、いくらでも力を貸しますってんだ」

 

 二人を観ていると、カッコイイを追及した結果のエミヤは少し己を後悔するのであった。

 自分はこの力を得るべきだったのだろうか?

 確かに、この力はカッコイイ。

 だがこの力を得たという事で、勝てもしない巨大な敵に立ち向かうことになるのだろうか?

 彼らを見ていると、自分が間違っていたかのような錯覚を覚える。

 

 しかし、自分の選択が間違いだとは思いたくない。

 それでも自分は、“正義の味方”になりたかったのだから。

 自分は、今までの自分とは違うのだ。

 

「ところで、ここに居ない所にも転生者って居たりすんの?」

 

 ふと、ロビンフッドが思ったことを口にする。

 それはこの場に英雄王が居ないことで気づいたことだった。

 周りを見れば、どう見ても怪しい監視カメラや、何かの使い魔らしきものもあるのだ。

 どうやらパーティに参加しなくても、この場の確認ぐらいはしている者も居るのであろう。

 

「はい。確認できるだけでも結構な数がいますよ。正確な数は分かりませんが」

「わかってはいたが、ここにいるメンバーは氷山の一角か。独自の活動を行っているのであれば、期待したい所だが」

 

 人間が嫌いだが、人間を助けたいと思うものはいるだろう。

 あるいは人間を信用できなくて、それでも人間を助けようとするものがいるだろう。

 彼らに協力は期待できないが、その志は十分立派ではあると思われる。

 

「まさかとは思うけどさあ。敵さん側にも転生者っていたりするワケ?」

 

 それは、一種の懸念である。

 この世界には非協力的な転生者がいて、それは放置されている。

 であれば、こちらに害を成す者がいたとしても何ら不思議ではない。

 

「残念なことに。仮面ライダーBlackと思わしき人物を確認しています」

「うわあ。なんでそんなのがいるの? 仮面ライダー名乗るなら、正義の味方じゃないわけ!?」

「そ、その。ヒーローには悪落ちとかもありますから」

「悪落ち。か。どうやら、神とやらも万能ではないようだな。我々が一枚岩ではないというのは、最大の問題だと思うのだが」

 

 もし神様転生に問題があり、それが誰の責任かといえば。

 己の責任は転生した当人がとるべきであろう。

 ただしこの場合、問題があるのは製造者だろうことは間違いない。

 

「どういうことよ?」

「私たちの神とやらは、英雄王を作るだけの技術はあっても、制御する技術には欠けているのではないか?」

 

 結局の所、世界を救うということに限れば、神とやらにはあまりやる気が感じられないのだ。

 この世界のために転生者を送り込むとして、もっと効率的な方法はあるはずだった。

 例えば、全員をあらかじめ洗脳したり、使えない者や害となる者を間引いたり。

 集団なので何かしらの統制をはかった方が、目標の成功率は上がるだろう。

 

「私たちを好きなようにさせているのがその証拠だ。まあ、分かった上で好き勝手にさせえている可能性も無きにしも非ずであるが」

 

 もしかすると、世界を救うなどという目標すらないのかもしれない。

 転生者を送り出す神は、そもそも世界がどうなろうとどうでもよいのかもしれない。

 戯れ、という場合も十分にあるのだから。

 

「しかし―。もし、英雄王が完全な力を持っているとするなら」

 

 だがしかし。

 仮に、英雄王の存在が完全であり。

 その力を完全に再現しているとして。

 

「一体、彼の眼には何が見えているというのか」

 

 英雄王には千里眼というこの世の全てを見通す力があるとされる。

 

 果たして彼は、この世界の未来に何を見ているのか。

 

「明るい未来だと良いのだが」

「そう思いたい所です」

「まあ、それに越したことはないわな」

 

**

 

 A市は、混乱の中にあった。

 怪人による活動で建物が倒れ、明確に死者も出ている。

 

 筋骨隆々の身体に二本の触覚、怪人の名はワクチンマン。

 彼は地球における人間の活動に怒り、人間とその文明を滅ぼさんとする者である。

 

「何者だ」

 

 そんな彼の前に、一人のヒーローが現れた。

 

「名乗るほどの者ではない」

 

 彼はユニフォームを着込み、ラケットを片手に持つ中学生だった。

 中学生だというのに、彼は老いによる品格というものを持ち合わせている。

 

 ただ、それだけだというのに、彼はオーラによる謎の風格を漂わせていた。

 まるで、彼にできないということは無いと言わんばかりに。

 

「ただの、テニスプレイヤーだ」

 

 その男は、恐竜を絶滅させた男と同じ構えを取っていた。



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