「それじゃあちょっと御待ちになっててください。この馬鹿を捨ててきますので」
要は米俵のように担いでいるヒカルノをバスタオルで包んで馬鹿の部分を強調しながら部屋から出ていった。きっと副所長としての責務に加えて政府からの事や所長があれだからストレスを抱えているのだろう、でなければ上司をあそこまでぞんざいには扱えまい。
「あれが所長って…兄さんこの研究所は本当に大丈夫なのか」
「俺に聞かれても…でも要さんは凄い優秀だから大丈夫なんじゃないか?」
「なんか俺、急に不安になって来た」
「倉持技研の所長である「篝火 ヒカルノ」は一応天才という区分の人間だ。まあ束と比べたらあれだが…一般的な基準で考えれば十分すぎる大天才だ」
「比較対象があれすぎませんかね」
なまじ良く顔を合わせる上に彼女の子供と共にいるからか身近に感じるが束は稀代の大天災。それと比較してしまうのは失礼というか比較にすらならない。
「一応私の同級生らしいんだがな……」
「えっマジで?」
「マジだ。まあ同級生なだけでまともに話した記憶は無いな、近くにインパクトが天災級の奴がいたからな」
「それは確かに記憶に残らないのが普通」
「だろ」
よくよく考えてみると千冬と束の高校時代というよりも学生時代はどんな感じだったのだろうか。別段今まで気にも留めて来なかったが今更ながら気になってきた。今度束に尋ねてみるとしよう。そんな話をしていると要がもう一人の所員を連れて部屋へと戻って来た。
「お待たせしました。馬鹿が漸く身体を拭き終わりましたので織斑君は彼に着いて行ってください。織斑さんと杉山君と杉山さんは一旦来賓室の方へ来て頂いても良いですか、政府の馬鹿高官が連れて来て欲しいと煩いんですよ」
「やれやれ行ってやるとするか、一夏先に行っていろ。私達は面倒事をこなしてくる」
「ああっ分かったよ」
ここで一夏と別れたカミツレ達は要の後に続いて高官が待っているという来賓室へと移動する。カミツレの場合は此方の方が本題とも言えるので行くしかない、まあ千冬もマドカもいるので心配など欠片もしていないが……今思うと二人の千冬に囲まれていると思うと少し寒気を感じるのは何故だろうか。そんな事を思いながらも到着した来賓室、扉を開ける前に要は気軽に自分に用や欲しい物があれば言って欲しいと言ってから本当に嫌そうにしながらも頭を下げて扉を開ける。中にはぴっちりとした黒スーツを纏っているいかにも堅物そうな男と女が座っていた。
「秋山です。織斑 千冬さん、杉山 カミツレさん、杉山 マドカさんをお連れしました」
「ご苦労様です。戦乙女どの、お久しぶりです」
「お久しぶりですがその名前で呼んで欲しくないと何度言えば政府は理解していただけるのでしょうね」
「何を仰いますか!貴方の威光を知らしめる名前ではありませんか!!」
「その威光を持つ本人が嫌だと言っているのですがね」
どうやら高官は千冬も知っている人物なのかやや気軽そうに話しかけてくる。女性の方は千冬を心から尊敬しているのか声を張り上げながら言うが肝心の千冬は嫌そうな顔をしながら牽制する、それに動揺しつつも高官はソファに座るように促しそれに従って座る。
「3人共何か飲み物は要りますか?」
「それでは緑茶を」
「俺もそれで」
「私はオレンジジュースで」
「分かりました」
要は頭を下げてから部屋を立ち去って行った。そしていよいよカミツレは日本政府の役人と直接話す事となった。
「本日は来て頂き光栄の極みです杉山君」
「俺は来たくて来た訳じゃないですよ。イギリス政府の人間が許可出しちゃったから来ただけです」
舌打ちをしながら高官から不愉快そうに顔を背けるカミツレに高官の二人は思っていたのと違う反応だったのか少々動揺しながら顔を見合わせ、咳払いをしながら話を切り出した。
「今回君には是非ともしたい提案があるのです、きっと気にいると思いますわ」
「君は入学から今に至るまで目覚しいまでの活躍と才能を開花させている、それは我々政府も大きく評価しているつもりだ。それでその才能を是非とも生まれ故郷であるこの国の為に使ってくれないかな」
「……何を言ってるんだあんたら。俺はもう既にイギリスの代表候補だぞ」
千冬も矢張りそのような話かと眉を顰めた。今更カミツレの力の大きさを評価したと言って取り入ろうと必死になるとは見苦しい限りだ。それにそんな事をしたらイギリスとの国際的な関係が悪化するのも分からないというのだろうか、イギリスからしたら優秀な操縦者を奪われるわけだから面白い訳が無い。
「いや君が自由国籍を取得しそれを行使すれば、代表候補という立場をそのままに他国へ移籍する事が出来る。我々には君に自由国籍を渡す準備がある、それに加えてイギリスが提示した条件以上の物を君へ渡す」
「具体的には…生涯的な身柄の保護を貴方とご家族にお約束する上に毎月お金などをお渡しします。それに加えて当然専用機の開発に学園卒業後には国営のIS企業への就職などの準備もありますわ!」
家族の安全や自分の将来への保障、多額の金の譲渡に専用機開発。成程良い事尽くめだがぶっちゃけそんな物いらない。既に自分はその殆どを手に入れている、それにお金だって雑誌への取材などで十二分に入ってきている。イギリスの代表候補になった事でイギリスからも毎月自分にも実家にも十分すぎる金が入る。それにリチャードなども其方の支援もしてくれているので金を用意すると言われても正直いらない。それに家族の安全だってイギリスの政府やリチャードも護衛などを出してくれているので無問題だ、全てにおいて遅いという他ない。両隣の千冬とマドカも呆れた表情を浮かべている。
「それが条件……?」
「はい、他に望む物があれば何なりと!!」
「はぁっ……千冬さん、俺来る意味なかったですね」
「全くだな。何を提示するかと思えば全てにおいて遅れた物しか提示していないな」
「兄さん兄さん。日本政府の言ってる事ってもう全部イギリスが叶えているよな」
「うん。しかも全部上位互換でな」
自由国籍という物はよく分からないが…本当に政府が提示してくる物は全部いらない。というか現状で全部自分が持っている物ばかりで何とも思わない。他に何かを言おうとした時カミツレの携帯から某神のマキシマムガシャットがムテキガシャットと合体した時に、神が歌うメロディが流れてくる。
「あっ兄貴だ」
「なんだその着メロ……」
「何故微妙に音痴なんだ…」
理由は単純、面白かったからである。
「もしもし兄貴?」
『カミツレ俺だけどよ、今リチャードの旦那が来てんだけどよ』
「へぇそうなんだ」
『偶然日本に来る用事があって寄ってくれたんだと、それでよイギリスでの俺達の家が出来たからって態々言いに来てくれたんだよ。何時でもイギリスに移住できるってよ』
「そりゃ良かった。んでそっちに変わりはないの?」
『ないない。偶に害虫が出るけどその始末は旦那と政府が付けてくれた護衛の人達がやってくれるしな、さっきも出たけど確り処理出来たぞ。今皆さんと飯食ってる所だ』
「分かった、んじゃ宜しく言っといてよ」
どうやら僅かながら心配していた家族の方の心配も杞憂に終わったようだ。前に連絡した時、未来のおじさんであるリチャードにお願いをしておいて正解だったようだ。実家の守りを固めて欲しいという話だったがリチャード自身は喜んで引き受けてくれた。
「話にならないな、来て損したよ」
「なっ……!?君に愛国心はないのか!!?」
「いや寧ろ俺にあると思うのかよ、俺を研究所に送って研究材料にしようとしてた国に対して」
「「―――っ!!?」」
「もう話は終わりだな、一夏の所に行くぞ」
「へーい」
「分かった」
呆然とする高官を他所にさっさと退出して行く三人、部屋を出るとそこには歩きながらも飲めるようなカップにお願いした飲み物を入れて待っていた要が待機していてくれた。サムズアップをしながら彼の案内の元で一夏の元へと向かって行った。
この後、日本政府は再びアクションを起こそうとするが束の手によって政府の汚職や違法行為などが一斉にネット上で暴露されるという事が発生した。同時に日本国首相へ束から
「今度杉山 カミツレに対して妙な事をしたら…日本が保有するISコアを全て完全停止させる」
という脅迫文が届けられ政府は慌てふためいたという。これを受けて政府はカミツレに対する行為を完全に停止する事を決定、一部は束と繋がっているのだから続けるべきだと主張したが他がそれを黙らせてカミツレへの行為は停止した。