「杉山君おっは~!」
「今日も朝走ってたね~、毎日健康的だね」
「おはよう。まあ健康のためじゃなくてトレーニングなんだけどな」
翌日、早朝のトレーニングを終えて教室にて軽く授業内容のチェックをしていると女子達から話しかけられる。先日のインタビューのコメントが好印象になったのかは分からないがカミツレもそれなりに女子達から話しかけられるようになっている。必死に自分を磨き続けていた入学当初とは大きな違いだと我ながら思う、ある程度話し掛けられる方が精神的には落ち着きが訪れるというものだ。
「あっそうだねえねえ杉山君、転校生の話って聞いた?」
「転校生って
「うん、なんでも中国からだって~」
そう言葉を漏らすのも理由がある。時期的な関係もあるがこのIS学園は特殊且つ異質な特徴を持っている為に入学以上に転入が難しい。試験は勿論各種審査もある上に国からの推薦という一番大切な物がないとそもそも転入が許可される事はない、国からの推薦を受ける事が出来るという事は即ち転入してくる生徒の存在を明らかにしているも同然である。
「という事は代表候補生という事になりますが、タイミングがあからさま過ぎますわね」
「セシリアやっぱりそう思う?」
「ええ。間違いなく」
短い言葉のやり取りで確信を持った二人は納得したように首を縦に振り互いの考えが一致している事を確認する。しかしそれに耳を傾けていた一夏が箒を伴って近づきながら一体どういう事なのかを尋ねてきた、どうやら彼らも気にはなっていたようだが箒は違ったようだ。
「ふん、どうせこのクラスに転入する訳ではないのだ。騒ぐほどの事でもないだろう」
「いえそうではなく転入して来る事、それ自体に意味があるのですよ篠ノ之さん」
「なあそれってどういう意味なんだ?」
「代表候補生を送り込む事に意味があるんだよ、今IS学園には何があるのか考えて見ろよ」
そうカミツレが一夏へと指摘する、質問するばかりでは意味がないと言わんばかりに問題を突きつけられた一夏は思考を廻らせてみる。此処はIS学園で此処には何があるか、訓練機や各種ISの鍛錬が出来る場。しかしそれなら転入してくる生徒の
「悪い、分からない」
「ハァ……貴方とカミツレさんですわ」
「へっ?何で俺とカミツレなんだ?」
「……うぉい、俺とお前の立場忘れた訳じゃないだろ?世界でたった2人のISを起動出来る男だ。明らかにそのデータか身柄目的に決まってるだろ」
「……あっそっか、成程そう言う事か」
「お前さ、もう少し自分の立場を理解しろよ」
「分かってるよその位、カミツレと同じって事だろ」
全く理解していない、ハッキリ言って
「はぁ……まあいいか、兎に角中国政府が送り込んできたエージェントって可能性は高いって事だ。まぁあからさま過ぎるから違うって事も無くは無いだろうが警戒しておくに損は無いだろう。お前は取り合えず何時も以上に注意しながらクラス代表として、クラス対抗戦について考えればいいんじゃないか」
「それもそうだな、注意しとけばいいんだろうな!よし、兎に角俺は対抗戦に専念するぞ~!!」
と意気込む一夏を思わず単純だなぁと思いつつも見つめるカミツレとまあ扱い易くて良いじゃありませんか?と言いたげなセシリアが微笑む。まあ下手に後ろ向きでいられるよりかは気分的には良いかも知れない。正直カミツレは対抗戦には出ない為余り興味を示していない。何でも優勝したクラスにはデザート半年分のフリーパスが送られるらしいが貰えれば程度にしか考えていないので貰えなくても構わないというスタンス。
「あらあら随分な意気込みね、もう勝った気でいるのかしら」
と一夏のやる気に水を横から掛けるかのような言葉が飛んでくる。それに若干ムッとした一夏は視線を巡らせるが教室の入り口辺りから声が聞こえて来る事に気付いて其方を向くと、そこにはやや小柄な少女でツインテールな少女が腕組みをしながら片膝を立てながらドアに凭れ掛っていた。
「お生憎様、二組にも昨日になって専用機持ちが登場しちゃって優勝できる可能性は一気に下落よ。残念だけど優勝は二組が頂くわよ」
「あの方は……」
勝気な発言をする少女にセシリアは見覚えがあるのか思わず言葉を漏らした。カミツレも其方へと向くが残念ながら心当たりは無い。元々セシリアを知っていたのもイギリスと接点というか旅行で行った事があるから調べただけなので他の国の代表候補生については調べていない。調べたとすれば国家代表ぐらいである。がここで一夏が知っているような素振りを見せた。
「鈴、お前まさか鈴か……?」
「そうよ、中国代表候補生、凰 鈴音。宣戦布告しにやって来たわよ」
「何カッコ付けてるんだ?全然似合ってないぞ」
「んなぁっ!?あ、ああアンタねぇ人が折角カッコ良く登場したんだからそこは上手く合わせるのが普通でしょうがぁ!?」
「いやだってお前らしくないし」
「きぃぃぃぃ!!!昔っからアンタそうよね、変わってない様で安心するようで腹立つぅぅぅ!!!!」
なにやら二人は昔からの交流があるのかそれなりに親しげに会話を行っている、中国からの来訪者の鈴は一夏の事をかなり知っているのか昔からと語っている。そうなると一夏のこの鈍さや性格は昔からという事になるのだろうか、それなら色々と苦労したんだろうなぁと思わず同情を傾けてしまった。
「おい」
「何よ!?……あ、悪の大魔王!?」
「誰が親方様だ」
鈴の背後から現れたのは我らが一組の担任様である織斑 千冬先生であった、鈴は千冬であった事を再認識すると大きく頭を下げて先程の言葉を勢い良く謝罪した。どうやら千冬の力を重々承知しているようだ、自分もあれが正しいと思う、大魔王発言は抜きにして。
「もうSHRだ、さっさと教室に戻れ」
「は、はい!!い、一夏また後で来るから逃げるんじゃないわよ!!」
「さっさと行かんと一発お見舞いするぞ」
「す、すいませんんんっっ!!」
脱兎の如く逃げ出していく鈴。恐らく昔から千冬の恐ろしさを身を持って体験していたからこその反応だろう。カミツレとしては本当に良い先生だと思っているのだが。厳しい一面はあるがその分指導は的確で褒める所は確りと褒めてくれる上に相談にも快く乗ってくれる、対応さえ間違えなければ良い美人教師だと思うが…対応さえ間違えなければ。
「あいつ、IS操縦者なんかになってたのか……全然知らなかった」
「おい一夏、あいつとは一体どういう関係だ?えらく親しそうだったが?」
「ああ実は―――」
「おい、SHRの時間だと言った筈だが何時まで立ち歩いているつもりだ……?良い度胸だな織斑、篠ノ之……!!」
「ち、違うんだ千冬姉、今すぐ席に付こうとしたけど質問来たから答えようとして……!!」
「そ、そうです、それさえ答えてくれれば直ぐに席に……!!」
「問答無用ださっさと座れ馬鹿共、それと何度も言わせるな織斑先生だ!!!!」
うむ、矢張り対応さえ間違えなければ良い美人教師だ。