IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第18話

『違う!!お前今日までどんな訓練をして来た!!』

『基礎から狂っている、なんだ我流で訓練していたのか!?』

『……一夏、落ち着いて良く考えろ。篠ノ之が2年や3年よりも上手く教えられると思うのか、束の妹とか一切関係無しにだ』

『兎に角お前は基礎訓練だ、基礎すらまともに出来んのでは技術がいる物など到底教えられん!!』

 

あの日の翌日は丁度千冬のスケジュールが空いていたので指導をする事となった。しかし千冬も学年主任なのでそれなりに忙しい立場にあり、同時にいきなり指導を頼みたいと言われてしまったので、スケジュールの調整が出来ない状況になっている。なので教える事が出来ない日は、別の先生に基礎的な事を教えてほしいと依頼した。

 

『よし5分休憩だ。さて次のは……なんだ?何、追い付けている訳がないだろう。今お前がやっているのは基礎の基礎だ、確りと基礎が出来上がっているならば上を教えるつもりだったんだがな』

『アホか。まともに基礎が出来ていないのに応用が出来る訳がないだろう。修行もせずに負荷ありの必殺技に耐えられる身体が出来ると思っているのか』

『それについては知らん、私はあいつの担当ではないからな。一度代理をした事はあるが詳しい事は山田君にでも聞け』

 

兎に角一夏は千冬の元で努力を続けた、必死に千冬の厳しい指導に負けないようにと。対抗戦までの僅かな時間とは言え集中的に時間を確保出来た千冬からのエゲツないレベルでの基礎訓練は凄まじい物であった。そのお陰でもあって当初千冬が想定していたレベルまでの基礎技術を一夏はマスターする事は出来た、出来たのだが……。

 

『な、何でだよ、なんで俺は負けるんだよ!?カミツレだってオルコットに引き分けたじゃないか!?』

『如何してカミツレがオルコットにあそこまで戦えたのか、分かるか?』

『努力したからだろ?』

『ハァ……それだけで勝てたなら苦労など要らんわ。いいか一夏、お前が凰に勝つのは正直無理だ、だから負けないように戦うしかない。基礎しか教えられていないのでな、兎に角堅実に立ちまわれ』

 

試合前にそう言葉を受けた一夏は不満とそんな事はないという思いに満ちていた。自分には千冬の教えがあるのだ、それならばきっと勝てると信じて疑っていなかった。今日までの千冬による特訓は絶対に嘘は付かないと思っている。他の先生に見て貰った時も流石千冬の弟だと褒められたのだから。きっと行けると、そして勝利して千冬を見返してやろうと決め込んでアリーナへと乗り込んでいった。

 

 

「でいやああっっ!!」

「おっとっ!!」

 

雪片弐型と青竜刀がぶつかり合い火花が飛び散った。アリーナにて行われている一夏対鈴の対決に観客席の生徒のボルテージは上がっていく。何合と繰り返させていく鍔迫り合い、一夏は千冬は心配のしすぎだと思いどんどん押し込んでいく。事実こうして自分は鈴とまともに戦えているじゃないか、やっぱり千冬姉の指導は凄いと思い知りながら出力を上げて向かっていくが、突如鈴の甲龍の姿が消えてしまった。

 

「っ!?き、消えたっ!!?」

 

いきなりの事で動揺してしまった一夏。一体如何したらいいのか解からずに軽いパニック状態に陥ってしまうが今度は背後から斬撃を受けて吹き飛ばされてしまった。それを制動を掛けながら回転して停止するが背後には先程消えた鈴の姿があった。

 

「い、何時の間に背後に!?」

「やれやれやっぱりね、アンタ基礎しか練習しきれてないわね」

「くっなんなんだよ今の!?」

 

構えを取るとその直後、凄まじい衝撃が身体を襲ってきた。見えない何かに殴り飛ばされたかのような一夏は壁まで吹き飛ばされてしまった、先程から驚きの連続でもう何がなんだか分からなくなってきている。それでも鈴は猛攻をやめる事なく再び接近して来る、そして―――三度姿が消えた。

 

 

 

「な、何なのだあれは!?」

 

ピット内のリアルタイムモニターにてそれを観戦していた箒は感情を驚きに染めて叫んでしまった。先程から一夏を相手にしている鈴が時折姿を消してしまっている、そして背後や相手の死角に回りこむと鋭い一撃を加えていく。流石にそれは分かっているのか防御を固めているが翻弄されているには変わりはなかった。それを見つめたセシリアは答えを知っていたようだった。

 

「遂に出しましたわね、あれこそ彼女が代表候補の座に至る事が出来た真の理由ですわ」

「真の、理由……だと?」

「やっぱり奥の手って奴があったのか。幾ら才能があったとしても僅か数年で代表候補の座に至るなんてないとは思ってたけど、今の動きの事かセシリア?あれって瞬間的に出力を爆発的に上げただけじゃないよな」

「はい、あれは彼女が最も得意としている操縦技法で通称『超速零速』と呼ばれております」

 

中国の麒麟児こと凰 鈴音が代表候補の座を掴み取れた真の理由、それは卓越したISの操縦技術ではなく出力調整のスロットルワークである。高い操縦技術に凄まじいスロットルワークが加わった末に発動されるのはISの基本でもある完全停止の応用技とも言える技法、そして鈴が編み出した必殺技とも言える操縦技術であった。それこそ通称『超速零速』と呼ばれる技術で正式名称を『最速低速』。

 

これはスピードを瞬間的にMAXの状態へ移行させるだけではなくZEROの状態へとさせる技術、この技術は急加速技術の最高峰とも言われている物であるが、それでもある程度の速度から一気にMAXに持って行くのが精一杯である為、鈴はその先を既に行っている。これらを活用した戦闘では瞬間的にISのハイパーセンサーでも反応をロストしてしまう。これを接近戦闘で用いた場合、相手は瞬間的に消えたと錯覚する上に相手の背後や有利な場所を取る事が可能になる為、速度を重視する国家代表は『最速低速』を習得している場合が多い。イタリアの代表や千冬も習得している事で有名。

 

「しかしそれらはあくまで20~30から100にするだけですわ。彼女の場合は0から100へを可能にしてしまっています」

「おいおいそれって……ぶっちゃけ近接戦闘じゃ無敵に近いんじゃ……」

「例え鍔迫り合いの状態でも即座に移動して攻撃、それも彼女の得意技ですわ。そしてそれをストップ&ゴーを繰り返す事で相手のISに一時的に存在を表しては消してを繰り返し、ハイパーセンサーに誤認を起こさせ擬似的な分身を作り出すと言った事まで出来るとか」

「……相手したくねぇ」

 

それにはセシリアも同感だろう。彼女の場合は射撃主体だがそれでもそれを使われてしまえば偏差射撃で当てる事も難しくなってしまうので非常に辛い。だが近接の場合はもっと酷い事になるのは明白、カミツレもどうやったらそれを破ったらいいのかは思いつかない。

 

「弱点なのは開始直後の使用は出来ず、ある程度機体を暖めないといけない事と高い集中力を要する事ですわね」

「勝つには速攻しかない訳か……でもあの見えない攻撃がそれを未然に防ぐと」

「第三世代型兵装『衝撃砲』ですわね」

 

甲龍に搭載されている第三世代型の兵装であり見えない何かによる攻撃の正体、それこそ第三世代型の甲龍に搭載されている『衝撃砲』である。イギリスではBT技術が率先して研究されているのと同じように世界各国はそれぞれの個性のような技術テーマを決めている、中国が推進しているテーマは『空間圧縮』である。

 

衝撃砲は空間自体に圧力を掛ける事で砲身を生成し余剰で生まれる衝撃そのものを砲弾として打ち出す事が出来るように開発が行われている。これの利点は砲身は空間を圧力を掛ける事で作り出すので射角がほぼ制限無しで打てる、真上や真後ろに真下までに展開して打つ事が出来る。唯一の欠点は砲弾の威力程度でそれ以外の欠点は見付からない凄まじい性能となっている。

 

「これが中国の麒麟児、凰 鈴音ですわ。熟練した代表候補生でも勝ちは中々拾えません。まして織斑さんでは……」

「うーむ勝つには本当に速攻か超反応位しかないんじゃ……」

 

それらを聞いて箒の顔色はどんどん青くなっていく。それでは本当に一夏に勝ち目なんてないじゃないかと。そう不安を抱えていた時、それらを全て吹き飛ばすかのような衝撃がアリーナ全体を強く揺さぶった。


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