IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第194話

「奴め……漸く見つけたか」

 

管制室にて試合のジャッジも兼ねている千冬はモニターに映し出されている自分の教え子と戦っている一夏の姿を見て、不意に口角が上がった。現役時代に千冬は剣に様々な物を持たせてそれを振るい、結果として頂点となった。しかし、その中で唯一不満足だったのが重さだった。ISのパワーで振るえば生身の時よりも遥かに威力は出るが重さを如何しても再現しきれなかった。それはISが常に浮遊しているが基本となっている事と専用機の出力不足が原因だった。

 

「はえええっ……凄いですね織斑君……」

「まだまだ荒いが、重さと破壊力は一級品だな」

 

一度重さを如何しても剣に持たせたくて「薩摩示現流」の道場を訪れて頭を下げて体得したがそれでも出来なかった重い一撃。それが機体性能が原因だと今こうして思い知らされる、これも時代の流れという物なのだろうか、自分に出来なかった物を弟が体得しそれを武器にして戦う。嬉しいような複雑な気分になってくる……。

 

「でも、凄いですね。ボーデヴィッヒさん相手に此処まで戦えるなんて……」

「近接戦ならば近い分「AIC」を諸に受ける確率が上がるが怒涛の猛攻で集中させないようにしている、まあ言ってしまえば唯のゴリ押しだが……単純な分それを破るのは難しい」

 

最も警戒すべきであろうそれを封じるには単純な手、それを使えないほどに集中させればいい。逃げたくても逃げられない、反撃したいのに反撃できない。勢いが付いたそれを止めるには非常に難しくラウラも「プラズマ手刀」での対応に完全に入ってしまって「AIC」での拘束等考えなくなって、いや考えられなくなっている。刀のぶつけ合いに全神経を向けてしまっている。

 

「お前はそれでいい一夏―――だが、ラウラにはそう簡単には勝てんぞ。もう直ぐ、入るからな」

 

 

「チェエエエエストォォォオオオ!!!」

「ァァァァアアアアア!!!!!!」

 

ぶつかり合うたびに空気が悲鳴を上げるかのように歪む、音速越える時には壁を破るという。それが目し出来るかのように空気が渦巻き、激突しているのが誰の目にも明らかになっている。剛剣の重撃は留まる事を知らずに奇声にも聞こえそうな裂帛はアリーナ中に響いて行く。

 

「クァハハハハハ!!!いいぞ、いいぞ一夏。お前が此処までやるとは思いもせんかった!!楽しいぞこの戦いぃ!!」

「チェエエリヤアアアア!!!!!」

 

最早人語を返せぬようになっているかと錯覚するかのような、人の心を揺さぶるかのような裂帛にラウラは口角を上げる。言葉にこそしないがその表情と目で分かり、彼も自分と同じ心境にあり心行くまでそれを堪能している。

 

「私も、全力で応えなければならんだろうなぁぁあっっ!!!」

「デェェエリャアアア!!!」

 

大上段から振り下ろされた一撃、それを残った「ワイヤーブレード」を束ねるようにしながら防御を行う。だがそれでも威力を殺し切る事は出来ずに全てを両断してラウラへと「雪片」が迫って行く。だが、同時に下から拳が飛来して一夏の顎を捉える。両断する際にワイヤーが剣の勢いを殺した事で僅かに時間に誤差が生まれた、そこへと拳を放った。

 

「がっ……ッッ!!!」

「ちぃっ!!」

 

クリンヒットした拳は彼を吹き飛ばしたが、一夏の片腕はラウラの腕を掴んでいた。そして同時に腕に装着されている腕部バルカンが向けられ火を吹いた。それらの弾丸は「ワイヤーブレード」の根元を捉えた、同時に「ワイヤーブレード」を完全にパージしつつ回し蹴りで一夏を吹き飛ばした。瞬きすら許されない攻防に誰もが息を飲んだ。

 

「フゥゥゥゥ……」

「クゥゥゥゥ……」

 

排気音にも似た声、溜まった空気を吐き出しつつも互いを睨み付ける。そして同時に笑いが込み上げて大声を出して笑った。

 

「クァハハハハハッッ!!!一夏、お前は如何してそんなに面白い!?急に面白くなりすぎた」

「そっちこそ、なんだよ何時もは「停止結界」で俺をボコってたくせに今日はそうはしないのかよ?」

「何、お前がさせてくれないのではないか。全く乙女の動きを制限するとはな」

「ラウラが自分の事を乙女とか……全然似合ってないぞ」

「分かってるから態々言うな」

 

剣を手首で回しながらギアを調整する一夏、彼もまさか此処まで戦えるなんて想像もしていなかった。だがしかし重さを体現する剣はまだまだ未完成でこの威力、完成させたらどれほどの威力になるのか今から楽しみになった。

 

「さてと、そろそろギアを上げて行くかな。いい加減、身体が温まってくるからよ」

「そうなのか、では私も……」

 

そう言うとラウラは顔に手を掛けると―――そのまま付けていた眼帯を外して投げ捨てた。その下からは赤い右目とは違い金色に輝いていた。彼女が眼帯を付けていたのはこの目を隠すだけではなく、これがスイッチを入れるサインだから。途端に切り替わって行く頭の中、より鮮明化されて行く周囲の景色。装甲についている埃の粒さえも感じ取れそうなほどに感覚が鋭敏に切り替わって行く。

 

「これからが私の全力全開だ、これは私なりの敬意と賞賛だ。―――ついて来れるか」

「……着いて行ってやろうじゃねぇか、それがラウラの敬意に対する答えだ!!」

「嬉しい事を言ってくれるな、では」

 

―――瞬間、ラウラの姿がブレた。

 

「消えッ!!?いやまさか!!?」

 

背筋に走った寒気は嘗て鈴と対戦した際に背後を取られた物に似ていた。それに任せるように背後を向こうとすると同時に背後からの警告が鳴った。剣を向けて防御を取るがそれをすり抜けて顔面に迫る拳が見えた。

 

「―――本気でお前を潰す」

 

拳が直撃した瞬間、咄嗟にバックブーストが掛かった。鈴対策に特訓していた背後を取られた際の戦法が役に立った、拳の威力を殺した。咄嗟に反撃に転じようと剣を構えるが、即座に今度は「レールカノン」が向けられ火を吹いた。弾丸は正確に「雪片」を捉えて爆発した。手放しこそしなかったが腕が持って行かれそうになる程に腕が後方へと伸びていく。

 

「グゥゥッ!!!」

 

それでも身体を回して追撃の拳打を相殺しながら「後方瞬時加速(バック・イグニッション・ブースト)」で一気に距離を稼ぐ。が、それを読んでいるかのように連続で「レールカノン」が放たれてくる。一気に後方に飛ぼうとした為に直線的な動きしか出来ない技をしてしまった事が仇となった。

 

「チェエエストォォォッ!!」

 

それでも無理矢理体勢を整えながら抜刀術の勢いで迫り来る弾頭を切断して防御を行う一夏、危機を超えたと思った直後にまだまだそれは迫っていた。今度は「レールカノン」を発射した際に排出された空薬莢を蹴り飛ばし、それを武器として使ってきた。剣を振り切った直後のタイミングに合わせた物、回避も対処し斬れなかった一夏はそれをまともに喰らってしまうが大したダメージにはならないが、再びラウラが消える。

 

「こ、これってまさか「個別連続瞬時加速」!?」

「―――私でもまだまだ成功率は45%、今日はツいているな」

 

頭上からの反応、そこには「プラズマ手刀」を構えたラウラが笑っていた。一夏は一瞬目を見開くが直ぐにまいったなと困った表情をしながら振るわれた手刀を受けた。そして同時にアリーナ中に響くブザーが鳴った。

 

『白式、SEエンプティ。よって織斑 一夏 対 ラウラ・ボーデヴィッヒ、この試合はラウラ・ボーデヴィッヒの勝利とします!!!』

 

勝敗が、決した。

 

 

織斑 一夏 VS ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

注目の一戦とされていたこの試合は、一夏の敗北。ラウラの勝利という形で閉幕した。




妻「そう言えば一夏の白式って原作だと進化してますよね」

私「ああ、雪羅って奴になってるね。それが?」

妻「この作品の一夏って何時進化するのかなぁって」

私「分かったら面白くないじゃん。もしかしたら進化しないかもしれないし」

妻「そうですね。進化すると思ってクリムガンを育て続けた貴方が言うと説得力が違いますね」

私「やめて」

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