「いやだからさ、そこはこういう風にしたんだよ、そうしたらロスも効率も段違いな訳」
「成程……でもそれだと冷却システムに問題が出ないの?」
「全然出ないよ、ちょっと手を加えてやるとさ」
「ふむふむ成程……あ~目から鱗だよ」
束きっての願いでアリーナへと移動した一同、しかし肝心の束はピット内でカミツレの世界の束と何やら論議を交わしていた。今開発中の新技術の意見を聞いてみた所、既に完成されたと言うのでどうやったのかを聞いているらしい。一夏と織斑と違って仲良くしながら理論的且つ理性的なやり取りが続けられている。元々束は自分の事をよく理解しているから、とも言える。が暮らしてきた過程が違えば変わるのは人間、意見を交わしてみれば自分では考え付かなかったものがボロボロと出てくるので此方側の束としては非常に有意義な時間になっている。
「にしてもさ~こっちのち~ちゃん、アリーナ使って良い訳?」
「問題ない。元々此処は一日中私が貸し出し許可を出して一夏達が特訓に使う予定だった、まあそこにお前達が来た訳なんだが……」
「あ~成程……」
「ねぇねぇ此処は如何するの?隕石衝突時を想定した時の装甲内部の緩衝材」
「それはもうさ、束さんは装甲自体を緩衝材にしちゃったね」
「なんと!?その発想はなかった!!?」
非常に楽しそうに言葉を交わしている二人の束だが、篠ノ之は恐る恐ると声を掛けて言った。
「あ、あの姉さんは見ないのですか?一夏同士が戦うんですよ?」
「えっ興味なんてないよ。だって見たいのは杉山君とカチドキが戦う所であって、別世界同士のいっ君の戦いが見たいって言った訳じゃないし」
と軽々と言ってしまう姉に言葉に詰まった箒、本当はカミツレと織斑が戦うはずだったのが……それに対して一夏がストップを掛けたのである。自分に勝てない程度の実力しかないのにカミツレに勝とうなんておこがましい、まずは自分に勝つ位やってみろと挑発したのである。すると織斑は面白いようにそれに掛かって自分が自分に負ける訳ない!!と言い切ってそれを受けてたったのである。篠ノ之としても自分の世界の一夏が勝つと信じて疑っていないが、カミツレに抱き付いている束も全くと言って良いほどに興味を示さなかった。
「束さんも別段興味なし。だってさ―――こっちのいっ君が私の世界のいっ君に勝つとか有り得ないから」
「同じく~」
と強い確信と共に言い放った言葉は篠ノ之達に疑問を思わせると同時に怒りを買ったのか、顔を赤くしながら強く否定した。
「何よ二次移行も出来て無い一夏に、アタシ達の一夏が勝てないって言いたい訳!!?」
「幾ら篠ノ之博士と言えど、それは看過出来ませんわ。一夏さんは様々な苦難を打ち払ってきたのです。その結晶こそ二次移行なのです!!」
「そうだ別の世界の姉さん!!一夏が負けるなんて有り得ん!!!」
自分たちの一夏が負けるなんて事は有り得ないと信じて疑わない箒、セシリア、鈴に思わず溜息が漏れた。確かに二次移行は相応の経験と実力などがあってこそ成されるISの進化。それを成したのであれば確かに相応の苦難を超えてきたのだろう、だがしかしそれが本当に彼の力で齎された物なのだろうか。それに―――本当のその進化に見合った力を持っているのだろうか。
「やれやれ……ラッキーパンチが連続で決まって生き延びられた程度で調子に乗るなんて呆れるねぇ……。ねぇカッ君、いっ君が勝った後に戦うんでしょ?それならSEの回復に時間掛かるだろうから戦ってあげてみてくれる?それで君が敬愛して尊敬してる師匠達から貰った物を見せ付けてあげなよ」
「良いですよ。それ位だったらお安い御用ですよ」
「はぁぁ……それが二次移行した「白式」ねぇ……」
「如何だ。これが俺の進化した「白式・雪羅」だ!!」
アリーナにて立ち会っている一夏と織斑。一夏は徐にこの世界の自分が進化させたと言う「白式」を目の当たりにする。まず、目を引くのは増設されているスラスター、あれならば相当な推力を得られる故にかなりの速度が出る事だろう。
そして肥大化しているかのようにごつくなっている腕が目を引く、あれが進化した末に辿り着いた物なのだろうか。来たばかりの時にカミツレが弾いたエネルギー、あれはあの腕から放たれた荷電粒子砲だと言う話だ。他にも格闘用に零落白夜のエネルギー爪、防御用として零落白夜をバリアシールドとして展開可能だと自慢げに語っていた。それらを加味して今見た思った事があった―――更に高燃費になっているのではないかと。
「お前は体験してないだろうけどな……俺は福音を止める時、死に掛ける目にあった時に進化して倒したんだ!!お前なんかとは、超えてきた戦いが違うんだ!!だから、俺の方が絶対に強い!!!」
と自慢げに握り拳を作って語っているが……一夏は別にそんな事は如何でもよかった。何故あんな進化になったのかと酷く疑問に思う、まあそんな事はもう如何でもいい。主な戦い方を決めた一夏は首を鳴らしながら冷笑するかのように向こうの自分を睨み付ける。そして、試合開始のブザーが鳴り響いた。
「んじゃ、行くぜ俺ぇぇぇぇっっっ!!!!!」
と先に動いたのは織斑、いきなり推力全開でこちらに接近して来た。その速度は「白式」を遥かに超えるスピード、あっという間に迫ってきた織斑はエネルギー爪を展開して殴りかかってくる。がそれは一夏に当たる事はなかった。
「えっ!!?」
「よっこら……ショットッ!!」
フッと身体を沈ませるかのように僅かに下に動きながら一夏は一歩踏み込んでクローの内側に入りながら、身体を縦回転させて蹴りを肘の内側に入れると回転の勢いのまま攻撃を受け流しつつも真下の地面へと織斑を弾丸を放つかのように蹴り飛ばした。予想もしなかったことに織斑は一瞬判断が遅れてしまい、地面にぶつかりそうになるが急制動を掛けながら上へと体勢を取り直す。距離があるからか、織斑は向き直りながら「雪羅」にある荷電粒子砲を放った。再び接近するよりはいいだろうと思ったのだろう。
「おいおい、撃つなよ」
一夏は大出力なそれを簡単に回避、すると織斑は体勢を立て直し終わったのか一気に接近してくる。今度はクローではなくブレードを握り締めたまま突進してくる。
「でぇぇえりゃああああ!!!」
ただ真っ直ぐ、真っ直ぐと向かっては剣を振り続けている。剣道の形のような物を取ってはいるが、それでも力押しに見える。それでも二次移行した事で性能が大きく向上している「白式」のスピードにやや圧倒されながらも一夏はそれらを確かに避けて行く。
「くそっ何で……避けんな!!?」
「攻撃は避けるだろ、普通」
「解ってんだよそんな事ッ!!」
「だったら、俺に当ててみろ」
軽々と避け続けていく一夏に次第に焦りを感じ始める織斑、雪片を必死に振るい続けて捉らえようとするが全く捉えられない。
「こんのぉぉぉっ!!」
「おっとっ!!」
大上段から一気に振り下ろされたそれを織斑の腕を掴む事で受け止める一夏、腕を掴まれた事で剣が全く動かなくなった織斑は必死に腕を動かそうとするが一夏もそれを止めているので全く動かない。しかし流石に出力の差があるので押され始めてきている、が、突然一夏の腕から光が放たれ複数の銃弾が織斑に浴びせかけられた。
「うわっなんだっ!!?」
「隙有り、っと!!」
腕部に装備されている機関砲が発射された事で驚いたのか織斑は後退するが、それに好機を見抱いた一夏は続けて左腕の散弾が装填されている機関砲のトリガーも引いて弾丸を浴びせかける。それに怯みながら大出力を生かして一気に後退して行く織斑を追うのをやめて、遂に雪片を抜く。織斑は驚きながらも剣を握りなおす。
「な、なんでだ!?まだ二次移行もしていないのに他の武装があるんだよ!?
「埋まってるよ。だから腕その物に銃を付けてんだよ、後付けじゃなくて外付けだ。流石に剣一本じゃ余りにもきつ過ぎるんでな、カミツレとか色んな人に相談に乗って貰って倉持技研で改修して貰ったんだよ」
自分にはなかった射撃武器の存在、自分も二次移行するまで手に入れる事が出来なかったのにそれを手に入れている。自分である筈なのに全く違う、それがどこか嫌になっている。それを思わず言葉にしてしまった。
「何で、何でお前は俺と違うんだよ!!同じ俺だろ!!?」
「同じじゃねぇよ、一緒にするな」
強く問いただそうするような物言いをする織斑を軽くあしらうかのように跳ね除けると、遂に一夏が本格的に動き出した。一瞬、身を沈ませるかのような動作をしたかと思えば一気に織斑へと接近して行く。性能差がある筈なのに全く同じ性能のISを相手にしているかのような速さに織斑は目を見開いた。そして直後に襲ってきたのは―――凄まじい気迫の篭った裂帛であった。
「チェエエエエエエストォォォ!!!!」
「うわぁあああああっっ!!!???」
その迫力に身の危険を感じたのか、咄嗟に織斑はそれを「雪羅」で受け止めたが全く防ぎきれずにそのまま吹き飛ばされていく。必死に機体の制御を行って体勢を立て直しに掛かったが織斑が次に見たのはたった一撃で削られたとは思えぬほどのSEの減りと深々と残された剛剣の重撃の傷跡だった。それと同時に腕部異常の表示が映し出され、荷電粒子砲とクロー使用不能という結果が知らされる。
「う、嘘だろたった一撃で!!?そ、それにこれって「零落白夜」じゃない!!?」
「ふぅぅぅぅっっ……」
「な、何をしたんだよ!!?た、たった一撃でこんな事になるなんて有り得ない!!!」
「ならお前のその傷は何だよ、幻か。それとも夢か?」
一夏の言葉に息を飲んだ、夢や幻な訳がない。現実として「白式・雪羅」が明確なダメージとしてそれを表示して実際に唯一の射撃手段と格闘攻撃手段が使えなくなっている。それが現実だと痛々しく訴えかけてくる。そして、同時に目の前にいる男が本当に自分なのかと疑わしくなってきた。まるで千冬の如き凄まじい一撃は織斑の戦意を一気に殺いでいた。
「何で、何で……!!?何でこんなに違うんだよぉ!!!」
「―――簡単だ」
一夏は瞬時に距離をつめながら冷たい視線を投げかける、それに怯えるように声を上げる織斑を完全に無視しながら雪片を振るう。それは織斑にクリティカルヒットしながら絶対防御を発動させる程に重い一撃だった。それにより、元から高燃費ゆえに削れていたSEを一気に削り、0へと導いた。
「俺は恵まれた、その上でカミツレに負けたくなくて努力した。それだけだ」
そう言い残して一夏はピットへと戻って行く、自分を後ろから見つめるもう一人の自分を置き去りにして。