IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

26 / 341
第26話

「では本日は格闘及び射撃を含んだ実践訓練を行う。くれぐれも怪我に注意し行うように」

『はい!』

 

授業開始時間となり一組と二組の合同の授業を千冬が始める。教官とラウラに呼ばれていただけあって妙に生徒を束ねる姿が似合っていると思うカミツレであったが、やや表情に陰りがある。主にさり気無く、意識しなければ分からない程度に胃を押さえている。ストレスなどで胃が大変なのだろうか……。

 

「今日はまず戦闘を実践してもらおう。そうだな……オルコット、凰、杉山は前へ出ろ。鈴音の方だ、乱音はそのまま並んでいろ」

「「「はい」」」

 

指名された三人は前へと出て行く。その途中セシリアがカミツレの方を見てるとなにやら奮起したような表情になった。乱の事で危機感を募らせているのか、ここで良い所を見せ付けようと考えているのかもしれない。一部の生徒はカミツレも呼びだされた事に驚きつつ、矢張り彼は凄いんだとヒソヒソ話をしている。

 

「それで先生、相手は誰ですの?順番にやっていては時間が足りなくなってしまうと思いますが……」

「今回はタッグを組んでやってもらう。オルコットは凰と組め」

「ええっ!?し、しかしそれではカミツレさんは一体誰と?!」

「ま、まさか織斑先生とか言いませんよね……?」

 

セシリアはタッグと聞いて真っ先に、意中の彼と組む事を考えたのにあっさりと却下されてしまった事に焦った。しかもタッグというのにもう一人足りない、そこで鈴はまさか千冬とカミツレは組むのでは…と、ある意味最悪な想定をしてしまった。それを聞いた途端にセシリアも顔を青くしてしまった。カミツレはそれは千冬の動きを間近で見れるから良いかもと考えたが、千冬はそれを想定していなかったのか意外そうな顔を作る。

 

「ふむ、それもありだな……。そうしてみるか?」

「「いやいやいやいや絶対勝てませんよ!!?」」

「何を言う、これからやるのは戦闘の模範で勝ち負けは関係ない」

 

それを言われて言いよどむ。しかしそうだと分かっていても千冬と相対したくはないと考えてしまう。まあ分からなくもない心理ではあるが。千冬は少し笑ってから、残念そうにしながら、カミツレのタッグは私ではないという。それに思わず二人は胸を撫で下ろすがそれでは一体誰なのかと疑問に思うが、そこへ真上から声が聞こえてきた。

 

「お待たせしましたー!あらよっと!!」

 

空中で見事なロールを決めながら着地を決めたのは、教員仕様にカスタムされているラファールを纏っている真耶であった。

 

「随分時間が掛かったな、何かあったか?」

「いえ、ちょっとチェックに手間取りましてね」

「まあ無問題ならいいが……オルコット、凰。お前達の相手は杉山と山田先生のタッグだ」

 

生徒達はそれを聞いてある意味で、納得が行く組み合わせだと思った。セシリアと鈴は経験が豊富な代表候補生だが、一方のカミツレは経験も浅い上にカスタムが成されているとは言え第二世代型のIS。それらを考えると教員がタッグパートナーになるのは合点が行く選出である。

 

「(という事は……師弟であるお二人がお相手という事ですわね…)」

「ふぅん……中々手強そうじゃない。カミツレアンタとは、戦って見たかったのよ」

「まあそう言う事だが安心しろ。オルコット、凰、お前達は負けるぞ」

 

そう断言した千冬に二人は顔を鋭くした。あからさまな挑発だがそれが挑発では収まらない物であるのも事実。カミツレは努力し成長し続けているのに加えて、パートナーは教えを請っている真耶。互いの呼吸や戦法は同一と言っても過言ではないのでコンビネーションという点に置いても完璧と言えてしまう。そして、こちらは一度もタッグでの訓練をした事がないので互いの呼吸が分からない。だが、簡単に負けると言われて引き下げれるほど、二人のプライドは低くはない。

 

「では、準備は良いな」

「カミツレ君、気を楽にしてくださいね。気負わずに、普段通りで」

「はい、先生こそ緊張しないでくださいよ?」

「負けませんわ!」

「お手並、拝見と行こうかしらね」

「では、始め!!」

 

千冬の合図と共に飛翔する四人だが、セシリアや鈴よりも真耶とカミツレが一歩早く飛び出した。カミツレの手には二本のブレードが握られ、真耶はライフルを握りつつ互いの間合いを意識しながら飛翔を続ける。セシリアと鈴は取り合えず互いが得意とする間合いを取っていく。

 

「カミツレ、早速行くわよ!!」

 

先手を取ったのは鈴。得意とする「超速零速」はまだ機体が温まっていない為に使用出来ないのでその手に青竜刀を構えながら突撃してくる。それを援護するように背後ではライフルを構えたセシリアが待機している。それを確認するとブレードを構えて青竜刀を受け止めるが、その時の衝撃を利用し一気に後退する。

 

「逃がしは……ッ!?鈴さん退避を!!」

「えっ……うッそ!?」

 

後退と同時にそこへ投げ込まれたのはグレネード、それも複数。真耶によって投擲された物だがこれでは確実にカミツレも巻き込んでしまう。鈴は慌てて後退するが鈴は再び驚きに目を見開く。

 

「セイヤァァ!」

 

カミツレはブレードを柱にするかのようにしながら、回転しグレネードを蹴って鈴へと飛ばした。驚愕しながらも反射的に飛んできたグレネードを跳ね除けようとするが、直後にカミツレがブレードを投擲する。それによって咄嗟にブレードを弾いてしまった、グレネードは同時に点火し爆炎を巻き起こす。

 

「キャアアッ!!」

「隙あり!!」

 

弾き飛んでしまったブレードを真耶は回収しながら『瞬時加速』で一気にスピードを上げながら鈴へと斬撃を浴びせると共にセシリアへの方へと牽制射撃を行った。それを回避しながら真耶を狙うが、トップスピードで移動する真耶を捉える事は出来ない。

 

「くっ……やって、くれるじゃない!!」

「そりゃどうも!!!」

 

爆発によって体勢を崩した鈴だが、目の前まで迫り残ったブレードを振り上げたカミツレへと見事に反応して、斬撃を受け止める。しかしそのまま押し込まれていく。

 

「鈴さん!」

「おっとっ!!」

 

真耶へと攻撃を中断し鈴への援護を行うセシリア。それをシールドで防御しながらも鈴から後退する。それに合わせて体勢を整えようとするが、そこへ三度グレネードが飛来してくる。

 

「ま、またぁっ!?」

 

思わず防御姿勢を取ってしまうが、何時まで経っても爆発しない。グレネードは点火状態になっていなかった、囮として使用されていた。それに遅れながら気付いた鈴はセシリアの方へと向かうカミツレに気付き、『瞬時加速』でそれを阻止しながら、衝撃砲でカミツレを吹き飛ばす。

 

「ぐっ!!」

「漸く一本!!」

「いえ、それはこちらの台詞です!!」

「えっきゃああ!!」

 

気付けば背後から迫ってきていたセシリアが自分にぶつかっていた。

 

「ア、アンタ如何したのよ!?」

「先生の攻撃を回避していたら誘導されたようですわ……!」

「うっそ全然気付かなかったわよ!?」

「セイヤァァァァッッ!!!」

「「ッッ!!?」」

 

その瞬間、聞こえてきたのはカミツレが気迫と共に吐き出す言葉だった。思わず迫ってくるのだろうと思ったがそんな事はなくカミツレは移動せず、こちらにピースサインを送っていた。それに一瞬呆気に取られ、隙が生まれた。そこへ真耶が二人の前からありったけの弾丸を打ち込んでいき、最後にはカミツレのブレードで二人を同時に切り裂いた。

 

「「キャアアアア!!!」」

 

二人の少女は共に悲鳴を上げながら落下して行き、グランドに墜落するように降下した。そこで千冬が終了の判定を下し、模範戦闘は打ち切りにされた。

 

「いったたたたっ……マジでぇ…完敗じゃないアタシ達……」

「コ、コンビネーションがなかったとはいえ、此処まで圧倒されるとは……」

 

二人はこの結果を受け止めつつも驚きを隠せなかった、自分たちとカミツレの実力は完全に明らかで、それをカバーする形で真耶が入っていた筈…しかし思い返してみればカミツレも十二分に戦力として機能していた。実力を補って余りあるほどの真耶との抜群のコンビネーション、それに感服せずにはいられない。降下して来た二人はハイタッチをしながら笑みを浮かべていたが、如何にも怒りは沸かずに、素直に参ったと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

「やれやれ…あんだけ自信満々だったのに完敗じゃないのアタシ達、うっわダッサ」

「しかし、あそこまで手玉に取られてしまうなんて……私達もまだまだ、という事ですわね」

「いえお二人とも十分強かったですよ?錬度も高いですし。でも今回は互いの呼吸を合わせられなかったのが大きな要因ですね。タッグマッチは個人ではなくタッグの相性とコンビネーションが物を言いますから」

「真耶先生が上手く合わせてくれたからってのもありますけどね」

 

実際カミツレに合わせたのは真耶であるが、それはカミツレが真耶のやり方や戦術の方針の殆どを把握していたのが大きい。なので真耶もカミツレの先の行動を読む事が出来、完璧に近い動きをする事が出来た。

 

「それとカミツレ君、衝撃砲を喰らった時にオルコットさんが追い込まれてるって安心してたでしょう?駄目ですよ、策は最後まで成功してこそ完成って言えるんですから」

「すいません……やっぱり先生は厳しいなぁ…」

 

そう言いながら頬を掻くカミツレだが、一組と二組の生徒はそれを呆然と見つめていた。あの大人しくて、温和な真耶の強さにも圧倒されたが、カミツレの動きは洗練された物があった。それを見た一部の生徒達は納得した、カミツレが各国から注目され始めている理由を。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。