IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第261話

「それで束、一番聞きたかった事がある。お前が校外学習先を提供してくれたことには感謝している、余計な苦労からは開放されるしセキュリティ面としても申し分無いし生徒の安全も保障されている。確かに理想的な場だ」

「んっどういう事かな?」

「だが何故態々此処を選んだ?態々お前が他人に自分の技術の成果を見せ付けるというのにすら私は違和感すら覚えている」

 

千冬は一番気になっている事を聞いてみた。そもそも何故束が校外学習の先を提供してくれるのか、その理由。態々とんでもない船での送迎やコア・ネットワークをフル活用とも言えるセキュリティ完備にロボットまで動員して……過去の彼女を知っている千冬としては疑問ばかりが先行して産まれてきてしまう。何か企んでいるのではという疑念が―――。

 

「同じ男を愛する女として、親友として信頼はしているつもりだ。だが私は学年主任として生徒を守る義務がある、不明瞭な所は極力ハッキリさせて貰えると助かる」

「ふむ……そうだね、教師であるち~ちゃんとしては確かに疑念事項ではあるだろうね。いいよ、それじゃあ教えてあげるよ。如何して束さんがこの島を、提供したのかを」

 

そう言いながら束は虚空へと手を差し出すようにする、すると突如として書類が出現する。恐らく拡張領域辺りに書類を入れておいたのだろう、こういう時にISは便利だがそういうことに使って良いのかと思わず思ってしまう千冬であった。

 

「おいおいそんな事に使って良いのか開発者」

「技術は使われる為にあるんだよ。折角の優秀なシステムや技術だって有効に使えなきゃハイテクじゃなくてローテクだよ、当人に重量を感じさせずに物を運搬出来る。これだけで運送は革新的な進歩をするって思わない?」

「確かにそうですけど……まあ束さんに幾ら言っても無駄なだけですわね」

「そうそう、こう言う事になら別に技術は使っても構わないんだけどねぇ。なんで無駄にISの技術を隔離するのか、そこん所が分からないよね」

 

そう言いながら渡された書類を見て見るとそこにはあるプロジェクトの経過報告とも思えるものが記載されていた。それは―――『宇宙空間活動用IS開発進捗状況』と書かれていた。ISの本来の活躍の場である宇宙、その場で使われる事を想定したISの開発の進捗状況の報告書であった。

 

「これはっ……」

「宇宙活動用IS……本来のIS……!!」

「束、お前が夢見たIS……それが完成に近づいている、という事か」

「ブイッ!!」

 

と元気よく笑顔でそう答える束、最先端を地でいく天災科学者。遂に彼女は自分の手で自分の夢に手を掛け始めているという所までやってきた。

 

「と言ってもまだまだなんだけどねぇ……結局の所、宇宙活動を視野に入れたりすると今のISとはかなり異なってくる形になるからね。今は新開発した動力を組み込んで活動時間の実験って所」

「束さん、これって要するに全身装甲を取り入れるって事で良いんですかね?」

「おおっ流石カッ君!!もうそこまで読んだ!?」

「ええ、速読は得意ですから」

 

と婚約者がいち早くそこまで読んでくれた事に嬉しさを感じて笑顔を作る束、全身装甲という第一世代型に逆行するようなタイプを取った束に少し驚きを示す千冬達。全身装甲はSEによる皮膜装甲、スキンバリアーの発展によって廃れていった。

 

「でも束さん、如何して全身装甲なのでしょうか?SEによるバリアでは駄目なのですか?」

「そうそう、あれだってかなり優秀じゃないですか」

「う~ん優秀な事は優秀なんだけどね。宇宙だと不意の接触事故とか有害な宇宙線からの保護やらで、どんどんSEが削られていく危険があるんだよねぇ。それを考えるとやっぱり装甲自体で身体を覆っちゃった方が安全だし節約にもなるんだよね」

「ふむ……確かに合点が行くし合理的だな」

「それに装甲とかでも防ぎきれない衝撃とかにSEを回して二重にすれば、操縦者の安全性はもっと保障されていく」

 

束は目を輝かせながら自分が至った考えを話していく。如何すれば宇宙でISを存分に動かせるのか、動かした場合にどんな問題があるか、如何すればそれらを解決出来るかと考えていくと如何あってもSEの消費がネックになって行く。ならばそれを軽減出来るようにすれば良いっと思いながら、コア・ネットワークの話し合いに耳を傾けていた。その時はちょうど仮面ライダービルドの上映会をしており、第一話で宇宙飛行士が火星でパンドラボックスを発見した所で思いついた。

 

『―――そっか、宇宙服みたいに覆っちゃえば簡単じゃん』

 

何も簡単なことだった、難しく考える必要なんて欠片もなかったのだ。宇宙に行く人間なら誰もが着るであろう宇宙服、それと同じように覆って身体を保護すれば良いのだ。今の科学者達が躍起になって更なるSEの発展、絶対防御の向上などに拘っていては確実に辿り着けなかっただろう。これを誰かは発展を捨てた、と馬鹿にする者もいるかもしれないが束は気にしない。

 

「偶には原点に帰ってみると、視点が変わるって本当だよ。スタートから今立っている場所まで全てが見えていく、もう最高だね」

「時には初心に帰る……確かに重要な事ですわね」

「ホントね、流石束さん!」

「えっへん!!それでね、これを見て貰いたかったんだ。それと子供達の成長のため、かな」

「子供達……ISコアの事か」

 

と尋ねると束は首を縦に振る。今回、ISコア達は自分達が直接人間と言葉を交わせる機会がある。一体どんな話をするのか、どんな行動をするのか……それによってどのような成長をするのかを見てみたいという親としての気持ちからであった。それを聞いた千冬は漸く表情を崩して笑う。

 

「分かった、これで私の肩の荷も降りたというものだ。ならば安心してこの島に滞在しよう」

「そうしてくれると束さんも嬉しいな~♪」




妻「此処で原点回帰するみたいな流れ好きですね私。最新の技術に目が行きすぎてて盲点にみたいになってるの好き」

私「激しく同意。原点にこそ答えがあった……いやぁ最高だね」

妻「私達の場合の原点って何になるんでしょうか?私が貴方にコスプレさせた事でしょうか?」

私「それ、私にとっては黒歴史何だけど……」

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