「はぁぁぁぁぁっ……」
『兎も角、専用機開発を希望している国のリストだ。読み込んだ上で決定しろ、何かあったら私に言え。各国に伝はあるから、調べたい事があるなら調べてやる』
「織斑先生はそう言ってくれたけど、これは思った以上にとんでもないぞ……」
自室へと戻ったカミツレは資料を眺めながら、コーヒーを喉奥へと流し込む。好物である筈のブレンドが美味しく感じられないほどに、複雑な心境になってくる。世界各国から寄せられている希望書、ざっと数えただけで27国。これだけの国が自分の専用機開発に、名乗りを上げて居る事になる。評価して貰えていると思えば、聞こえはいいが、これだけの国から注目されまくっている事にもなる。我慢ならず家族に連絡し、これから自分が他国の代表候補生になるかもしれない、という事を話した際にはこんな事を言われた。
『お前の好きにしたらいい。私達は無力だったんだから、お前が何を選んでも、文句は言わない』
と、全ての判断を自分に任せる事を言われてしまった。例えアメリカだろうが、イギリスだろうが、どんな国の所属になっても文句は言わない。何だったら一緒にその国にまで行ってやるとまで言われてしまった。嬉しい気持ちは有るが、正直決めきれるような事でもない。取り合えず資料を見てみる事にする、主要且つ自分でも知っているような国だけを抜き出して確認する事にしたがイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、中国、日本、アメリカ…簡単に見てもこれらの国は、カミツレとしても良く見た事がある国の名前。
「セシリアとの事もあるし、イギリスかな……」
イギリスの資料には、自分の適性や勝鬨での事を踏まえた近中距離戦仕様型を開発すると書かれている。ブルー・ティアーズに使用されている技術を採用した物を導入し、完成度の高い物を開発する用意があるとされている。本来は別の方向性、言うなればブルー・ティアーズと極めて似た機体になる筈だったが、セシリアの言葉と提出した報告書によって変更されたとの事。悪くはないと思いつつ、他の国への物を見ようとした時、ドアが少々乱暴にノックされた。
「チッ……誰だよ」
正直、出来る事ならば一人にして欲しいと思っていたカミツレにとって、来客は余り歓迎出来る物ではない。ラウラの時と同じように、チェーンを掛けながら扉を開ける。とそこには一夏の姿があり、鍵が開いたと同時に扉を開けようとしたのか、大きな音がなった。
「おい何のようだ、堂々と部屋に侵入でもする気か」
「カミツレ話があるんだ!頼む入れてくれ!!」
「なら、一体どんな話をするのか簡単に言え。それを聞いてから入れる」
「大事な相談があるんだ!男として!!」
「……はぁ、分かった」
正直断るつもりだったが、このままでも騒ぎ続けるだろうと判断したカミツレはチェーンを外し、ドアを完全に開ける。すると一夏の背後にはもう一人いた、シャルルであった。が、何やら様子が可笑しいように見える。主に顔色が明らかに悪い、何か調子でも悪いのだろうか。一夏はそんなシャルルの手をとって、引き込むかのように中へと入れたが、その時にいやな事を考えてしまった。男としてという言葉も、妙に引っ掛かる。
「……俺にそっちの趣味はないから、何も言えないぞ」
「そっちって何だよ!?」
「え、えっと杉山君、違うからね?」
どうやら、真顔で言うシャルル曰く違うらしい。それはそれでとっても朗報である。部屋へと入った二人を尻目にカミツレは資料を片付けながら、座りこんだ。それで一体何の話があるのだろうかと。
「んで、俺に何の用だ」
「あ、ああ。えっと……だな、力を貸して欲しいんだ!!」
「だから、何のだよ。主語を入れろ」
「わ、悪い……言って、良いよな?」
「う、うん」
「えっと、じ、実はシャルルは女だったんだよ!!」
遂に言ってやったぞ、と言わんばかりに言うのに力を要した一夏に比べて、それを聞いてカミツレは大して驚きを感じてはいなかった。最初からシャルルが本当に男なのか疑っていたからだろうか、それともシャルルに対して興味が薄いからだろうか。それとも、純粋にコーヒーのお代わりが欲しくなったからだろうか。理由は分からないが、立ち上がり新たにコーヒーを淹れ直し、一口飲んでから口を開く。
「……で?」
「えっ……それでってあの、杉山君は驚いたり、しない、の……?」
「俺は最初から可笑しいと思ってたからな。どちらかと言えば、男装した美少女の方が納得出来たからな」
「ア、アハハハ……そ、それじゃあ今までまともに接触して来なかったのって……」
「怪しい奴に近づきたくなかったからな」
引きつる顔を抑えられないシャルルは、力なく笑っている。それでは自分は最初から警戒、いや女であった事がバレていたという事になるのだろうか。それでは完全にピエロではないかと落ち込んでしまった。
「そ、それなら話が早いや!」
そう言いながら一夏はシャルルの事を説明する。デュノア社長と愛人の間に出来た子である事、会社の命令で自分達の専用機のデータを盗む為に学園へと来た事、そして一夏は助けてあげたいが自分では限界があるので手を貸して欲しいという事を。それを聞いたカミツレは、また面倒事か……と肩を落としてしまった。
「また面倒な事を起こしやがって……っつうか、俺なんかより織斑先生に言えよ」
「い、いや、千冬姉にも相談したいけど…それは出来れば最後の手段にしたいって言うか……心配掛けたくないって言うか」
「はぁ…俺が出来る事なんて限られてるだろ……」
思わず溜息が出てしまった、如何してそこで千冬に相談しないんだと。自分よりも遥かに力を持っている姉に、家族であるのに。心配を掛けたくない、ただの欺瞞で自己満足でしかない。千冬は家族として一夏の事を心配している、それならば素直に話す事が正解なのに。だからと言って、自分に言われても大した力になんてなれない。
「ぶっちゃけって言うと、俺は干渉する気はない。お前の敵にも味方にもなるつもりはないのが本音だ」
「なっ……!?何でだよ、話聞いただろ!?シャルルの事を何とも思わないのか!!?」
「思わない訳じゃないが…今、俺も色々と忙しい。取り合えず、この事は黙っておく。それで良いだろう」
「……ッ!!!分かったよ、力になってくれなくて残念だよ!!シャルル行こうぜ!!」
そのまま一夏は、荒々しく扉を締めて去って行ってしまった。それに慌てたシャルルはカミツレへと頭を下げた。
「い、一夏!?ご、ごめんなさい杉山君!いきなり押しかけておいて!!いきなり、あんな事言ったのに、誰にも言わないって言ってくれただけで十分なのに……本当なら、直ぐに先生に言うのが正しいのに…本当にごめんなさい!!」
「……いや。でも俺は何か思いついたら連絡する、これ俺の連絡先だ」
「あっありがとう!これ僕の連絡先だよ」
互いの連絡先を交換したところで、シャルルは思わず胸の内を明かしてくれた。
「一夏には感謝してるよ、僕の為にあんなに怒ってくれてさ……でも、本当に助けようとしてくれるのか分からなくて、少し恐いんだ……杉山君の言ってた通り、織斑先生に相談しても良い筈なのに…なんとなく、助けようとしてるだけなのかな……」
「…さあな。あいつの事は俺もよく知らないからな、俺も俺で今専用機を何処の国でやってもらうか、決める所で余裕がなかったんだ。すまなかったな」
「そ、そうなの!?そ、それなら僕達の方が悪いじゃない!?これからの進路を決めるって事なんだから!!」
話してみて分かったが、シャルルは根は良いと言う事が分かる。自分だって危ない状況に置かれているのに他人を気遣っている。自分を優先し続けてきた自分とは違ったタイプの人間だ。本当は優しくて他人思い、それが本質なのだろう。
「何かあれば俺の所に来ていいぞ。まあ、出来る事なんて限られると思うけど……」
「ううんそれでもいいんだ、ありがとう!杉山君って良い人だね!!」
そう言って去っていくシャルルは最後に良い笑顔を見せた。そんな笑顔を受けたカミツレは頬をかくとコーヒーを飲む。息を吐きながら自分に出来る事はあるのだろうかと考えてしまった。そもそも、シャルルの転入自体が無理矢理である事、今のようにバレた際のデメリットが大きい事、何故学園が彼女をあっさりと転入させたのか……気になる事が余りにも多い。気付けば、その事ばかりに気を取られていた。