IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第31話

「……駄目だ、集中出来ねぇ!!!」

 

資料から目を逸らしベットに身を放り投げた。先程から自分の集中力を乱している物があった。それがこれからの自分の進路を決める物の決定を、大きく揺さぶって邪魔している。それは先程聞いたシャルル、シャルロット・デュノアの事であった。それが如何にも気になって、しょうがない。これならば話なんて聞かなければよかったとさえ思えるほどだ、今は自分の事で精一杯なのだ。全く余計な事に巻き込んでくれた物だと悪態を着くが、

 

『ありがとう!杉山君って良い人だね!!』

「―――ッ」

 

思わず、部屋を出る時に向けられた彼女の笑顔が胸に突き刺さった。自分だって大変な筈なのに、家族で苦労している筈なのに、助けて欲しい筈なのに、無干渉でいると言っても有難うと言ってくれた、泣きたい筈なのに、自分を良い人と言ってくれた彼女の笑顔が思い浮かび、心を締め付けるように束縛した。

 

「……存外、俺もお人好しなのかもな」

 

溜息を付きながら専用機開発希望の資料を見直した、その中から取り出したのはフランスの資料であった。資料の中にはフランス国内でシェアトップ三社の合同開発になると明記されており、当然そのシェアトップ3にはデュノア社も含まれている。それをじっくり見ながら、携帯を手に取って連絡帳にある一つの項目を押す。それは―――連絡用に渡された千冬の携帯であった。少しのコール音の後に千冬は出た。

 

『私だが、杉山何かあったか?あのギャグなら、直接会った時にしかやらんから安心しろ』

「なんですかその謎ルール…いえ、実は貰った希望国リストの中で気になった物があって……」

『もう目を通しているのか、感心だな。それで早速私の力が必要になったか?』

 

何処か嬉しげに語る千冬にカミツレは素直に頷いた、自分で調べられる範囲なんて高がしている。ならば、その道に精通しているか、その人物に伝を持つ人物に依頼するのが一番の手段。それで該当するのは千冬であった、都合の良い事に調べて欲しいがことあったら調べる。という言葉も受け取っている。

 

「はい。いきなりですいません」

『何、遠慮する事などない。私とお前の仲だ、という訳では無いが、子供は大人を食い物にして成長するものだ。そして教師は生徒の為に力を尽くす者だ。遠慮なく言ってくれ。……その代わりにまた、料理を頼めないか?妙にあの味付けが口に残ってな』

「分かりました、何時でもお作りしますよ。それでお願いしたいのは、フランスのデュノア社の事何ですが」

 

それを聞いた千冬の声色が僅かに変化した、それで眉を顰めているのが電話越しにも分かる。

 

『デュノア社か……デュノアには悪いが、フランスはやめておけ。あの会社が絡んでいるとなると、余り良い方向に話はいかんぞ』

「何か、問題が……?俺としては、デュノアの事もあるので、気になったんですけど……」

『デュノア社は最近、経営に苦労していたな。原因は第三世代型の開発が全く出来ていない事だ、知っていると思うがあそこは世界3位のシェアを誇るが、それは第二世代型の「ラファール」のお陰と言える』

 

千冬から話されたのはデュノア社の内情を示す事であった。現在世界的に進められている第三世代型の開発、しかしデュノア社はその目処すら付いていない状況が続いている。それによって内部で派閥衝突が発生している。世界的な企業としては、第三世代型の開発に遅れる訳には行かないと、開発に躍起になっているらしい。

 

「成程」

『理由はまだある、イグニッション・プランという物を知っているか?』

「えっと、確か欧州で行われている統合防衛計画でしたっけ?」

『正解だ。良く勉強しているな、定期テストで出すから覚え……スマン免除されてるんだったな。そのイグニッション・プランからフランスは除名されてしまっている、その為に躍起になっている訳だ。開発には金も時間も掛かる、殆どの企業は国からの補助を受けて開発を行うが、無ければまともに開発すら出来ん』

 

デュノア社が開発出来ているのは第二世代、それによって既に予算は一部カットされており厳しい状況に陥っている。シャルルを学園に送り込んだのも、恐らく学園で他国のデータを集める為だろうと語る。

 

『故にフランスはお勧めはしないぞ。私のお勧めとしてはそうだな……欧州のイグニッション・プラン繋がりで、プランにも名を連ねるイギリス、ドイツも悪くは無いな。まあ此処は日本を上げろ、と言われそうだがお前の事を考えると言えんよ』

「有難うございます」

『それと……デュノアの事もある』

 

それに思わず身体が硬直した。自分からは一切シャルルの事は口に出してはいない筈、それなのに何故その名前が出るのだろうか。矢張り、デュノア社の事を聞いたのは露骨だっただろうか。

 

『デュノアの転入に当たって、IS委員会から妙な干渉があってな。それで学園内に不穏な動きがある』

「不穏な……?」

『ああ。一夏と杉山という前例があるからな、本来は偽装なども考えれるから確りと検査をするのだが……何故か委員会から「それは此方でしたのでいらない」という厳命が出てな、それで致し方なく従ったが…私もそれで今調査をしている所だ』

「調査って、そう言えば千冬さんの伝って一体……」

『ん?言っていなかったか?各国の国家代表だが』

「……ハァッ!!?」

 

思わず大声で驚いてしまったが、確かにこの人ならそんなコネを持っていても可笑しくない。元々が世界制覇を成した操縦者である戦乙女の織斑 千冬。そんな彼女であれば現国家代表の人たちと繋がっていたとしても全く不思議ではないが……織斑 千冬、現役を退いて尚、絶大な影響を持つ恐るべき存在であった。

 

『今もフランスの代表に調べて貰っているんだ。あいつとは飲み仲間でな…良い機会だ、今度紹介してやろう。きっとあいつもお前を気に居る事だろう。だが気を付けろ、あいつは年下好きだからな』

「け、結構です……」

 

カミツレは千冬の事を甘く見ていたのかもしれない、そしてそれを思うと一夏とシャルロットに言った無干渉且つ黙っているという事は貫けない事を心の中で詫びた。というかこれでは、バレるのは時間の問題なのは明らか、否千冬が調査依頼をした時点で詰んでいたのかもしれない。

 

「あ~……千冬さん、すいません。実は他言無用でお願いしたい事が……」

『何だ一体?愛の告白か?』

「冗談でも止めてください、俺じゃ釣り合いませんっというかあいつが義弟とか嫌です。実はその…シャルルは女なんです……俺もそれをさっき知って……」

『……すまん、詳しく話してくれ』

「はい……」

 

カミツレは大人しく全てを暴露した。シャルロットには悪いと思ったが此処まで来てしまっていたのなら、もう話してしまったほうが彼女の為だろうと思った。そして話を聞いていく度に千冬の声色が、悪くなっていくのが分かった。そして、小さい呻き声のような物が聞こえてきた。

 

「という訳でして……」

『……一夏、お前という奴は…うっ……!(ドサッ!)』

「ち、千冬さん!?如何したんですか、大丈夫ですか!!!?千冬さん!千冬さん!千冬さんーっ!!!!』

 

突然聞こえなくなった千冬の声、そして直前に流れてきた不穏な声に声を張り上げるが何も返ってこない。大慌てで千冬の部屋へと急行すると、そこには胃を押さえて苦しんでいる千冬の姿があった。千冬はテーブルの上の薬を飲ませてくれというので、急いで水を用意して飲ませると、少しずつ安静になっていった。実は千冬は最近、胃痛に悩んでいたらしい。自分をアイドルと勘違いした生徒の相手に加えて、一夏の事や徹夜や残業でストレスが溜まってしまい、遂に薬に頼らなければならなくなってしまったらしい。それを聞いたカミツレは、毎日でも胃に優しい料理を差し入れしようと誓うのであった。


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