IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第37話

扉が開かれていく、絶望への扉が遂に開いてしまった。始まりと終わり、それが同時に訪れる矛盾を孕んだ開放が行われている。その奥から顔を見せたのは見慣れているIS学園の女子制服を纏ったシャルル、改めシャルロット・デュノアが笑顔を見せながら部屋へと足を踏み入れた。

 

「シャルロット・デュノア、ただいま戻りました!」

「お疲れだったな社長殿、景気は如何だ」

「上々も上々、絶好調です!」

 

笑顔のVサインを浮かべている、それもその筈だ。虐げられ続けていた彼女にとって今ほど、充実している時も無いのだから。父親の愛が真実であると分かった上に、父を陥れ自分までも殺し、デュノア社を乗っ取ろうとしていた社長夫人は今や監獄の中。自らを縛る物全ては消え去った、自らの意志で学園へと戻ってこれた今の心境は最高に決まっている。

 

「それで、ヨランドは」

「今来ますよ。ヨランドさーん?」

「今参りますわよ、シャルロットさん」

 

遂に来た、聞こえてくるのは気品に満ち溢れている凛とした声。ゆっくりとシャルロットに導かれるように、室内へと足を踏み入れたその人を見た時、思わず震えと抱えていた恐怖の感覚が消えてしまった。それほどに気品と美しさ、優雅さ、そして千冬に負けない強かさを感じ取った。

 

「お久しぶりですわね、千冬。相変わらずご健在でなりよりですわ、闘気も衰えておりませんし……いえ、寧ろ以前よりも滑らかさが上がっておりますわね」

「久しいなヨランド。お前は相変わらずだな、毎回思うがそのドレスは動きにくいし面倒ではないか?」

「慣れていると楽な物ですわよ?それに、非常時には各部を外して動き易く出来ますのよ」

 

その姿は正に王者、優雅さは強者の余裕と積み重ねられた強さの証明。凛々しい表情の裏にはどれほどの死線を潜りぬけた戦士の表情が隠れている、目にした時にセシリアを思わず連想したのは、彼女も纏っている貴族特有の気品高いオーラがあったからだが、目の前の女性のそれは、全く逸脱している。王、頂点、至高。自らの力でその位を勝ち取り、君臨し続ける絶対者。フランス国家代表歴代最強と評されるのも理解できる、ヨランド・ルブラン。彼女は自分を目にし、何処か優しげな目をしながら膝を曲げながらそっと手に手を重ねてくる。

 

「シャルロットさんからお話はお聞きしていますわ、本日こうして会える事を楽しみにしておりましたわ」

「あっ……えっと、す、杉山 カミツレです……」

「ご丁寧に有難うございます、淑女としてお返事させていただきますわね。ルブラン家当主にしてフランス国家代表、ヨランド・ルブランですわ。どうぞこれからも宜しく」

 

にこやかに笑うヨランド、そっと差し伸べられた手を見つめ握手をする。滑々した手からは歴戦の兵とは思えないがそれはあった直後のオーラが全否定する。彼女は間違い無い強者であると。そして思った。

 

―――ああ、こりゃ千冬さんが認める筈だ……。

 

 

「あむっ……C’est très bon!」

「うむ、本当に美味いぞカミツレ。ヨランドもそう言っている」

「ほっ……口にあったようで良かったですよ」

「ねっ言った通りでしょヨランドさん!杉山君の料理は最高だって!!」

「ええっ家庭料理特有の暖かさがありながら、キレのある味付け。わたくしの家のシェフ達にも負けない腕前ですわよ」

「流石に、それは言い過ぎですよ。ミス・ルブラン」

 

テーブルの上に広げられている料理の数々、さっさと調理を終わらせたカミツレの作品達。千冬曰く舌が肥えているヨランド、貴族である為か高級レストランの料理の超一流の料理、それらを食して来た彼女の舌を満足させられるのか、それだけが不安だったカミツレ。食べるからには美味しいと言って貰って笑顔にさせる、それが料理を教わった兄一番の教えであった。如何やら褒められる程度には美味しいと思って貰えたようである。

 

「ヨランドで結構ですわよ、ミスタ・キャミツェレ。あらっ?キャミツェレ、可笑しいですわね上手く言えませんわ?」

 

ニッコリと笑ってそう言うヨランドは名前を呼ぼうとするが、上手く発音出来ないのか何度か言葉を口にするが如何しても舌が回らずに、キャミツェレと言ってしまっている。それが如何にも気になるのか直そうと頑張っているがカミツレとしては余りに気にならない。ワザと間違えているならまだしも、上手く言えないなら気分を害する事などない。

 

「あの、言いづらいんでしたらそのままで良いですよ」

「ですがそれでは失礼になるわ、無礼でも無い相手にそのような事などルブラン家の当主として許せませんわ」

「やれやれクソ真面目な奴だ。その程度許容したら如何だ」

「許容という名の未熟を追い求めるよりも、突き詰めた末に完成されるパーフェクト。それもまた、美しくありません事?」

「やれやれ、完璧淑女(ミス・パーフェクト)は未だに健在か」

「何なんですかそれって?」

 

『完璧淑女』というのは千冬が現役の時代からあるヨランドの渾名のような物らしい。自分が許せない物は全て突き詰めて無駄を無くし、完全な物へと近づけて行き続ける淑女。それが何時しか完璧淑女という渾名となっていた。

 

「むぅ…申し訳ありません、このまま誤った名前を言い続けるのも失礼に当たりますわ。申し訳ありませんが、わたくしが呼び易いようにツェレと呼んでも宜しいですか?」

「ツェレですか、良いですよ。そんな風に呼ばれるのも新鮮で面白いかもしれませんし」

「ふぅん……じゃあ僕もそう呼ぼうかな?」

「お前は今まで通り杉山でいいだろ」

「えっ~!?なんか、贔屓っぽいよ~」

 

頬を膨らませたシャルにそれを軽くあしらうカミツレ、何処か兄妹のような雰囲気を醸し出す二人。それを見ながら肩を竦めて笑う千冬と素直に微笑を浮かべるヨランド、似ている二人だが似ていない所も確りあるようだ。

 

「ツェレ、シャルロットさんからお聞きしましたが専用機の開発希望を各国から受けているのでしょう?お若いのに素晴らしいですわね」

「っと言われても実感沸きませんけどね…俺はただ今ある現実に立ち向かってただけなんです。他に目を向ける余裕なんて無くて、ただ我武者羅に走ってただけなんです。それが何時の間にか評価されてアプローチ受けてる今がある。確かに結果が実を結んだって言えばそうかもしれませんけど、俺からしたら今まで無関心だった癖にいきなり声を掛けられたみたいで……何か掌返しを受けた気分で」

 

それを聞いて千冬は少し罰の悪そうな表情をする。研究材料として研究所送りを避けたい一心、それが原動力で努力だけをしていた彼は世界中から注目はされていたが、それは自分が一番避けたい物としての筈だった。しかし、それがいきなり掌を返すかのごとくアプローチを受ける。余り気分がいい物でもないし、自分の立場を再認識させられただけだった。

 

「でもその先に俺が望んだ物がある、研究材料扱いされない立場。強力な後ろ盾、家族を守ってくれる力の援助を受けられるだけの場所に辿り着ける…だから、複雑で」

「杉山君……」

「それは確かに複雑ですわね……苦々しい現実というのは喉を中々通りません」

 

顔を上げた先にはほぼ赤の他人であった筈の自分に向けられるような物ではない、慈悲深い表情がそこにあった。

 

「ですが、だからこそ飲み込む価値があるのです。苦味というのは、それだけ価値がある物なのです。料理をするツェレならば分かるのではありませんか、苦味その物は好まれにくい。しかし、他の旨みや味と交じり合う事で食欲を増進させ、その苦味を欲するようになるのです。思考の転換です、辛い現実を逆に自分の糧として、更なる高みへと届かせる為の積み木として思考し行使するのです。それが出来てこそ人間は真の価値を発揮するのです」

 

ヨランドの言葉には重みと力強さがあった、言葉に含まれているのは彼女の人生経験その物。いい事ばかりではなかった、寧ろ辛い事ばかりだったがそれを乗り越え、成長したからこそ今ある自分があると胸を張って言える。あの時の苦労があって良かったと、苦しかったけどあれがあったから成長出来たと、思える日が必ず訪れて、懐かしめる日が来る。そんな日々に辿り着けた自分はきっと、理想とした自分になっている筈。そんな言葉を言うヨランドに千冬が笑った。

 

「相変わらず強い奴だな、お前は」

「あらっそんな強いわたくしに激闘の末に、勝利したのは何処のサムライ・レディだったかしら?」

「さて忘れたな、そんな昔の事なんて」

「なんか、深い言葉だね……」

「ああっすげぇ深くて、暖かくて、言ってみたい言葉だな……ああっこれが国家代表なのか。そりゃ、千冬さんがすげぇ訳だよ」

 

目の前でやり取りをしている千冬とヨランド、そんな彼女らを見ていると何処か果てしない世界の果てを見つめている気分になる。地平線の先の先に立っている二人、それを見つめていて浮かんでくる物―――憧れとそこへ辿り着いてみたいというワクワクだった。

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