IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第41話

貸し切られたアリーナ、その中ではある意味で学園中の女子達が垂涎物のスペシャルマッチが行われようとしている。織斑 一夏 VS 杉山 カミツレ。アリーナ内に飛び出した二機のIS、純白の剣「白式」を操る一夏と黒鋼の鎧武者「勝鬨・黒鋼」を操るカミツレ。それが今、ぶつかり合おうとしている。

 

「遂に、お前と戦う時が来たなカミツレ!」

「ふぅ……相変わらず無駄に元気な奴だ」

 

開始位置に付いた両者、何処か嬉しそうな笑みを浮かべつつも挑戦的な意志をぶつけている一夏。落ち着きと呆れにも似た笑いを浮かべつつ鋭い視線を投げ掛けているカミツレ、対象的な二人は今か今かと試合開始の合図を待っている。そんな二人を管制室から見つめる複数の視線は千冬、真耶、ヨランドという審判役の物で気合十分な二人にそろそろ始めさせてやるかと千冬がマイクを取った。

 

『それではこれより、織斑 一夏 対 杉山 カミツレの試合を開始する。両者、用意は良いな。では…カウントスタート』

 

千冬の声が途切れると同時に試合開始までのカウントコールがスタートする。一つ一つ点灯の色を変えていく表示、刻一刻と迫ってくる試合開始の合図。喉を鳴らしつつもその手に握りこんだ雪片に更なる力を込める、同じようにブレードを握っているカミツレだが彼には一夏のような気迫は無く、酷くリラックスしているような表情で視線を一夏へと向け続けている。そして遂に…表示が変化し試合がスタートした。

 

「っ!!」

 

まず動いたのは一夏だった、開幕と同時に出力を高めながら一気に後退しようとする。がそれよりも早くカミツレの手にはライフルが握りこまれ銃口が向けられると共に火を吹いた。浴びせかけられた銃弾、それを受けつつも激しい機動を開始する一夏。照準を絞らせないようにと動き回っていく、機動性抜群の「白式」スピードならばレーザーよりも遅い銃弾程度回避するのは容易いと考えての行動。

 

「愚直に突進するのは止めたか」

「千冬姉に散々怒られたからな!!おわっ!?」

 

回避行動や開幕の行動も全て千冬の教え、未熟な一夏には最初は回避に専念させ相手になれる事が一番だと教えられた。火器が一つも無い「白式」に取れる手段は接近戦以外に存在しない。しかし、その接近戦を挑むまでもが鬼門としか言いようがない。ライフルなどが無いという事は牽制すら出来ないので相手の隙を突き、その瞬間を逃さずに「白式」のスピードで詰めるしか選択肢がない。それが出来ない一夏は千冬にそれを叩き込まれた、開幕に突撃ばかりする一夏を調教するのは大変だったと千冬は述べる。

 

しかし、そんな動きはカミツレにはバレバレであった。開幕時、一夏はまず後退し相手を観察する事を考えていた為かスラスターにそれが顕著に現れていた。翼が内側に向いてしまっていた、それはカミツレにこれから後退しますと宣言しているような物であっさりとライフルによる攻撃を受けてしまった。そして今、スピードで相手の攻撃を避けながら隙を探そうとするが偏差射撃によって身体に銃弾を浴びる。

 

「くっやっべっ!?うおおおおっっ!!?」

 

かなりのスピードで回避を行っている筈なのに先読みされているかのような射撃に慌てながら、出鱈目に避け始める。カミツレの師は真耶、真耶が一番得意としているのは射撃。彼も射撃はかなり仕込まれている。セシリアほどの精密な偏差射撃は行えないが、それでも一般的な偏差射撃程度は出来る。が出鱈目な動きの一夏に狙いが付けづらくなったのか、射撃のテンポが落ちる。その時、一夏はニヤリと笑った。

 

「いまだっ!!」

 

刹那、一気に引き上げた出力は凄まじい速度となって「勝鬨」の懐へと飛び込み雪片を振るう。それはシールドによって防御されてしまうが、一夏にとってこれはいい展開であった。ブレードが届くまでに距離を詰められたのだから。

 

「こっからは俺の番だぜ!!」

「接近戦が得意なのはお前だけじゃ、ないけどな!」

「だぁりゃ!!」

 

完全に距離を詰める事に成功した一夏、相手に展開の暇を与えぬように連撃を繰り返しながらカミツレへと迫り続けていく。それらの攻撃を全てシールドや腰部の装甲で受けて防御を行っていくが勢いは完全に一夏が上であった。ライフルを撃とうにも向けようとすればライフルを狙い雪片が振るわれる、ブレードを出す暇も無いほどの攻撃にカミツレは追い詰められているかのように見える。

 

「如何した如何したカミツレ!!こんなもんかよ!!」

「……甘くみるなよ、俺の積み重ねてきた物を!!!」

 

刹那、一夏が切り裂こうと雪片を振るおうとした瞬間にライフルを雪片へと投げつけた。パワーアシストがあるとはいえ一瞬重くなってしまった雪片で隙が生まれた。上へと弾かれたライフルを見ながら、その手に二本のブレードを展開させながら、雪片目掛けて斬りかかる。

 

「ぐっ重い……!!」

「こんなもんかよ、お前はっ!!!」

 

二本のブレードの圧力、それを必死に押し返そうとするが不意にそれが軽くなった。それに好機を見出し、一気に雪片を振りぬくが何も捉える事が出来なかった。カミツレは身体を沈ませそれを避けた。そして瞬時にブレードを収納しながら片手に、予備のライフルを展開しながら落ちてきたライフルを握り締めて引き金を引いた。

 

「ぐぅぅぅう!!!お、俺だって努力してるんだ、頑張ってる。だからまだまだ!!」

「その程度で努力か…じゃあ俺がやってるのはなんなんだろな!」

 

一夏の言葉に軽い怒りを感じたのは、感情を言葉に変えながら銃弾を受ける彼を思いっきり殴り飛ばした。吹き飛んでいく一夏に追いつくように『瞬時加速』を発動させてそのスピードのまま蹴りを加えた。

 

「くっくそ!!負けて、堪るか!!千冬姉にあんなに迷惑掛けてるのに……情けない所見せられるかよ!!」

 

必死に剣を振るう一夏、まだ闘志は死んでおらず機体を制御しながらカミツレへと向かっていく。まだ近距離に「勝鬨」は居る。この距離を失ってはいけないという考えが一夏を突き動かす、此処で引いてしまっては自分は確実に勝てなくなる。だが、カミツレはそれを嘲笑うかのような滑らかなスロットルワークで機体を完璧に制御し、自在にコースを変えながら接近して来る。自分が見た事もないような機動に、一夏は思わず唖然とした。

 

「す、すげぇ……な、なんでお前はそこまで」

 

強いんだと口にする前に、二本のブレードが斬撃で機体を強く揺さぶった。その先にあったのは鋭い瞳であった。

 

「強いんじゃねえ、俺は強くなってるんだよ。俺は…真耶先生に、セシリア、千冬さん、ヨランドさん。俺は良い人たちに巡り合えた。その出会いが、俺に強くなる機会を作ってくれたんだよ!!!」

 

鋭い視線と剣撃、対応しようと振るわれた自分の剣はあっさりと受け流れて消えていく。その代わりに相手の斬撃が刻み込まれていく。その一太刀一太刀に込められているのは此処まで歩んできた努力の重み、自分に力を貸してきてくれた人達から受けた思いの大きさ、そして自分の意志。

 

「基礎、理論、心、応用。俺はそれをあの人達から貰ってんだよ。俺だってな、情けない所は見せられねぇんだよぉ!!!!」

「俺だって、そうなんだよぉぉおお!!!」

 

一夏も、思いの丈を叫ぶかの如く「白式」の切り札を起動させた。『零落白夜』が作動し雪片へと光が収束して行く、光の刃となった雪片をカミツレへと振るう。

 

「セイヤァァァァァアアアアア!!!!!!!」

 

意志、思い、気迫が込められた一喝に勝鬨は共鳴するように出力を自然と上昇させ『瞬時加速』を発動させた。それによって生まれた一撃は真空の刃を纏ったまま、一夏へと向けた。圧倒的な速度で一夏の最強の一撃を潜りぬけながら、速度の中で生まれた一撃は「白式」へと炸裂しながらそのままそれを通り過ぎた。同時に試合終了のブザーと千冬の声が鳴り響いた。

 

『そこまで!白式、SEエンプティ。よってこの試合は 勝鬨・黒鋼、杉山 カミツレの勝利とする!!』

 

その宣言と共にカミツレは大きく腕を振り上げながら叫んだ、心からの喜びを含んだ勝利の雄叫び。相棒の名の由来である凱歌、勝鬨を堂々と上げた。そしてその時に、カミツレはカチドキから勝利の祝福のような声を聞いた。何かの間違いかもしれないが、それはきっとISの声なのだろうとカミツレは勝鬨を上げながら笑っていた。

 

『……初勝利、おめでとう御座います』

「ああ有難う…えっ?」

 

 

 

 

―――へぇっ……機体稼働率76%?ふぅん……興味深いね、まさか本当に此処まで目覚めさせるなんて驚きだよ……少し、楽しみになって来たかもね。


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