IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第6話

「ハァ……大変な事になっちゃったなカミツレ」

「お前のせいだろ。あのままミス・オルコットを推薦すれば彼女がなっていただろうに……」

「だって俺だけ推薦されるのって気分悪いし」

「それで俺を余計な事に巻き込んでおいて良く言うなドアホ」

「……なぁお前俺に対して本当に辛辣すぎないか?」

 

その日の放課後、帰り支度をしている自分の元へと何故かやって来た一夏は溜息と困惑したかのような思いを形にして自分に向けてくるがそんな物自業自得だと声を大きくして言いたい。自分が気分の悪い事をされたのならばそれを他人にもするのは失礼に当たるというのも分からないのだろうか、そして辛辣になるのも当たり前である。

 

「自分が撒いた種だろ、責任持って自分で間引きしろ。俺は俺でやる事があるからな」

「分かってるってこうなったら確りと戦うさ、男としてさ」

「(だったら真耶先生に指導の相談とかしろよ……)」

 

荷物を纏めながら教室から出て行く。本当にそう思っているのならば真耶に補習やIS稼動の指導要請などをする筈なのに全くその気配がなくそれどころか真耶が自分に一夏は本当に何も言ってこないが此方からアクションを仕掛けなくて良いのだろうかと困惑したように聞いてきた位だ。それに対しては良い言葉は送れなかったが恐らく千冬が対処でもしているのだろうか。兎も角他人を気にしている余裕などない、こうなった以上少しでも技術を身に付けなければならない。

 

「それにして大変な事になっちゃいましたね杉山君……織斑先生から話を聞いた時には思わずえ"って濁っちゃいましたもん」

「まあでしょうね……ハァ…なんか負けが既に見える気がするんですがね」

 

ピットにて顔を合わせた真耶もそれに何とも言えなくなる。まず経験が全くの別次元、代表候補生となるとISの稼働時間は300時間は軽く超えており、それに見合う訓練や試合を行っている。それに比べて自分は多く見積もっても8時間が良い所だろうか……。これからセシリアの事も当然調べるつもりではいるが有効な戦法を見つけたとしてもそれを習得するまで練習が出来るとも限らない。付け焼刃では寧ろ自分の足を引っ張ってしまう。

 

「うーんアリーナの使用を考えると1週間後が模擬戦と考えるのが妥当ですかね……そうなるとやるべき事も限られてきちゃいますね」

「1週間……」

 

思った以上に時間が無い。これでは本当に基礎の練習をし続けるしか無いだろう。そこで少しでも基礎能力の向上を計り、後は自分の戦い方に掛かっている事になるがハッキリ言って自信が無い。喧嘩やサバイバルゲームならやった事はあるがISでの模擬戦での経験ではセシリアが遥か上を行く。それにどうやって挑むかという事になる……が真耶は少々鋭い表情をしながらカミツレを凝視した。

 

「杉山君、私に考えがあります。結局は杉山君の努力次第になると思いますがやる価値はあると思います」

「それって一体……?」

 

そう言いながら真耶は教員仕様のラファールを展開しながらその手にライフルを握り締めながらその銃口をカミツレの方へと向けた、その瞳の鋭さは今まで見た事もないような物。穏やかで温厚な真耶からは想像出来ないような物だった。

 

「これから私が教えるのは負けない戦いです、口で教えるよりも身体で覚えてくださいね」

「……負けない戦い、望む所ですよ。俺にとっては負けない=勝利みたいな物です、勝鬨を上げるための戦いを教えてもらいますよ先生……!!」

 

この後、二人が使用している第二アリーナから凄まじい気迫の篭った声と厳しくも正確な指摘の怒声が響き渡ったという。第二アリーナを横切る生徒達は何が起きているのか確認したそうにするが中からの音に恐がり結局それは出来なかったという。

 

「ミ、ミスタ・杉山、何か酷く疲れていませんか……?」

「いえ……ちょっと張り切りすぎただけです……」

 

夜、自室にてセシリアによるレクチャーを受けている際のカミツレはどこかかなり疲労しているかのような立ち振る舞いをしており教える側のセシリアもそれが酷く気になってしまっていたがレクチャーは問題なく終えた、がその直後カミツレはベットに入り直ぐに眠ってしまったという。それをみてセシリアは一体ナニをしていたのだろうかと酷く疑問に思うのであった。

 

 

生徒達が寝静まっている真夜中、整備室の一角に明かりが灯っていた。そこにはカミツレの専用機となった「勝鬨・黒鋼」に向き直っている真耶の姿が合った。傷だらけになっている装甲を交換して行きながらその傍に予備のライフルとカミツレから要望があった物を搭載する準備が整えられていた。

 

「今思うと少し恥ずかしかったですね……負けない戦いを教えるなんて」

 

カミツレとの訓練の事を思い返すと顔から火が出そうになる、実技の殆どが千冬の担当になってしまっている故に自分も教えたいという欲求が爆発してしまったのかそれとも自分の事を師のように慕ってくれている彼の力になりたいと思ったからこその行動だったのか。思い出したくもない過去の自分を引き出して訓練を付けていた。

 

「忘れたい過去なのに自分から思い出すなんて……私、変わってるんでしょうか」

 

銃央矛塵(キリング・シールド)』という異名は自分にとっては戒めでしかなく、名前を出されるだけで嫌になる過去の遺物だった。でも今日はその力を教え子の為に使ってあげたくなってしまった。直向きに努力し今ある現実に少しでも反抗し少しでも自分が望む未来へと進もうとするカミツレが酷く輝いて見えたから。

 

「カミツレ君は、必死なんですよね……生きたいから、自分で生きたいから…」

 

何故あそこまで必死なのかは分かる、彼は完全な一般家庭の生まれ。大きな農地は持っているもののそれ以外は全く普通の家庭でISに深く関わりを持っている人脈もなく政府との繋がりもない。一夏に比べて酷く危険な立場にある、一夏には千冬と束という強力すぎる後ろ盾があるが彼にはない。故にどちらかを今後のISの研究に役立てるかと言われたら政府は真っ先にカミツレを選ぶ事だろう。この事は教師陣の間でも大きな波紋を呼んでおり如何にかして彼を守ってやれないかという会議が度々起こっている。そしてこの模擬戦は確実に彼の評価に使われる事は間違い無い。

 

「織斑君は、恵まれてますよね……」

 

一夏には千冬という偉大な姉がいる。その風評で苦しむ事もあるだろうが、人間として扱われない可能性が高い未来が待ちうけているかもしれないカミツレに比べたら何倍も良い。加えて千冬に一夏に訓練の事を言ったほうが良いかと聞いた際に

 

―――いや言わないでやってくれ、自分で考え申し出たならまだしも此方からのアクションは駄目だ。奴には少し痛い目を見て現実を見てもらう必要がある。それに杉山を巻き込んだ責任もあるからな。

 

と語っていた。故に自分はカミツレに力を貸すと決めた。

 

「だから、私も全力で力を貸しますよカミツレ君……!!」

 

そう意気込むとISの武装搭載作業に取りかかった、少しでもカミツレが頑張れるように思いを込めながら―――。


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